劇伴倶楽部座談会 第2弾

音符から世界が聞こえる

〜アニメ・特撮音楽に影響を与えた世界の音楽たち〜

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マカロニ時代劇も聴いてみる

R3 古い時代劇でマカロニ風っていうのはないんですか。
昔のではほとんどないですけど、「天を斬る」なんかはマカロニっぽいですね。
テレビ時代劇の音楽は、渡辺岳夫ががらっと変えてしまったんですよ。その前の音は、昔の時代劇映画の鏡獅子みないな音楽だったって言われてますけど、渡辺岳夫は、いわゆるドラマの音楽の付け方をしたんですね。
春日八郎「新選組の旗はゆく」(渡辺岳夫)
これは「新選組血風録」。春日八郎の歌で、まだ演歌っぽいですけど。
R3 軍歌系ですね。
このあと銭型平次が始まってます。
フォー・コインズ「おとこ独り」(渡辺岳夫)
「俺は用心棒」の主題歌です。これはすごいモダンな主題歌なんです。とても時代劇とは思えない。ちょっとマカロニっぽいですね。
栗塚旭ほか「天を斬る」(渡辺岳夫/松山茂)
「天を斬る」主題歌。これも、一連の渡辺岳夫・栗塚旭ものの一本です。
R3 フルートのピルルルルッていうのが、完全にマカロニですね。ギターのカッティングも。
あとは佐藤勝の「三匹の侍」。
「三匹の侍」(佐藤勝)
R3 マカロニっぽいのに尺八を組み合わせたっていうのは、すごい発明ですよね。
時代劇でいうと、「斬り抜ける」っていう近藤正臣主演の時代劇があるんですけど、その主題歌がマカロニそっくりなんですよ。
R3 知らないです。
CD化されてないんで、なかなか聴く機会がないんですけど。
「斬り抜ける(インスト)」(鈴木淳/京健輔)
このB面のトランペットは「荒野の用心棒」そっくり。これはきっと狙ったんでしょう。作曲の鈴木淳は、ほかにも時代劇の主題歌を書いてます。
ザ・ブレッスン・フォー「この愛に生きて」(鈴木淳/京健輔)
これが主題歌ですね。
R3 ちょっとコーラス・ミュージックが入ってる。カッコいい!
これは「必殺」に始まるマカロニ時代劇主題歌の傑作のひとつですよ。
R3 編曲の京健輔って「ズバット」の人ですね。
「ズバット」もマカロニ入ってますね。あとは「レッドビッキーズ」とか「ダイナマン」「燃えろアタック」の音楽を書いてます。演歌のアレンジの第一人者ですよ。
R3 これはカッコいいなあ。
でも、このモトネタと思われるマカロニの曲があるんですよ。
「皆殺し無頼(JOHNNY YUMA)('66・伊映画)」(ノーラ・オルランディ)
フレーズだけじゃなくって、構成もそっくりです。ゆっくり始まって、だんだん盛り上がって、またゆっくりになる。
R3 あ、ほんとだ。

マカロニ風時代劇主題歌
  • 1967「俺は用心棒」から「おとこ独り」(渡辺岳夫)
  • 1969「天を斬る」(渡辺岳夫/松山茂)
  • 1972「必殺仕掛人」から「荒野の果てに」(平尾昌晃/竜崎孝路)
  • 1973「木曾街道いそぎ旅」から「遥かなる旅人」(橋場清)
  • 1973「助け人走る」から「望郷の旅」(平尾昌晃/竜崎孝路)
  • 1974「斬り抜ける」から「この愛に生きて」(鈴木淳/京健輔)

「ローハイド」と「デンジマン」

R3 「ローハイド(1959-65・米TV)」はアメリカだからマカロニではないですよね。でも、あれもマカロニっぽいですね。
ウエスタンよりはマカロニよりですね。
R3 ウエスタンの音楽ってもっと騎兵隊音楽っていうか、軍楽隊的ですね。
ディミトリ・ティオムキンとか、「荒野の七人('60)」(エルマー・バーンスタイン)の音です。
R3 「ローハイド」って「デンジマン(1980)」に似てるんですよ。
「電子戦隊デンジマン」(渡辺宙明)
フランキー・レイン「ローハイド」(ディミトリ・ティオムキン)
あ、そういえば。スゴく似てますね。頭のフレーズとか。
R3 ジャンジャカ ジャンジャカっていうリズムとか、男性コーラスの感じなんかそっくりですね。途中で3度上がるところも。
(ローハイドをバックにデンジマンを歌い始める)
やっぱり似てた(笑)。

大野雄二のフュージョン・サウンド

R3 大野雄二系のフュージョンもののモトネタっぽいのがいくつかあるんです。
これは「Coffy」。73年のブラックムービーですけど。タランティーノの近作「ジャッキー・ブラウン('97・米)」のモトネタ映画みたいなもんですね。主演女優も同じ(笑)。最近、「ジャッキー・ブラウン」のおかげでサントラ盤がやっとCD化されたんです。
「Coffy('73・米映画)」サウンドトラック盤(ロイ・エアーズ)
R3 さっきのブラスロックの時に触れた「バンド編成+ブラス+ストリングス」のサウンドを、さらに洗練させた音が、こういうブラック・ムービーのサントラの音ですね。クィンシー・ジョーンズとか、アイザック・ヘイズとか。白人には出せない音(笑)。わたしが個人的に大好きなボブ佐久間は、この領域まで踏み込んでると思ってます。
大野雄二の場合、特定の人というより、この時期の、こういうブラックムービのサントラや、フュージョン系のサウンドをすごくうまくこなしているんで、これというのはないんですけど。でも、こういうサントラの、サスペンス系の劇伴は非常に大野雄二っぽいですよ。
このロイ・エアーズはビブラフォンの奏者なんですよ。こういう、フルートとビブラフォンが同じメロディを奏でるのを大野雄二はよくやりますよね。あと、ゲイリー・マクファーランドという、ややマイナーながらすごくいいビブラフォン奏者がいますけど、大野雄二の落ちつき系の劇伴は、それ似た感じがしますね。
なんとなくわかります。
R3 あと、ラロ・シフリンって、「燃えよドラゴン」とか「スパイ大作戦」みたいな、ブラスの強烈な劇伴のイメージが先に立ちますけど、本来、ジャズ・ピアニストで。ラロ・シフリンが小編成でやってるフュージョンものなんかは、大野雄二っぽいですね。
あ、ラロ・シフリン。「外科医ギャノン」や「スタスキー&ハッチ」なんかのアメリカTVドラマでカッコいい曲を書いてますね。「ブリット('68・米)」のサントラもピアノを隠し味に使ってました。
R3 あとは、エリック・ゲイル、ボブ・ジェイムス、クルセイダース、スタッフなんかのアメリカの同時代のフュージョン、それからスティーリー・ダンなんかのスタジオ指向のロックは、大野雄二の耳にすべて吸収されてるといっても過言ではないでしょう(笑)。もうこのヘンは、当時スタジオ指向でバンドやっていた人は、必ず影響を受けているはず。大野克夫も井上堯之も。
大野克夫の「太陽にほえろ!」なんかはフュージョンとは言わないんですか。もっと古いですね。
R3 どこまでをフュージョンと言うかによっちゃいますけど。井上堯之や大野克夫はスパイダース→PYG→井上堯之バンドと経るにしたがって、プレイヤー指向がどんどん強くなって、演奏もどんどんタイトになってくる。あの感じは、「フュージョン」って言葉が定着する以前の、「ジャズ・ファンク」「クロス・オーヴァー」なんて言われてた頃のニュアンスに近いですね。タイトで手堅いプレイが信条。「男たちの旅路」当時の、ごく初期のゴダイゴも同じ感じですね。井上・大野コンビの場合、さらにギターが強くて、よりロック寄りです。
あ、ロックか。たしかにフュージョンっていうには、おしゃれな感じがしない。
R3 もちろん大野雄二も、角川の一連の映画劇伴なんかでは、こういう「タイトで手堅いプレイ」のほうが強いですけど、アニメとなると、もう少し後の「フュージョン」の「さわやかなサウンド」ってほうのニュアンスが強くなって、よりコマーシャルな感じですね。シンセの導入がそのイメージを強くしてると思いますけど。
そういう意味では、ほんとうに「フュージョンっぽい」主題歌は、ありそうであんまりないかもしれない。もちろん「ルパン三世(新)」の一連の曲はそうですよね。あと、大野雄二だと、「キャプテンフューチャー」や「スペースコブラ」。とにかくサウンドのクオリティがすさまじく高い。
「スペースコブラ」の主題歌って、のたうちまわるような名曲ですけど、劇伴は羽田健太郎なんですよ。だから、だいぶあっさりしたサウンドになってました。カラー版の「鉄腕アトム」はどうですか。
R3 あれもフュージョンものですね。三枝成章が音楽を担当して、難波弘之や向谷実(カシオペア)、野呂一生(カシオペア)なんかを起用してます。これ、今すごくレアでなかなか聴けないですけど。

フュージョン系主題歌(曲)
  • 1977「ルパン三世(新)」(大野雄二)
  • 1978「キャプテンフューチャー」から「夢の舟乗り」(大野雄二)
  • 1980「鉄腕アトム(新)」(高井達雄/三枝成章)
  • 1982「スペースコブラ」から「シークレット・デザイア」(大野雄二)

トロバヨーリの誘惑

R3 アルマンド・トロバヨーリなんかの、イタリア、フランス映画サントラの音が、日本のポピュラーにすごい影響を与えてるんですよ。
「家族のきずな('69・伊映画)」から「F.M.Bシェイク(F.M.B.Shake)」(アルマンド・トロバヨーリ)
R3 これは「ひみつのアッコちゃん(1969)」の「すきすきソング」(小林亜星)に似てるやつです。さっき話した「危険がいっぱいのテーマ」となんかのファンキーなジャズに似たテイスト。コード進行がブルースなんで、なお似てます。「すきすきソング」の方が速いですけど。
「ああ情熱('73・伊映画)」から「センセーション(Sensaziona)」(アルマンド・トロバヨーリ)
R3 これが「さらば宇宙戦艦ヤマト(1978)」の「永遠の愛」(宮川泰)そっくりのメロディが出てくるやつ。
ああ、似てますね。似てるけど、たまたま似た気もするなあ。うーん、これはわからないなあ。
R3 トロバヨーリの「セッソ・マット('73・伊)」や「黄金の七人('65・伊)」なんかはフリッパーズ・ギターがネタにしてるんですよ。ぼくはトロバヨーリは、そっちから知ったようなもので。
トロバヨーリは、聴いたら必ずマネしたくなりそうですね。マネするなというのがムリというか。
「黄金の七人」はテレビの吹き替え版でやったのを中学生のときに見て、音楽が気に入ってたんですよ。
R3 そういえば、以前掲示板で話した、「ガンバの冒険」で、山下毅雄が参考にしたんじゃないか、と言ってた仏映画のサントラなんですけど…。
フランソワ・ド・ルーベの「冒険者たち」ですね。
R3 あたり!。さすがは猫さん(笑)。「ガンバの冒険」って、原作の児童文学のタイトルが「冒険者たち」ですからね。ひょっとして、山下毅雄が参考にしたんじゃないかなぁ、そうだったら面白いなぁと、まぁ勝手に勘ぐってるだけなんですけど。
「冒険者たち('67・仏映画)」から「冒険者たちのテーマ〜海底への埋葬」(フランソワ・ド・ルーベ)
R3 う〜ん、まぁ、「口笛」っていうとこだけですかね。似てるのは(苦笑)。ただ、山下毅雄の三種の神器「口笛・スキャット・太鼓」ってのは、明らかにイタリア、フランス映画サントラの音のものでしょうね。
この「冒険者たち」も、口笛・スキャットとそろってるんで、モリコーネっぽい音に聞こえますね。
あと、つねづね思ってるのは、イタリアのカンツォーネなんかの哀愁のあるメロディが、日本人の好みにピッタリくる。それで、イタリア・サントラの影響を受けた日本の作曲家も多いんじゃないかなと。

バカラックの影響

作曲家の話になりますけど、バカラックの影響って大きいですよね。
R3 大きいと思います。でも、アニソン・特ソンでは明らかに似ているってものはないんですよね。大野雄二も、バカラックの影響は絶大だって言ってますけど。
筒美京平がバカラックに影響を受けてるんですね。
R3 バカラックといえば、「奥さまは18歳(1970)」がバカラックそっくりなんですよ。あれは岡崎友紀の事務所の社長が作曲したそうですけど。
岡崎友紀「奥さまは18歳」(中州口一)
ディオンヌ・ワーウィック「I'll never fallin' love again」(バート・バカラック)
あ、そっくりですね。
R3 イントロと頭のメロがおんなじなんです。ぼく「奥さまは18歳」の歌はまったく知らないで、CD「懐かしのテレビ探偵団」ではじめて聴いたんですけど、吹き出しちゃいましたよ。
管楽器の甘い使い方、トロンボーンとホルンで、ペットメインじゃなくって、ホッ・ヘッっていう感じの使い方をバカラック風ってみんな言ってたそうですけど。バカラックやハーブ・アルパートなんかの、ジャズ、フォーク、ロック、ラテン、ブラジルなんかを、すさまじくセンスの良くミックスしていく姿勢は、結構、日本の歌謡曲とも通じますね。だから、日本でも、そういうソフトロック風歌謡が一斉に生まれたみたいだし。
有名な話ですけど、「木枯らし紋次郎(1972)」(小室等)の主題歌がバカラックにインスパイアされたって、小室等本人が言ってますね。できた曲は似てないんだけど、「雨にぬれても」なんだそうです。
R3 ただ、アニメや特撮はいかんせん、そういう大人ムードな曲とは、ちょっと合わない。こういう曲調の、数少ない特殊な例が、「マイティ・ジャック('68)」の挿入歌「MJの歌」(冨田勲)ですね。しびれるほどかっこいい音。
あれは、男性コーラスがムード満点の大人の歌でしたねえ。アレンジのミュートしたトランペットの音がまたかっこよくて。
R3 私は、これ聴いて「冨田勲はやっぱり天才か?」って思いましたよ。

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