『別れを癒す、日々のことば』
マーサ・ヒックマン(雨海弘美/訳)
角川書店


 出逢いがあれば、いろんな別れもある。ことの道理である。
 そして、この世に生を受けた以上は、この世を去る日もやってくる。だれにでも平等におとずれる。

 三人の幼い子を残して病に亡くなった女性は、「どうしてこんなことに」とは嘆かなかった。
「神様、この病はなんのために?」と勇敢に問うていたという。
 先日その話をしてくれた人はやはり、数年前に夫を病気で亡くしている。上は小学生から下はまだ1歳の三人の子を抱えて。悲しい出来事にもきっと意味があると、いつか必ずわかるときがくるはず、と穏やかに語ってくれた。彼女だからこそ重みをもって語れる言葉だと思った。

 重い悲しみの真っ只中で、この経験から何か良いものが生まれると言われても、簡単に信じることはできません。そうほのめかされただけで、怒りさえ覚えるでしょう。まるで時期尚早な譲歩案を突きつけられているような、真っ暗闇の世界で「光」の押し売りにあっているような気がします。

 作者のマーサ・ヒックマンは、家族旅行中に16歳の娘を落馬事故で亡くした。それから長い長い年月が過ぎ、自分には語る資格がある、人生とも調和していると感じた彼女は、悲しみに暮れる人々のために瞑想の本を書こうと思い立ったという。それがこの本である。

 たしかに決して「立ち直る」ことはないでしょう。元の自分には二度と戻れないでしょう。でもこのままずっと喪失感にさいなまれるわけではありません。いずれより大きな世界が、目の前に現れるでしょう。(中略)
新たな世界には、影も多いでしょう。ただし、光の輝きも増しているはずです。

 悲しみの姿は一様ではない。しかし、どんな悲しみの中にある人にも、再び光が射し込み、あたたかく照らしてくれることを信じて───。

(2000.8.31)



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