座談会:「海のトリトン」の音楽を語る

「トリトン」は70年代アニメ劇伴のルーツ!?

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「海のトリトン テーマ音楽集」を聴きながら

※以下は、コロムビア発売のLP「海のトリトン テーマ音楽集」の収録曲を聴きながら語ったものです。


M-2 タイトル
これが好きだったんですよ。この曲が。

主題歌:海のトリトン
モロにマカロニ(ウエスタン)。
R3 これ、主題歌変更の経緯っていうのは、なぜなんですか?
わからないんですよ。でも、最初からオープニングのつもりで作ったと思うんだけど。
R3 最初がかぐや姫の歌。
そう。オープニングのフィルム自体が最初できてなかったそうなんですよ。急に制作が決まって、フィルム作るのが間に合わなかったっていうのが、富野喜幸の「だから僕は・・・」に書いてあったけど、それで、しばらくは止め絵でこの歌が流れていた。むしろ、須藤リカの歌はなぜ作ったのか、全然わからない。鈴木宏昌とも関係ないし。
「ピピの歌」は?
あれはコロムビアがカップリングのための作ったんだろうけど。
R3 エンディングではないんですか?
全然使われていない。
R3 エンディングは何が使われていたんですか。
最初は「GoGoトリトン」がエンディングで、須藤リカとかぐや姫の「海のトリトン」がオープニング。
エンディングの映像はどんな感じだったんですか?
止め絵で、ハーモニーみたいな。
最初のかぐや姫のときは、実写で?
そう。
うわー、それは最初に見たら焦るなー。
だから、間に合わなかっただけかもしれないなあ。

M-1 進め! トリトン
R3 エンディングは最後まで「海のファンタジー」なんですか?
「海のトリトン」
R3 ああ、運動会だの珊瑚礁だのっていう。
そう。全然番組に合ってない(笑)。
(マッチングとしては)最悪ですね(笑)。
R3 子ども番組と思ってナメてるのが見え見えなんだもん。この辺の甘っちょろさがね、フォークだめなんだよな(笑)。
「トリトン」って、オープニングとエンディングとスタッフが違ってレコード会社も違うっていうハシリですよね。

M-28 遥かなる海の彼方に
これがやっぱり、「トリトン」の音だなあ。
R3 「ヤマト」の音ですね(笑)。
これって、最初のナレーションのときにかかる。
そうそう。
R3 管楽器とかは人が違っていても、あんまニュアンスの差っていうのは出ないんですけど、ドラムとベースとギターっていうのは、あきらかにその人の色っていうのが出るから、メンバーが共通していれば、絶対音が似てくるっていうのがあるんですよ。
でも、「トリトン」の管はかなり特徴的ですよ。編成にホルンとかオカリナとかを使うっていうのは、あまりなかった。
西崎さんの趣味とか?
コルゲンさんの趣味じゃないかな?
(プロデューサーから)こんな曲調でどうだ、っていうようなのは。
(西崎Pは)当時はまだ、そこまで注文してないと思うよ。アニメ第1作だからね、西崎プロデューサーの。
R3 この辺の編成のセンスっていうのはやっぱり、'67,8,9年ぐらいのイージーリスニング・ブームの影響だと思いますけど。「ヤマト」の宮川さんの音もそうなんだけど。

M-5 追憶
R3 「トリトン」の曲っていうと、ぼくはこれなんですよ。
そうそう。これ。
R3 最初のあらすじでよく流れていたような気がする。
このアンサンブルがいい。
これをずーっと聴きたいなあって思っていると、ぶちっと切れて場面転換なの(笑)。
R3 戦闘シーンになったり。
そう。これでなんか、「私はスターシャ」っていうのが聞こえてきそう(笑)。
R3 絶対そうですよね。
なんか「ルパン」くさい。
「トリトン」って、ムーディな曲とアクション系の曲と、どっちもかっこいいんですよね。適当に作ってないっていうか。あと、普通劇伴作ると、同じメロで別アレンジとか、楽器違いとか作るんだけど、「トリトン」はそれがほとんどない。すごい密度が濃い。
主題歌アレンジって1曲しかないですよね。
R3 主題歌のメロをちゃんと追ってアレンジっていうのはあるけれど、菊池先生、宙明先生がよくやる、主題メロをどんどん壊しながら繰り返していく変奏曲タイプの曲はないですよね。

M-11 ポセイドン
こういう厚い編成も音とかも、それまでのテレビアニメ劇伴になかった音。
映画サントラなんかは、こういう音ですよね。
そうそう。
映画サントラの方法を持ち込んだっていうことですかね。
でも、ある程度予算ないと人が呼べないから、そこは、やっぱりプロデューサーの意志が入っているんじゃないかと思うんだけど。
R3 この最後のところなんか「イデオン」。

M-20 襲撃
R3 こういうドラムってね、石川晶しかできないと思う(笑)。
あと「トリトン」ってギターがかっこいいんですよ。杉本喜代志の。
R3 この辺のザラザラ感のあるギターの音っていうのが、GS/サイケ系の音なんですよね。ファズっていうエフェクターでひずませるやつ。例の「ハクション大魔王」のイントロでお馴染みの(笑)。

M-8A 思慕
これはホラ貝の話のときにかかってましたね。
R3 飛ばします?
長いんですよね、1曲1曲が。
1分以上ある曲がほとんどだから。

M-104 突撃
これは、(「ヤマト」の)「ブラックタイガー」(笑)。
※自宅で確認した結果、初代ヤマトの「空母の整列」という曲に似ているように思いました。(仙)
R3 こういうテイストですよね。
すごい新鮮だったんだよね、こういうBGM。当時ビデオとかないから、放送をテープに録音して聞いているじゃない。だから、これはかっこいい、これをセリフ、効果音かぶりなしで聴きたい、と。
R3 この辺が「キカイダー」と共通するテイストですね。ジャズロック、ブラスロックもの。ただ、コルゲンさんの場合、やはりジャズ寄りの感じ。ギル・エヴァンスという人がいて、大編成のバンドで8ビートをジャズ的に処理する「ギル・エヴァンス・オーケストラ」っていうプロジェクトがあるんだけど、それがジミヘンの曲をカバーするっていうアルバムがあって、これにそっくりな曲がありますね。コルゲンさんは明らかに、それを意識してると思う。やっぱりジャズで、ピアニストで、ロックの方面にも意識が向いてて、さらに大編成で音楽が作れるとなったら、似た感じのことしてみたくなると思う。

M-29 イルカのマーチ
これも「トリトン」の劇伴の特徴で、マーチが多い。
いくつかありましたね。
やっぱり、どこかからどこかへ旅をする話だったから。こういうの印象に残ってますよ。
R3 ただ、いわゆる「アトム」「鉄人」「エイトマン」のマーチではない。
ないですね。
R3 やっぱり旅っていうモチーフは強力にあったでしょうね。
旅と、あと海。海とか宇宙とか、音がない世界じゃないですか。そういうのに曲をつけるっていうのは、やっぱり難しいんじゃないでしょうか。

M-101 闘い
R3 これは完全に宙明(笑)。
そうそう、これ聴いてて、宙明先生やーーっ。
「海のトリトン」の海って、宇宙みたいな感じがする。延々と海の中で。
だから「ヤマト」と印象が重なっているのかもしれない。
R3 主題歌がマカロニっていうのも、やっぱり旅を意識していると思うんですよ。
「ヤマト」も旅ですしね。
R3 ゲッターベースの片鱗が聞こえるでしょう。
この曲、ほんとに「キカイダー」や「イナズマン」に流してもわからないと思いますよ。
R3 追跡シーンに。
こういう2コーラス、フルに演奏する曲っていうのもそれまでなかった。当時の劇伴なんて、40秒とかそんなものだから。
コロムビアの「オリジナルBGMコレクションシリーズ」って、何曲かを1つのブロックにまとめてたじゃないですか。聴いていると、コマギレがつながっているような感じですよね。トリトンはそれがありませんね。
「トリトン」は逆に1分未満の曲ってほとんどない。

M-31 行く手に立ちはだかるものは
これは珍しい変奏系。
これもなんか大野雄二くさい。
<ブルーノート>とか、N.Yでジャズを流している店に行くと、こういうのがかかってますよね。ニューオリンズとか行くとディキシーばっかりじゃなくて、こいうのを専門にやっているお店があるんですね。

M-6 海に眠るアトランティス
R3 映画音楽で似た感じの思い付きます?
これ、なんかの外国ドラマに似ているんですよ。ヘンリーマンシーニだったような気がする。
※「ROOTS」の「MANY RAINS AGO(OLUWA)」(作曲:クインシー・ジョーンズ、演奏:ヘンリー・マンシーニ楽団)でした。(仙)
マンシーニはこういう音ですね。
劇伴のパターンでこういうのがあるんですね。
R3 常套手段。

M-27 可愛いピピ
R3 いわゆる、ふつうの映画音楽の定石みたいな曲もちゃんと入っているし、ジャズ寄りの、ブラック・ムービー系のサントラ、クインシー・ジョーンズとか、ロイ・エアーズとか、そっちの方も入っているし。
そう。「音楽集」を1枚まとめて聴いてみて、このバンドの系統はこう、っていうのが結局わからなかったんですよ。いろんなものが入っていて。大野雄二なんかは、「あ、大野雄二」っていう感じだけど、これは宙明も入っているし、フュージョンぽいのもあるし。この曲なんか、70年代の雰囲気ですよね。
R3 これなんか、キリンレモンの天気予報(笑)。
たぶんコルゲンさんは、引き出しを全部開けて、いろんなものを全部出したんだと思う。最初の劇伴ということで。
あ、なるほど。

M-103 ゴルセノス
これもぶっとんだんですよね。このフレーズが32小節続くんです。これもテレビで聴いているとあんまり気にならないんだけれど、曲だけ聴くと「こういう曲だったのか」と。
R3 ハモンドにワウ・ギターですからね、そりゃかっこよくなるでしょう。この時期一番かっこいい音ですよ。「太陽にほえろ!」がこういう音でしょ?。
そうそう。
ああ。
R3 大野克夫系の。
今回はこんなことやってみようじゃなくって、最初だから、やれることは全部やっちゃおうと。
R3 知っていること全部出して。
宮川泰の「宇宙戦艦ヤマト」もそういう傾向がありますね。引き出し全部開けてっていう。
R3 ムード歌謡入っているし(笑)。
じゃあ、ホワイトジャケットはやっぱり、ファンに認められて声もこれだけ来たし、自分の仕事を残しておきたかったんでしょうね。
そういう意味では、そのあとやってないっていうのは、もう劇伴でやりたいことはやっちゃったのかな(笑)。
空っぽになっちゃったのかも。
もういいか、ほかのことやろう(笑)。
菊池俊輔と対照的じゃない、すごく。
もともとコルゲンさんは劇伴やろうとは思ってなかったんだろうしね。
もともと映画音楽を聴いていて、やろうと思っていた人ではないですよね。菊池俊輔とか渡辺宙明とかは、映画が好きで、劇伴家になりたかったっていう人ですから、ちょっと違いますね。
R3 大野雄二とかコルゲンさんは、もともと演奏者になりたかったし、なった人ですね。
だから、次から次に新しい曲を書いて注ぎ込んだ。

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