●企画持ち込み
ゆ さっきの企画持ち込みの話なんですけど、早川さんみたいに職業にしている人じゃなくて、素人さんでレコード会社に企画を持ち込む人っていますか? 早 いますよ。でも、企画だけあっても、テープはどこにあるとか、情報がないじゃないですか。権利のこととかもある程度ご存知でないと。たとえばあんまりマイナーな作品を言われても、テープがなかったり権利がなかったりする。そういうのを熟知している方であれば、十分通るんじゃないでしょうか。 ア BGMも、最近の作品はレコード会社さんがBGM製作にもお金を出していますけど、昔の作品は、たとえば『アクマイザー3』のBGMなんかはそうではないんで、コロムビアじゃなくても出せますよね。 早 出せます。ただ、『アクマイザー3』っていう番組を商品化する権利は、たぶん東映さんがコロムビアさんに貸しているんですね。だから、『アクマイザー3』って謳うと駄目になるんですよ。 ア あ、そうなんですか。 早 だから、たとえば、「渡辺宙明 映画音楽全集その1」とかいう商品名にして、その中に『アクマイザー3』のBGMが入っているというのならいい。 ア ああ!なるほど。 早 それをジャケットのタイトルに謳ったりするとまずいんですよ。東映さんがコロムビアさんに、独占的に権利として貸しているんで。そうしないと、権利を保護できないじゃないですか。 ア 解説書では『アクマイザー3』っていう説明は書けるんですか? 早 もちろん『アクマイザー3』っていう単語が出てくるのは問題ないです。ただ、ロゴを使ったり、キャラクターを使ったりするのは抵触するかもしれません。 ●変わる商品形態
ア 今CSとかで、知られざる作品をたくさんやっているから、あれではじめて知る人って増えていると思いますよ。 ゆ CSは絶対すごいですね。 早 ただ気をつけないといけないのは、CSを見ている人は、まだまだごくごく限られた人、われわれと同じぐらいのマニアの人たちだってこと。 ア あ、やっぱりそういうもんなんですか。 猫 インターネットもまだまだ一部だね。 早 自分の周囲の環境が全世界に拡大していると思うと間違いなんです。 ア でも、どのくらい広いのか狭いのかわからないですよね。 ゆ 環境といえば。レコード会社のリサーチの仕方に疑問を持っています。CSのようなメディアの把握や、購買層の生活調査など、ちゃんとしているんでしょうか。私は、実をいうと全然CD買わないんですよ。なんで買わないかっていうと、聴くヒマがないから。本当に売りたいと思ったら、過去のセールスや、どういうジャンルが売れているかとかだけじゃなくて、主婦や働き盛りの男性といった、潜在購買層の人たちがどんな生活をしているかなんていうのも、リサーチしないと。そういう人たちにどう食い込んでいけばいいのかとか、そのためにどんな活動をすればいいのか、とかですよ。レコード会社は、もっとそこまで食い込んでいかないと。 早 直販できるといいですよね。ホームページから。 ゆ 主婦が気軽に買えるカタログショッピングなんかに載せるというのは。 早 メーカー直販できればね。それで特典が付くとか、安くなるとかメリットがあれば。でも、そうするとレコード屋さんの権益を守らなければいけないとかいうことになって、なかなか難しいですよ。 ゆ マニアの間とかレコード屋さんとかの間だけでバランスとってないで、もっとグローバルな世界でバランスをとらないと。猫さんぐらいの世代の人なんか、聴けば懐かしいなあ、好きだったんだ、っていう人多いと思うのだけど。お金もそれなりに持っている。CDショップに足を運ぶことすらしない人もいて、行って並んでいるのを見れば、きっと買っちゃうと思うんです。 猫 本と同じで聴かなくても買うっていう人もいると思うんですよ。あとは、そういう商品があるっていうアピールですね。 早 本屋とかレンタル屋とかくっついているTSUTAYAさんみたいなところにね。 ※TSUTAYA:レンタルビデオ、レンタルCD、販売のチェーン店。 猫 コンビニとかに置いてもらわないと。 ア デジキューブですよ、デジキューブ。 ※デジキューブ:コンビニでゲームソフトの販売をはじめた流通会社。最近はCDも売っている。ゲーム制作もしている。 早 ああいうところで「サンプラー」とか置いてもらうといいのかもしれないですね。 ア そうですよね。 ゆ だから、コロムビアなんかに単独で企画持っていく人は、そういう販売戦略とか、リサーチの仕方とか、抜本的なところも一緒に持っていく。 ア レコード屋さんは、自社流通を持とうとかいう発想ってないんですかね。 早 特約店契約っていうのがあって、たとえばコロムビアさんだったら、各地に日本コロムビアっていう看板を掲げた特約店っていうのがある。それは、流通に近いですよね。率先して仕入れてくれるお店みたいな。売れるものだけでなくて、マイナーな商品も入れてもらう代わりに看板を貸しているみたいな。そういうのはだんだん、崩れつつあるんですけど。 ゆ 音楽の自動販売機とか、形もどんどん変わっていくし。 ※音楽の自動販売機:好みの曲をMDに録音してくれる自動販売機。都内に試験的に置かれている。 早 どうなんでしょうねえ。やっぱり、パッケージのよさっていうのもありますからね。データだけもらってもありがたみないっていうか。 ア でも、シングルCDとか、主題歌とかは、あんなものでもいいと思いません? 早 確かに、歌はね。コレクション性の問題があって。 ア たとえば、水木一郎の5枚組でも、『少年探偵団』の挿入歌2曲だけほしいのに1万円払わなければいけないというのは、やっぱり悔しいものが…。 早 レコードの場合はね、かけていると音が劣化してきたりするんで、ベスト盤を自分で作る代わりに、新たにベスト盤という商品で聴く意味もあるんですけど。 烈 今、へたに劣化しないようになっちゃっているから。 早 CDは劣化しいなわけですから、音源ひとつあったら、あとは要らないという感覚に。 烈 なりますよねえ。われわれの世代はそういう感覚ですね。 ア ぼくらが音盤買いだしたのって、CDへの切り替わり時期ですから。そもそもアニメのレコード売っているっていうこと知らなかったよね。 烈 番組は大好きだったけど、LPの存在っていうのは気づかなかったですから。大きいお兄ちゃんが買っていたりとか。 早 一般ドラマの場合とか、確かにカップリングの歌はいらない、主題歌に使っている方、それがB面曲であったりするんですけど、それだけほしいとか、そういうことはあるかもしれませんね。その場合、付加価値がないと、データの方がよっぽどいいんですけど。 ゆ 1曲ずつ買えると、自分の好きなように並べ替えられる。 早 それは、今やデータで持っていれば、MDでもDATでもCD-Rでも、自分の好きなように加工して、ということができますからね。 ゆ 構成の意味なくなっちゃいますね。 早 構成の意味って、ほとんどないなあ、と。自己満足(笑)。あと、商品形態を整えるという意味ですか。Mナンバー順に並べるというのもいいんですけど、全曲入るならそれもありかなと思うけれども、まだ、構成した魅力っていうのもあるじゃないですか。 ア それはわかりますね。 ゆ 私なんか、その方がいいんですよ。1枚の作品として聴きたいから。一番いいと思われる流れをセレクトして構成してもらって、それで聴きたい。 ア でも、それ、人によりけりじゃないですか。これじゃだめだっていう人も出てくるかもしれないですけど、Mナンバー順っていうのは平等ですよ。 ゆ そこが構成者の個性が出るところですよね。 猫 (Mナンバー順って)普通の人は聴かないよ(笑)。 ア まあ、普通の人は(笑)。それは大いにうなずけますね。 烈 やっぱりね、CD世代なんですよ。だから、飛ばせるんですよね。最初っから飛ばす感覚がある。 ア そう。頭5秒でつかめなかったら、もうさよならみたいな。 烈 それのいい悪いはあるんですけれど。 ア それはやっぱり、「時間がない」というところにつながるんやね。 早 チャンネルを回していた世代と、リモコンで押す世代の違いっていうのがありますね(笑)。 烈 それはありますね。LPっていうのはでも、頭から聴かないといけないわけじゃないですか。 早 いや、そんなことないですよ(笑)。聴きたい曲は、そこに針を落とす。でも、頭からかけるのが、一番かけやすいようになっているんですよね。 烈 1から最後まで聴くという魅力もあるじゃないですか。 猫 LPっていう1個の商品でしょう。ジャケットも解説書も含めて、1個の商品と思ってぼくは買っているんですよ。 烈 そういう文化的な魅力もありますね。 猫 短篇集と同じで、流れがある。 早 同じどこの短篇集にも入っている名作でも、選んだ人と本のどこに置いていあるかという流れによって、絶対イメージが違うし。 猫 それで、その作品の意味付けも違ってくる。同じ作品が入っていても、この短篇集はいいけど、こっちのはだめとか。 早 それに、文字組みとか、版型とか、紙の質とか重さとかによって、全然違いますよ、同じ本読んでいても。特に翻訳ものだと、訳によって全然違うし。レコードもそういうところまで味わってもらえると、1枚1枚マスタリングも違うしね。 ゆ なんでしょう、(私たちは)レコード世代? 猫 アナログ世代(笑)。 早 それは一緒だと思います(笑)。 猫 デジタル世代になってくると、データで配信されたのを取り込んでという風になってくる。 ア そういうこと考えてしまいますね。 早 でも、LPの片面大体20分っていうのは、ちょっと聴くには非常にいい時間なんです。30分だと長い。ぼくは高校ぐらいのとき、学校に行く前にA面聴いて、帰って来てB面聴くっていうことをやってました。 ゆ 私も(笑)。 早 したくをしながら、A面を聴いて、学校行って帰ってきたら裏返しにする…。同じですね(笑)。で、その日のジャケット飾っておくんです。今日はこれで行こう、と。それは楽しかったなあ。 ●サントラ音盤の未来
早 でも、今後はデータ配信って絶対…。 猫 まあ、あるんでしょうね。そうなってくるんだろうなあ。 ゆ それを前提とした音盤作りをしていかなくちゃいけない。 猫 音盤で出すんじゃなくて、データで出しちゃうんだ。インデックスで。コンテンツだけ売るっていうか。 ア 逆にそれだと、知らない人は全然わからなくなってきてしまいますね。曲だけずらっと並んでいて、これは一体、なんの曲なんだ?と。そういうのが出てきますよね。 ゆ 解説とかもない ア ないんですね。歌詞カードしか出てこないですよね。作詞・作曲・編曲・歌。 猫 それが寂しいんだよねえ。 早 でも、そうなるでしょうねえ。 猫 でも、劇伴って解説ないと寂しいですよね。 ア いや、ぼくは、劇伴はたとえDVDオーディオの世界になっても、パッケージもので出してほしいと思いますけどね。その代わり、ぶ厚い解説書つけてもらって。 ゆ あと、書籍と音源とソフトとおもちゃと、一括して提携して出してほしいっていう話を、私が昔劇伴倶楽部に書いたんですけど。 ア メディア・ミックス展開ですね。 猫 『ゲッターロボ』の研究本なんかに音楽集CDが付いていると。 ゆ オプションで、おもちゃも買えて。 早 それが、選べればいいですよね。自分でトッピングできればいいんですけど。やっぱり、本はいらない、音楽だけほしい、という人もいっぱいいるんで。 ゆ 過去の作品の商品を出すときに、一気に出すんですよ。コンプリートの本と、コンプリートのCDと、コンプリートの映像と、コンプリートのおもちゃ。で、その中から、自分の好きなものだけ買える。オプション方式。 早 (メーカーの)横のつながりが大変ですね。 ゆ データ配信だとしても、解説は解説で、別個に作ってもらえたらいいですよね。オプションで、好きな音楽だけ取れるし、好きな人は、全部買って、解説書も買ってということができるし。 早 『ゲッターロボ』のF-2はダウンロードしていく奴が少ないんだよ、とか。そういう会話が交わされるようになったりして(笑)。 ア ダウンロード・ランキングとか出てきて。 猫 ランキングの高いのは、値段も高くなっていく。ブリッジとか安くなって(笑)。 早 たまらないですよねえ。ブリッジと普通の1曲ダウンロードするのと同じ値段だと。やっぱり、ブリッジはコレクションにして。グラム売りみたいに、時間売りっていうのはどうでしょうね。 猫 トータルで何分買ったらいくら。 ゆ 何分収録っていうMDがあって、その中に入るだけとか。 猫 それはありだよな、きっと。 早 それで、すべての有名作品の音楽が買えるんだったら、かなりおいしいですよね。メロオケだけほしい人もいるだろうし。 ア データ配信だったら、パッケージにするよりも手間がかからないですから、パッケージで出そうとしても出せない、陽の当たらない曲が出てくる可能性っていうのは、絶対高いですよね。 早 それでも、パッケージがほしいっていう人もいると思うんですよ。それはやっぱり高額商品で、それでしか買えない音源を入れるしかない(笑)。 ア あ、そうなりますかねえ。 猫 NGテイクとか。 早 そうですよね。NGテイクは、さすがに配信するのは気がひける。 ゆ 仮歌とか。 ア ほんとのNG、演奏ミスまで入れちゃうとか(笑)。 猫 未来の話になってきましたね。 早 それって、そう遠くないですよ。配信は始まってますから。 猫 でも、劇伴がそういう形になるかな。 ア それは、ないと思いますけど。 猫 商売になるかって話だからね。 早 製作会社さんが、自分でやるかもしれませんよ。円谷映像さんが、『仮面天使ロゼッタ』の音楽売りますとか(笑)。ホームページから。それはありうると思うんですけど。 (次のページへ)
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