ダイオキシン測定値の信頼性
地域の環境汚染状況の指標となり、対策や規制の根拠となるダイオキシン測定値。しかし、その測定値の信ぴょう性が客観的に評価できないとしたら・・・。日本のダイオキシン測定値への信頼が根本から揺らいでいます。
行政の行う環境中ダイオキシン類濃度測定値。安全宣言。土壌、大気。食品、血液、母乳。市民団体が測定依頼した測定値。大学などの研究機関が測定したデータ。これらが食い違う例が後を絶ちません。一兆分の1(pg)という超微量の毒性が問題となるダイオキシン。その超微量のデータが信頼できないままに、正しい判断をくだせるでしょうか。
ダイオキシン測定結果の信頼性について、どんな問題があるかまとめてみました。
__すすめる会では測定の問題点と、提案をまとめて、厚生省、環境庁に、提案書を提出しました__
精度管理について
第3者がその信ぴょう性を客観的に評価できないデータは無効である
1970年代後半に有害化学物質による汚染が問題となったアメリカでは、測定された環境汚染データの信ぴょう性が裁判などで争点となり、第三者がその信ぴょう性を客観的に評価できないデータは無効であるという社会認識が生まれました。これに対応して、80年代初頭からアメリカでは測定データの信頼性確保ということを環境測定業者に具体的な責務として課しています。これが、メソッド23Aとよばれる品質保証データを責務とした、測定マニュアルで、厳しい精度管理を測定分析者に求めており分析過程で23のチェック項目をパスすることが求められるとともに、その記録を残していくことが必要となります。これに対し、日本ではほとんどが努力目標にとどまり、提出義務もありません。また、外部監査なども実施されていません。日本のデータは信頼できるでしょうか。
(ダイオキシン測定における精度管理(グリーンブルー(株)堀江宥治「ダイオキシン類測定マニュアル」公害対策技術同友会)より)
<ダイオキシン測定マニュアルにおける精度管理項目の比較表(グリーンブルー(株)堀江宥治「ダイオキシン類測定マニュアル」公害対策技術同友会)>
ダイオキシン揮散
濃縮課程・窒素ガスの吹き付けで猛毒成分が揮発・飛散
ダイオキシン測定におけるサンプル濃縮行程で、窒素ガスを吹き付けが行われていたが、この窒素ガスの吹き付けで溶媒だけでなく、ダイオキシンも揮発飛散することがわかった。20分間の吹き付けで当初の4割しか残らなかった。また、温度の影響も大きく、60度以上で吹き付けを行うと、4.4%しか残らなかった。
また、20度の条件下、ろ紙上に2時間放置しただけで、100pgの4CL体ダイオキシンが8〜20%になり、極めて揮散しやすいことがわかった。
<ダイオキシン類の大気への揮散に関する検討(鈴木滋、村山等、森田昌敏他 日本環境化学会第8回討論会講演要旨集p116-117)より>
大気環境中ダイオキシン測定の問題点
年数回(一回24〜48時間)の大気測定で実態把握できるのか
現在日本では大気環境指針値として、0.8pgという目安を設定しています。所沢市でも年2〜4回、大気環境中ダイオキシン類濃度を測定し、その平均値が、0.8pgを超えていない、として、一喜一憂しています。しかし、この結果は、本当に所沢の環境の実態を反映できているのでしょうか。
大気中ダイオキシン類濃度は、風向、風速、気温、天候、そして、発生源の状態、などの影響により変動は極めて大きいと指摘されます。気象条件などの影響により、実測値で最大40倍ほどの開きがあるという報告もあります*1。
また、サンプリングの際のポリウレタンフォーム(PUF)の性能に大きなばらつきがある、との指摘もあります。サンプリング回収率の報告は義務づけられていないため、大気中ダイオキシンの回収がきちんと行われているかの、確認ができません。
*1黒松針葉を指標試料としたダイオキシン類の大気汚染評価法の開発(第1報)宮田秀明、高光繁和他 日本環境化学会第8回討論会講演要旨集p114-115)
定量下限値の扱い
N.Dは0か・・・。
N.D(定量下限値)とは、分析機器の「検出限界」と、検体の濃縮率に依存し、これ以上低い値は測定できないとする値です。値が定量下限値以下となった場合、ゼロから定量下限値をわずかに下回る値までの幅の中にあると考えることができます。ダイオキシン類の場合、様々な異性体がありますから、その異性体毎に定量下限値が設定され、それ以下となった値はN.Dと表記されます。
日本ではN.Dとなった場合にゼロとしてTEQ(毒性等価係数)計算されています。実際の値は、ゼロ以上である可能性があるにもかかわらず、です。
アメリカでは、定量下限値以下の値は、定量下限値としてTEQを計算します。
WHOでは、定量下限値×1/2としてTEQを計算します。
これは、特に濃度の低いものについて、大きな影響を与えます。母乳、食品、血液、水、大気中ダイオキシン類等の低濃度の測定では、各異性体で、N.Dとなってしまうものが多くなるからです。
国際的な値と比べるときに、特に注意が必要です。
(環境総合研究所のホームページに詳しく解説されています。)
廃棄物焼却施設の排ガス測定
年一度、施設設置者がお金を払って測定したデータの報告は信頼できるのか
ダイオキシンの発生量は、燃焼物、燃焼条件、維持管理状況によって大きく変わる。また、間欠炉(一日8時間操業などの炉)においては厚生省廃棄物処理におけるダイオキシン類標準測定分析マニュアルでは「定常な燃焼状態下で4時間吸引する」とするのみ。これで、実態が把握できるのか。
例えば、所沢周辺に最も多く存在する小型バッチ炉(1日約8時間、間欠運転炉)においては、立ち上げ、立ち下げ時のダイオキシン発生量が発生総量の半分以上を占めることが測定データなどから推察される。埼玉県では、運転状況、立ち上げ立ち下げ時、停止時など、いくつかの条件で排ガス中ダイオキシン類濃度を測定。値は、0.99〜58ngTEQと大きな変動があった。
にも関わらず、行政は、業者から年に1回、報告を受ける値のみで規制する。例えば、埼玉県で業者のダイオキシン報告の書類を情報公開請求したところ、測定会社(黒塗り)、濃度結果が記入された各業者の報告した紙1枚の簡単なもので、計量証明書さえ添付されていないものがほとんどだった。これで、規制しているといえるのか。(計量証明書などは、立ち入りの際に確認する、と言っていたが、確認体制の不十分さは十分理解しているつもりである)データの信頼性は全く担保されていない。
しかも、通常の燃焼状態、条件、維持管理状況の確認体制は全く不十分。
ごみ焼却施設などにおけるダイオキシン削減対策のための発生状況調査の結果について(埼玉県廃棄物対策課、平成11年8月10日)