劇伴倶楽部座談会 第2弾

音符から世界が聞こえる

〜アニメ・特撮音楽に影響を与えた世界の音楽たち〜

('98/7/5)

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劇伴倶楽部座談会 第2弾は、「歩く音楽事典」RYO-3さんを招いて、アニメ・特撮音楽へ影響を与えたさまざまなジャンルの音楽について講義してもらいました。
ポピュラーや歌謡曲については、まったくうとい腹巻猫は、目からウロコのことばかり。

文中、

「鉄腕アトム」(高井達雄)
という風に書かれているところでは、その曲をプレーヤーで演奏しています。
また、取り上げた作品は、主に60年代から70年代のアニメ・特撮ソングと音楽に絞られることをお断りしておきます。それ以降になると、アニメ・特撮の歌と普通のポピュラーとの境界がなくなってくるのです。

参加者
腹巻猫。劇伴倶楽部の主。
R3RYO-3。豊富な音楽知識と鋭い分析のマニアックな投稿でおなじみ。


RYO-3さん登場

ナップサックとカバン一杯に、LPレコードとCDとDATをつめこんで現れたRYO-3さん。
「小学生の頃、こんなテープを作ってたんです」と言って見せてくれたカセットは、70年代末から80年代のテレビアニメのOP、EDをテレビから録音して作った主題歌・副主題歌集。OPとEDの間には、サブタイトルかアイキャッチ曲を編集するというマニアックな構成に、うなってしまった。


R3 生まれは'68年です。
古い番組の記憶っていうと、白黒番組は「ゲゲゲの鬼太郎」。エンディングの映像を覚えてます。白黒ではそれぐらい。一番好きで見ていたのは「帰ってきたウルトラマン」ですね。
60年代末から70年代始めっていうと、等身大特撮ものの全盛期ですね。「仮面ライダー」「快傑ライオン丸」「キカイダー」。
R3 「ライオン丸」は覚えてます。「仮面ライダー」の1号2号あたりも。最初の怖いやつは記憶にないんですけど。
面白がってみていたのは「マジンガーZ」。「ゲッターロボ」がちょっとあとですよね。
その直前の「トリトン」とか「アストロガンガー」とかはほとんど覚えてないです。
音楽に興味を持ったのはいつ頃からですか。
R3 一番最初に買ってもらったソノシートが「帰ってきたウルトラマン」なんです。「MATチームの歌」なんかが入っている、ちょっと縦長のやつ。「マジンガーZ」もありました。音楽的に一番強烈に覚えているのは、やっぱり「帰ってきたウルトラマン」の歌なんですよ。
意識してアニメソングやBGMを聴き始めたのは、「ガンダム」からですね。その前に「ヤマト」なんかも意識して見ていましたけど、レコードを買ったりしだしたのは「ガンダム」以後からです。「ヤマト」本放送のときは「ハイジ」を見てました。「ヤマト」に燃え始めたのは「さらば宇宙戦艦ヤマト」からです。あれが、「まんがまつり」なんかを除いて、最初に行ったアニメ映画なんです。
その頃からケイブンシャの大百科も出始めたし、アニメージュも創刊されて。
ちょうどいい時代に少年時代をすごしてますね(笑)。
R3 特撮ものは10歳くらいで見なくなるんですよ。ライダーは「ストロンガー」で卒業して、「スカイライダー」は見なかった。戦隊ものも「ジャッカー」で止まってます。「大鉄人17」くらいまでかな。
あとは、もっぱらアニメですか。
R3 「ガンダム」が小学5年生なんですけど、もうその頃になると、友だちにあんまりマンガ見ている奴がいない。僕も一時見なくなってたんですけど、「ガンダム」からまた戻って見始めた。
BGM関係を意識して聞き始めたのは、やはり「ガンダム」から。その頃、交響組曲で発売された「ヤマト」「999」なんかも聴いてました。レンタルですけど(笑)。小学校6年でレンタル屋に入会してました。
アニメ以外の音楽だと。
R3 最初に自分のお小遣いで買ったシングルがキャンディーズ。LPがアリスなんです。その頃ベストテン番組も見てたし、ラジオでも聞いてました。
小学校4年からクラシックギターを習い始めて、クラシックの練習とは別に、テレビで聴いた歌とかを弾いたりしてたんですよ。中1くらいからベースをやりたいと思い始めて、中2のときにお小遣いをためてベースを買いました。ベースをやりたいと思ったのは、「イデオン」の影響が大きいんです。
えっ。
R3 「イデオン」の「デス・ファイト」っていう曲がありますよね。ギターやペット、羽田健太郎の入魂のピアノソロなんかのアドリブがずーっと続いていく。あの曲を聞いて、ああいうフュージョン系の音楽をやりたいって思ったんですね。この曲のベースは高水健司っていうスタジオマンで、全然ハデじゃないんだけど、すごく堅実なプレイ。あまりにシブすぎるんで、何でコレ聴いてベースやりたいと思ったのか、今考えるとよくわかんない。
中学のときはサザンのコピー、高校に入ってからはフュージョン。ぼくらの頃には、もうフュージョン自体はそんなに流行ってなかったんですけどね。大学へ入ってからはジャズ研に入って、4ビートのジャズもやりました。ベースはいまもずっとやってます。
その頃はアニメの音楽は聴いてないんですか。
R3 まったく聴いてないです。「Zガンダム」で終わったんですよ。そこからテレビアニメは、ずーっと離れてます。また聴き始めたのは、「エヴァンゲリオン」からでしょうね。あれを見て、昔の懐かしい感じを思い出して。よくあるタイプの戻り方ですよ。でも「エヴァ」以降は何にも見てないですね、アニメ(笑)。
10何年間アニメの音楽から離れて、普通の音楽をずっと聴いて、またアニメの音楽を聴き始めたんで、あ、この曲はこういう、ていう発見がたくさんあるんですね。
ぼくの音楽体験は、最初が「帰ってきたウルトラマン」で、ベースを始めたのが「イデオン」のおかげ。すぎやまこういちには足を向けて寝られない(笑)。

アニメ・特撮ソングを分類する

R3 実は、アニメ・特撮ソングを、既成の音楽ジャンルでいうと何にあたるかって分類したデータベースを作ってたんですよ。途中で挫折したんですけど(と、プリントアウトしたリストを見せる)。
おおー。これはすごい。
R3 でも、結局どれにも分類できないものが多いんですね。特定のジャンルに分類すること自体に無理がある。アニメ・特撮の音楽っていうのはミクスチャー・ミュージック、あちこちから持ってきた音楽を新たにミックスして作り出す、世界にもまれにみる謎の音楽なんです。土着のメロディーとかリズムとか楽器とかにまったく依存しないし、正統な歴史と伝統を経て作り上げられたというわけでもない。そこが歌謡曲とアニソンの似ているところかな、と思いますね。

まずはマーチ

各時代で傾向があるってことありますか。
R3 「アトム」「鉄人」の時代だと、マーチですよね。
仙道さんが書いてましたけど、白黒の時代はほとんどマーチ。でも、子どものものにマーチっていうのがなんで出てくるかっていうと、わからないんですよね。この時代だと、軍隊的な感じで、勇ましく強く賢く、勇気あるっていう感じでマーチ、っていうわけでもないんでしょうし。
それ以前はマーチってないですよね。昔の「月光仮面」とか「快傑ハリマオ」とか、少年少女合唱団の歌はマーチじゃない。大人が子どものために書いた歌ですよね。あんまり子どもが喜んで歌う歌とは思えないんだけど。やっぱり「鉄腕アトム」か らですね。
R3 「アトム」が成功したんで、マーチが主流になったんでしょうか。マーチものっていうと、「アトム」「ビッグX」「アニマル1」「魔神バンダー」とか。で、マーチっていうのは、時代が下ってもずっと生き残るんですよ。

マーチ風主題歌
  • 1963「鉄腕アトム」(高井達雄)
  • 1963「エイトマン」(萩原哲晶)
  • 1964「ビッグX」(冨田勲)
  • 1967「キャプテンウルトラ」から「宇宙マーチ」(冨田勲)
  • 1967「ウルトラセブン」(冬木透)
  • 1967「仮面の忍者赤影」から「忍者マーチ」(小川寛興)
  • 1968「アニマル1」(玉木宏樹)
  • 1970「赤き血のイレブン」(大沢保郎)
  • 1975「勇者ライディーン」(小森昭宏)

軍歌と菊池俊輔節の神髄

R3 あとこの時代だと軍歌もの。
「0戦はやと」や「決断」が完全に軍歌。軍歌なるべくしてなった軍歌ですよね。「宇宙猿人ゴリ」とか「シルバー仮面」「巨人の星」「空手バカ一代」がそうですね。あと「男ドアホウ甲子園」とか「男一匹ガキ大将」「夕焼け番長」なんかの番長ものが軍歌をかぶってるんです。
寮歌風とは違うんですか。
R3 うーん、その辺はまざってるんですかね。学生歌・応援歌っていうのと通じると思うんですけど。
軍歌ものっていうのは、モロ軍歌っていうのを超えて、隠れ軍歌みたいなのが結構あるんじゃないかと思うんですよ。実は、それが菊池メロディの中心にあるんじゃないかと思ってます。
どの辺ですか。
R3 たとえば「突撃仮面ライダーX」って曲がありますよね。
「突撃仮面ライダーX」(菊池俊輔)
R3 この「抜くぞライドル〜」ってところです。菊池節に頻繁に出てくる定番の終止メロですよね。非常に軍歌くさいですよね。ゆっくり歌っていくと軍歌のリズムにはまる。あと、「スタージンガー」の男性コーラスの入る方の主題歌「宇宙の戦士スタージンガー」なんかも。
前に、東ア研で書いたことがあるんですけど、菊池さんて、ときたま停滞期みたいな時期があって、集中的に似たような曲が出てくるときがある。それが「仮面ライダーX」の時期('74)や、「スカイライダー」「スーパー1」「スタージンガー」の時期('78-80)、あと「タイガーマスクII世」「忍者ハットリくん」の時期('81)なんか。で、そういうときに出てくるのが、この「軍歌くさいメロディ」なんです。菊池節の神髄みたいなところがあるんじゃないかと思うんですよ。それで、しばらくすると、すごい斬新なアレンジが出てきて、また波に乗ってくるんですけど。

軍歌風(寮歌風)主題歌・挿入歌
  • 1964「0戦はやと」(渡辺岳夫)
  • 1968「巨人の星」(渡辺岳夫)
  • 1969「男一匹ガキ大将」(広瀬健次郎)
  • 1970「男ドアホウ甲子園」(土持城夫)
  • 1971「シルバー仮面」から「故郷は地球」(猪俣公章/竹村次郎)
  • 1971「宇宙猿人ゴリ」(宮内國郎)
  • 1971「決断」(古関裕而)
  • 1972「トリプルファイター」から「トリプルファイターの誓い」(円谷のぼる/宮内國郎)
  • 1973「空手バカ一代」(平尾昌晃)
  • 1973「ジャンボーグA」から「エース・アンド・ナイン」(菊池俊輔)
  • 1978「SF西遊記スタージンガー」から「宇宙の戦士スタージンガー」(菊池俊輔)

サーフとツイスト

R3 「スーパージェッター」はベンチャーズ風のサウンド。非常に先取りしてますよね。
ベンチャーズみたいなサーフ・ミュージックの類でいうと、「ファイトだピュー太」「河童の三平」。
ズンタタ・ンッタっていうリズムで、テケテケテケテケっていうエレキギターが入っている。「珍豪ムチャ兵衛」もそうですね。あと「ジョー90」もモロ、サーフですね。当時の流行の音楽を取り入れてます。
あ、「珍豪ムチャ兵衛」が。
R3 でも「珍豪ムチャ兵衛」って時代劇ものですよね。なんでこういう音楽を持ってくるかと思うんですけど、そこがまあ、アニソンのアニソンたるところですね。
「マッハGoGoGo」は。
R3 あれは、当時流行ってた、文字どおり「ゴーゴー」だと思うんですけど、もともとのリズムはツイストでしょうね。これ聴いてみてください。
弘田三枝子「ヴァケーション」
R3この辺のサウンド。乾いたドラムとタンツタンツタンっていうリズム。「マッハGoGoGo」の方が速いですけど、こういうアメリカのカバーポップスの音に影響が見られます。
弘田三枝子さん、いいなあ。
R3 あとザ・ピーナッツの「ふりむかないで」。
ザ・ピーナッツ「ふりむかないで」(宮川泰)
R3 これはカヴァー風に見せた国産ポップスですけど。同じタンツタンツタンっていうリズム。「マッハGoGoGo」は、これにちゃんと「か・ぜ・にふるえる」と歌詞に乗せてましたね。こういうツイストものから来ているアニソンっていうのはそんなに多くないと思うんですけど。「マッハGoGoGo」が典型的です。

サーフ風主題歌
  • 1965「スーパージェッター」(山下毅雄)
  • 1968「河童の三平」(小林亜星)
  • 1968「ファイトだピュー太」(萩原哲晶)
  • 1968「ジョー90」(バリー・グレイ)
  • 1971「珍豪ムチャ兵衛」(広瀬健次郎)

ツイスト風主題歌

  • 1967「マッハGoGoGo」(越部信義)

70年代歌謡曲とアニソン

R3 いまのは60年代のカバーポップスと歌謡曲なんですけど、70年代に入ると、もう日本独特の世界が出てくるんです。
70年代になると、日本の歌謡曲自体、突然発生的なものが出てくるんですか。
R3 そうですね。でも、なんとなく似たようなテイストが漂っているんですよ。
似てますよね。この頃の歌謡曲って。
R3 それが反映されているアニソンっていうと「さすらいの太陽」。
あ、あれはいずみたくだから、モロですね。
R3 あとは、「ケロっこデメタン」や、新みなしごハッチの「美しの丘」のアレンジの感じ。「ハゼドン」とか。「紅三四郎」の堀江美都子の方の歌がそうですね。
「紅い太陽〜」っていう。
R3 あと、GSもの。さっきのサーフものの延長線上ですね。「怪奇大作戦」の「怪奇ソング」。ズッターンタ・ズタータていうリズム。「河童の三平」もそうですね。
それにからんでくるのが「ハクション大魔王」のサイケ風な感じなんです。
サイケロックなんですか。
R3 ああいうリズムの上に、ファズっていうエフェクターでぐじゃぐじゃに歪ませたギターの音がかぶる感じ。
あと、R&Bっていうか、ブラックミュージックっぽいもの。直接的なのはすごく少ないけど、「みなしごハッチ」や「けろっこデメタン」なんかのタツノコ系は、なぜかちょっとずつ「黒い」感じが入ってる。「みつばちマーヤ」のチーターのシャウトを捨てがたいですね(笑)。「ドロロンえん魔くん」のエンディングなんかもドラムのおかずがファンキーですよね。
特殊な例が「マッハバロン」です。グラムロック。で、エンディングにメロトロンっていう電子楽器を使ってるんですけど、このメロトロンの音が2,3年前に大はやりしたんです。小林武士が大好きで。
あ、そうなんですか。
「眠れマッハバロン」(井上忠夫)
R3 このメロトロンって楽器。中古シンセ市場で、高騰してるんです。何10万もする。「眠れマッハバロン」の、このゥィーンって音ですね。グラムロックのバラード系やプログレってこういうムーグとかメロトロンとかいうシンセをよく使いますね。
井上忠夫は、もともとグラムロックをやってた人ですよね。
R3 そうです。
だから、借りてきたってわけじゃなくて、自分の得意分野でやったんですね。

歌謡曲風主題歌
  • 1969「紅三四郎」(和田香苗)
  • 1969「怪奇大作戦」から「怪奇ソング」(山本直純)
  • 1971「さすらいの太陽」(いずみたく)
  • 1972「ハゼドン」(小林亜星)
  • 1973「けろっこデメタン」(越部信義)
80年代以降多数

GS風主題歌

  • 1967「スカイヤーズ5」(すぎやまこういち)
  • 1968「河童の三平」(小林亜星)

サイケロック風主題歌

  • 1969「ハクション大魔王」(市川昭介)

グラムロック風主題歌

  • 1974「マッハバロン」(井上忠夫)
  • 1974「マッハバロン」から「眠れマッハバロン」(井上忠夫)

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