座談会:「海のトリトン」の音楽を語る

「トリトン」は70年代アニメ劇伴のルーツ!?

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石川晶と寺川正興

R3 コルゲンさんが、そのヒノテルのクインテットを脱退するのとほぼ同時に別のバンドを始めるんですよね。それがフリーダム・ユニティっていうバンドです。で、フリーダム・ユニティでやったので、ついこのあいだCD化されたのが、この伊集(加代子)さんのやった「フォリオール#2」(◎LP:キング:1973)なんですよ。
ああ。
R3 フリーダム・ユニティのLPっていうのが、確か2つあるんですけど、もう全くの幻(の盤)状態ですね。ちょっと聴いてみます?
これのベーシストとサックスは「ハイノロジー」と同じ人。ベースとサックスとコルゲンさんはそのまま流れてきている。で、編曲が佐藤允彦なんですね。佐藤允彦は演奏はしてないです。やっぱり、鈴木=佐藤の慶応人脈っていうのがここにもまだ生きている。で、ここで登場するのが、ドラムの石川晶さんなんですよ。
コルゲンさんは、石川晶トリオのメンバーだったって書いてますね。
R3 そうです。ただ、この辺になると、特にジャズ・ミュージシャンの場合は、いわゆる○○トリオとか言っても、メンバーが固定してるわけじゃない場合が多いですから。長期間、石川晶トリオで弾いていた.....という感じじゃないと思います。この「フォリオール」は、特に佐藤允彦プロデュースなんで、かなりアグレッシブな、怪しい系のサウンドです。
これは何年ですか?
R3 これは'71年です。
コルゲン・バンドってこのあとですか?
R3 コルゲン・バンドは、もっとあとだと思います。
「トリトン」のあと?
R3 あとだと思います。
まだコルゲン・バンドじゃない。じゃあ、蛙プロダクションっていうのはあったんですかね。
R3 あったんでしょう。
自分の事務所として。
R3 音楽制作事務所みたいな。「トリトン」のクレジットにも蛙プロダクションって出ますからね。
※オープニングに「音楽:鈴木宏昌 (小さく)蛙プロダクション」と表記されている。
R3 それで、フリーダム・ユニティってすぐ解散しちゃうんですよ。
なんか、私の苦手系のジャズだ。だめなんですよ私、これ。
R3 ギュルギュルギュルギュル続くってやつですよね。
しかも、長いんですよね。
R3 そう。それで、このあとに非常に有名なセッションがあって、それが水谷公生のセッション「A PATH THROUGH HAZE」(◎LP:ポリドール:1971.06)なんです。これにコルゲンさんが入っている。佐藤允彦もいる。伊集さんもいるんですよ。
で、この水谷公生っていう人がもともとGSの人で、GSバンドを2つ渡り歩いて、そのあとこういう前衛的なロック方面に流れていく人なんです。この人自体は、アニメ関係の劇伴にはそれほど出てこないんですけど。この人は今でも、浜田省吾のプロデューサーとしてずっとやっている人です。ただ、レイジー(※影山ヒロノブのいたバンド)のプロデュースもやっていたんですよ(笑)。それから実は1つだけ大きくかかわっている作品があって、「北斗の拳」の子門真人挿入歌2曲の編曲を水谷公生がやっているんです。そういう意味でのつながりはありますけど(笑)。
あー、それで見たことあるんだ(笑)。
おれも聞いたことあると思った(笑)。
R3 この人は、今はプロデューサー兼アレンジャー兼ギタリストですけれども、当時やっぱり、めちゃくちゃうまいギタリストってことでスタジオ・ミュージシャンとして活躍している人です。
これは何年の録音でしょう。
R3 '71年ですね。これがCD化されたのが去年です。それまでは、このレコード自体がめちゃくちゃ幻のレコードで、(中古屋で)20万円くらい。
え!?
R3 (笑)していたんですよ。で、日本ではかなりのマニアしか聴かない盤ですけれども、海外ではすごい人気があって、海外で海賊盤が出ていたんですね。その海外の海賊盤ですら、日本で買うと6000円とか。そんな状態です。それから、ここに入っているメンバーで、寺川正興っていうベーシストが出てくるんですけれども、この人が「トリトン」の劇伴に参加しているんですね。
ということで、さっきのフリーダム・ユニティが石川晶との出会いで、次の水谷公生とのセッションが寺川正興との出会い、ということになるんじゃないかなあ。この寺川正興っていうのが、私がさんざん言っている、ゲッターベースの奏者じゃないかと予想している人なんですよ。
ほおー。
R3 前の座談会(※菊池俊輔座談会)でも、エレベーター奏法の第一人者って人がいるんだけれども、たぶんその人のはずがないだろうと、ぼくは言っていると思うんですけど、結局、この人なんです(笑)。
そうなんですか。
R3 やっぱりこの人だと思う。で、同じ水谷公生の参加してるセッションで、LOVE LIVE LIFE「Love Will Make A Better You」(◎LP:KING SKK-3009:1971)っていうのがあって、これにはコルゲンさんは入ってないんですけど、寺川正興やチト河内が参加してます。これは90年に1度CD化されていて、今、CDのクセに6000円くらいします(笑)。去年再発されましたけど。オリジナルのレコードは、ぼくが見たものでは2万3000円とか(笑)。この辺のレコードって、こんな音楽だから売っている数が少ないし、売れなかったし、残ってないんですよ、ほとんど。
余談ですけど、このLOVE LIVE LIFEに水谷公生と共にもうひとりギタリストが入っているんですけれど、それが直居隆雄なんですよ、「イデオン」「マクロス」のギタリストの。「マクロス」の「ドッグファイター」っていう一番有名な曲で、死ぬほどギター弾いているあの人ですね。
ほおー。

「トリトン」劇伴のミュージシャンたち

R3 時期的に、この次あたりに「トリトン」のセッションがあるはずなんですよ。「トリトン」の劇伴の音を決定づける、ドラマーの石川晶とベースの寺川正興っていうのは、それぞれ、もっと前のこういったセッションから鈴木宏昌と出会ってる人。「トリトン」劇伴のメンバーでいうと、鍵盤が鈴木宏昌。もうひとりの鍵盤奏者・市川秀男っていう人も、のちのちこういうセッションにときどき参加してます。で、ベーシストの寺川正興は、この筋のセッションに必ず顔を出す有名な人です。それから、もうひとり江藤勲っていうベーシストがいますけれども、この人ものちのちコルゲン組に登場する人ですね。ギタリストの杉本喜代志っていう人もコルゲン人脈のひとり。この人自体ジャズ・プレイヤーとして杉本喜代志トリオっていうのがある人です。で、ドラマーが2人いて、例の石川晶と、日野元彦=ヒノテルの弟。日野元彦は、「ハイノロジー」のセッションからのおつきあい、と。注目すべき人としては、ペットの数原晋さん。この人は、もうこの人脈に絶対出てくる皆勤賞的な人ですね。もう、「イデオン」「ヤマト」、あと、たぶんハネケン人脈の「宝島」「スペースコブラ」なんかも。あの辺に全部出てくる人です。
このあいだのNHK-BSの特番「音楽の料理人」でも、小六禮次郎の「うらら」と「秀吉」のテーマ曲で、ソロを吹いてましたよ。
R3 「交響曲イデオン」ではスペシャル・ゲスト扱いで、ひとり呼ばれてますよね。あと、ハープの山川恵子さんて人も、たぶんこういうスタジオ系のハーピストなんてほとんどいなかったでしょうから、劇伴とかで必ず名前が出てくる人ですね。
で、結局、この時期の'72年「トリトン」から始まって'77,8年ぐらいまでの「テレビまんが」の劇伴の音っていうのが、大体このあたりのメンバーで演奏されてたんじゃないかっていう気がするんですよ。ようやく音盤に演奏者のクレジットが入る「エキセントリック・サウンド・オブ・スパイダーマン」(◎LP:コロムビア:1978)のプレイヤーを見ても、ほとんど重なってるんですよね。だから、この時期のコロムビアで録音されてる主題歌や劇伴の演奏者って、この「トリトン」のセッションがそもそもの発端になって集まったじゃないかなあって思うんです。コルゲンさんの人脈で集まった人たちが、「勝手知ったるお馴染みのメンバー」として以後も続いていった.......そういうことかなって。コルゲンさん自体の関わりは薄くなっちゃうけど。
ほぼ固定してしまったと。
のちのちのアニメ劇伴の流れを作った。
R3 ......じゃないかなあというのが、ひとつの仮説でしかないですけど。
「人造人間キカイダー('72)」の録音メンバーとかわからないかなあ。
R3 「キカイダー」のメンバーがわかると大きいんですよ。
「科学忍者隊ガッチャマン('72)」も同じ年だから。
R3 「キカイダー」の音っていうのは、あきらかに石川晶と寺川正興のリズムなんですよね。
ああ、「トリトン」聴いて、「ちょっと宙明入ってる?」って思った。
あったあった。
R3 ブラスロックな曲ありますね。
※「人造人間キカイダー('72)」の第1回劇伴収録は、1972.6.15。「トリトン」の劇伴収録の約3ケ月後のこと。(RYO-3)
ていうかね、いろいろ混ざっている。「ヤマト」もあるし、大野雄二みたいな感じのするもあったし、「これ宙明先生や」っていうのもあって。
結構、こういう劇伴系の音のルーツみたいな感じがつまっている。「太陽にほえろ!(1972.07〜1986.11)」がこのあとなんだけれども、「太陽にほえろ!」っぽい音もある。
ありましたありました。
R3 劇伴を作曲家別で見ちゃうと、「違う人の音楽」と思っちゃうけど、実は演奏している人はおんなじっていうパターンが多いと思うんですよ。今出た「ヤマト」なんて、「トリトン」と重なって人、すごく多いんですよ。仙道さんが、"「トリトン」の音楽は「ヤマト」と同じ人がやっていると思っていた"っていうのは、全然はずれじゃないんですよ。
ああ、よかった。私きょう怒られたらどうしようかと思っていたんだけど(笑)。
R3 それと、のちのちの「ルパン三世(新)」のYou&Explosionバンドと再録音版「トリトン」のコルゲンバンドとは、多くのメンバーが重なってますよ。
はあー。
逆にルーツなんでしょうね。
R3 だから、この辺はミュージシャン貸し借り、めちゃくちゃになっていて、ボスが、コルゲンさんであったり大野雄二であったり、宮川泰であったりハネケンさんであったり。ハネケンさんは、もともとこのミュージシャンのひとりであったのが、アレンジャーとして頭角を表しはじめた。
そうですよね。「宝島」の音なんて、それっぽいなあ。でも「宝島」って、ハネケンさんの仕事の中では、あの最初の仕事だけちょっと異質ですね。
R3 そうですよね。
あれだけジャズっぽいっていうか、ロックぽいっていうか。
あんまり強く言えなかったんですかね。
あれはむしろ、ハネケンさんの趣味が出たんじゃないかな。
R3 ........というのが大ぶろしき仮説なんです。「70's劇伴プレイヤー・トリトン起源説」(笑)。で、宙明ラインに関してはやっぱり「キカイダー」でやった人たちを使っているだろうし、そこに松岡直也が入ってきますから、明らかに同じ人脈の列なんですよね。
なべたけ(※渡辺岳夫)関係とは全然関係ない?
R3 なべたけ先生はねえ、ちょっと感じが違うかもしれない。

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