ばびんの柩の部屋


「漆黒の海を往く」  第五回


登場人物  Curter  Tania  Elizabeth  Harry  Jeff  Megumi 


Elizabethの眼前には、死んだはずの、殺されたはずのTaniaが立っている。

E「なんで……い、生きていたの? ターニャ……」
T「ここまで来て、ようやくここまでこぎつけたのに、どうして! どうして見つけてしまったのよ! あたしは、あたしはもう死んだ人間だったはずなのに、これで生き返ってしまった」
E「一体、何を言っているの? それにあなたはなんで生きて…それに、それにカーターの遺体も無いわ…一体どこに?」
T「せっかく、せっかく、なんで、どこがいけなかったの、これで、これで、あたしは、粉々にはならなかった、ならなかったことに、なる、なるのね、こ、滑稽だわ、探偵、探偵なんか居なかったのに、推理小説みたいな探偵、古臭い格好をして、まるでまるで、舞台上に居るみたいに振舞う、あのあの探偵なんて居なかったのに、あたしは、失敗した…?」
E「ターニャ? あなた……まさか……」
T「あと、ちょっと、ちょっと、ほんのちょっとだったのに、ジェフがジェフがエリザベスとおんなじで、一日早く起きたから、それが…それがいけなかったんだ、エリザベスも、どうして、一日早く起きるの、かちんかちんに眠っていてくれれば、良かったのに、石像みたいに彫像みたいに氷像みたいに死体みたいに眠っていないなんて、ひどい」
E「あなたがやったのね!」
T「………………」
E「どうしてぇ、ひどすぎるじゃない、なんで、あんな、ひどいことをする必要があったのよ! それに、あの、あのあなたの死体は? いったいどうやって…………あ…………」

Elizabethはふと悟る。あの死体は、そう死体は。

E「あ、あ、あの遺体は、カーターの-------!!!」
T「ひどい、寝ててよ、目を覚まさないでよ、黒い夢の中に浸ったままでいてよ、そうそうそうそう、あの死体はカーターでしたのでした、うふふふ、粉々になりました」

Elizabethの全身はその事実と彼女にも分からない理由で激しく震える。

E「いやぁぁぁぁ! カーター!!!!」

Elizabethは突然おこりのようなタイミングで走り出す。Carterの元へ。

T「あ、あ、まってよ、いかないでぇ、いや、あたしもいくよ、まってってばぁ」

TaniaもElizabethの後をゆっくりついていく。

Taniaの部屋の中に、Elizabethは泣きながらはいっていき、粉々にされている、ターニャの身代わりのカーターの所へ寄る。タンクを開けようとする。しかし、開かない。カギが、かかっている。

E「カーター! カーター!! カータァ!!!」

叫びながら彼女はドンドンとタンクを叩く。
Taniaが入ってくる。

T「開かないわよ。だって、調べられたらいけないじゃない、ちゃんとカギをかけておいたの、でも、でも、あなた達ったら、調べようともしないんだもの、ひどい、ひどい、どうしてそのカーターみたいにおりこうさんに寝てないのですか、寝ていれば」
E「黙ってよ! カギを渡しなさいよ! カギを、早く!!」
T「カギ? カギって? ええ、カギね、ちょっと待ってくださいね、ポケットの中に入っているのです」

Taniaはカギを渡す。にっこりと笑いながら。
Elizabethはそれを受け取る。震える手で。そしてタンクを開けると彼女は粉々になったカーターを、抱き起こそうとする。しかし、上半身は下半身から離れて、ボロボロとタンクの中に落ちる。

E「……………い。やぁ…………」

Elizabethは泣きながらカーターを抱えたままTaniaを見る。
Taniaは言う。

T「いや、いや、そんな目であたしを見ないで、だからだから、知られたくなかったのに、そんな目で見られるのが嫌だから、身代わりを作ったのに、あたしは死んだのに、あなたの目があたしを蘇生させてしまった、だから嫌だったのに」
E「あなた……まさかそんな下らない目的で、カーターを利用したの。 彼はあなたに対してなにも酷いことなんかしてないじゃない!」
T「カーターは、カーターはあたしの薬を見てしまったもの、あの薬の名前を見てしまったもの、だからだから」
E「ちょっと、ちょっと待ちなさいよ! あなた言ってることが良く分からないわ。だから利用したの? カーターが薬を見てしまったから」
T「利用……?」
E「そうよ利用…………」

Elizabethは嫌な、無性に嫌な推測に囚われる。

E「あなた、ひょっとして……カーターを……」

Taniaの身体がびくりと震える。

E「こ、殺したのね!!! あなたが、カーターを! 事故に見せかけて! 後から自分の身代わりにするために!! なんてことを!!! なんてことを!!!」
T「く、薬よ、薬がいけないんだわ。だって、薬なくなっちゃうんだもん、薬なくなったらもうあたし生きていけないもん、死んじゃうんだもん、シャトルの中の薬も、もうないから、だからだから」
E「何言ってるのよ! 全く分からないわよ! なんで皆を殺さなきゃならなかったのよ!!」

Tania「だって、あたし一人で死ぬの、寂しいじゃん」

ひゅっと、Elizabethの喉が音を立てた。そんなの動機じゃない。

E「そんなの動機じゃない!!!」
T「動機、動機動機動機、ふふっ、ジェフ良いこと言ったわね。ジェフ言ってたじゃない動機なんて当てにならないって、彼そう言ってたじゃない、あたし寂しいんだもん、こんなところで一人で死にたくないんだ、だから、皆一緒ならきっと平気」
E「…………………」
T「でもね、あたし嫌いなのその目、あたし見られたくなかったのその目、軽蔑する目、憎悪する目、そんなやつだったのかっていう目、同情の目、可哀想な子という目」
E「だから、身代わりを作った-----。何年も時間を空けてから自分を殺したのは、殺されたように見せかけたのは、連続して事件が起こると皆が警戒するから? 顔だけじゃなくて上半身まで粉々にしたのは顔を粉々にしたと悟られないためね」
T「だってあたしが死んだらみんなあたしが殺した可能性なんて考えないよ探偵もいないからあたしはいろいろ考えて一生懸命努力して一緒に行こうと思っただけなのに」
E「努力!!! 一緒に行く? 冗談じゃないわ!! そのあなたの行くべき場所へは、あなた一人で行きなさい!!!」

Elizabethは猛獣のような瞬発力でTaniaに飛びかかった。

E「殺してやる! 殺してやる!」

TaniaとElizabethはもみ合う。二人は交互に机や壁や椅子やドアや窓に身体をぶつける。

E「そんな理由で、いいえ、どんな理由だって、カーターを殺すなんて…!!!」

タンクにぶつかったとき、彼女達の反対側にカーター、以前カーターであった者がごとりと音を立てて落ちる。
下半身を追うようににして上半身だった氷の欠片が次々と床に落ちる。
それを見てElizabethは半狂乱になる。

E「うわぁぁぁぁ!!!」
T「エリザベス!!! あたしと一緒に永遠に眠りましょう」

TaniaはElizabethを羽交い締めにする。
そのまま、すでに空になったタンクの中へとElizabethを押しこみ、自分も中に入る。

E「誰が、誰があなたなんかと!!」
T「エリザベス!!!」

Elizabethはふと手に触れた破片を掴む、そしておそらくはカーターの身体の一部である鋭利な刃物のようにとがったそれをそれとは知らずにTaniaの肩に突き刺す。

T「きゃぁぁ!!」

Elizabethはその隙をついてタンクの外に出ると、タンクの蓋を勢い良く閉める。
Taniaが中で何かを叫んでいるが、それには構わずにスリープのスイッチを入れる。
Taniaは表情を最悪の恐怖に凍らせたまま、自らの身体がスリープに入り、急速に凍っていくのを見つめて眠りにつく。

E「………………あなたはしてはならないことをしたのよ」

Elizabethはスリープを解除せずにタンクの蓋を今度は開ける。中ではTaniaが座ったまま恐怖のまま凍り付いている。
Elizabethは机のあるところまで行くと、床に倒れている椅子を持ち上げて、Taniaの所に戻ってくる。
彼女はそれを振り上げる。

E「永遠に、眠りなさい!!」



     第五回了


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     (注) この作品のエピローグは二つあります。どちらか一方をお読み下さい。


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