ばびんの柩の部屋
「漆黒の海を往く」 エピローグ1
登場人物 Curter Tania Elizabeth Harry Jeff Megumi
Elizabeth の日記、最後の年のページ(エピローグ)
Carterを殺したのが、Taniaだと分かったとき、私は完全に理性を失っていました。
彼女を許せないという気持ちと、それまで事故だと思いこんでいた私自身にひどい憎悪を覚えて、私は自分自身を制御できなくなってしまったのです。彼が死んでから私はずっと彼の分も生きてあげようと考えて、勤めて冷静に振舞うようにしてきたつもりでした。
それでも抑制できない感情の一部分が、時として表面に現れてしまうこともあって、他の人達に迷惑をかけてしまいました。彼らは私を許してくれるでしょうか? 結局のところスリープを選択した私の間違いだったのです。
私はTaniaを殺してしまいました。意図的にやった、と言っても差し支えないと、私は思っています。そして、私は、私が理性を失いながらしてしまった行為を、後悔してはいないのです。たとえそれが神の意志に反するあやまちであろうとも、私は、私自身の理性によって、その行為を受け入れることにしたのです。
私は今、この日記をタンクの中で記しています。この日記も風化してしまわないように、タンクの中で私と共に凍らせようと思っています。
私は最後残ったの食事を、ゆっくりとかみしめるようにして楽しみました。もう、わたしがTaniaを殺してしまってから、数年が経過していることには奇妙な印象を禁じ得ません。タンクの中では一年は常に一日と同じ長さしか持たないからです。
そして、今日こうしてあの事件に関して記すことは、おそらくその時間の長さというものには全く関係のないものでしょう。一年でも一日でも結局のところ刻み付けられた傷は痛みをなくしても、跡を消し去ることはないということを私は知りました。しかし、私は自分がなぜこの日記を記す気になったのかについては、有効な答えを呈示できそうもないのです。ただその契機となったものが、食料の不足と、それを原因とした自分自身の永久冷凍への覚悟だということは分かっています。
この日記は私が発見されない場合は誰にも読まれることはないでしょう。そして、私が目覚めたときにもこの日記は誰にも読まれないでしょう。なぜなら私自身がこの日記を破棄するからです。そして唯一の例外は、燃料が無くなったあとでこのシャトルが発見され、この日記が持ち出されたときのみ、この日記は誰かの手によってめくられるということです。もちろん、そのときは燃料切れによってこのタンクはその機能を失い、私もまた自らの命を失っていることは想像に難くありません。
最後に私は自分の部屋の唯一の窓から、宇宙を眺めてみました。そこには闇と共に光を放つ星々がありました。光と闇は常に一体なのだと、私には感じられました。しかし、これから私が旅立つ先は、決して光のない闇の世界なのです。そして私は、今から私自身の運命と希望を掛けて、その漆黒の海を往くのです……。
Elizabeth
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