ばびんの柩の部屋


「漆黒の海を往く」  第一回


登場人物  Curter  Tania  Elizabeth  Harry  Jeff  Megumi 

 緊急事態によって、スターシップ(宇宙旅客機)から緊急脱出用シャトルで脱出した六人。
しかし、彼らが遭難信号を出しつづけているにも関わらず、一向に救援が来る気配はない。
彼らはタンクのスリープ機能(超低温睡眠)を使用することにして、一年に一回の集会のときのみ、睡眠から解き放たれて、テーブルもない
談話室で話しをする。ところが12年目、機械の原因不明の故障でCurterが死亡した。それでも彼らは救援を待ち続ける。
 
 そして今回が21回目の集会。すなわち、21年目である。


Elizabethのタンク(スリープ機能付きのベッド)が、ごくわずかの機械音とともに開く。

E「・・・・・・ん・・・・・・あ、もう一年経ったのね・・・」

Elizabethはタンクから出ると、よろけながら化粧室へ向う。

E「はは、ひっどい顔ねぇ。まあ、一年も寝ていれば当然か・・・」

彼女はそれから一年ぶりのシャワーを浴びて、化粧をすると談話室へ向う。
談話室といっても脱出用シャトルのために、ひどく狭く、テーブルもない。

談話室にはHarryとJeffとMegumiがすでに集まって来ていて、入ってきElizabethを見ると、一年ぶりの挨拶を交わした。

M「Hi! エリザベス。良く眠れたかしら?」
E「ええ、とっても。時がたつのを忘れるくらい眠ったわ」
J「おはよう。コーヒーでも飲むかい? エリー」
E「そうね、お願い」
J「OK」

床から立ちあがるとJeffは給湯室へ行く。

H「また、ダメだったみたいだな。この分じゃ永久に宇宙を放浪してるしかねえんじゃねえのか?」
M「やめてよ! そんなこと言ったってどうしようもないじゃない」
H「ふん、どうしようもねえから、そういうことを言ってるんだろうが」
E「ハリー。不安なのはわかるけど、メグミに当たるのは止めなさい」
H「自分は冷静だとでも言いたそうだな。だが、おまえだってパートナーが死んだときは混乱してたろうが」
E「っ・・・・・・・・・」
M「ハリー、反則だわ。その件を持ち出すなんて・・・」
H「うるさい」

Jeffがコーヒーを持って戻ってくる。

J「おい、止めとけハリー。 ほら、コーヒーだよ。エリー」
E「ありがとう・・・そういえば、点検はもうやってしまったの?」
J「ああ、俺とハリーで見回ってきた」
E「エネルギーは?」
J「一年間分きっかり減っていたさ。まあ、とりあえずこれといった問題点はない」
E「そう・・・よかった」
H「ふん、遭難信号に誰も応じないところも、問題はなしか」
J「ハリー!」

Harryは何も言わない。
Megumiは立ちあがると、窓に近づいて外を覗く。

M「奇麗ね・・・でも怖いわ。わたしたちが地球を出たときにはまだ、宇宙がどこまで広がっているのか分からなかったわね。今でも、未知の空間なのかしらここは。でも、わたしたちは一体どこにいるの? そんな問い、記憶喪失の人にしか、必要じゃないと思っていたのに」
J「宇宙は・・・膨張する球体だと、ある有名な学者が言っていたな。何億年もかけて膨張して、臨界点に達すると今度は収縮し始める・・・」
M「風船みたいね・・・」
J「そうだな。ただ、宇宙はその始まりのときに爆発するという違いがあるけど…」
E「ずっと飛んでいれば、いつかは宇宙を一周することができるのかしら?」
H「エネルギーが足りるわけないだろうが」
J「ハリー、お・・・」
E「そうね・・・」
J「エリー・・・」

数瞬の沈黙。

M「あら・・・ターニャがまだ来ないわね。わたしちょっと見てくるわ」
E「え? あ、そうね、お願いするわ」
J「コーヒーカップ、下げるよ」
E「ええ・・・」

Megumiはターニャの部屋へ。Jeffは給湯室へそれぞれ退室する。

H「なんでだ? なんでこんなことになっちまったんだ・・・」
E「・・・脱出してすぐに遭難信号を出せていれば、すぐに探知されていたかもしれないわね。でも、私達は素人で、計器の操作法は分からなかったわ。だから、今は待つしかないんじゃないかしら。誰かが見つけてくれるのを」
H「誰かって誰だよ。あれからもう21年も経ってるんだぞ。一体誰が、俺達を発見できるって言うんだ」
E[21年経ってるから・・・その分科学も進歩して、電波を補足しやすくなってるはずだわ。・・・それに、期待しましょう」
H「おまえは、おまえはカーターが死んでからずいぶんと冷静になったな。なぜだ? いや、理由なんかどうでもいい。・・・その冷静さは必要だ。さっきは済まなかった。どうも、俺は俺が思っているよりもずっと、弱い男らしいな」
E「いいえ・・・私だって・・・」

Jeffが給湯室から顔を覗かせて。

J「おい、いま声が聞こえなかったか?」
H「声? ターニャとメグミが話しているんだろう」
J「いや、そういう声ではなくて・・・こうもっと・・・」
E「もっと?」

Taniaの部屋のあたりから
Megumi「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


     第一回了


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