AC-DCアダプタが沢山…ある?
事の始まりは、AC-DCアダプタを実験使うことが多くなったことです。 重たく数の少ない可変電源を引っ張り出してくるより使いやすいですからね。
手持ちのAC-DCアダプタは、φ2.1プラグ/スイッチング式のため小型で軽い電圧が安定。 しかも 3.0V,3.3V,5.0V,9.0V,12.0V,15.0Vと電圧も豊富。
ただ、可変電源様に簡単に消費電流を見ることを出来ません。
そこで、AC-DCアダプタとターゲット(実験機器)の間に電流計を挟む事にしました。 アナログメータを買ってきて着けてもいいのですが、測定回路を組むことを考えます。
ハイサイドとローサイド
測定は、シャント抵抗の両端の電圧を測って換算する方法を取ります。 よくある方法なので簡単に思われますが案外難しいのです。
負荷の電源側を測るのがハイサイド測定。GND側を測るのがローサイド測定です。 それぞれ、メリットやデメリットがあります。
ローサイド測定は、GNDが基準になるので回路が単純になります。 ただ負荷のGNDが浮く状態になりますので、ケーブル等で他の機器に接続すると正常に測れないことあります。 装置内部の特定部分の電流を測るのに使われることが多いです。
ハイサイド測定は、高(低)電圧側が基準になるので回路が複雑になります。 複数電源を個別に測ることが出来ます。 2015年現在電流計測用ICが沢山出ていますのでそれを使うとよいです。 また負荷に掛かる電圧が測定回路の電圧より高(低)い時、 GNDを分離する場合があります。この場合は、測定回路側が浮きます。
今回はAC-DCアダプタに着ける汎用型になるので、ハイサイド測定にします。
構 想
INA138やINA225またはINA230(TI製)などのシャント抵抗専用ICを使うのが便利で良いのです。 が、入手性が良くなく価格も高いので少し考え物です。
私が良く使うオペアンプの『LMC6482A/LMC6484A』を使って電流を測定する方法が、 データーシートのアプリケーション例として載っています。 また、電源さえ用意(昇圧型DCDC等)できれば汎用のLM358/LM324でも動作させることが出来ます。
古典的な構成らしいのですが、これを使って電流計を作ります。
動作原理
動作原理は、単純です。 左図は、動作原理がわかりやすいようにアプリケーション例の部品配置を換えています。
オペアンプは、IN+とIN-が同一電圧になるようにトランジスタを制御します。 後は、抵抗比で倍率が決まり電流が換算されます。 ただし回路構成により誤差が出ます。
VO = R3 * (R1/R2)* IL … R1 << R2
ILは負荷電流
トランジスタのベース電流IBは、R3に流れ込む為誤差の原因の一つです。 また、オペアンプの入力オフセット電圧も誤差の原因です。
仕 様
- 電圧 : 3.0V, 3.3V, 5.0V
- 電流 : 0A~2A
- 測定 : 電流(最小1mA刻み フルスケール2A 2.5%)
: 電圧 (最小0.01V刻み フルスケール5.5V 1.0%) - 表示 : 別途検討
測定精度は、アナログのパネルメータ(2.5級)相当でいいかなと。 本来デジタルメータならなら1.0%~0.5%位の精度で作りたいですが、 この回路構成は精度が悪くしかも手持ちの汎用品では2.5%位がいい所と思います。
精度について
今回は補正無しアナログ部の精度を考えます。
フルスケール2A 2.5% ですので 2A指示の時は、2.05A~1.96Aになります。 0.01A(10mA)は、0.06A~0.00Aになります。
もし1mA指示の時は、51mA~0mAになります。 これが当たり前の精度ですが余りにも大雑把過ぎるかな?
対応としては、表示レンジを切り替えてフルスケール200mA 2.5% にして1mA指示の時を、 6mA~0mAにすると良いかなと思います。
最小測定電流値を1mAにするか 10mAにするか試作をしてみて決めることにします。 温度変化やオフセットがどの程度に収まるかで決まります。
試作1
手持ちの部品を調べてみてシャント抵抗(0.01Ω 1% 1W ±40ppm/℃)があったのでこれで作ることにしました。 比率的に200Ω 1% / 20kΩ 1%で電流測定部を構成しました。
制御用のTrは、MOS-FETからBJTに変更しています。 MOS-FETは、4.5V駆動の物でもゲート電圧を1.8V以上掛けないと制御できません。 という事は、3.0Vでは1A以上は測定できないことになります。 手持ちに無いのですがMOS-FETでも、0.9V位で制御できるものもあるのでそれを使えれば良いのですが… (または出力電圧を下げれば測定できるようになります。) ただしFETは、電圧制御ですので、出力に殆ど誤差は出ません。 変更後のBJT(バイポーラトランジスタ)は、0.6Vからの制御になりますので、3.0Vでも問題ありません。 ただし、電流制御ですのでベース電流分が誤差になります。 (誤差を少なくするためには、hfeの高いものを使用します。)
動作結果
計測時0.1mVの桁が安定しません。完全に電流検出抵抗が小さいようです。 直線性は、まずまずかな? オフセット補正等は、桁安定しないと意味が無いですね。。
-
各オフセット
- IN:5.0V / OUT1 : -27.5mV
- IN:3.3V / OUT1 : -0.5mV
- IN:3.0V / OUT1 : 25.2mV
電 圧 (V) | 3.0 | 3.3 | 5.0 |
---|---|---|---|
電流 (mA) | 出力 (mV) | 出力 (mV) | 出力 (mV) |
0 | 25.2 | 0.0 | 0.0 |
1 | 25.9 | 0.4 | 0.0 |
2 | 27.1 | 0.8 | 0.0 |
3 | 28.0 | 1.6 | 0.0 |
4 | 29.0 | 2.4 | 0.0 |
5 | 29.9 | 3.4 | 0.0 |
6 | 30.7 | 4.2 | 0.0 |
7 | 31.8 | 5.1 | 0.0 |
8 | 32.5 | 6.4 | 0.0 |
9 | 33.5 | 6.9 | 0.0 |
電流 (mA) | 出力 (mV) | 出力 (mV) | 出力 (mV) |
10 | 34.4 | 8.0 | 0.0 |
20 | 44.8 | 17.8 | 0.0 |
30 | 55.2 | 27.5 | 3.0 |
40 | 65.6 | 37.5 | 12.7 |
50 | 76.5 | 48.2 | 23.3 |
60 | 87.0 | 58.1 | 32.5 |
70 | 97.3 | 68.1 | 43.3 |
80 | 107.5 | 78.7 | 52.9 |
90 | 118.0 | 88.3 | 62.8 |
電流 (mA) | 出力 (mV) | 出力 (mV) | 出力 (mV) |
100 | 128.5 | 98.9 | 72.9 |
200 | 232.1 | 198.1 | 172.4 |
測定日2015/06/06
試作2の結果と併せてみて見ると、
20kΩ 1% を 2kΩ 1% にすれば、フルスケール20Aで、最小0.01A刻みで使えそうです。
電流を流すには (定電流回路)
電流を測定するには、負荷を繋いで電流を流さないといけません。 簡単に言えば抵抗を繋げはいいのです。
ただし固定抵抗では何種類も必要になるので、可変抵抗を使います。 ですが、少し工夫して可変型定電流回路にします。 これで被測定側の電圧を変えても同じ電流が流れます。
電子負荷?
回路構成上、電子負荷といえないこともないです。定電流モードですね。 ただし、定抵抗モードや定電力モードまたステップ応答とかは測れません。 (電子負荷は結構高価な機器ですしね。)
今回は、200mAも流せれば良いので手持ちで簡単に組んでいます。 CR2023を電源にしたので5時間位かな稼働時間は。
可変抵抗は、10kΩA です。Aカーブを使用します。 Bカーブでも1mA~200mA位ですから数mAづつの調整が出来ますが、 1mA~2Aになると指数仕様にしないと使い難くAカーブを使用します。
一応 5V 2A 10Wならこのこの程度の回路になります。(作ってません。) 追記2017/03/25 電流検出抵抗は、1Wになってますが 10Wが必要です。2V/2Aで4Wありますから。
使い方
今回は、右の図のように接続して使います。 後は、可変抵抗を動かし電流値を決めて電圧値を読みます。
電流と、出力のデータを取ってグラフ化しました。 安物の可変抵抗ですが、±0.2mA位まで調整できまずまずといったところです。
試作2
シャント抵抗
シャント抵抗は、電流検出に使われる抵抗で精度は 5%~0.01% 温度係数 ±50ppm/℃以下ものが使われます。 大電流(100A~)を扱うシャント抵抗は、金属板その物や放熱構造持ったものまであります。 発熱すると精度に影響するので、特にワットと温度係数は十分余裕を持った方が良いです。
ですので炭素皮膜抵抗は不向きです。普段あまり気にしませんが、温度係数-300~-1,500ppm/℃程度はあります。 金属皮膜か酸化金属皮膜の±100ppm/℃以下なら使えると思っています。 セメント抵抗も抵抗体が金属皮膜ならいいかな。
手持ちに金属皮膜の0.1Ω 5% 1W ±100ppm/℃ の物がありました。 これで試作してみます。
閑話休題
電流測定に話を戻しまして、計測の安定性が悪い原因はシャント抵抗が小さく計測している電圧が低い為です。 電源電圧との電位差を 1mA×0.01Ω=10μV ⇒ 1mA×0.1Ω=100μVにしてみます。
アプリケーション例に沿って抵抗は100Ωと1kΩにしますが手持ちに金属皮膜が無かったので、 炭素皮膜抵抗の100Ω 5% / 1kΩ 5%にしています。
炭素皮膜抵抗を使うと使用温度 25℃±10℃として2.5%に収めるのは少し無理かも。
温度係数-500ppm/℃としても20度温度が変わると1%抵抗値が変化します。
のでその他の誤差や温度変化を1.5%以下に抑えないといけません。
注. 使用温度は、ケース内等で-5℃~65℃等に設定することが多いです。
部品固有の許容差は単純に補正すれば良いけど、 温度による変化は温度にあわせて補正しないといけないので精度内に押さえ込むが基本です。 ですのでちゃんとしたものには±100ppm/℃以下の部品を使いましょう。
配線もインダクタを通さない形式にしています。 またあまり影響は無いと思いますが、ICの電源と0.1Ωの最短に配置しました。 出来るだけ4端子測定になるように配置しています。 本来なら0.1Ωの端子の根元に測定端子を付けるのが良いですが、まっ気分だけでも。
動作結果
計測時0.1mVの桁は安定しました。アプリケーション例の数値は伊達ではないですね。
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各オフセット
- IN:5.0V / OUT1 : -0.1mV
- IN:3.3V / OUT1 : 1.3mV
- IN:3.0V / OUT1 : 2.2mV
電 圧 (V) | 3.0 | 3.3 | 5.0 |
---|---|---|---|
電流 (mA) | 出力 (mV) | 出力 (mV) | 出力 (mV) |
0 | 2.2 | 1.3 | 0.0 |
1 | 3.3 | 2.3 | 0.7 |
2 | 4.2 | 3.3 | 1.7 |
3 | 5.2 | 4.2 | 2.7 |
4 | 6.3 | 5.2 | 3.7 |
5 | 7.3 | 6.2 | 4.7 |
6 | 8.3 | 7.2 | 5.6 |
7 | 9.3 | 8.2 | 6.5 |
8 | 10.3 | 9.2 | 7.5 |
9 | 11.3 | 10.2 | 8.4 |
電流 (mA) | 出力 (mV) | 出力 (mV) | 出力 (mV) |
10 | 12.4 | 11.2 | 9.4 |
20 | 22.5 | 21.2 | 19.6 |
30 | 32.7 | 31.2 | 29.3 |
40 | 42.9 | 41.2 | 39.5 |
50 | 52.8 | 51.2 | 49.3 |
60 | 63.1 | 61.1 | 59.1 |
70 | 73.2 | 70.9 | 69.2 |
80 | 83.1 | 81.0 | 79.3 |
90 | 92.9 | 90.9 | 89.2 |
電流 (mA) | 出力 (mV) | 出力 (mV) | 出力 (mV) |
100 | 103.3 | 100.9 | 99.0 |
200 | 203.1 | 200.6 | 198.1 |
測定日2015/06/08
考 察
今回は、0mA~200mAを計測しています。 0.2A~2Aは、シミュレーションを掛けて見ていますが多分問題ないと思います。
シャント抵抗 0.1Ωで0.01A(10mA)単位では、温度変化を含めてもフルスケール2.5%をクリアできます。 また、オフセット補正を掛ければ、1mA単位でも計測可能です。 ただし電源電圧の変化でオフセット値が変わりますので、それなりの対応が必要です。
シャント抵抗0.01Ωでは、フルスケール20Aなら使えそうです。
さって表示はどうするか?
デジタルで表示する場合は、A/D変換をしないと行けません。
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2Aフルスケールの時
- 最小0.01Aなら200ステップ
- 最小5mAなら400ステップ
- 最小2mAなら1,000ステップ
PIC等のADC10ビットでも十分使えそうですね。
設計はPICを使ってテジタル補正を掛ける仕様になるでしょう。 0mAから1.8Aで、最小1mAという方針で行きたいですね。
続く。 …… かも
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