ばびんの柩の部屋


「漆黒の海を往く」  第二回


登場人物  Curter  Tania  Elizabeth  Harry  Jeff  Megumi 


 Megumiの悲鳴に三人は一瞬硬直して、次の瞬間には走り出していた。
といってもシャトル内は狭く、各個人の非常に狭い部屋と操縦室と談話室以外には何もないので、三人はすぐに声の主の元にたどりつく。
Taniaの部屋の中。

E「どうしたの! メグミ……!!! ひっ!」

後から他の二人も室内へ。

J「うっ。これは一体…。メグミ…一体何があったんだ?」
H「…こいつは…ターニャ…」
M「わ、わからないわ…、私がここに来たときにはもうターニャはこの…この状態だったわ」

部屋の奥にタンクがあり、その中でTaniaは死亡していた。上半身は粉々になっている。
超低温睡眠のためだろう。
タンクはケース状をしていて、上半分の蓋に相当する部分は閉じられたままであるが、透明なので中をうかがうことはできる。

E「スリープ時になにかあったんだわ。……ひどい…顔まで…」
J「だけど…本当にターニャか? これだけ粉々にされると…う…」
E「ターニャだわ。着ている服が一緒だし、ほら、足を見て、指にリングがしてあるわ。…これ、彼女のよ…」
M「…………」
J「大丈夫か? メグミ」
M「え、うん。あ、だめ吐きそう…」
E「洗面所へ行きましょう……ハリー、ジェフ、少しそこで待ってて」
J「ああ…」

ElizabethとMegumiは洗面所へ。

H「ちっくしょう! 一体誰がこんなことをしやがったんだ!!」
J「一体誰が…、いや、ターニャを殺したのが外部の人間なんてことはありえないぞ」
H「なに? な…そうかこのシャトルに俺達以外の人間が乗れるはずがない。じゃあ、俺達の中の誰かがターニャを殺したとでもいうつもりか?」
J「事故には見えないだろう? ターニャは明らかに意図的に殺されてるじゃないか」
H「は…、俺じゃねえぞ。第一俺にはターニャを殺す理由がない」
J「動機か、だけど動機なんて当てにならない。人間の思考と一緒であとからの意味付けに過ぎない」
H「ジェフ、きさま……」
J「だけど、俺はおまえが殺したと言っているわけじゃない」
H「じゃあ、一体誰がやったって言うんだ」
J「……わからない」

洗面所からElizabethとMegumiが戻ってくる。

J「大丈夫かい?」
M「ええ、なんとか…。ごめんなさい、取り乱してしまって」
J「いや、そんなことは別に構わないさ。……今ハリーと話していたところだったんだ、ターニャを殺したのは一体誰だってね」
E「! そう、そうね。私達の中の誰かってことになるわね……」
M「そ、そんな……どうして? 一体誰が彼女を殺したっていうの?」
H「どうもこうもねえだろ。実際ターニャは死んでるんだからよ。こうして、目の前で」
M「事故じゃないの?」
H「見りゃわかるだろう。一体どうしてあんな粉々になるような事態が殺人以外に考えられるってんだ」
J「うん、悲しいけどハリーの言う通りなんだ。彼女は、ターニャは殺されたとしか考えられない」
E「そしてそれは私達以外の誰かとは考えられない……。誰が……殺したの?」

誰も何も言おうとしない。神経を緊張させる一種の沈黙が場を支配する。

J「とにかく、ここを離れないか? どうも、気分が悪くなってくる」
M「うん。わたしも早くここを離れたいわ……」

四人は談話室へと場を移す。

J「普段ならこの時間は食事をとるんだが……。さすがにそういう気分にはなれないね」
E「そうだわ。わたしたち、もうスリープに入らないと……」
H「なんだと! 冗談だろう? いくらなんでもこんな、誰が犯人かもわからない状態
で、またスリープに入るなんて、自殺行為だ」
M「そ、そうよ。そんな……次起きたときまた誰かが殺されてるかもしれないじゃない」
E「確かにその通りね。でも、食料が残り少ないのよ。あと九日分しかないわ。
もしずっと起きていれば、私達はあと九日で食料を失うことになるのよ」
J「そうだ。だけどスリープすればそれは二十七年分になる。一日を日常的に過ごせば一日で三食でも、俺達が起きているのは六時間だけだから、二十七年生きられる」
H「生きられるだと!次起きるときには犯人以外は全員殺されてるかもしれないのにか」
E「だけど起きていれば九日で確実に食料を失うわ。いえ、一日一食にしても二十七日が限界」
M「どちらにしても、死ぬのね……」
J「そうとも限らない……とエリザベスは言いたいんだろう?」
E[ターニャを殺したことで、犯人の気が済んだということが考えられるわ」
H「まだ殺すとも考えられるんだろう?」
E「そうよ。でもそれはこの場合、つまり選択肢が二つしかなくてしかも片方が確実に死に直結してるのに対して、まだスリープした方が生きられる可能性があるわ」
H「確かに、これまで21年漂流しつづけて救出されなかった俺達が、たったひと月で助けを得られるとは考えられないが……犯人が俺達を殺さない確率がどの程度あるっていうんだ?」
M「いやよ。わたしは……殺されるなんて、絶対にいや。それなら餓死した方がましだわ…」
E「そんなセリフは軽々しく言わないで欲しいわねメグミ。餓死はあなたが考えている以上に辛い死に方よ。食料がなくなれば人は草をむしってでも食べようとするわ。ここにはそれもない……あるのは死体だけ。起きていれば私達はきっと、死体を食べるかどうか、の選択をせまられることになるわね」
M「い、いやよ! 死体を、た、食べるなんて……」
H「結局、どちらかを自分で選択しなちゃならないってことか」
J「そう、そういうことだ。ただ、一つだけ言えることがある……それはつまり、犯人が俺達を殺せたはずなのに殺してないってことなんだけどね」
M「どういうこと?」
H「あ……」
J「犯人はおそらく、俺達よりも早く起きた……ということは分かってもらえると思う。ターニャは眠ったまま殺されていたからね。ということは、犯人は俺達が起きるまでの時間を利用して、俺達を殺すこともできたはずだろう? でも、実際には俺達はぴんぴんしている」
M「それで…エリーはスリープした方が良いと?」
E「ええ……。でも完全に犯人の考えを捕らえているとは言えないかもしれないわ。ただ単に、私達が怖がるのを楽しんでるだけかもしれないから」
H「ここでこうして顔をつきあわせてな」
J「それは、考えても仕方のないことだよ。ハリー。お互いに疑いはじめたら疑心暗鬼に陥って、正常な判断ができずに、相互に殺し合うという事態に発展する可能性だって
あるんだから」

会話は突如として途切れる。おのおのがそれぞれの考えに耽る様子がうかがえる。

Megumi「少し……考える時間をちょうだい。何かさっぱりした飲み物、ないかしら…ジェフ」
Jeff「ああ、あるよ。オレンジジュースでいいかな?」


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