座談会:「海のトリトン」の音楽を語る

「トリトン」は70年代アニメ劇伴のルーツ!?

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「トリトン」劇伴以後の鈴木宏昌

R3 で、この「トリトン」の劇伴のあとにもうひとつコルゲンさんの大仕事があって、それが「タモリ」(◎LP:東芝EMP:1977.03.20)のLPなんですよね(笑)。
いまCDになってますよね。
R3 なってます。
タモリが歌っているの?
R3 歌っているし、「スネークマンショー」みたいな、ギャグLPですよ。コルゲンさん・江藤勲・石川晶のトリトン組も入ってますね。それから、山下洋輔とか坂田明とか、あの辺のメンバーももちろん入ってますし。そのあとコルゲンさんが出てくるセッションで見付けたのがこれ、石川晶とカウント・バッファローのセッション「EMERGENCY TAKE2」(◎LP:東芝:1976)なんです。カウント・バッファローっていうのは、石川晶がヘッドになっているバンドで、70年代初めから84〜5年まで長い間存在してます。石川晶以外のメンバーはほとんど変わっちゃうんですけど。このレコードは'76年のセッションですけれども、これにはコルゲンさんは入ってます。あと、市川秀男、寺川正興なんかのトリトン組も。
そのずっとあとの「ジャムトリップ・マクロス」(◎LP:コロムビア:1983)とか「ジャムトリップ・ルパン三世」(◎LP:コロムビア:1983)の頃のカウント・バッファローには、この当たりのメンバーはいなくて、例のマクロスギターの直居隆雄なんかの若手に切り替わってる。
あともう一つ、「Evergreen」っていうセッションのアルバム(◎LP:東芝:1977)があります。これは時期的には、「トリトン」の劇伴と再録音版の中間ぐらいなんで、そういう感じの音ですね。
この辺のセッションって、新カッティング方式がどうとか新マスタリング方式がどうとかいう、オーディオマニア用のデモ盤みたいなのが多いんですよ。これもそう。第一家庭電器のレーベル(笑)。この盤は、コルゲンさんは居ませんけど、その他のメンバーはほとんど同じ。ベース寺川正興で、ドラム石川晶で、トランペットの数原さんが入っていて、アレンジャーが青木望です。で、伊集さんが歌ってます。ギターが直居隆雄。これも'77年ですね。だから、「トリトン」の頃よりちょっとアカ抜けて いるんですよ、音的に。「トリトン」の頃はモロにセッションっぽい、泥臭いんですよ。ジャズ・ロックっぽいし。これはよりフュージョンっぽくなっている。で、これを録音した2日後に「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」を録音している。
お忙しい(笑)。
R3 やっぱりベース、ドラムは同じ。この辺から、コロムビア系のアニメ劇伴にコルゲンさんが出てくる曲っていうのはそうなくなってくるんですね。
「若草のシャルロット」っていつですか?
「シャルロット」は'77,8年くらいかなあ(※1977.10〜1978.05)。あれは「トリトン」が注目されて、もう1回担ぎ出されたって感じですね。
劇伴っていうのはそれ以降?
ないですね。
「クレオパトラD.C」っていうのをやっているみたいですね。新谷かおるのOVAを。
R3 で、「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」(◎LP:コロムビア:1977.12)があって、「さらば宇宙戦艦ヤマト」(◎LP:コロムビア:1978.08)があって、そのあとに「エキセントリック・サウンド・オブ・スパイダーマン」(◎LP:コロムビア:1978.08)があるんですね。ほかにも一杯あるはずなんですけれど、クレジットがわかる資料がこれぐらいしかないんですよ。
コロムビアもプレイヤーとかがわかるのは「スパイダーマン」以降ですね。この「トリトン」のオリジナル劇伴はプレイヤーがわかってるのが不思議、貴重ですね。
逆に奇跡ですね(笑)。
やっぱり蛙プロダクションで作ってたから残っていたんだろうけど。
やるときに載せろっていう条件があったのかもしれない。
かもしれない。こだわって、出すなら載せましょうと。
R3 「スパイダーマン」の直後に、例の白ジャケの再録音盤「トリトン」(◎LP:蛙プロ:1978.04?)ですね。そのメンバーは管楽器はほとんど「ヤマト」と共通してます。だけど、リズム体は一新されていて、いわゆるのちのコルゲン・バンド=THE PLAYERSのメンバーに変わっているんですね。だから、寺川正興とか石川晶とかは、もうこの辺から出てこなくなるんですね。この白ジャケのメンバーは、完全にTHE PLAYERSの初期のメンバーですよね。THE PLAYERSの1枚目が出るのが、'79年の4月なんですよ。この白ジャケが発売されたのが、'79年4月ですよね。まったく同時期、ほんとに直前だと思うんですよ。
一緒にやってたんじゃないか。
まずはこれをやっておこうと。ほぼ初仕事に近いような。
R3 ただ名前が変わっただけなんで、そんなに大きく音的に変わったとか、メンバーが変わったとかいうことはないんですよね。
この白ジャケ盤っていうのは、まったくのファン・サービスで作ったのか、自分たちが気に入った曲をもう1回やりたいというので作ったのか、どっちなんでしょうね。
どっちもあるのかなあ。ファン・サービスがかなりの部分あるとは思うんですけどね。ただこれ、コロムビアのBGM集(「海のトリトン テーマ音楽集」◎LP:コロムビア:1979.08)が出る前で、出るとは思ってなかっただろうから、やっぱり残しておきたいっていうのがある程度あったんじゃないかな。
BGM集が出るっていうことは考えられなかったんですか?
全然そんなこと考えられなかったものね。だって、テレビアニメのオリジナル音源でLPになったのって、コロムビアでは「トリトン」BGM集が最初なのね。このあと「オリジナルBGMコレクション」っていうシリーズが出る。
※当時のテレビアニメ劇伴リリース事情は、
  • 1977.12「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」◎LP:コロムビア
  • 1978.05「交響組曲 宇宙海賊キャプテンハーロック」◎LP:コロムビア
  • 1978.11「組曲 銀河鉄道999」◎LP:コロムビア
  • 1979.05「交響組曲 サイボーグ009」◎LP:コロムビア
  • 1979.02「無敵超人ザンボット3」◎LP:キング
  • 1979.08「海のトリトン テーマ音楽集」◎LP:コロムビア
  • 1979.06「機動戦士ガンダム」◎LP:キング
といったところ。(猫)
R3 ちょうど「ガンダム」の年ですよね。
ちょうど盛り上がる頃。
R3 いや、もう少し前。で、この白ジャケの再録音盤とほぼ同時期に大野(雄二)「ルパン」の録音があって、ほぼメンバー共通なんですよ。「ルパン三世」サントラの1枚めの方(◎LP:コロムビア:1978.01)、ベース・ギター同じ。それから2枚めの方(◎LP:コロムビア:1978.12)はギター・ドラム・パーカッションが同じです。あと、管もいくつか共通してますね。やっぱり慶応人脈っていうのがまだ流れているんですね。
THE PLAYERSの1枚目がこれ「GALAXY」(◎LP:ソニー:1979)なんですけど、白ジャケの録音と非常に似てます。この頃からが、ちょうど「フュージョン」というスタイルの黄金期ですね。でも、コルゲン・バンド=THE PLAYERSの感じっていうのは、いわゆる安っぽい、軟派なフュージョンとは一線を画してます。よく、西海岸フュージョン、東海岸フュージョンっていう考え方するんですけれども、たいていL.A寄りのフュージョンっていうのは軟派なんですよ。ラリー・カールトンであるとか、リー・リトナーであるとか、長髪の白人が能天気にやってて、海、空、風、曲名にも、BreezeとかWaveとか、そういうのが出てくる(笑)。
私の大学生の頃(1980年代後半。バブル初期)だわ。
※いわゆる「フュージョン」の黄金時代としては、1979〜1985ぐらい。(RYO-3)
R3 日本でいうと高中正義とか。ロックとかポップスとかをインスト化したって感じ。対して、N.Y側の東海岸のフュージョンっていうのは、あくまでもベースにジャズがあって、高度な演奏とアドリブのかっこよさが基礎っていう感じですよね。で、コルゲンさんの'72,3年頃からの一貫した感じは、N.Y側なんですよ。演奏がかっこいいっていう方をめざす。だから、スクエアとかああいう感じのフュージョンとはちょっと違うんですよね。逆にいうと、売れないフュージョンなんです。
ふうん。
フュージョン派(ポップス寄りのファン)にはちょっと。
R3 まじめすぎる。だから、スクエアとか高中とかバカ売れしたのは、L.Aの軟派系のさわやかさサウンドものを志向していたから。
ボケッと聴ける(笑)。
R3 ドライブ用のBGM(笑)。コアなロックファンとかがフュージョンって最悪っていう言い方しますけど。
「西海岸系」に対して嫌悪感を持っている。
R3 そうそう。
私、嫌いだったのね、その西海岸系の音が。やっぱりアニメで育ったから反発があったのかもしれない(笑)。
聴いてきた音と違う。
「おれは泥臭いものが聴きたいんだ!」とか(笑)。もっと骨太な音が聴きたい。
R3 ただ、やっぱり、売れないんで、こういうものは。ジャズとしてのスピリットを残してるから、硬派で難解な部分を残してるから、とっつきにくいし。
それでスタジオ・ミュージシャンとかやっているのかな?
R3 だからTHE PLAYERSもどんどん軟派傾向になっていく。で、大野雄二っていうのは絶妙のバランスで、両方のイイトコ取りなんです。かなり柔らか軟派系ではあるんだけど、ちゃんと演奏をしっかりするっていうポリシーが感じられますよ。THE PLAYERSの3枚目聴いてみます? かなり軟派ですよ。シンセが強く出てきて、シンセの音色で新しい雰囲気を出すっていう。
(聴いてみて)軟派(笑)。あー、懐かしい。私が大学生の頃って、なんでもこんなだったような気がする。
R3 そうそう(笑)。まさにその通り。
ラジオかけると必ずこういう曲がかかっていたし、どこの店行ってもこういう曲が流れていたような。
R3 もうドライブ・ミュージック一色っていう感じですよね。ていう感じで、コルゲンさんも変わっていくと。やっぱりレコード出すからには売れないとっていうのがあるから、その辺は、かなりのジレンマを抱えているんだろうとは思うんだけど。
やっぱり劇伴っていうのは硬派なんだ。
こういう方たちは、今はどうされているんです?
R3 今もライブハウスで活動しているけれども、レコードにならないような、インストのバンドですよね。フュージョンって言っちゃうと語弊がある場合があるから。
自主制作とかはしていない?
R3 あ、している、場合もある。
なるほどねえ。じゃあ、今は全然劇伴に関わっていたりは?
R3 してないことはないと思うんですけどね。
ギャラ上がってるんじゃない?
R3 例の「ウルトラマン・ジャズ」(◎CD:ID NET:1998)、あれはぼくも知っている人が2,3入って演奏しているんですけど、やっぱりそういう人たちですね。フュージョン・プレイヤー予備軍みたいな、スタジオ・ミュージシャンしている人たちですね。
私、きょうはおふたりの話聴いて謎が解けたことがひとつあるんですよ。「トリトン」って曲のかけ方めちゃくちゃじゃないですか。曲が途中でぶちって切れたり。BGMの使い方へただなあってずーっと思っていたんですよ。でも、それって、曲がひとつひとつ完成した曲だから、切らざるをえなかったんですよね。
R3 セッションの曲を何曲も作っておいて、そこから切っていくっていう形。
だから、切れているという。あんまり曲自体もジャカジャカ流す作品じゃなかったですよね。曲1つ1つがいいだけに、ファンが全部まとめて聴きたいって言ったのは、当たり前だったような。
もっと聴きたーい、っていうふうになっちゃうんだ。
そんな気がする。
昔の劇伴の扱いなんて、ほんとに背景音楽だったからね。

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