●実現したい企画
猫 じゃあ、これから出したい企画ってありますか。 早 出したいものはいっぱいあるんですけど、企業秘密になってしまうんで、あんまり言えないんですよ(笑)。実現できるかどうか関係なくいうと、やっぱり『スパイダーマン』をちゃんと出したい。 ア おおー。 早 『スパイダーマン』は、アルバムとしても出来がいいんで、宙明作品の中でも、なんとかしたいですね。『忍者部隊月光』も出したいなあと思っているんですけど。 ア ええ、ええ! 早 もちろん『ゲッターロボ』とかも出したいし、いっぱいありすぎて…。『マジンガーZ』もちゃんと全部入れたいし。 猫 あの辺の作品は、出ないのが不思議ですよね。 ゆ 今スパロボとかはやっているから、ロボット系なら売れると思うんですけど。 早 いかに売れてないかってことじゃないんですか、今は。 ゆ 買う方も追いつかないってこともありますよね。新譜を追いかけるだけでも、相当金額使うものね。 ア だって、今、週に70本ぐらいアニメやっているでしょう? ゆ また、CDにする前提で番組を作っているから。 早 CDが出てないものもありますけどね。全部追うことはできませんよね。まあ、誰かが持っていればいいか、と思うんですけど。 ア 早川さん、一応全部追っかけてはいるんですか? 早 いや、無理ですよ。全部見ていたら仕事できなくなってしまうんで、出会いを待つ。偶然テレビをつけたときにいい曲が流れてきたりする、そういう出会いを重視する(笑)。昔に比べると、情報をフォローしきれないのが辛いですね。昔だったら、ドラマとか一通り見ていたから、「あ、この曲はあの番組の流用ね」ってわかるじゃないですか。ところが、こんなに作品が多くなってくると、初出はいつなんだろうかとか、ワイドショーで「これは絶対アニメの流用だろう」と思ってもわからないとか。 ア ああ、あります。この曲カッチョいー、CDで欲しいー、でも何に入ってるんだー、みたいな(笑)。 ゆ 歴史が積み重なると、それだけ作品が多くなるわけだからねえ。 早 それはもう、アキバさんとかにフォローしていただいて(笑)。ひとりで全部やるのはとても無理ですからねえ。 猫 ほかに出したい作品というと。 早 円谷映像の『仮面天使ロゼッタ』。『ミカドロイド』も出したいな、川井憲次さんの。円谷プロさんの方では、なんとしても『ウルトラQ』『ウルトラマン』の未発見曲を探さねばならない。 猫 そうですねえ。 早 なんとしてもやらねばならない。『ブースカ』に関しては見つかったものが1本しかないんで。『Q』『マン』『ブースカ』、これをなんとか、マスターを探したいですね。あと『マイティジャック』のリール2を探さなければならないし、『怪奇大作戦』のリール2、リール3と思われるものも。追加録音分が全然ないんです。初期の円谷作品の音楽って、まだまだ穴だらけなんですよ。商品化が終わっているのは『ジャンボーグA』とかぐらいで。『ファイヤーマン』は少し残っている。「ウルトラシリーズ」だと『セブン』はほぼ終わってますけど、まだ見つけないといけないものがいくつかありますね。円谷さんだけでも、これだけあるんですからねえ。『ザ・ウルトラマン』もいい線までいっているんですけど、1曲だけ、ウルトリアが上昇するときのテーマがわからない。あとは全部調べたんですけど。『帰ってきたウルトラマン』は結構つぶしましたよね。『A』は、フブギララ(43話)のときにロッジでかかる曲がわからない(笑)。 ア すごい〜。「キャラおけドン」みたいや(笑)。 ※キャラおけドン:バンプレスト発売の東映ヒーローのマニアックな知識を要するクイズゲーム。 早 円谷は15枚組作るときに、1作ごとに、CDが出ているものに関してはつぶしていってるんで。これわかる、わかる、わかるって。だいぶ詰めつつあるんですけど。 猫 東映もまだまだですね。 早 いっぱいありすぎて、どれから出していいか。東映動画だって、『狼少年ケン』から不完全なまま。劇場ものもそうですけど。『魔犬ライナー0011』。ほんとは一番出したいのは、『ジェッターマルス』なんですけど。越部サウンドが大好きなんで。 猫 越部サウンド出したいですよねえ。 早 越部さん、作品集ないですからねえ。今回『紅三四郎』のLDをやらせていただいて、音楽をちょっと入れたんですけど。 ●構成の醍醐味
猫 早川さんが、劇伴集などを構成するときに意図しているところってありますか。 早 それはやっぱり、最大限作品を短い時間に凝縮した組曲を作ろうということ。 猫 ああ、やっぱり。 早 それは、短い時間でも長い時間でも、全曲集でも変わらず。映画の音楽は別として、やっぱりテレビ作品の音楽をMナンバー順に並べるのは、ぼくはやりたくないんですよ。 ア うわあ。 早 素材のままが最良とするのであれば、一番いいのはマスターテープですから。それをやるんだったら、(録音クレジットで)「M1」とか言っているのも削るべきではないと思うんですよ。もう、音楽だけ取り出す時点で商品として手を加えるわけだから。やっぱり組み替えて、自己満足なんですけど、自分の作品に対する愛情をそれで表現したいと。 ※録音クレジット:マスターテープには、演奏前に曲名や番号を吹き込んだ声も収録されている。音のカチンコみたいなもの。 猫 ぼくも今回「サンプラー」をやらせてもらいましたけど、実は学生時代に劇伴集とか買って構成が気に入らないと、自分で組み替えてカセットテープに入れたりしていたんですよ。そのときにやっぱり、ひとつのアルバムとして、トータルでメリハリがあって、流れがあって、聴きやすいものを、と考えていましたね。ブロックも、ここはあるエピソードの曲で固めるんだけれど、別のところはシチュエーションで固めたりとか、考えて。全体ではその作品をイメージした組曲にしたいと。 早 そうですね。音楽ってそういうことができますからね。特に、その映画・テレビの本物の音源だから、いじらしていただくっていうことはすごい光栄なことで。ほんとはおこがましいんですよ。作家でもないし、監督でもないし、一ファンなんでね。それが音楽ということだけで、その作品をいじれる。これは他のジャンルにはないことですね。写真集とか作るのでも、確かに作品のイメージを自分なりの愛情をこめて編集することもできるんですけど、音楽っていうのは、もっと直接的にエモーションを与えるものだから。 猫 だから面白いのは、曲の順番によって、その曲の意図が変わったりするんですよね。自分で、こういうストーリィでっていう演出をして、編集しなおしているわけでしょう。 早 すごい醍醐味ではあるんですよね。ただ、1回CDを出すと、音楽ってなかなか出せないじゃないですか。絵本とか写真集とかフィルムストーリィとかなら、いろんな編集者とかファンライターがいて、いくらでも新しいものを作ってますけど、音楽集って1回出すと、なかなか新しく出す機会がない。たとえば「マジンガーZ ミュージックコレクション」が出たら、それが一応定番になってしまうじゃないですか。だから、出すときの責任感たるや、相当なものがある。一期一会の気持ちでいつも作ってます。 猫 緊張しますね。 早 1回曲名をつけたら、それがJASRACにずっと登録されるわけですから、結構責任重大なんですよ。 ア ぼくも、これが残るのかなあ、と思って。 ゆ 私はそう思ってやったから、後悔はしてないです。 ア 「名作アニメ サンプラー」で、『ペリーヌ物語』の「さあ、歩き出そう」ってタイトルは、やっぱり「さあ歩きはじめよう」を意識してつけたんですか。 猫 もちろん。わかる人にはわかると思って(笑)。 ※「さあ歩きはじめよう」:『ペリーヌ』と同じ原作者のアニメ『家なき子』の主題歌。 早 曲名つける醍醐味っていうのがあって、何かひとつもじったり、サブタイトル使ったりとか。ああいうのって楽しいですよね。それがJASRACに登録されると思うと、ちょっと責任重いんですけど。 猫 変な曲名つけられない(笑)。 早 他のメディアにはない責任感がありますね。より作品に近い素材をいじらしていただいているわけだから。 猫 しかも、選曲しているわけですからね。 ゆ 音楽って、ずーっと聴いていると、ある曲を聴くと次に始まる曲がもう頭の中に出てくるようになってしまうから、組み合わせっていうのは重要ですよ。 早 大切ですよね。責任が重い。 ゆ そういう曲と曲の流れを大事にしたいなあというのはありましたね。 烈 それは劇伴ならではの楽しみですよね。歌ものでやったらできなかったんですよ。SF大会で、それを歌ものでやろうとしたんですけど。並べても組曲にならないんですよ。歌ってあまりにも情報量が多いんで。 早 でも、それは編曲して自分で演奏すればできると思う。 ア 昔ぼくも、バトルシーンだけのBGM集めてテープ作ったんですけど、通して聴くとすごい気持ち悪いんですよね(笑)。 早 それはやっぱり、絶対つながらない曲ってあるわけですよ。 烈 でもアキバさんに教えてもらって、ロボットものの合体の曲を集めて流したら、それは気持ちよかったんですよ。劇伴でやると。 早 でもやっぱり、それが90分続くと疲れるかもね(笑)。 烈 あ、そうでしょうね。合体が90分続くと気が狂うと思います。 猫 あ、これカッコいいと思って、カッコいい曲ばっかりずーっと選んでも…。 ア そう、カッコよくて好きな曲ばかりつなげているのに、通して聴くとすごい気持ち悪い。なんでー!? 早 それは、おかずばっかり食っているのと一緒ですよ(爆笑)。 ゆ なるほどね。 猫 偏食なんだ。ご飯も野菜も食べないと(笑)。 早 やっぱりそういうもんです。偏りはよくないです。 猫 必殺技のテーマでも、その前のピンチのテーマとか、苦戦のテーマとかがあって、必殺技のテーマがあるから、カタルシスがあるんでしょう。 ゆ 私は、CDって幕の内弁当みたいだといいな、と思うんですよ。あれがあり、これがあり、あれがありっていう。いろんなものがあって、ひとつの楽しい商品になっている。 早 「サンプラー」は結構、そういう幕の内弁当みたいになるなあ、と思いますよ。それと別に単独盤が買えるというのが理想的ですね。 ア どの曲を入れるか、死ぬほど悩んだものなあ。 ゆ 今回悩んだのは、過去のCDに収録されてない曲優先っていうことだったので、残った曲だけで組曲作りなさいって言われたときに、すごい悩みましたね。 早 でも、未収録なら未収録だけで組むのって、また面白いんですよ。これは残されたものをいかに効果的につなぐかっていう、技の見せ所なんです。 ゆ 主婦みたいですね。冷蔵庫にあるものだけでおかずを作るっていう(笑)。 早 在庫処理のための。 ゆ 私、得意ですよ、それ(笑)。 烈 それでうまいもんができたりするんですね。 早 曲順によって、また見事に生きてくる場合もあるんでねえ。 猫 パズルみたいな感じで。パチパチッとはまると気持ちがいい。 烈 まさに"おれの料理"ですねえ。 (次のページへ)
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