【映画鑑賞録】「容疑者　室井慎次」

・踊る大捜査線シリーズのスピンオフ作品。今年はすでに「交渉人　真下正義」が公開されている。
主役となる室井慎次は、踊るシリーズの主人公青島他湾岸署メンバーと警察庁等の上層部と板ばさみになりながら、現場の最前線に立つ刑事達のために奮闘する人物。「堅物」といってよいほど、真面目なキャラクターである。
ぴしっと決まったコートと額に寄せるしわが印象に残る。
そんなキャラクターを主役にした映画が「容疑者　室井慎次」。
あの室井が逮捕されるという驚愕の展開が映画の突端となる。

・物語は、殺人事件において容疑者が取り調べ中に逃げ出した挙句、交通事故で死亡。
そこで被疑者死亡のまま、事件は処理されそうになる。
ある疑問が浮上し、室井は再調査を命じる。
そんな中、死亡した容疑者の母親が室井の取調べに問題があったのではないか、
と室井は告訴され、そして室井は拘束される……。
警視庁と警察庁の権力争い、敏腕弁護士の野心等が絡んで、話が膨らんでいく。
室井の弁護を任された弁護士の小原は、様々な要因が絡むこの事件に、
とまどいながらも、室井を引っ張り事件に立ち向かうという形。

・観終わっての感想は？と聞かれると悩んでしまう。
まず、室井は演じる柳葉敏郎の力量もあって、やはり存在感がある。
主役になりづらいキャラクターと個人的には考えていたが、さにあらず。
ひたすら、額にしわを寄せる室井だけが印象に残る。
ところが、物語全体は強引だし、ありえない展開が頻発する。
「室井を無理矢理苦境追い込もう」という意図がみえみえ。
室井を告訴する弁護士(八嶋智人演じる敏腕という設定)が正直今時漫画でも現れないような人物。
リアリティは、踊るシリーズには関係ないのかもしれないが、感情移入がまったくできない。
なんというか、警察上層部もあれでは粗悪な時代劇の悪役レベルでしかない。
核となる事件の真相もあっさりとしたもので、終わってみると爽快感はゼロ。
(凄い事件に見えたが、なんでもないものでしたというのは、踊るシリーズの基本だけども)

・結局、今まで知らなかった室井慎次の側面が見えるだけが売りという印象。
彼には重い過去がある事もこの映画で判明する。
キャラクターが生きているのはさすがだが、映画の完成度を求めると辛いだろう。
映画としてのおもしろさや完成度なら、５月に公開された「交渉人」の方が上になると思う。
室井のファンにはお奨め。踊るファンなら、とりあえずお奨めという所だろうか。


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