海のトリトン

歌曲解説

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「海のトリトン」の歌

「海のトリトン」のために作られた歌曲は全4曲。
本編劇伴担当の鈴木宏昌が作曲した歌は主題歌「海のトリトン(Go!Go!トリトン)」1曲だけである。
ほかの曲は、南こうせつ(当時・高節)がEDを含む2曲、松山祐士が1曲を作曲している。
どのような経緯で、こうした分担体制がとられたかはわかっていない。

レコードは、秀夕樹の歌う「海のトリトン」と広川あけみの「ピピのうた」のカップリングがコロムビアから、須藤リカの歌う「海のトリトン」「海のファンタジー」のカップリングがクラウンから発売された。


解説
※注:以下の記述は音楽的に正しくない場合があります。また、楽器の名前がまちがっている可能性もあります。これはおかしい、と思った方はご一報ください。

主題歌

・海のトリトン(OP2,ED1)
マカロニウエスタン風の主題歌。ホルンとトランペットのケレン味たっぷりのイントロに続き、ギターのカッティングが印象的な伴奏〜ヒデ夕樹のボーカル〜間奏はギターとベースだけでシンプルに〜ケレン味たっぷりの後奏。「カッコいいアニメソングとはこういう曲」というお手本のような名曲。
もともと主題歌として作られたが、歌につけるオープニングフィルムが間に合わなかったため、初回放映では第6話まで、須藤リカとかぐや姫の歌う「海のトリトン」がオープニングとして流され、本曲はエンディング(フィルムは止め絵)に流されていた。
放映初期のクレジットでは「Go!Go!トリトン」というタイトルだったが、オープニングが入れ替わる際に「海のトリトン」とタイトル変更。したがって、「トリトン」には「海のトリトン」という歌が2つある。しかし、今でもこの歌を「Go!Go!トリトン」と呼ぶファンは多い。サビの歌詞のイメージが強いためだろう(いや須藤リカの歌のイメージが強いためだ(笑))。JASRACへの登録では、「Go!Go!トリトン」は副題として残っている。

この歌はヒデ夕樹の主題歌デビューの1本(同じヒデ夕樹主題歌の「快傑ライオン丸」と放映開始が同時)である。ヒデ夕樹のアニソン・デビューは「あしたのジョー('71-'72)」のED「力石徹のテーマ」。このあと、「人造人間キカイダー('72)」「イナズマンF('74)」「鉄人タイガーセブン('74)」「スターウルフ('78)」「キャプテン・フューチャー('78)」などを歌って70年代アニメソングの重要な歌手のひとりとなる。

富野監督はこの歌を聴いて「ハッタリズムに徹した歌」と感心し、オープニングフィルムもハッタリズムに徹したコンテを切った。できあがったのが、火山の爆発からタイトル・ロゴが飛び出すあの名オープニング。特に「ゴー!ゴー!」のサビから、ストップモーションやスローモーションを使って歌と絵をみごとにシンクロさせ、テレビアニメ史に残る名オープニング・フィルムを作り出した。

主題歌のメロディは曲先行で書かれ、歌詞はあとで付けられたそうである。哀愁と力強さと雄大さを合わせ持った名旋律。歌詞がなかったにしては、「ゴーゴー〜」の譜割りは完璧だが、ここだけは作曲時に想定していたのかもしれない。
コルゲンさん(鈴木宏昌)はアニメ音楽を書くのがはじめてだったため、イメージに合うか、子どもにとってむつかしすぎないか心配になり、デモテープを作るとき、ヒットメーカーのすぎやまこういちの家をたずねて伴奏をしてもらった。スタッフとわいわい言いながらの録音で、結局、譜面とたいして変わったわけではないが、心強かったという。アレンジには案外、すぎやまこういちのアドバイスが入っているのかもしれない。
編曲者クレジットはないが、編曲ももちろんコルゲンさんの手によるもの。アレンジで印象的なのは、やはり「ジャンジャカ・ギター」。ブラスやストリングスは控えめ(しかし効果的)な使い方。メロ後半からサビに入るタンバリンは、さりげないアクセントだが、海の上を進むスピード感とさわやかさを表現してみごと。
2コーラス歌ったあとのリピートで移調する(キーが上がる)のは、ドラマティックに曲を盛り上げる手法だが、アニメソングではありそうであまりない。

この歌、メロディ頭7小節がマカロニ・ウエスタン映画「星空の用心棒('68・伊)」(音楽:A.トロバヨーリ)の主題歌とクリソツ。筆者(腹巻猫)はあとで「星空の〜」を聴いて、「おや〜」と思った記憶がある(当時小学校高学年)。これがパクリなのかどうかわからない。それほど個性的なフレーズではないため、偶然似てしまっただけかもしれない。それよりなにより、「トリトン」の方が「星空の用心棒」よりもずっとカッコいい曲に仕上がっているのだから、パクリであっても許すというもんである。

劇中使用例は、最終回のフィナーレに、M-21に続いて使用された1回のみ。

テーマソング

・海のトリトン(OP1,ED2)
初回放映時・第6話までのオープニングで、以降はエンディング。「テーマソング」の表記はクレジットによる。
「海の底のオーケストラ/ファッションショー/オリンピック」というノーテンキな歌詞で、本編との整合性皆無。イメージソングとしてもおかしいし、なんでこういう歌になってしまったんでしょう(原作のイメージとも違う)。作詞・伊勢正三はかぐや姫のメンバーのひとり。
初期オープニングは、海中の実写映像が延々と流れ、終盤になってようやく「海のトリトン」を歌う須藤リカとかぐや姫の映像が合成でインサートされてくる(のちのEDバージョンとは異なる)。番組タイトルが出るのも終盤になってから。見ていた子どもたちは、どんな番組が始まると思ったのだろうか(当時子どもだた筆者は覚えていない)。この映像はバンダイから発売されていたLD-BOXに収録されており、今見るとかなりのインパクトである。

しかし、この歌、「海のトリトン」という番組を忘れて聞けば、悪い歌ではない。メロディはやさしく、ほのかな哀愁があって、南こうせつのメロディ・メーカーとしての才能がすでに発揮されている。こんな歌詞でも、ありがちなコメディソングになっていないのはさすが。特に「虹いーろの〜」の辺りのメロディがよい。須藤リカの歌も上手。
南こうせつとかぐや姫は、この歌の1年後1973年に「神田川」をヒットさせ、フォーク・ニューミュージックを代表するグループとして活躍するようになるが、「トリトン」当時はまだ無名で、クレジットも本名の「南高節」で表記されている。ひょっとして「かぐや姫」のグループ名は「トリトン」がきっかけで付けたのでは? と思ったが、「トリトン」以前から使われていたそうである。

かぐや姫ホームページ

アレンジは、アコースティック楽器を使ったシンプルなフォーク調。よく聴くと1番2番3番、すべてアレンジが微妙に違う(アドリブか?)。1番ではハーモニカ、2番では木管、3番ではふたたびハーモニカがカウンター・メロを演奏する。ほかに印象的なのは、バックでずっとポロポロ鳴っているピアノ(Key?)。海のキラキラするイメージであろうか。

第11話劇中、イル・カル・フィンが、ピピのためにこの歌を歌うシーンがある。

挿入歌

・海のファンタジー
「海のトリトン(Go!Go!トリトン)」以外の歌の中ではもっともよい歌なのだが、残念ながら劇中で使用されたことはない。
A面「海のトリトン」とは異なり、「テレビまんが」のイメージはまったくないフォークソング。一応通例にならって挿入歌として扱っているが、ほんとうは番組とは無関係に作られた曲かも(レコードには「挿入歌」の表記はない)。

歌い出し「き〜みは〜」の語りかけるような歌い方がよい(須藤リカは譜面通りでなく微妙にアレンジして歌っている)。「海のファンタジー」というタイトル通り、A面のメルヘン調に対して、「伝説」「遠い昔」「生まれる前から」といったことばを散りばめたファンタスティックな歌。そのままファンタジー番組の主題歌・挿入歌として使えそうである。
アレンジはA面と共通するイメージだが、こちらの方が落ち着いた雰囲気になっている。歌い出しと歌い終わりのコード進行はA面と共通で、まったく内容の異なる歌詞なのに統一感あり。この曲も1番と2番でアレンジが違う。やはりピアノが印象的(こちらはシックな感じ)。
かぐや姫のハイトーンのコーラスがロマンティックな雰囲気を加えているのも聞き逃せないところ。2コーラスめの「ふぅっ」という合いの手コーラスなど、当時の子ども向けの歌にはないテイストだ。
せっかくだから、本編中でも使ってほしかった。

・ピピのうた
「海のトリトン」(Go!Go!トリトン)のB面として作られたキャラクターソング。なぜかコルゲンさんではなく、松山祐士が作曲している。
松山祐士は渡辺岳夫とのコンビで知られ、「アルプスの少女ハイジ」「キャンディ・キャンディ」「機動戦士ガンダム」など、渡辺岳夫のアニメ作品の大半にアレンジャーとして関わった。
すっとぼけた詞にストレートにコミカルなメロディをつけたように聞こえるが、コミカルなのはもっぱらアレンジと歌い方で、メロディ自体は意外にもマイナーコードが多く、しんみりした曲調でも似合う(一部ムリがありますが(笑))。
編曲者クレジットはないが、明らかに作曲と同じ松山祐士の作。アコースティック楽器をたっぷり使い、コミカルな中にも華やかさのあるサウンドを作っている。

歌の広川あけみはピピ役の声優だが、もともとはレコードも出している歌手。声優・広川太一郎(アニメでは「ムーミン」のスノーク、「宇宙戦艦ヤマト」の古代守など)の妹で、「トリトン」のあと「モンシェリCOCO」に主演したが、結婚して引退、家族とともにアメリカに移り住んだ。
「ピピのうた」では、歌ともセリフともつかない微妙なメロディを、絶妙なはずし具合で歌っている(音痴という意味ではない)。
この歌も番組を離れて聴けば「子どものうた」として聴けるのだが、いかんせん、本編とのギャップが、またA面(Go!Go!トリトン)とのギャップがありすぎ。当時シングルを買った子どもは、B面を聴いたとたんに「ひっくりかえ」って、以後封印して聞かないようにしていた。

劇中では、第7話にピピがスキャットで歌う現実曲として登場している。


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