1999年10月07日
厚生大臣  様
環境庁長官 様

ダイオキシン類測定に関する緊急提案書

さいたま西部・ダイオキシン公害調停をすすめる会
事務局代表 前田俊宣

 貴下におかれましては、日頃から国民の健康と環境を守るためご尽力くださり感謝に堪えません。先頃、国会において成立をみたダイオキシン類対策特別措置法につきましても、着々と施行に向けて関連規則の準備が進んでいると聞いており、健康被害を心配している地域の住民として、各省庁の取り組みに強い期待と関心を寄せているところです。
 先日、ダイオキシンの測定法についての疑問が、茨城や埼玉の市民団体から問題提起されました。日本環境化学会の第8回討論会でも、濃縮過程における温度管理や窒素吹き付け時の作業管理が難しく、毒性の強いダイオキシンが揮散するおそれがあることが指摘され、同学会では、これ以外の点でも、我が国のダイオキシン測定には多くの問題点があることが報告されました。数年前から研究者などから指摘されてきたダイオキシン測定上の問題点は、血液だけの問題でなく、特に濃度レベルが極めて低い母乳や食品、大気、土壌等の多くの測定に共通する問題と考えられます。
 私たちの住む所沢周辺でも、行政が発表する測定値は、深刻な汚染状況を正確に反映していない低すぎる値ではないかという疑問が、以前からささやかれてきました。ダイオキシン汚染による健康不安は、他の毒物に比べ、桁外れに毒性が強いことによります。精度の高い測定技術、信頼できる品質保証、誰もが納得できる測定システムの確立が、確かな問題解決の前提条件になる所以です。
 ダイオキシン汚染の測定値は、地域環境の汚染状況の指標になり、排出源対策や規制措置の科学的な根拠ともなるものです。その根拠となる測定値が、信頼できないとなると、住民の健康を脅かす汚染状況が正しく把握できなくなり、施設の維持管理状況の適不適の判断も正しくできなくなり、対応策の危急性の判断はおろか、どの程度の対応策が必要かの合理的な合意形成さえも不可能になってしまいます。
 2月のダイオキシン報道と野菜暴落騒動にもみられるように、測定値の信頼性の問題は、汚染が心配されている地域住民にとっては、計り知れないほど重要な死活問題となってきます。測定の技術者でも専門家でもない私たち地域住民が、一生懸命に勉強して調べた結果をこのような緊急提案の形で提出せざるを得なかった事情をお酌み取りいただき、以下の事項を緊急にご検討いただき、一刻も早く、盤石の測定体制を築き、的確なダイオキシン対策の基盤となる信頼できるデータを国民に示されますよう願ってやみません。

追記 以下の提案は、今後どのように審議会または検討会、ワーキンググループ等においてご検討いただけるのでしょうか。ご検討いただける場合には、その会を傍聴させていただけるようお願いします。ご検討結果を含め、ご回答は、10月末日までに下記の連絡先にお願いできれば幸いです。よろしくお願いします。

<連絡先>さいたま西部・ダイオキシン公害調停をすすめる会
     山田久美子

ダイオキシン類測定に関する緊急提案書

1ー1、ダイオキシン類測定体制全体に関する問題点
以下の項目を満足しないまま、JISを含む国内統一法を決定することは、真の汚染実態の把握を不可能にし、必要な対策を遅らせるばかりではないでしょうか。

1)インターキャリブレーションについて
★WHOのインターキャリブレーションに参加している、わが国の測定機関は、現時点では皆無とのことです。
★他の国際的なインターキャリブレーションに参加している機関もきわめてわずか(2〜3機関)とのことです。
★また参加していても、その内容や結果等の全面公表はしていません。
★国内だけでインターキャリブレーションをしているが、測定法がほとんど統一されているので、単に精密さだけが争点となっています。海外の機関とともにさまざまな方法での比較をしなければ、測定値の正確さ(真値)を論じたことにはならないと考えられます。

2)精度管理のチェック項目について
★チェック項目が国際水準に比べあまりにも少なく、国内における通常の測定の際には、どのような条件で行っているかを第三者が客観的に確認できず、データの信頼性が確保できません。(資料1)

3)クロスチェックについて
★クロスチェックがいままでほとんど行われていません。
★国内でクロスチェックをしても、サンプリングから数値処理に至るまでほぼ国内で統一されているので、真のクロスチェックとはいえません。
★海外の機関に発注する場合も、わが国の測定法かほぼそれに準じた方法を指定しているため、本当のクロスチェックにはなっていません。(特に排ガスや大気については、サンプリングの段階から方法が異なるため。)

1ー2、ダイオキシン類測定体制全体に関する提案

1)以下の事項をすべての測定機関に義務づけることが必要です。   
★WHOやEPAなどが催す、国際的なインターキャリブレーションに定期的に参加し、その内容結果をすべて情報公開する。
★精度管理のための諸項目を、国際水準(EPAメソッド23Aなど)と同等に厳しくし、各測定に関する情報を測定値と同時にすべて公開する。

2)調査主体が行政機関である場合は、以下の項目の義務づけが必要です。
★その調査における検体数の1割(例)についてクロスチェックをする。
★クロスチェックは、国際的なインターキャリブレーションに定期的に参加し結果を公表している、海外の複数の測定機関で行うこととする。
★クロスチェックとしての測定は、サンプリングの段階からN.D.などの数値処理に至るまで、わが国の方法ではなく依頼先の機関や国の常用法によって行われなければならない。

2ー1、ダイオキシン類測定方法に関する問題点

1)-A)すべてのダイオキシン類測定マニュアルに関する問題点
★以下の行程で細心の注意が払われなければ、特に毒性の強い四、五ー塩素化体が揮散しやすく、TEQ換算した場合、実際の濃度より見かけの濃度がきわめて低くなってしまいます。濃度レベルの低い検体については特に顕著である可能性が強いと考えられます。
*1、濃縮の際の窒素吹き付け時に、キーパーソルベントを用いるべきことが明記されていません。
*2、濃縮の際に、完全に蒸発乾固してはならないとの注意があるにもかかわらず、実際には多数の検体を同時にかけている場合など、かなりの頻度で乾固してしまっているおそれがあるとの報告もあります。
*3、行程全体を通じて、温度や窒素気流などの管理がずさんであると揮散分が多くなり測定値のばらつきはもとより、測定者の健康への影響も懸念されます。

1)-B)すべてのダイオキシン類測定マニュアル全体についての提案
★1ー2の1)および2)を徹底すれば、行程でミスやずさんさがあったか否かの推察が大方はつくが、確実に*1〜*3を回避するには、キーパーソルベントを用いることや、減圧条件、窒素気流の温度と流量等の条件をマニュアルで規定するのも一案です。(資料12ー1)

2)-A)大気中のダイオキシン類測定に関する問題点
*1、環境庁の「有害大気汚染物質測定マニュアル」におけるサンプリング装置等について
ア)サンプリング装置のうち、ガス状ダイオキシン類を捕獲するといわれる、ポリウレタンフォーム(以下PUF)の性能に大きなばらつきがあります。(特にメーカーのちがいによる差異)(資料4ー1)
イ)PUFの密度がEPAの規定より低く設定されています。
  EPA・・・0.022g/m
 日本・・・0.016g/m (資料4ー2)
ウ)PUFが正しく装着されているか否かの確認システムがありません。
 ・支持管との間にわずかでも隙間があれば、ダイオキシンは捕獲されず通過してしまい  ます。
エ)サンプリングスパイクの回収率の報告義務がないため、上記ア)イ)ウ)に関連して大気中ダイオキシンが余さず捕獲されているか否かの確認ができません。

*2、同マニュアルのサンプリング法について
ア)大気中ダイオキシン類濃度の変動がきわめて大きいため、ハイボリュームエアサンプラー(以下HVS)で24〜48時間吸引する方法では、気象条件などの影響により、実測値で最大40倍の開きがあるという報告があります。このため大気環境基準値が決められた場合も、年数回以下の測定値の平均をもって通年の値であるとするには無理があります。
・環境庁がH9年度に埼玉県で行ったパイロット調査における、HVSとローボリュームエアサンプラー(LVS)の比較実験では、大気中ダイオキシン類の週内変動の記載がありません。このため、各サンプラーによる測定値に大差がないとするには根拠に欠けるのではないかと考えられます。(資料5、6、7)
イ)HVSでは空気を強く吸引するため、粒子状のダイオキシンも濾紙やPUFを通過してしまうおそれがあるという報告があります。(特に濾紙やPUFが正しく装着されていない場合)

2)-B)大気中ダイオキシン類測定についての提案
★有害大気汚染物質測定マニュアルに以下のような追加変更が必要です。
★環境庁の過去の調査はもとより、これまで行政が主体となって調査したデータについて以下の点について早急に確認し測定値の再評価や、報告書の見直しをするよう自治体を指導することも必要です。
*1、PUFの品質確保とデータ評価の際の手掛かりとして、使用したPUFのメーカーと製造番号を報告書(計量証明書)に明記する。
・PUFの性能保証項目も必要である。
*2、PUFのセッテイングが適切になされているか(いたか)のチェックを、後でも客観的にできるような項目を、報告書等に記載する。
*3、全行程で温度管理を徹底する。
ア)特にサンプリング後、濾紙やPUFを高温下で放置せず、速やかに次の行程に移る。(資料12ー2)
イ)特に窒素気流下での濃縮時の温度管理と、乾固させないよう細心の注意を払う。
*4、HVSではなく、LVSで少なくとも7日間以上吸引する。
*5、大気中濃度を確実に反映するマツ、サクラなどを、指標植物として同時にダイオキシン測定し、大気中実測濃度とつきあわせてその地点の状況を評価する。このデータの集積によって、大気中ダイオキシン類の確実で簡便なモニタリングも可能となるのではないか。(資料13)(資料5ー1)
*6、濾紙に捕獲された粒子状ダイオキシンと、PUFに吸着されたガス状ダイオキシンを別々に定量し記禄する。
*7、精度管理チェック項目のうち、特にサンプリングスパイクを直ちに義務化する。

3)-A)食品中のダイオキシン類測定に関する問題点
★サンプルからのダイオキシン類抽出法が最適でないおそれがあります。欧米の一般的な方法と比較して、最初の段階で試料から抽出されるダイオキシンの量がかなり少ないのではないかと考えられます。
★特に低塩素化体、とりわけ2,3,7,8-TCDDの抽出量に開きがあり、TEQ濃度に大きな差異が出ているおそれがあります。
★さらに以前からも指摘されているように、日本では欧米と異なりN.D.を0として毒性換算しているため、特に濃度レベルの低い食品のTEQ値に影響が大きいと推察されます。
★このため、これまでの厚生省、環境庁、農水省の行ってきた食品中ダイオキシン類の調査は、個々の食品についてはもちろんのこと、全体としての国民のダイオキシン類摂取量もかなり過小評価されているおそれがあります。
★測定法等の差異を全く考慮しないまま、国民のダイオキシン類摂取量が「欧米と同じかあるいは少なめ」との判断は正しいとは言えないのではないでしょうか。(資料9ー1)
 
*1、野菜について
ア)扱いやすいが抽出効率のよくない溶媒が使われている。
  欧米・・・トルエン、ジクロロメタン(塩化メチレン)
  日本・・・アセトン・nーヘキサン(v/v1:1)
イ)簡便だが効率のよくない抽出法が使われている。
  欧米・・・ソックスレー抽出、還流抽出(〜24時間)
  日本・・・液・液分配抽出(資料9ー2)(資料9ー3)
*2、一般食事試料・魚・肉・卵について
ア)抽出効率のよくない溶媒が選定されているおそれがある。
  欧米・・・トルエン、ジクロロメタン
  日本・・・nーヘキサン        
イ)*1のイ)にほぼ同じ。(資料10ー1)(資料10ー2)
*3、母乳・牛乳について
ア)抽出溶媒が最適ではないおそれがある。
  欧米・・・ジクロロメタン・n-ヘキサン
  日本・・・nーヘキサン (資料11) 
 
3)-B)食品中のダイオキシン類測定についての提案
★上記の3)-B)に述べた、各方法の具体的な問題点などを考慮し、より適切な測定法を早急に検討して、正しい実態把握を急ぐべきでしょう。
★これまでの測定法による測定値(国・地方行政の関与したものについて)の再評価がされなくてはならないでしょう。特に国民のダイオキシン類摂取量や、従来の方法による測定値を根拠に安全宣言を出されている食品等については、再評価が必要でしょう。

3、焼却施設排ガス中ダイオキシン類の測定の問題点
*1、ダイオキシンの発生量は、燃焼物、燃焼条件、維持管理状況によって大きく変わる。また、間欠炉においては厚生省廃棄物処理におけるダイオキシン類標準測定分析マニュアルの「定常な燃焼状態下で4時間吸引する」では、実態が把握できない。
<例えば、所沢周辺に最も多く存在する小型バッチ炉(1日約8時間、間欠運転炉)においては、立ち上げ、立ち下げ時のダイオキシン発生量が発生総量の半分以上を占めることが測定データなどから推察される(資料−1,2)>
*2、煙突から排出される排ガス中のダイオキシン類の濃度が規制されているが、ダイオキシン測定については、年1回以上測定し記録すること、とされるのみでデータの信頼性が担保されていない

提案1:間欠炉においては立ち上げ、立ち下げ、停止時を含んだ一日の発生総量を測定し規制する。
提案2:燃焼物(燃料サンプル組成分析データ)、運転条件パラメーター、サンプリング回収率データ、分析生チャートデータ、分析時の精度管理データを含む品質保証データを添付させることを義務づける。
提案3:監督行政機関への以上のデータの報告を義務づけ、公開する。
以上