劇伴倶楽部座談会 第2弾

音符から世界が聞こえる

〜アニメ・特撮音楽に影響を与えた世界の音楽たち〜

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ジャングル・サウンドにハマる

R3 「ジャングル大帝」や「狼少年ケン」みたいなジャングル・サウンドがあるでしょう。あれはどこから来るんだろうと考えてるんです。
50年代のアメリカでエキゾチック・ミュージックっていうのが非常にはやって、レス・バクスターとマーティン・デニーという2人がその大家なんです。マーティン・デニーは、細野晴臣がYMOを構想したときの基本になった人なんで、名が知れてるんですけど。本家はレス・バクスターですね。
エキゾチック・ミュージックっていうのは、50年代に大はやりした音楽で、ロックンロールの前、プレスリーなんかの前は、アメリカの家庭でこういう音楽を聴いていたんだそうですよ。
レス・バクスター「Quiet Village」
「タブー」もエキゾチック・ミュージックだったんですね。カトちゃんの「ちょっとだけよ」で有名な。
R3 このサウンドの作り方自体がサントラっぽいですよね。状況音楽っぽい。サントラより厚いオーケストラでパーカッションを充実させてます。
これハマりますね。
R3 日曜日とか、かけっぱなしになりますよ。でも、入ってる国のイメージがめちゃくちゃですよね。「ジャングル」「香港」「オアシス」「タヒチ」「コンゴ」。要するに西洋圏以外は全部こういうところだと思ってたんでしょうね(笑)。
オーケストラでこういう暗黒大陸みたいなムードっていうのは、レス・バクスターがもとじゃないんですかね。
マーティン・デニーはもっと東洋よりで、アジア風味が入ってます。音頭まで出てきますし。

60年代劇伴はジャズで決まり

いよいよジャズですね。
R3 ジャズものというと、まずは宇野誠一郎ですかね。ジャズっていっても範囲が広いけど、宇野誠一郎のジャズは、40年代のグレンミラーとかベニーグッドマンとかのビッグバンド系のジャズですね。「W3」がそれっぽい。その流れで舞台音楽風、ミュージカル風の音楽をやるんだと思うんです。「悟空の大冒険」とか「ネコジャラシの11人」とか。
ジャズっていうと「妖怪人間ベム」が浮かぶんですけど。
R3 あれはもっと後のモダンジャズのニオイがしますね。ぼくより4,5歳上の人に聞くと、あれがはじめてテレビに出たときは、とても子ども番組の歌とは思えなかったそうですね。タイトルバックにものすごいいやらしいサックスの音が入るじゃないですか。プルルゥプルルゥウウゥ〜っていう。サム・テイラーっていう、モダン・ジャズのメインストリームから外れて、「ハーレムノクターン」とか、ひたすらムードなサックス吹く人がいますが、ベムのいやらしいテイストのサックスは、もろにそれ。「キャバレー・サックス」ですね(笑)。
主題歌じゃなくって劇伴がジャズっていうのは、めちゃめちゃ多いですよ。小林亜星とか。一時期は、テレビの劇伴はみんなジャズだったといってもいいし。
R3 昔は洋楽をみんなジャズって呼んでたそうだし。
ぼくが印象深いのは宮内國郎。「ウルトラQ」「ウルトラマン」の劇伴ってジャズですよね。あれはたぶん、海外テレビドラマの劇伴に影響を受けてる。あの頃の海外テレビドラマの劇伴がジャズ。ヘンリー・マンシーニとかジェリー・ゴールドスミスが書いてます。いまだにアメリカの刑事ドラマの音楽なんかはジャズっぽいですけどね。
R3 「ウルトラQ」のテーマは「ピーターガン(1958-61・米TV)」(ヘンリー・マンシーニ)ですよね。あの固いギターの音といい。
似てますね。
そういえばスタジオ・ミュージシャンっていうのは、ジャズやってる人が多かったんじゃないですか。
R3 そうでしょうね。譜面見て対応するっていう能力と、劇伴みたいにアドリブの能力が問われるってなると、ジャズやってる人じゃないと。山下毅雄みたいに、テーマだけ決めて、あとはミュージシャンにやらす、自ら「プレイヤー指向」って明言してますし。大野雄二もそういう話をしてましたよね。一流のミュージシャンを集めて、スタジオで作っていく。
いわゆるジャズ風の主題歌っていうとなかなかないですけど、劇伴っていうとほんとに多い。
いまのテレビアニメの音楽は、かえってジャズ風の音楽はないですね。
R3 バンドをそろえてジャズをやるっていうのは、予算的にできないし、オーケストラだとなおそうだし。
作り方が打ち込み中心で、一発録りとかしないですから。
R3 劇伴の編成の歴史って極大から極小へ、音楽にたずさわる人を減らしていく歴史になりますよね。オーケストラから始まって、小編成のジャズ・バンド、それから、エレキ楽器中心のバンドスタイルになって、最終的には「ひとりと機械」になるっていう。
いまは両極端なんですよ。レコード会社とのタイアップでフルオーケストラで録るか、打ち込みですませるか。「名探偵コナン」みたいなバンドスタイルは、ほんと貴重ですね。

ジャズ風主題歌
  • 1965「W3」(宇野誠一郎)
  • 1968「妖怪人間ベム」(田中正史)
  • 1970「チビラくん」(渋谷毅)

劇伴がジャズ

  • 1966「ウルトラQ」(宮内國郎)
  • 1966「ウルトラマン」(宮内國郎)
  • 1966「悪魔くん」(山下毅雄)
  • 1967「ジャイアントロボ」(山下毅雄)
  • 1968「怪奇大作戦」(玉木宏樹)
  • 1971「ルパン三世」(山下毅雄)
  • 1971「シルバー仮面」(日暮雅信)
  • 1972「海のトリトン」(鈴木宏昌)
  • 1973「ウルトラマンタロウ」(日暮雅信)

「カウボーイ・ビバップ」を聴く

「カウボーイ・ビバップ」っていうのは、その辺の昔のジャズ劇伴の感じを狙ってるんですかね。
R3 実はちゃんと聴いてないんです。
ぼくもまだ聴いてないんですよ。こないだ中古で見つけてきたんですけど。
R3 このサントラ、バカ売れしてるそうじゃないですか。このジャケットのデザインはブルーノートのアルバムのパクリですね。
菅野よう子さんは「マクロスプラス」で注目されたんですけど、あれは全然ジャズじゃないんです。イスラエルのオケで録音したんですけど、ブルガリアン・ボイスみたいなコーラスを使ってましたね。
「カウボーイ・ビバップ」から「TANK!」
あ、こういう音は、ぼくは懐かしいですね。60年代の海外テレビドラマなんかの音ですよね。
「カウボーイ・ビバップ」から「SPACE LION」
これは「ブレードランナーのブルース」(ヴァンゲリス)にそっくりだなあ。
「カウボーイ・ビバップ」から「TOO GOOD TOO BAD」
R3これなんか007ですね。ジョン・バリー。
パンチの効いたブラスで。
R3 このアルバムにも参加してる村田陽一って人がやってる「ソリッド・ブラス」っていうバンドがありますが、その音そのものですね。こういう編成のブラスバンドだけで全部やるっていうのは、大本にダーティ・ダズン・ブラスバンドっていうバンドがいるんですけど、この曲なんか、それにそっくりですね。ベースもいなくて、チューバでやっちゃうんです。
でも、これだけ、かなり南の方のジャズを取り入れているっていうのは、そうないですよね。やっぱりラロ・シフリンとか、ジョン・バリーとかの音ですよね。
ジミー・スミス「危険がいっぱいのテーマ」(ラロ・シフリン)
R3 これなんかTANK!にそっくりですよ。
オルガンがカッコいいでしょう。編曲ラロ・シフリンなんで、こういう音になってしまうんです。60.70年代のフランスやイタリアのサントラには、この手のファンキーなジャズものが多いですね。ミケランジェロ・アントニオーニの「欲望('66・英映画)」とか、この「危険がいっぱい('64・仏映画)」とか。DJやリミキサーの格好のネタになってます。
知らないで聴いたら区別つかないですね。こっそりまぎれこませておいても。

ファンクとブラスロック

R3 こういうジャズファンク風のものでいうと、隠れジャズファンクなのが「クムクム」。さっき出た「ドロロンえんまくん」のエンディングなんかもそれっぽいですね。
ほほう。
R3 「アパッチ野球軍」は黒いですよね。アニメ自体が黒いですけど(笑)。あとは、「ガッチャマン」と「みなしごハッチ」は、ドラムパターンがファンクです。あと、ファンクくさいのが「10-4・10-10」。
「10-4・10-10」もそうですか。
R3 ええ。それに極めつけはレインボーマンの「死ね死ね団のテーマ」。演奏がメチャクチャ前ノリで、歌とどんどんズレていっちゃうほど、ノリノリです(笑)。
「死ね 死ね 死ね死ね〜」ひどい歌ですよね(笑)。子どもにあんなの歌わせていいのかな。
R3 それから「おんぶおばけ」と「新オバケのQ太郎」。この2曲は、アニソン史上に輝く極上のブラスロックですね(笑)。

ジャズファンク・ブラスロック風主題歌・挿入歌
  • 1970「みなしごハッチ」(越部信義)
  • 1972「おんぶおばけ」(三保敬太郎)
  • 1971「アパッチ野球軍」(服部公一)
  • 1971「新オバケのQ太郎」(山本直純)
  • 1972「科学忍者隊ガッチャマン」(小林亜星/ボブ佐久間)
  • 1972「愛の戦士レインボーマン」から「死ね死ね団のテーマ(北原じゅん/池田孝春)
  • 1972「緊急指令10-4・10-10」(渡辺岳夫/松山祐士)
  • 1973「ドロロンえん魔くん」から「妖怪にご用心」(小林亜星/小杉任三)
  • 1975「クムクム」(すぎやまこういち)
ファンクとブラスロックっていうのは?
R3 ほとんど区別する意味ないんですけど、白人のバンドがやっていたのをブラスロックっていってたみたいです。で、黒人が主体だとファンク、もっと昔だとアフロ・ロックっていってたそうですけど。
「力石のテーマ」なんかもその類ですね。熱い感じですよね。ピアノがブルースで。
ああ。
R3 それと、特撮ヒーローやロボットアニメのイケイケの曲は、ほとんどブラスロック+ストリングスっていう編成から生まれてる感じですね。菊池俊輔の「ゲッターロボ」「キャシャーン」とか渡辺宙明の「キカイダー」、ボブ佐久間系とか、あと三沢郷の「流星人間ゾーン」。
しかし、それぞれ全部違いますよね。
R3 そうなんです。曲調は、見事な「アニソン」独自なものです(笑)。だから、曲調というよりも「サウンド」として影響が大きいって感じでしょうか。だから、いちがいには言えないんですけど。
チェイス「Open Up Wide」(アルバム「追跡」より)
R3 これは、チェイスっていうバンドなんですけど、キカイダーの劇伴を書くときに、渡辺宙明氏が参考にしたのがこれだっていうんですよね。ブラスロックのバンドで、白人だけでやっているバンドです。リーダーがビル・チェイスって名前で。
ただ、はっきりと似ている曲はないんですよ。やっぱり、曲というよりも、編成を参考にしたって感じで。
ああ、「キカイダー」ってこういうサウンドですね。
R3 主題歌にはあまり出てこないですけど、劇伴にはこういう感じのは、どこにでも、いっぱいあるって感じですね。このタイプのもうちょっとジャズよりになるのが、例の「アメリカ横断ウルトラクイズ」の、メイナード・ファガーソンなんです。
チェイスは「黒い炎」って曲が有名なんですけど、和田アキ子がカバーしてて、そのカバーの方が、オリジナルよりカッコいい(笑)。
Tower of Power「Only So Much Oil In The Ground」(アルバム「Urban Renewal」)
R3 これは、タワー・オブ・パワーの「Only So Much Oil In The Ground」っていう曲。ブラスロックというと、他に、アベレージ・ホワイトバンド。いずれも白人中心のバンド。
ボブ佐久間のアレンジ感っていうのは、こういうところから来てると思います。

ブラスロック風主題歌
  • 1970「あしたのジョー」から「力石のテーマ」(八木正生)
  • 1972「新造人間キカイダー」(渡辺宙明)
  • 1972「マジンガーZ」(渡辺宙明)
  • 1972「超人バロム1」(菊池俊輔)
  • 1973「新造人間キャシャーン」(菊池俊輔)
  • 1973「キカイダー01」(渡辺宙明)
  • 1973「流星人間ゾーン」(三沢郷)
  • 1974「ゲッターロボ」(菊池俊輔)
ほかロボットもの、アクションヒーローもの多数

マカロニ・ウエスタンの果てしない荒野

R3 たとえばアイアンキングのエンディング「ひとり旅」なんかモロにマカロニ・ウエスタンですね。「サスケ」も裏テーマ的に入っていると思います。ギターのカッティングが。
わかりやすいのが「タイガーマスク」。「バビル2世」も裏に入ってるんじゃないかな。
あと「快傑ライオン丸」。やっぱり時代劇ものっていうのは合いやすいんでしょうね。世界観的に。「変身忍者 嵐」「魔人ハンター ミツルギ」。「ライオン丸」って幌馬車まで登場してますね。
「風雲ライオン丸」の方。あの番組は、めちゃくちゃやってましたね。怪人がガトリング銃とか持って出てくる(笑)。
R3 あとは「海のトリトン」。
「荒野の少年イサム」もまるっきりウエスタンです。かなり歌謡曲風にアレンジしてますけど。いちばん音的に似ているのは「佐武と市」。
「星空の用心棒('67・伊映画)」(アルマンド・トロバヨーリ)
これは「星空の用心棒」ですけど、頭6小節くらいが「トリトン」。でも、これはたまたま似たんじゃないかと思います。
R3 菊池さんの西部劇っぽいのは、主題歌より劇伴に顕著に出てきますね。
「荒野の用心棒('64・伊映画)」から「反抗(LA RAZIONE)」(エンニオ・モリコーネ)
R3 これはモリコーネの「荒野の用心棒」の中の曲ですけど、「タイガーマスク」のBGMやサスペンス、潜入シーンの曲にそっくり。ベースがエレキベースなんで、すごく菊池っぽいんです。これにオルガンが入るとさらに菊池っぽいですよ。「侍ジャイアンツ」のBGMなんかもこういうサウンドですね。

マカロニ風主題歌
  • 1968「サスケ」(田中正史)
  • 1968「佐武と市捕物控」(山下毅雄)
  • 1969「タイガーマスク」(菊池俊輔)
  • 1972「海のトリトン」(鈴木宏昌)
  • 1972「快傑ライオン丸」(小林亜星/筒井広志)
  • 1972「変身忍者 嵐」(菊池俊輔)
  • 1972「アイアンキング」から「ひとり旅」(菊池俊輔)
  • 1973「風雲ライオン丸」から「行け友よライオン丸よ」(筒井広志)
  • 1973「バビル2世」(菊池俊輔)
  • 1973「魔人ハンター ミツルギ」(水上勉)
  • 1973「荒野の少年イサム」(渡辺岳夫)

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