ダイオキシン類対策特別措置法の問題点(所沢での経験から)
  -環境汚染取締者不在の社会-
                 
ダイオキシン類特別措置法はどのような効果をもたらしたでしょうか。所沢でこれまで、行政に苦情を申立て、調査に取り組んできましたが、その中で実感しているのは、環境汚染取締者がいない、ということです。ダイオキシン類対策特別措置法は、環境汚染取締及び浄化の役割を果たすための機能があるでしょうか。また、地方自治体は環境汚染取締者の役割を果たすことができるでしょうか。このことが、環境問題を解決していく中で、どのような問題を引き起こしているのか所沢での汚染発覚事例を通して検証してみたいと思います。

事例 三芳町クマクラ焼却炉スクラバー設置業者の排出水汚染事例
経過
1,2000年春、公害調停をすすめる会で、クマクラ焼却施設壁直近において、灰褐色の汚泥が流出、植物が生えない状態であることを確認。また、ホースで施設内汚水を当該場所に垂れ流しているのを確認。2000年8月に、クマクラ施設隣接地土地所有者の了承を得て、土壌中ダイオキシン類自主調査を実施(日本品質保証機構に調査依頼)。結果は9月末に得られ、5100pgTEQ/gであった。
2,この結果を持って、埼玉県及び環境庁に対し、クマクラの施設操業停止、廃棄物処分業許可取消、及び対策地域として指定すること、詳細調査、罰則の適用、を要望した。また、調停の場に於いてもクマクラの汚染事例を報告。
埼玉県の措置
●要望を受けた1週間後、施設内及び周辺土壌及び浸透升中の雨水(汚水)のダイオキシン類及び重金属類調査を実施。(この場で、汚染原因物質と思われるスクラバー汚泥、灰の採取を行わなかった。)
●廃棄物処理法に基づく18条報告を求め、施設排水の状況報告を求めた。
●施設は操業続行。→汚染が行政によって確認されたわけではない。
●汚染確認土地の簡易な立入禁止札
●県の化学物質対策専門委員会に諮問(非公開)し、1ヶ月後の11月8日、スクラバー汚泥、焼却灰などの追加サンプリングを実施。
3,クマクラは許可更新期限1月を控え、汚染を私たちが報告してから2ヶ月後の12月末、自主的に焼却炉操業を停止、廃炉届を提出。焼却以外の業の更新許可を得る。
4,2001年1月24日、県の化学物質対策専門委員会に対し、県のクマクラ調査結果が諮問された。ここで、初めて県の調査結果が公開された。
土壌最高で12000pg-TEQ/g(すすめる会調査地点と同地点)、直近施設壁両脇11000pg-TEQ/gが検出。浸透升中雨水2800pg-TEQ/l、1号炉スクラバー汚水1200pg-TEQ/l,1号炉スクラバー汚泥46000pg-TEQ/g、2号炉スクラバー汚水180pg/l,2号炉スクラバー汚泥5500pg-TEQ/g,破砕施設地下ピット汚泥1000pg-TEQ/g。重金属類も12地点の土壌で水銀、カドミ、鉛などが対策基準・環境基準を越える。
この結果を受けての埼玉県の措置
●ダイオキシン類の異性体構成、重金属類、塩類の成分構成がクマクラ場内採取試料と高濃度汚染検出周辺土壌とで一致したことから、クマクラが汚染源であると確定。
●汚染者負担の原則に基づき、クマクラに対し詳細調査、汚染土壌の撤去などの土壌浄化措置、場内に残る汚染物質の拡散防止措置の実施を指導する

以上の措置は、ダイオキシン類対策特別措置法に基づくものではなく、「行政指導」として行われた。従って、「対策地域」の指定もない。また、求めていた罰則の適用については、適用されなかった。

この事例での問題点
対策地域の指定29条がなされなかったのはなぜか。
→理由不明。範囲が狭いこと、行政指導に従う姿勢を業者が見せているなどと言っていた。法の規定では範囲の広さ狭さは、要件にない(要件は人が立ち入ることのできる地域であること)。対策地域の指定は行政裁量に任される
<対策計画>
汚染された土壌に係る措置として、対策地域の指定及び対策計画の制定などの措置をとることができる。対策計画の制定については、公聴会を開き住民の意見を聴くこと(第30条)。 審議会、関係市町村長の意見聴取。内閣総理大臣に協議、同意を得なければならない。概要の公告。定めることができる事項
○土壌汚染除去に関する事業の実施に関する事項
 ○汚染されている土壌に係る土地の利用等により人の健康に係る被害が生ずることを防止するため必要な措置に関する事項
○汚染を防止するための事業の実施についての計画
<費用負担>
対策計画に基づく事業については費用負担については、事業者によるダイオキシン類の排出とダイオキシン類による土壌の汚染との因果関係が科学的知見に基づいて明確な場合に、公害防止事業者負担法に基づいて、事業者による負担を求めることができる

罰則が適用されなかったのはなぜか
<排出の制限>第20条違反
 排出水を排出する者は、水質基準対象施設にあっては排水口において排水に含まれるダイオキシン類の量が排出基準に適合しない排水を排出してはならない。
罰則 第45条 6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金
3項の解釈は?
当該違反行為が行われた日から3ヶ月以内に都道府県知事が当該違反行為にかかる施設に関しその職員に第34条第1項の規定による立入検査をさせ、当該立入検査において測定した結果が排出基準に適合しない場合に限り、当該違反行為をしたものを罰する
第46条 虚偽の届出(排出水を排出しないと届け出ていた)3ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金
また、ダ措置法以外の法に基づく違反として、
廃棄物処理法
維持管理基準(施行規則12条の6)
(3)産業廃棄物が施設から流出する等の異常な事態が生じたときは、直ちに施設の運転を停止し、流出した産業廃棄物の回収その他の生活環境の保全上必要な措置を講ずること
(5)産業廃棄物の飛散及び流出並びに悪臭の発散を防止するために必要な措置を講ずること
(8)施設から排水を放流する場合は、その水質を生活環境保全上の支障が生じないものとするとともに、定期的に放流水の水質検査を行うこと
都道府県知事は、許可に係る設置者が、維持管理基準に違反した場合、施設の許可の取消(第15条の3)、又は業の許可の取消(第14条の3)をすることができるとされる
罰則は、以上の違反に対しての改善命令に違反した場合に、適用される。
水質汚濁防止法
届出違反 5条違反 
排水基準違反(重金属類)浸透升水から鉛が基準を超えて検出された
施設が操業を続けたのはなぜか
<適用可能であったと思われる条項>
事故時の措置 第23条
ダイオキシン類が多量に排出された事故が発生した場合において周辺区域の人の健康が損なわれるおそれある時は、県知事が事故の拡大又は再発防止に必要な措置を命ずることができる。
改善命令 第22条
知事は排出者が基準に適合しない排出水を継続して排出するおそれがあると認めるときは、構造、使用の方法の改善または使用の一時停止を命ずることができる。

理由としては、「市民団体の行った調査であり、行政が確認しない以上、それをもとに行政措置を発動できない。」ということだった。しかし、規定では、「おそれがあるとき」とされているのだから、適用可能であったのではないか。
対策は十分であったか。検証は誰がするのか。地下水汚染の可能性
地下水汚染を引き起こしかねない高濃度汚染であるため、今後の地下水常時監視が義務付けられるべきである。住民への周知、意見聴取がなかった点、公開制の欠如、等、行政指導による不透明な対策は大変まずかった。
●業者は制裁を受けたか
自主的に焼却炉を廃炉。焼却業の廃業。
排出事業者への汚染の周知はなされたか
罰則の不適用。
対策に不十分な点があったか
汚染の詳細調査、原状回復の費用。→不十分であり少額に抑えられた可能性
施設廃止時に問題が起こる可能性
汚染調査費用は誰が持つべきなのか

<今後の全般的な問題点>
埼玉県の問題点

●適切な法の適用をしない。罰則の適用をしない。行政指導に終始する。
●汚染発見に努める姿勢がない。常時監視体制は安全宣言の手段となりがち
●人員・検査態勢の不備
このことが、どんな問題を生むか
1,法の規定、罰則が有名無実のものとなる。
→違反の常態化
環境汚染対策をしない企業が得をして、環境対策に費用をかける企業が損をするという、最悪のパターン。
2,行政指導は不十分な対策となることがとても多いし多すぎる。
指導→少し改善→違反→指導→少し改善→違反を繰り返す。汚染がその間に累積する。
汚染浄化対策も不十分になる恐れが多々ある。
3,隠された汚染が明らかにされる機会が失われる。

ダイオキシン類対策特別措置法の問題点(他の環境法にも共通する)
●汚染の届出システムがない(事故時の措置のみ→対象は特定施設設置者のみ、報告義務に罰則なし)
●市民による行政の対策要請条項がない(総量規制の申し出のみ)
●基準適用施設周辺地域の汚染を把握するシステムがない。汚染が明らかにされる機会の設定がない。常時監視は行き届かない
●基準適用施設以外の汚染事故の条項がない(雨水が汚水となっていた場合など)
●行政の対策の義務づけがない
●罰則が少ない、少額。
●事業者による汚染回復費用負担の要件が厳格ではないか。
●対策実施主体の不明確
●廃棄物処理施設による汚染回復時の排出企業の連帯責任の可能性の規定がない。
(廃棄物処理法に規定あり)
●環境汚染取締法としての理念がもしかしたらない?。
→これらの問題点は、結局の所、環境汚染取締者の不在と、浄化の遅延・不十分な対策を招く。企業の環境リスクが少ない状況を生む。

企業の環境リスク負担の増加と環境汚染取締機能を得るために必要なことは?

アメリカの環境法規制を例に挙げると、
●スーパーファンド法

1,有害物質(740物質、1500の放射性核種)による汚染の浄化を第一の目的とする
2,連邦政府が自ら汚染施設(土壌など)を浄化する巨額の基金を有する
3,責任当事者(浄化責任者、費用負担者)
汚染された土地の現在の所有者・管理者
 (善意の購入者の抗弁→購入者の環境監査・調査責任の追求)
有害物質が放出された時点での施設所有者・管理者
有害物質の発生者
有害物質を当該施設へ輸送した運送業者
4,過失の有無を問わない厳格責任
5,全国浄化優先順位表の記載 1990年で1200箇所
6,有害物質に汚染された土地のデータベースは1990年で3万箇所毎年2000件増加
7,所定の要件を満たす場所を政府に届け出ることを義務化(怠ると刑事罰の対象)
8,緊急除去及び恒久措置の実施
 恒久措置調査の実施(EPAが実施、費用は当時者負担、当事者実施)
 →恒久措置の選択→近隣住民の受入可能かのチェック→実施計画の公表
9,違反及び浄化に関する強制措置
EPAの浄化命令(罰則1日あたり2万5千ドル)
報告義務・記録の保管義務違反(罰則1日あたり2万5千ドル、2回目以降7万5千ドル)違反の事実を通報したものに1万ドルの報奨金あり
●水質汚濁防止法
1,施設許可制(住民の公聴会の開催の要求可、
2,排出の技術基準、汚染状況がひどい衰期については「水質基準」の設定。
 通常の汚染物質(BOD,浮遊物、各種金属他)と有害汚染物質(129種類の化学物質)
3,許可にあたって、基準遵守プログラム、違反時の強制措置、排出モニター、調査、記録、報告の義務付け
4,州による汚染のひどい水域の改善策の策定、規制対策の立案
5,浄化責任 有害物質の排出者は厳格責任により政府の命令に基づき浄化を行うもしくは、政府が浄化した場合はその費用を負担する義務を負う。
6,罰則
行政罰 違反1日あたり1万ドル
民事罰 有害物質の排出違反、浄化命令違反 違反1日あたり2万5千ドル
    故意・重過失による有害物質の排出 10万ドル以上
  違反の通知後30日以内に適切な処置を講じない場合、差し止め命令請求
刑事罰 有害物質の排出について通知を怠ったものは罰金、禁固刑
7,市民訴訟
違法排出などによって不利益を被っている、もしくはおそれのある者は、汚染物質の排出者または、法の適切な執行を求めてEPAを訴えることができる。
訴えの利益が環境保護団体に認められるケースもある。
●大気浄化法
1,規制対象有害大気汚染物質 189物質
2,EPAによるきわめて危険な大気汚染物質の作成と限界量の公表。
3,市民訴訟
近隣の工場の法令違反、許可条件違反を理由として裁判所に対し法令・許可条件遵守の命令を出す、罰金を科すよう求めることができる。
EPAの義務違反を理由として訴訟を起こすことができる。
●資源保護回復法(有害廃棄物管理法)
1,特定施設許可制(5年ごとに再審査)
2, 是正措置 許可条件として有害成分の放出があった場合に施設設置者に是正措置を実施することを求める。
3,浄化命令 施設所有者、管理者、発生者、輸送者に対して浄化命令を発することができる。
4,違反に対する強制措置
違反者に対する差し止め命令の請求。浄化命令、
罰金、違反1日あたり最高2万5千ドル これは、最終的に行政命令に従ったかどうかに関わらず、違反日数分課せられる。
5,市民訴訟
●地域住民の知る権利法
1,緊急対処計画策定のための報告
2,有害化学物質放出事故緊急報告(違反1日あたり2万5千ドル以下)
 1500万円の支払いを命じられた企業の例 
3,有害化学物質に関する報告
施設内に存在する全ての有害化学物質の一覧表
通常の操業改訂で地域内に排出している有害化学物質の名称、放出場所、放出量の報告義務
4,市民訴訟
 報告義務違反に対して企業に義務を履行させるため、あるいはEPAをして履行させるため訴訟を提起することができる
●不法行為法による損害賠償請求
被害者による不法侵害、公的私的生活妨害、懲罰的損害賠償請求、差し止め請求
億単位の賠償金を支払うケース。

以上の環境法が、企業に対する多大な環境リスクを強いることは明らかである。
また、環境汚染取締者として、EPA(州も)のみならず、市民、土地所有者、土地取引者、金融機関が、役割を果たしていることがわかる。特に市民訴訟、損害賠償請求などの市民の役割が大きい。

日本でも
● ダイオキシン対策特別措置法も環境汚染取締と浄化の機能を果たすべく改正必要
汚染発覚の届出→対策システム
  基準適用施設の廃止時、土地開発時は義務付け
  市民及び土地所有者の通報により、対策実施の義務付け
対策策定の義務付けと公開と公聴会
浄化責任当事者に対する浄化命令の規定
費用負担は汚染企業・排出企業・土地所有者に
市民訴訟制度
● 特に、市民訴訟制度。罰則の強化、民事裁判の活用を。
●PRTRの実施(2001施行) 。。。
●土壌汚染に関する汚染把握と浄化のための法律の整備が早急に必要
東京都の環境確保条例(2001.施行)では、土壌汚染対策が盛り込まれている
a有害物質取扱事業者が建物を除去したり廃業する場合に、敷地内の土壌汚染調査が義務付けられる
b開発事業者が大規模な土地の改変をする際には、開発予定地の土壌汚染調査を行わせ、土壌が汚染されている場合は拡散防止措置を義務付ける
今後はこの流れで行くはず。。。