三芳町上富におけるダイオキシン類等の調査の結果について

1 経緯
 さいたま西部ダイオキシン公害調停をすすめる会(以下「すすめる会」という)の独自調査で、(株)クマクラ直近土壌から土壌環境基準を越える高濃度のダイオキシン類(5,100pg-TEQ/g)や重金属類が検出された。
 県では、土壌汚染の範囲及び(株)クマクラとの関連を調査するため、化学物質対策専門委員会の助言を受けて調査計画を策定し、各種の調査を進めてきた。
 この度、昨年10月11日、11月8日に周辺土壌や(株)クマクラ場内から採取した汚泥等の測定結果がまとまり、汚染原因がほぼ特定されたので県の対応を含め専門委員会に報告する。

2(株)クマクラの概要
(1)配置図 別紙の通り
(2)処理施設の種類
ア 1号焼却炉 5t/日 紙くず、木くず、繊維屑
      ダイオキシン類対策特別措置法(大気、水質)対象
イ 2号焼却炉 4.8t/日 紙くず、木くず、繊維くず、動植物性残さ
      ダイオキシン類対策特別措置法(大気、水質)対象
 (1号、2号焼却炉は、既に昨年12月までに廃止届が提出されている)
ウ その他に、破砕施設、破砕・圧縮施設、コンクリート固形化施設がある。
(3)汚水などの処理方法
ア この地域は排水先がないため、場内の雨水は浸透升から地下浸透させている。
イ スクラバーは循環式であり、2号スクラバーの水は、1号炉の炉内に投入している。
ウ 2号焼却炉灰出口(地下堀込み)近くに溜まった雨水は、水中ポンプで自社駐車場に排出していたことをクマクラが認めていた。また、調査時は浸透升(E1)に排出していた。
エ 「2号焼却炉灰出口や破砕選別施設下の地下ピットに溜まった雨水を、水中ポンプで浸透升や壁際土壌に排出していた」との情報が、すすめる会から得られた。

3調査の概要
(1)調査媒体
   土壌、廃棄物、水質、泥状物など
(2)調査項目
ア ダイオキシン類 19検体
イ 金属類、塩類等 44検体

4調査結果
(1)周辺土壌の汚染範囲
ア 現地調査により、すすめる会の独自調査で指摘され、今回の調査でも高濃度が検出された地点に泥状物の堆積が確認された。
イ (株)クマクラ周辺の土壌8地点を調査した結果、(株)クマクラ直近の2地点から土壌環境基準(1000pg)を越える12000pg, 11000pgの値が検出された。また、この2地点で、カドミウム、鉛などの重金属類も土壌環境基準を超過していたほか、他の1地点でも重金属類のみの基準超過が判明した。
ウ 他の5地点では環境基準を下回っており、排ガスなどによる広域的な汚染ではなく、汚水、汚泥等の流出または投棄による局地的な汚染であることが確認された。

(2)(株)クマクラ場内の状況
ア高濃度が検出された周辺土壌に近い場内の土壌1地点から環境基準を越えるダイオキシン類(11000pg)、重金属類が検出された。
イ 基準は適用されないものの、雨水浸透升の水から2,800pgのダイオキシン類が検出された。

5土壌の汚染源について
 ダイオキシン類、重金属類、塩類などの各種測定を行い、その結果を解析した結果、高濃度のダイオキシン類、重金属類が検出された周辺土壌と(株)クマクラ場内から採取した試料の重金属類、塩類の成分構成がほぼ一致したことなどから、(株)クマクラが汚染源であると考えられる。

6今後の対応
(1)埼玉県化学物質対策専門委員会の審議を経て、平成13年1月24日(水)に調査結果を公表する。
(2)汚染者負担の原則に基づき、(株)クマクラに対し汚染土壌の撤去などの土壌浄化措置や場内に残る汚染物質の拡散防止措置の実施を指導する。

三芳町上富における土壌などのダイオキシン類汚染調査報告書

環境科学国際センター 化学物質グループ

1調査方法
 試料採取地点及び採取試料の種類(地点番号の後ろに()書きで表示)は、図1の通りである。
 調査の方法は試料の種類によりそれぞれ次の方法に従った。
ア 土壌:「ダイオキシン類にかかる土壌調査測定マニュアル(平成12年環境庁)」
     ただし、E8及びE9は極めて狭い領域であったのでそれぞれ1地点で採取し等量混合して試料とした。また、色、電気伝導度のデータから灰の混入が予想される試料(A1,A9,A12,E3,E8-9)については、抽出をより完全にするため塩酸処理を行った。
イ 水:「ダイオキシン類にかかる水質調査マニュアル(平成10年環境庁)」 ただし、試料採取料は汚染レベルを予想して調整し、スクラバー水は約10L、雨水浸透升は約20L、井戸水は約80Lとした。
ウ 汚泥:「特別管理一般廃棄物及び特別管理産業廃棄物にかかる基準の検査方法」(平成12年厚生省告示第6号)」

2 調査結果
 調査した試料の毒性等価濃度を図1の試料採取地点に、毒性等価濃度の内訳を表ー1に示す。
表1 三芳町上富における土壌等汚染調査分析結果表 
単位 水質試料(pg-TEQ/L)
土壌及び汚泥試料(pg-TEQ/g dry)
試料 土壌 土壌 土壌 土壌 土壌 土壌 土壌 浸透升水 浸透升水 土壌
地点番号 A1 A9 A12 A14-15 B C D E1 E2 E3
水分含量(%) 5.2% 7.3% 6.5% 12% 11% 14% 12% - - 4.0%
強熱減量(%) 33% 16% 14% 38% 25% 24% 27% - - 11%
PCDDS 5800 85 6100 49 40 25 100 1200 39 5800
PCDFS 4900 92 5100 73 53 30 75 1500 44 4900
TOTAL 11000 180 11000 120 93 55 180 2700 84 11000
non-orthoPCB 230 8.0 240 15 9.9 5.6 0.09 120 3.8 220
mono-orthoPCB 1.7 0.39 1.9 0.36 0.23 0.12 0.024 2.1 0.23 2.6
Co-PCB 230 8.4 240 15 10 5.7 0.1 130 4.0 220
Total Dioxins 11000 190 12000 140 100 61 170 2800 88 11000

試料 破砕選別汚泥 灰出口汚泥 土壌 井戸水 1号焼却炉(水) 1号焼却炉(汚泥) 2号焼却炉(水) 2号焼却炉(汚泥) 土壌
地点番号 E5 E7 E8-9 E10 E11 E12 E13 E14 F
水分含量(%) 3.1% 2% 3.1% - - 1.9% - 6.2% 15%
強熱減量(%) 15.7% 10.9% 11% - - 11.2% - 11.1% 21%
PCDDS 380 320 260 0.044 490 19000 100 3300 37
PCDFS 580 230 200 0.057 750 26000 75 2100 62
TOTAL 960 550 460 0.1 1200 45000 180 5400 100
non-orthoPCB 58 13 13 0.0071 3.7 1400 0.1 110 7.4
mono-orthoPCB 12 0.5 1.2 0.00063 0.12 14 0.024 0.55 0.27
Co-PCB 70 14 14 0.0078 3.8 1400 0.1 110 7.7
Total Dioxins 1000 570 480 0.11 1200 46000 180 5500 110

(1)土壌調査
 廃棄物処理場の場外で敷地近傍のA1,A12及び場内塀際のE3で、それぞれ、11000pg-TEQ/g, 12000pg-TEQ/g及び11000pg-TEQ/gが検出され、土壌環境基準値(1000pg-TEQ/g)を大幅に超過していた。A12は住民団体が5,100pg-TEQ/gを検出した地点であり、今回の採取試料はこの値の約2倍であった。
 また、2号焼却炉灰出口のたまり水を排出していたことが確認されているE8-9は480pg-TEQ/g, また同汚水が流出したとされるA9は190pg-TEQ/gであり、土壌環境基準値を超過する汚染は認められなかった。
 周辺土壌(A14,15,B,C,D及びF地点)は、61〜180pg-TEQ/gの範囲にあり、平均で120pg-TEQ/gであった。平成11年度に、県が三富地区で実施した「ダイオキシン類環境実態フォローアップ調査」によれば、土壌15地点の平均濃度は28pg-TEQ/gであり、今回調査地域は環境基準値からは充分に低いものの、全体に汚染が進んでいる状況が確認された。

(2)水質調査
 廃棄物処理場内の雨水浸透升水(E1,E2)及び井戸水(E10)を調査した。
 検出された毒性等価濃度は、それぞれ2800pg-TEQ/L, 88pg-TEQ/L及び0.11pg-TEQ/Lであった。E1,E2は高濃度に汚染されていたが、E10は充分低濃度であり現状では地下水の汚染は認められない。

(3)場内汚染物調査
 廃棄物処理場内の汚染物として、1号焼却炉のスクラバー水(E11)及びスクラバー汚泥(E12),破砕選別施設下のピット汚泥(E5),2号焼却炉のスクラバー水(E13)及びスクラバー汚泥(E14),並びに2号焼却炉灰出口汚泥(E7)を調査した。
 検出された毒性等価濃度は、それぞれ1200pg-TEQ/L及び46000pg-TEQ/g, 1000pg-TEQ/L、180pg-TEQ/L及び5500pg-TEQ/g,並びに570pg-TEQ/gであり、E11及びE12は、E13及びE14のそれぞれ約7倍及び約8倍高濃度であった。

3 汚染経路の考察
 廃棄物処理場の内外で確認された土壌及び浸透桝水の高濃度汚染について、汚染がもたらされた経路の可能性を検討した。
(1)土壌
 高濃度の汚染を検出したA1,A2,A12及び E3の土壌(以下汚染土壌)は、PCDDs/PCDDsが1.3〜1.4であった。また、2,3,7,8-置換異性体(以下、異性体)及び同族体の構成はいずれの試料に於いても極めて類似しており、同一汚染物により汚染されたことを示唆している。
 1号焼却炉関連の汚染物(E11及びE12)は極めて毒性等価濃度が高く、汚染土壌の濃度を形成する充分なレベルにあるが、、PCDDs/PCDFsはそれぞれ0.78及び0.92と汚染土壌よりも小さい。また、E11及びE12の異性体及び同族体の組成は、1,2,3,4,6,7,8-7Fが1,2,3,4,6,7,8-7D及び8Dより高濃度となる特徴があるが、汚染土壌にはこの特徴が認められない。
 2号焼却炉関連の汚染物(E7,E13,E14)は、PCDDs/PCDFsがそれぞれ1.6,1.5及び1.3と汚染土壌に近い。しかし、異性体及び同族体の組成では、1,2,3,4,6,7,8-7Dと8D,4Fと5F、さらにE7では4〜5Dの濃度関係が汚染土壌と逆転している。また、E7及びE14の毒性等価濃度は汚染土壌よりも低く、汚染土壌のレベルまで濃度を上げるには、ダイオキシン類に汚染された水による加算が必要となる。
 E5は汚染土壌よりも毒性等価濃度が低く、PCDDs/PCDFsも0.85と小さい。しかしながら異性体及び同族体の組成は、PCDDs,PCDFsそれぞれについてみると汚染土壌と極めて類似している。破砕選別施設でダイオキシン類が発生することは考え難いことから、高濃度のダイオキシン類を含む汚泥E5は、場内にこぼれた灰、雨水などによる増水でスクラバー水とともにあふれ出た汚泥などが集積して形成されたと想像される。このことは、場内で発生した汚染物が適当に混合された場合、汚染土壌と類似の異性体及び同族体の組成を構成しうることを示している。
 ダイオキシン類の発生量及びその組成は焼却物及び焼却条件によって異なること、また生成したダイオキシン類は、揮散または光分解などにより組成が経時的に変化することから、汚染経路の推定にはかなりの不確定要素が含まれる。限られたダイオキシン類のデータによる考察からは、場内汚染物それぞれに、汚染土壌との類似点及び相違点が確認され、汚染原因を推定するまでには至らなかった。しかしながら、破砕選別施設下のピット汚泥(E5)は、1,異性体及び同族体の組成が汚染土壌と極めて類似していること、2,汚染土壌が確認された場所に近く、当該地点への排出が容易に行えること、3,毒性等価濃度は汚染土壌の約1/10であrが、ダイオキシン類に汚染された大量の水とともに排出された場合には、汚染土壌の濃度に達することも可能となることから、汚染の原因として疑わしい存在である。

(2)水質
 E1で検出された極めて高い毒性等価濃度は、1,浸透升内の水面に浮いた油膜にダイオキシン類が抽出、濃縮され、油を含んだ試料水を採取・分析したこと、2,試料採取の直前まで灰出口に溜まった汚水を同浸透升に放流していたことによると考えられた。確かに、E1の異性体及び同族体の組成は総じてE7と類似しているが、PCDDs/PCDFsが0.97と小さい(E7では1.6)こと、1,2,3,4,6,7,8-7Fが1,2,3,4,6,7,8-7D及び8Dより高濃度であること等、1号焼却炉関連の汚染物の特徴が認められる。このことは、極めて高い毒性等価濃度を有する1号焼却炉関連の汚染物が混入したことを示すものであり、このこともE1の高濃度汚染に関与していると推定された。
 E2は、高い毒性等価濃度が確認されたE3の直近であり、その原因となる汚染物が混入することが当然予想された。異性体及び同族体組成は、8Dが7Dよりもかなり大きく、その濃度は2号焼却炉のスクラバー水(E13)をも上回っている。場内汚染物の中から類似の組成を探すならば、突出してはいないが8Dが7Dを上回っている点も含め、全体にE5に最も近く、E5を含んだ水が流入したことによる汚染の可能性が考えられる。

クマクラ現場調査解析結果(金属測定班)

1,調査概要
 ダイオキシン類含有土壌が発見された廃棄物中間処理施設周辺の土壌汚染調査のため、施設周辺土壌・施設内廃棄物(主に焼却由来の廃棄物)及び施設内土壌を採取し、金属類の含有量試験と溶出試験を行った。
 本調査では、汚染の原因と周辺土壌の汚染範囲を推定することが目的である。

(1)周辺土壌の調査及び採取
a.中間処理施設周辺土壌を図1のように15区画(A1〜A15)に分割し、電気伝導度を現場で測定し、土壌を採取した。
b.バックグランド土壌として、周辺の林地(B,D)及び草地(C)の3箇所の電気伝導度を現場で測定し、土壌を採取した。

(2)施設内廃棄物や土壌の調査及び採取
a.焼却施設は、図2に示したように1号及び2号の2基の焼却炉があり、各焼却炉の焼却灰(E15,16)及び集塵灰(1号のみE17)を採取した。またスクラバー槽については、沈殿槽の上層部の水(E11,13)と下層部のSSの多い部分(E12,14)に分けて採水した。
b.上層部のスクラバー水は、0.45マイクロmで濾過紙、スクラバー水とした。更に下層部のスクラバー水は、遠心分離後の沈殿物を採取してスクラバー汚泥とした。
c.その他場内廃棄物として、破砕選別施設下のピットに溜まっていた汚泥(E5)と2号焼却炉灰出口(半地下状態)のたまり水に沈殿していた汚泥(E7)の2箇所から採取した。
d.施設内土壌としては、ダイオキシン類の汚染土壌があったとされる地域に一番近い地点の土壌を採取し、さらに、その近隣土壌の電気伝導度を調査した。
e.また、2号焼却炉灰出口の沈殿汚泥または汚水をポンプアップして放流したと思われる従業員用駐車場敷地内の砂利地から2地点(E8,9)土壌を採取した。
(中略)


2-4,土壌環境基準等の超過状況
 土壌・地下水汚染にかかる調査・対策指針運用基準(含有量参考値)と土壌環境基準から中間処理施設内外の土壌について、基準値と比較して表4に示した。

表4 土壌環境基準等の超過状況
項目

T-Hg総水銀

Cdカドミウム

Pb鉛

Asヒ素
基準値 3mg/kg 0.005mg/L 9mg/kg 0.01mg/L 600mg/kg 0.01mg/L 50mg/kg 0.01mg/L
土壌地点名 含有量参考値 環境基準(溶出試験) 含有量参考値 環境基準(溶出試験) 含有量参考値 環境基準(溶出試験) 含有量参考値 環境基準(溶出試験)
E3表層土 66.6 5490
E3下層土 3.03 101 5950
A1-1表層土 3.84 108 6620 2.47 0.016
A1-1下層土 0.0008 107 0.019 4940 12.3
A1-2表層土 4.63 0.0006 117 6810 7.88
A1-2下層土 0.0016 84.7 0.013 4600 8.41
A2 9.51
A12-2表層土 4.77 149 8460 2.87
A12-2下層土 62.6 3100 5.67
E8-表層土 18.5 12.8 1050 0.019
E8-下層土 17.6 5.88
E9-表層土 11.8 11.3 989
A9-2表層土 9.12

補足資料2-3廃棄物試料試験超過状況
項目

T-Hg総水銀

Cdカドミウム

Pb鉛

Asヒ素
基準値 3mg/kg 0.005mg/L 9mg/kg 0.3mg/L 600mg/kg 0.3mg/L 50mg/kg 0.3mg/L
試料名 含有量参考値 埋立基準(溶出試験) 含有量参考値 環境基準(溶出試験) 含有量参考値 環境基準(溶出試験) 含有量参考値 環境基準(溶出試験)
破砕選別施設地下ピット沈殿汚泥 9.43 1820
1号炉スクラバー汚泥 76.2 20.9 15100 16
1号炉焼却灰 1490
2号炉スクラバー汚泥 3.73 34.0 2410
2号炉焼却灰
2号炉焼却炉灰出口沈殿汚泥 16.2 1100
1号炉集塵灰 118 4050 58.7

3,考察
2の結果より土壌汚染の原因及び汚染範囲は、次のように判断できる。
1)土壌の色から判断して、灰色の地域2箇所が土壌汚染の地域と考えられる。
2)電気伝導度から判断して、100mS/mを越える地域2箇所の土壌が汚染地域と考えられる。
3)26項目の金属類などの濃度比(ダイアグラム)から推定すると、土壌汚染地域は2箇所と推定される。
4)汚染原因は、色及び各種金属類などの濃度比から、スクラバー汚泥もしくは焼却灰を洗い出した微細粒子状の汚泥と判断できる。
5)これらを総合的に判断すると、スクラバー汚泥若しくは焼却灰を洗い出した微細粒子状の水分の多い汚泥が放出され、2箇所の局所的な地域が汚染されたものと判断できる。