Dark Moonglow Magicians


ランプ

蒼い星 I wish(その1) 蒼い星

 そのとき、ユンは耳元でなにかの音を聞いていた。
 すすり泣くような、そんな小さな音を。
 なんだろう、と思いながら眠い目をこすり、自分の上にかかっていたふとんを剥がして起きあがる。
 すると、枕元で体育座りのようにして脚を抱えて座り込んでいるヤンが、はっきりと暗闇の中に馴れたユンの瞳に映し出された。
「ヤン」
 話しかけてはならない状況だと分かっていながらも、ユンは何故ヤンが泣いているのか、その理由がどうしても知りたかった。
 ユンの声を聞いた途端ヤンは驚いたようで、肩を大きく揺さぶった。
「どうしたんだよヤン?恐い夢でも見たのか?」
 『違う』と答えるに決まっているだろうから、案の定冗談ぽくなるべく明るめに聞いてみたのだが、そのユンの考えに反して、ヤンはゆっくりと静かに首を縦に頷かせた。
 意外な答えに笑うのを止めると、ユンはヤンの側に寄った。
「どんな夢、見た?」
「・・・ちゃう夢・・・」
「え?」
「ユンが・・・俺の側から居なくなっちゃう夢・・・」
 かたかたと小さく細い肩を震えさせながら、ユンにしか聞こえない程度の小さな声で、ヤンは言った。
「真っ暗で、俺独りで、独りっきりで・・・ユンっていっぱい呼んでも、ユンは居なくて・・・恐くて、恐くて、死んじゃうかと思った」
「そっか・・・」
 ふう、と息をつきながらユンはあぐらをかいた。
「恐いよユン・・・すごく恐い、よう・・・・・・っ」
「・・・」
 正直言ってユンには、ヤンがこんなことを言うなど信じられなかった。
 ユンの知っているヤンは、兄である自分よりも頭の回転が数倍も良く、拳法の練習はサボろうとしないし、いつも強気でプライドが高く、自分を育ててくれた祖父を少しでも馬鹿にする者は絶対に許さない。
 そんなことがあれば、自分よりも数倍体が大きな者にでも自らファイトを挑む。
 でもたまにどこか可笑しな発想や、ユンに優しく抱き締められると照れながらも心から嬉しそうな表情(カオ)をする。
 ヤンは、そんな弟。
 しかし今ユンの瞳に映っているのは、そんな面影がまったくどこかに失せてしまった弟のヤン。
 一体なにがこんなにもヤンを苦しめるのか、ユンは、ヤンの途切れ途切れに伝わる言葉を聞きながら考えていた。

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