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冬木 透(ふゆき・とおる)

作曲家。
1935年3月13日生。旧満州新京生。エリザベート音楽短期大学作曲科卒。同・宗教音楽専攻科修了。国立音楽大学作曲科卒。

父親は医者で、満州を転々としていたときに生まれ、少年時代を満州ですごす。
小学校入学以前から漠然と音楽家を志していた。
1949年帰国し、高校卒業時、父のあとを継いで医者になるか、音楽の道に進むか悩んだ末、当時新設されたばかりのエリザベート音楽短期大学に進学する。
短大卒業後上京。さらに音楽を学びたくて、1957年、国立音楽大学に編入。私立大学の月謝を稼ぐために、師事していた作曲家・市場幸介の紹介で、KRC(現TBS)の効果団の仕事をするようになる。
TBSの効果マンとして、ラジオやテレビドラマの効果音の仕事を7年間続けるうちに、音響演出をすべて引き受けるようになり、その延長で、劇伴の作曲をするようになった。

初の劇伴作品は、「鞍馬天狗('56-'59)」の音楽。冬木透のペンネームもこのときから使い始めた。
以後、TBSに所属しながら「銭形平次捕物控('58-'60)」「捜査検事('64)」「ただいま11人('64-'67)」などテレビドラマの音楽を多数担当。1967年、音楽一本でやっていこうとTBSを退社。同年「ウルトラセブン」の音楽を依頼される。

「ウルトラセブン」以降、円谷プロ作品を数多く担当。「ウルトラマン」の宮内國郎と共に、同社の音楽的イメージを決定づけた。
円谷プロ作品には、

などがある。
「帰マン」「A」では、劇中歌の作詞を自ら手がけるなど、特撮作品に対する愛情は並々ならぬものがある。自らも「メロドラマよりもこういった宇宙的なスケールのものが好み」と語るように、テレビに収まりきらないスケールの特撮テレビ映画の音楽家として、冬木透ほどの適任はいなかった。

ほかのテレビドラマ作品には、時代劇「風('67)」、特撮時代劇「妖術武芸帳('69)」、NHK朝のテレビ小説「鳩子の海」など。
アニメーション作品では、「太陽の牙ダグラム('81-'83)」「機甲界ガリアン('84)」「牧場の少女カトリ('84)」「コボちゃん('90)」(中島彰と共同)などがある。変わったところでは、「機動警察パトレイバー」オリジナルアルバム用の挿入歌作曲(特車隊の歌)というのもあり。

劇場用作品では、実相寺昭雄監督のATG3部作「無常('70)」「曼荼羅('71)」「哥('72)」が特撮ファンには有名(映画は特撮ではない)。

冬木音楽の魅力は、大陸出身らしい雄大な曲想と、クラシックの素養を生かした重厚なオーケストレーション、というのが一般的な評価だが、魅力はそれだけには収まらない。
情景描写曲や心理描写曲で聞かれるリリシズムと哀愁をたたえた美しい室内楽風の曲や、無調音楽やインプロビゼーションといった現代音楽の技法で作曲・演奏されたミステリー曲、「ULTRA SEVEN」「TACのうた」などに代表される軽快で勇壮な防衛隊テーマなど、どれも冬木透ならではの魅力にあふれている。
「ウルトラセブン」の劇伴の1曲「フルートとピアノのための協奏曲」は、そのままクラシック音楽として通用する本格的なもの。単に「クラシック風」の曲を書く作曲家とは一線を画している。

さらに冬木音楽の魅力を高めているのが、作品イメージをみごとにスコアとして表現する、音楽設計の的確さ。
たとえば、「セブン」は宇宙的雄大さを表すスケール豊かな曲、「帰マン」は悲壮かつ勇壮、「ミラーマン」は重く硬質な音楽と、作品ごとに、音楽だけでその作品のイメージを髣髴させるような書き分けをしている。
また、氏が自ら選曲も担当した「セブン」「帰マン」では、音楽と映像が、溜め録り音楽とは思えぬほどみごとなコンビネーションを見せていた。
こうした音楽監督的アプローチには、冬木透が、効果を含む音響演出を手がけていたことが生かされているに違いない。

純音楽作品に、オルガン曲「黙示録による幻想曲」がある。
1993年の円谷プロ創立30周年記念コンサートでは、円谷プロの委託を受けて書いた「交響曲 ULTRA COSMO」を初演。自らパイプオルガンを演奏してウルトラ音楽の集大成を聴かせてくれた。

桐朋学園大学・作曲理論科教授。 '98/5/27


冬木透といえば「ワンダバ」。
出動シーンにかかるこの男性コーラスは、冬木透と円谷プロ作品の署名みたいなもので、「ミラーマン」や「ファイヤーマン」でも形を変えて使用されています。
メカデザインで有名な「スタジオぬえ」では、ロボットアニメの出動シーンの設定を「ワンダバ」と呼んでいたとか。

東宝特撮映画世代が伊福部昭を音楽的原体験として持つように、「ウルトラセブン」世代の音楽的原体験は冬木透といってよいでしょう。
「セブン」前奏のワーグナーのような響き、「帰マン」などのワンダバ・コーラスや勇壮な戦闘テーマは、子ども心にも忘れられない音楽的刷り込みとなりました。長じても器楽曲やシンフォニーを好むのは、この原体験のせい。

なお「ウルトラマンA」では、バイオリンの先生役でちょっとだけ出演しています(どこかわかるかな)。 (猫)'98/5/27


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[ほ]

保富康午(ほとみ・こうご)

作詞家。構成作家。
1930年3月2日生。東京都出身。同志社大学卒。
1984年9月19日没。

小学校のころ大阪西宮市に転居し、関西で育つ。
学生時代から詩人・村野四郎の弟子として詩を書いていた。
28歳ごろ、知人からミュージカルの台本の依頼を受けたのをきっかけにテレビの仕事を始め、NHK「紅白歌合戦」「ビッグショー」、フジテレビ「ミュージックフェアー」などの構成を担当する。
舞台構成家として、五木ひろし、八代亜紀、島倉千代子、加山雄三、杉良太郎らのリサイタルなども構成した。 こどものための歌も多く書いており、外国曲の童謡「大きな古時計」「ゆかいに歩けば」などは保富訳が定番になっている。

アニメソング作詞は、1974「ジムボタンの冒険」から。
以後、70年代中期から80年ごろにかけて、テレビアニメの主題歌・挿入歌の作詞を多数手がけた。
作品に、

など。
「グランプリの鷹」では、原作も担当している。

その詩の世界は、子ども向けにやさしいことばを使いながら、内容は骨太で独特の世界観を持っている。
主人公や技の名前を連呼するだけの詩ではなく、逆境の中でも前向きに生きるガッツと、何か価値あるものをつかもうとする主人公の想い(に託した保富自身の想い)が強くこめられた詩だ。

生前、氏は、自分の詩は、子どもの歌であるからこそ、「子どもにならわかる真実、子どもになら聞いてもらそうな自分の本音」を託したのだ、と語っている。
それが、「作詞家の良心、自分の爪痕くらいは残してみせるという執念」であると。
「キャプテンハーロック」や「ギンガイザー/さがしにいかないか」「ガッチャマンII/明日夢みて」などにこめられた強いメッセージ性は、ここから来るものだろう。

ご本人は、「キャプテンハーロック」挿入歌「むかしむかし」を気に入っていたという。 '98/5/27


「男の詩」を書かせたら右に出る者がいない保富康午。
「キャプテンハーロック」は、まさに氏の代表作でした。

で、氏はまた、こうも語っているのですね。
「子どもが辛いときに、ぼくの詩のふとしたフレーズでなぐさめられたらいい」。

保富氏の詩は、絶望的な状況の中でも力いっぱい生きようとする、ひたむきな”人間の詩”であります。
氏の歌がいまなおアニメソングのスタンダードとして歌い継がれているのは、番組の人気や曲のよさばかりでなく、氏が歌にこめた想いが、時代を超えて人の心を打つからなのだろうと思います。
いま生きておられたら、チャラチャラとしたヌルいアニメソングの詩に、エルボークラッシュをかましてくれただろうにと、若くしての死が惜しまれてなりません。 (猫)'98/5/27


ボブ 佐久間(ぼぶ・さくま)

作曲家。編曲家。
1949年5月5日生。兵庫県宝塚市出身。京都市立堀川高校音楽科卒。
4歳の頃からバイオリンを習い始め、高校卒業後、東京交響楽団に入団。
のちキーボード奏者に転向し、スタジオ・ミュージシャンとして活動する。
1971年、第1回東京音楽祭の音楽をきっかけに作・編曲家としてデビュー。
数々のテレビ番組やCMの音楽を書いたが、'77年渡米、以後8年間、ハリウッドを拠点に現地で音楽活動を展開した。
帰国後、CMやテレビ番組の音楽に復帰。
テレビドラマやバラエティー番組の音楽のほか、少年隊の舞台「PLAYZONE」の音楽監督も担当している。
1995年から名古屋フィルハーモニー交響楽団ポップスオーケストラのミュージックディレクターに就任。音楽監督、指揮者として活躍中。

テレビドラマでは、「特別機動捜査隊('61-'77)」(後期)の音楽が有名。
最近作に、'98年TBS系ドラマ「番茶も出花」がある。

テレビアニメでは、初期のタツノコSFアニメの劇伴を担当。数は多くないが、強烈な印象を残した。

特撮TV映画では、'73年「スーパーロボット レッドバロン」の音楽がある。
'98/5/31

もっとアニメや特撮作品があるかと思ってましたが、意外に少ないので驚き。
それでもボブ佐久間という名前に強烈な印象があるのは、残した仕事の質の高さを示すものでしょう。
小林亜星作曲、ボブ佐久間編曲の「ガッチャマン」「テッカマン」「ファイヤーマン」の3本の主題歌は、アニメ・特撮ソング史に残る名アレンジ。
ダイナミックなイントロや、炸裂するブラスとスリリングな弦のかけあいがカッコよく、ブラスロック風のワイルドなフレーズを重ねながら、どこかクール。ジャズのテイストを感じさせます。
「ボブ佐久間」という名前の「ボブ」という響きが、そのまま音楽の中にも聞こえると思うのは私だけ?

「レッドバロン」の編曲は作曲者と同じ井上忠夫名義ですが、「テッカマン」のアレンジとそっくりのフレーズがあることや、音の印象から、本当はボブ佐久間編曲ではないかと疑っているのですが…。 (猫)'98/5/31



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