劇伴倶楽部座談会としては、久しぶりの今回。
ゲストに、サントラCD構成の第一人者・早川優氏をお迎えして、製作の裏話をお聴きする一方、ファンの望むサントラ音盤について語り合いました。
参加者
猫 腹巻猫。劇伴倶楽部の主。 早 早川優。アニメ・特撮作品を中心とするサントラCDの構成で知られる、この道の第一人者。 ゆ ゆずのきB佳。同人歴○年。コミケにも出没する歌って踊れるマンガ描き。 ア アキバ。メールマガジン「空想音楽堂かわら板」編集長。Molpheous Pointも活動中。 烈 烈神我尊。メールマガジン「空想音楽堂かわら板」副編集長。
●音盤が店頭に並ぶまで
猫 今日のテーマは、「こんな音盤を出したい」というテーマなんですけれど、基礎知識として、早川さんに、こういう劇伴集が出るまでの、企画が通って、商品になるまでの流れみたいなものをお聞きしたいな、と思いまして。 早 色々なケースがありまして、ひところは、レコード会社のディレクターで自分の出したいものを持っている方が、自分が決定権を持てるようになったときに、企画を作って詳しい人に発注する、そこから音楽を探して見つかったら実現するっていうスタイルが多かったです。キングの「SF特撮テレビ音楽全集」のときは、前半が円谷編で後半が東映編と番号だけ先に割り振っていって、テープを見つけながら、見つかった順に出していったようです。それから、昔は、主題歌以外の音楽製作費というのは製作元が持っていたんですけど、レコード会社が音楽製作費も持つようになってからは、それを回収する意味で音楽集をなるべく商品にしていこうということで、音盤化されるようになってきた。最近はまたちょっと変わってきて、ある程度ラインナップを作ってきたので、出したいもので権利がクリアできて音もあるというものは、どこのレコード会社のディレクターさんも、大体出し尽くしているのかな、と。個人的な印象ですけどね。逆に今はわれわれの方から企画を持って行く持ち込みが多くなっています。レコード会社さんの会議にかけてもらって営業さんの意見も取り入れつつ、商売になると思われるものから出て行くという。 猫 コロムビアなんかだと、まだCD化されていない作品もたくさんあるんですけど、それは、ディレクターさんがあまり乗り気でないからですか。 早 会議で通らない。あとは、当時の実績とか。レコードがこれだけしか売れてないからというのも当然。 猫 それは大きいでしょうね。 早 これはCD化の初期の頃から、やっぱり売れ線のもの、「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」(1977)や「組曲 銀河鉄道999」(1978)などからCD化されていて、「マーチ組曲 恐竜戦隊コセイドン」(1978)が、最初にCD化されたりはしないわけですよ。 猫 コロムビアのオリジナルBGMコレクションって、ちょっとマイナーなシリーズだったでしょう。シリーズ化されたのが80年代になってからですよね。放映が終わってから出しているから、あんまり売れてないはずなんですよね。だから、不幸かなと。 早 そうなんですよ。 猫 『ゲッターロボ』にしても『宇宙の騎士テッカマン』にしても、すごいいい作品なのに、昔の売れ行きで判断されてしまうと。 早 辛いんですよ。やっぱり爆発的に売れたというと、「ヤマト」とか「さらば宇宙戦艦ヤマト」(1978)とか。 ゆ 確かに、私もCD買っちゃったんですよ。昔持っていたからって。当時レコードで持っていて、CDで復刻されるとやっぱり買っちゃうもん。 烈 アニメファンもそういうのを買うようになって、間口が広がった時期だったんですかね。 早 そのときはアニメファンっていうよりも…。 ア やっぱりキャラクターグッズのひとつっていう位置づけなんですよね。 早 そうでしょうね。まだビデオもないし。 ア 音楽を聴きたいというよりも、『ヤマト』の商品だから『999』のだからっていう。 早 LPのアイテム感っていうのは、CDよりも大きかったと思うんですよ。ジャケットが書き下ろしで、大きかったりすると。だから、それを比べてしまうと、「テレビオリジナルBGMコレクション・シリーズ」は不利になりますよ。数字で比べちゃうと。 猫 そういうことがあって、なかなかCDにならない。 早 「ヤマト」とかの売れ線のものに比べると、レコード屋さんの入れる枚数も違うでしょうし、それが今にも尾を引いているなというのは感じますね。 猫 当時売れてなかったものは、ずーっと出ない。それは作品の質とか、知名度とも違うんですよね。たまたま売れなかったからなんですよね。 早 売れなかったといっても、100枚とか200枚とかではないはずですから、もちろん。でも、ゴールドディスクまで取っちゃうような「ヤマト」とか「交響組曲 宇宙海賊キャプテンハーロック」(1978)とかと比べると、絶対それは不利ですよ。 猫 その壁は厚い。 ●劇伴集の売れ行き
ア 以前『ダ・カーポ』で劇伴集の特集が2ページほどありまして、早川さんの編まれた「渡辺宙明BGMコレクション」(1996)1枚ものの方が、1万枚を超える大ヒットだって書いてあったんですけれども、ああいうものって、大体どれくらい売れるとヒットなんでしょう? ※注:『ダ・カーポ』(マガジンハウス社刊)1997年12月17日号。 早 そんなに売れてたんですねえ(笑)。数は怖いんで、あんまりチェックしてないんですよ。1万も行けば、大ヒットじゃないですか。 猫 新作はお金かかっているから、もっと厳しいでしょう。 早 それは、スポンサーにならないと権利が取れないっていう場合もあるわけですよ、今は。各レコード会社さんのコンペティションが厳しいですから。スポンサー枠に入って製作費も出す代わりに主題歌の権利をもらうとか。そうなってくると投資額が半端じゃないですからね。 ア 昔の『ファンロード』にも、「特撮のレコードが3千枚しか売れないのはマニアが予約の仕方を知らないからだ」って書いてあるのを読んだことがあります。 早 でも変わってないんですよね。 猫 ああ。そこから伸びないんですよね。再プレスもかからない。 ア 廃盤になるのも早くないですか。 早 廃盤っていうか自動的になくなる。 猫 品切れになったらそのまま。 早 品切れになって、ある程度の数の注文が来なかったら再プレスしないっていうことで、廃盤ではないんですよ。 ア 生産中止? 早 生産中止でもなくて、品切れ状態。千とか500とかバックオーダー(注文)がないと、再プレスできないじゃないですか。5枚とかだと。そういうのができれば違うんでしょうけど。カタログには残っているけれども、注文してみるとない。メーカーにもなくて、営業所さんから戻ってくるのを待つとか。 ●予約をしよう
猫 メーカーに、そういうものが好きなディレクターがいるかどうかっていうのは大きいんですね。 早 大きいですよね。企画も通しやすいし。でも逆に好きな方だと数字も読めてしまうんで、ご自身の趣味に合わないものは通らないっていう弊害もあるんです。 ゆ レコード会社にみんなでハガキを出せば、会社も認識が変わるんじゃないですか。 早 絶対違います。 ゆ 嘆願書とか集めて出すとか。 早 効きますね。署名とか。 猫 こういうの出してくださいと。投書っていうのは、何通ぐらいあれば効果があるっていう線はあるんですか? 早 あんまり、バラバラにやるよりも、まとまった署名の方が強いですよね。バラで5通ぐらい来ても「申し合わせたのかなあ」と思われたりして。でも、日本全国から来れば違うんでしょうけど。 ア やっぱりメールとかじゃ駄目なんですかね。 早 まだまだ、その辺は遅れているから。 猫 署名が効くんだ。 早 署名は絶対効くと思います。 猫 あと、予約の数でプレス数が決まるとか。 早 予約というか、お店の注文の数。 烈 あ、まさに雑誌なんかと一緒ですね。 早 そう。それを見越してある程度プレスする。もちろん、今までの蓄積がありますから、これぐらい注文があったらこのぐらい余分に作っておけば大丈夫っていうのは、ある程度あるわけじゃないですか。大手量販店は注文なくても入れてくれますけれども。 烈 そうでないところは、一度出て、そのシリーズで売れなかったら、そのあとは注文しないという可能性もあるってことですね。 猫 地方のショップで各地から何枚っていう注文が入ってくるんで、潜在的購買数っていうのがこれぐらいあるだろうっていうんでプレスする。 早 みなさん、量販店に行けば買えると思っていて、量販店さんで買う人が多いんですけれども、それは市中在庫として、量販店さんに置いておいてほしいんですよ。というのは、なくなってしまうと、番組終わってから2年ぐらいして、あのCDほしいなあと思って行ってもない、ということになる。それは不幸なことなんで。だから、絶対ほしい人は、地元のショップに注文して確保してください、とお願いしたいんです。どうせ買うのであれば。で、量販店さんには市中在庫として置いておいてもらって、あとからほしくなった人がいつでも買えるような状態にしてほしい。 烈 われわれのような人が奪っていっちゃいけないんだ(笑)。 ア でも、会社帰りとか、そういうところにしか行けないものなあ。 烈 夜12時まで開いているのは大きな店しかない。 早 そうですね。 ア いや、都会の人はまだいいんですよ。ぼくはどうやってCD買ってるかっていうと、電車で3駅ぐらい乗らないと店に行けないんですよ。車でも15分くらいかかるところで。 早 そういう方はしようがないんですけれど、それでも予約してほしい。たとえば、大きいお店が3枚入れるところを、予約してくれたら、1枚上乗せになるかもしれないじゃないですか。 烈 予約っていうのは、かなりいいってことですね。 早 絶対してほしい。 ゆ 予約って簡単? ア 簡単ですよ。名前と電話番号書いて、これとっておいてくださいって言えば。 猫 店頭でこれこれっていえば。タイトルとメーカーがわかれば予約できる。 ア タイトルもメーカーもわかってなくても、番号さえわかっていれば絶対。 早 特にマイナーなものになると、問屋さんから、レコード屋さんに新譜の案内書が来て、レコード屋さんが、これ何枚、これ何枚って書いてFAX流すわけですよ。 ゆ 私、「山下毅雄の全貌 ミッション2」のとき、大変だったんですよ。"山下毅雄"だけで予約しに行ったら、山下毅雄で出てないんですよね。「ミッション2」でも出てないんですよ。あのCDって、実は「企画盤」って名前で載っていたらしいんです。(新譜案内を)1ページ1ページ全部探して探して、「絶対あるはずです」って探して、「企画盤」のところで、「ありました、これですね」って。お店の人もいい人でした(笑)。 早 そういうときは『CDジャーナル』を立ち読みする(笑)。 ゆ そこまでしなくちゃいけないって、普通の人にはめんどうじゃない? 早 まあ、山下毅雄さんのあのCDの場合は特殊な例ですけど、たとえば、猫さんのページとかで前もって品番とかを控えておけば。 ゆ それこそ、そういうことをするのは、一部の人じゃないですか? 烈 ここにいる人はそれができるけど、インターネットしていない人は。 猫 してない人は難しいけどね。 早 今話した情報とか、提言すら伝わってない(笑)。 猫 せめてこれを読んでくれている人は、新譜情報をプリントアウトして予約してくれれば。 ゆ たとえば雑誌の裏に出ている広告とかに番号って載ってます? 早 載ってますよ。載ってないとやっぱり注文できないから。一番いいのは、『CDジャーナル』を見ることですよ。『CDジャーナル』の新譜情報は、たとえば2ヶ月先のアニメ・コーナーとか見るだけでも、相当な情報源だから。 ア ぼくも『CDジャーナル』のホームページ最近見つけたんですけど、新譜情報ほんとすごいですよ。 早 ホームページよりも雑誌の方が一般的かな。どこの本屋さんにも置いてますから。あれが新譜の情報源としては、一番早くて量も多い。日本で発売されるほとんどすべての小売りされるCDが網羅されている。ぼくも便利に使わせていただいています。 ゆ どうせ買うなら予約をしましょうと。 烈 そういうことも知らなかったですからね。 早 絶対買うと決めてある人が予約をするだけでも相当伸びると思うんですけど。それが実績となって、企画が通りやすくなるんです。 (次のページへ)
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