【映画鑑賞録】「X−MEN ファイナルディシジョン」(原題:X-MEN THE LAST STAND)
「要所要所は楽しめるが、語るべき事が少し物足りない」
最初に
・「X−MEN ファイナルディシジョン」は、有名なアメコミシリーズ「X−MEN」の
実写映画第3作目にして、完結編と位置づけられる作品である。
この作品は、ミュータントと呼ばれる人を超越した者達のチーム「X−MEN」が、
様々な敵と戦ってゆく物語。
過去2作がアメリカでは大ヒットし、今作品も無論大ヒットを記録した。
監督交替もあったが、新しくメガホンを取ったブレット・ラトナーは過去2作のテイストを損ねてはいない。
ただし、映画作りの時点で、過去2作品鑑賞が前提で製作されている為に、
今回の「3」を観ようとお考えの方は、DVDレンタルをして予習をしておく必要がある。
物語
・前作で仲間を救う為に命を落としたジーン。彼女の恋人のスコット(サイクロップス)と
思いを寄せていたローガン(ウルヴァリン)は心に大きな傷を残していた。
だが、ある日彼女が生存している事が判明する。しかし、彼女は以前の彼女ではなく、
別の人格である邪悪なフェニックスとなっていた。
同じ頃、ミュータントの能力を抑え、人間に戻すという薬「キュア(治療薬)」が開発されたという
ニュースが世界中に流れ、ミュータント社会に衝撃が走る。
人間との共存を拒否し、人間の抹殺を狙うマグニートはキュアの存在が、
人類のミュータント撲滅への意志であると判断し、キュアの元となる少年をさらうべく、
自らの組織にブラザーフッドにミュータントを集め、攻撃を宣言する。
ジーンもまた、マグニートの誘いによりブラザーフッドに加わってしまう。
X−MENはこれに対し、新しいメンバーを加えて立ち向かう。
:この「X−MEN」シリーズにおいて重要なテーマとなるのが、ミュータントと人類の関係である。
人から生まれるが、人とは違う存在のミュータント。
超能力をもっていたり、人と違う外見になってしまうのだが、ミュータントは心は人間そのものである。
だが、その力を脅威とする人間は共生か生存かで揺れているという設定。
アメリカの人種問題を想起させる構図は、X−MENをアクション映画に終わらせない魅力を与えている。
当然、完結編はといえば、このテーマに答えが出そうなものであるが、
このファイナルディシジョンでは、答えは出ていない。
それどころか、今回物語自体は消化不良で終わってしまっている。
物語の主眼となるのは、敵となったかつての仲間ジーンをどう救うのか、そして、キュアに対して、
X−MENはどう対処するのか、という点なのだが、これが明確な回答を出していない。
ジーンに関しては苦渋の決断を下すのだが、キュアに関してはX−MENの中でも、
意見が割れてしまう。
X−MENの中でも意見は別れるが、とりあえずキュアの源泉を絶とうとするマグニートだけは倒そう
という考えになってしまう。この辺りキュアに関する見解でX−MENの中で1回割れて、
それから団結するという流れがあれば、最終決戦も必然性が増したかもしれない。
最終決戦のシーンは非常に盛り上がる演出になっているし、個々の力をうまくいかして、
強敵と対して行くX−MENの戦いは見ごたえがある。
特に豪力を誇るジャガーノートと壁でも何でもすり抜ける少女の攻防はおもしろい。
(その決着のつけ方も)
実は監督が前二作より変更となり、テイストの変化が予想されたが、
前作までの世界観を大事にしつつ、アクション物としてのおもしろさは向上していると思われる。
これまで主人公ながら、どこかきちんと物語を締めていない印象だったウルヴァリンも今回は強敵二人
を苦戦しながらも倒し物語を締めてくれる。
ある意味でフラストレーションを溜める事はないと思われる。
また、すでに各映画評論で書かれているが、映画はラストのスタッフロール後まで観る事をオススメする。
スタッフロール前のシーンと合わせて、対となっているし、観ておいて損はない。
今後X−MENの映画が続くとなれば、重要なシーンにもなるので、鑑賞の際は是非最後まで席を立たないよう
していただきたいと思う。
観終わると、やはりどこか語る事が中途半端である感が否めない。上述の通り、ジーンの件とキュアの件
について、明確な回答が為されていない事が大きいし、二つの件が物語の流れにおいて、うまく繋がっていないのも問題。
完結編でありながら、登場人物もさらに増えており、彼らをすべて語るにも時間が無さ過ぎたといえる。
新登場人物は原作のある作品である以上、原作のファンより各キャラクターの登場希望が多い作品であるだろうから、
こうなるのは否めないとも言えるのだが。
今回のファイナルディジシジョンは前2本の映画を観た人を前提に、前置きなしにストーリーを構築する事で、
物語の流れがよどむことなく、ラストの決戦まで進んでいき、しかも非常に盛り上がるという構成になっている点は
おもしろいし、評価できる。
個人的には、キュアという「今までの自分で無くなってしまうという薬」を提示されたとき、ミュータントという
これまでの自分を否定するのか否かという命題をもっと掘り下げれば、他の映画に無い魅力を十分に持つ事が出来たと
思うので、この辺りの描写が少ないのが少々残念である。
自分がミュータントの立場だったら、どう決断を下すのか。
この辺りを考える事が出来て、かつアクションが楽しめるという点では良作だと思う。
この点が気になる方に鑑賞をお勧めしたい。
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