バッチ炉にバグフィルターをつける愚
所沢周辺に密集する小型焼却炉のうち、劣悪な操業を行ってきた業者がバグフィルターをつけ”改善”し、操業を続行しようとする動きが急です。行政は、この動きを促進させる政策を採っています。埼玉県は、バグフィルターなどの改善をする場合、「彩のくに環境創造資金」による億単位の融資斡旋、利子の補助を行っています。これまでに2業者に対し実施、1業者審査中です。さらに、設置手続きも簡略化し、許可手続きはとらず、簡単な事後の届出でよいとしています。バグフィルターを付け、所沢周辺の劣悪な炉は本当に改善されるのでしょうか。
*バグフィルター:ろ布により、排ガス中有害物質を除去するフィルター排ガス処理装置。
*バッチ炉:1日8時間操業などの間欠運転炉。連続炉に比べ、毎日点火、消火を行うため、立ち上げ・立ち下げ・停止(くすぶり状態)時のダイオキシン発生が多量に上ることが懸念される。所沢周辺の炉はその殆どがバッチ炉。
99年に、所沢を訪れたMultinationas Resources Center (MRC)のNeil Tangri氏に助言をいただきました。国際的に脱焼却運動を推進されている方です。
バグフィルターについて
バグフィルターとは通常「最新技術を使った」焼却炉に、活性炭素と石
灰とを注入するシステムと会わせて設置される布状のフィルターのこ
とです。焼却炉から出るダイオキシンのほとんどは、炉から出る際に
排気ガスの中に形成されます。しかし、ダイオキシンはそのままでは
フィルターで捉えるには細かすぎるので、活性炭素と石灰との懸濁液
を排気ガスの中に注入し、ダイオキシン粒子をより大きな炭素の粒子
に結合させてからバグフィルターでとらえようというわけです。このよう
にしてダイオキシンで汚染された炭素はその後飛散灰となります。
所沢で私が見た焼却炉でバグフィルターを使うことについては、以下
のような懸念があります:
1)
活性炭素とを注入するシステムと合わせて使わなければ、バグフィル
ターはダイオキシンの排出をコントロールするのに役に立ちません。し
かし、活性炭素とを注入するシステムにはかなり費用がかかります。
所沢にあるような小さな焼却炉にとっては手の出せないくらいの費用
でしょう。従って、所沢の焼却炉がこのシステムを導入するとは思え
ません。仮に設置できても、稼動させられないかもしれません。
2)
バグフィルターは絶え間ない維持が必要です。ちょっと破れ目があって
もフィルターとしての役割を果たさなくなります(が、その間も焼却炉は
稼動を続けるでしょう)。破れを見つけるには頻繁に手作業で検査をす
るか、フィルターの両側の空気圧を計る高額な装置が必要となります。
また、定期的にフィルターを取り替えなくてはいけません。私が所沢で
見た限りでは、このような維持が実行されそうには見えませんでした。
3)
仮にフィルターが正常に機能しても、フィルターにはダイオキシン(や
他の重金属など)で非常に汚染された細かい灰が大量に蓄積される
ことになります。このような細かい灰は、灰だめから吹き飛ばされた
り雨水に溶け出したりして周囲の環境に出やすいものです。この灰
から作業員や周辺の農地、地下水などを守るために非常に厳しい手
順を守る必要があります。灰の移動や最終処理も大きな問題となります。
4)
焼却炉から出る灰が周辺の環境に及ぼす影響を最小限にくいとどめる
ために、最近の焼却炉のほとんどは建物の中に入っています。屋内に
あれば灰が周辺地域に広がるのを防げるからです。所沢で私が見学
した焼却炉は屋外にありました。バグフィルターが設置されれば、現場
での灰の量が増え、周辺地域に広がる灰の量も増えると思われます。
5)バッチ式焼却炉に排出量の低いものはありません。バグフィルター
は最新の、随時稼動している焼却炉から出る排出物をとらえるようにデ
ザインされています。ダイオキシンは焼却炉の温度が摂氏200度から
400度の間にあるとき、つまり点火・消火のときに最も大量に形成され
ることがわかっています。連続稼動の焼却炉は、点火・消火の回数が
少なくて済みます。しかし、バッチ式焼却炉は1バッチを焼却するため
に点火する度にこの範囲内の温度になります。従って、ダイオキシン
形成にもっとも適した温度である時間が最も多くなるのです。これで
は、ダイオキシンフィルターがどんなに効果的でも、バッチ式焼却炉
は非常に大量のダイオキシンをつくりだすことになり、この量はある程
度は大気中への排出量に反映されることになります。
6)
この意味でバッチ式焼却炉がもつもうひとつの危険は、煙突からの排
出量の検査ではこの高いダイオキシン排出量がわからないかもしれ
ないということです。排出量の検査を焼却炉が400度以上であるとき
にしか行わなければ、検査結果としての排出量は温度が低いときに
出る排出量よりもずっと少ないものになるでしょう。このようにして、バ
ッチ式焼却炉は真の排出量を大幅に下回る数値で基準を「満たして」
しまう可能性があるのです。2人のベルギー人科学者が2週間にわた
って行った調査では、煙突からの排出量が条件によっては通常量の
50分の1にまでになることがわかりました。この調査は連続稼動の焼
却炉を使って行われました。バッチ式焼却炉ではどのような過小評価
が出るかわかりません。
現に、所沢では、野焼き同然のバッチ炉にバグフィルターというあきれたものが既に数施設あります。新たに、1施設、 劣悪なバッチ炉で劣悪な操業をしていた業者が、バグフィルターの設置を許可されました。設置計画によれば、バグフィルターと合わせて活性炭・消石灰噴霧装置が設置される計画です。
しかし、これを実際に維持管理できる業者とはとても思えません。現在ある焼却灰の処理費用捻出さえ渋り、敷地内に灰を積み上げている業者です。
今後、この動きをくい止める必要があります。