ばびんの柩の部屋


「漆黒の海を往く」  第四回


登場人物  Curter  Tania  Elizabeth  Harry  Jeff  Megumi 


 三六四日が経過して、Elizabethは他の人よりも一日早く起きた。彼女はすぐにシャワーを浴びに、バスルームに入る。彼女はシャワーを浴びながら、この時間をどう過ごすか、を考える。

E「早く起きたことで、事件を未然に防ぐことができるのかしら。起こるかも分からない事件を……」

お湯は、とても心地良く、一年前の事件(最も彼女の主観としては一日でしかないが)の印象をひどく希薄にする。

E「結局のところ、一日早く起きてみたところで、何も起こらないかもしれないわね。犯人も、もう気が済んだのではないかしら」

しかし、彼女のその希望とは裏腹に、大きくて鈍い、お腹の底を振動させるような音と、叫び声が聞こえてきた。

E「なに!? まさか、また何か……でも一体誰の声? 誰か私と同じく一日早く起きた人が---!?」

そう声を上げながら彼女はバスルームから出て、タオルでさっと身体を拭くと洋服を最高の早さで着て、ドアを開け放つ。
外を覗くが、音はすでに聞こえなくなっていて、どこにも、誰も見当たらない。彼女はとりあえずMegumiのところへ行く事にした。

E「メグミ!! っ」

Megumiの部屋のドアは何か重たいものによって破壊されていて、ドアは内側に倒れこんでいる。

E「メグミ!! ああ……そんな、そんな、ひどいわ。ひど過ぎる……なんで、どうしてここまでしなければならないのよ!!」

部屋の主はやはりタンクの中で、息絶えていた。同じように上半身を砕かれていて、今度はタンクの蓋に相当する上半分の透明な部分は開いている。犯人の姿はない。

E「一体犯人は誰なの!? 一体なんでこんなことをするの? 誰か教えてよ!」

そう言いながらElizabethは今度はHarryの部屋へと急ぐ。

E「ハリー、ハリー! お願いよ。無事でいて!」

Harryの部屋の前には、やはり扉を壊した跡が残っており、周辺には木片が散乱している。彼女は部屋の中を覗く。

E「っっ! うう、なんで……どうして……ジェフ、あなたなの? こんな酷いことをしているのは……あなたしかもう…残っていないわ……」

がっくりとその場にひざを落として、彼女はうなだれる。HarryもMegumiと同じようにしてタンクのなかで死亡している。タンクの蓋も同様に開いたままであり、彼の上半身もまた、粉々にされている。

E「確かめなければ……どうしてこんなことをするのか、確かめなくちゃ……このまま、殺されてしまうわけには行かないのよ」

Elizabethはそう自分を奮い立たせるように呟いて、立ちあがり、Harryの方に一瞥を向けて、Jeffの部屋へと歩き出す。
そこで、彼女は本来ならもう気付いていてしかるべきことに、ようやく気付く。

E「お、おかしいわ……メグミとハリーは二人とも"粉々にされて"死亡していたのに……さっきバスルームで私は……誰かの……声を聞いている……」

彼女ははっと顔を上げる。

E「え、どういうこと? さっきの、さっきの悲鳴はジェフのものなの? でも、でも彼が他の二人を殺したのではなかったの? わ、わからないわ……もしかして……ジェフまで……」

Elizabethは自分の推測に酷くおびえる。ジェフまで殺されていたら……一体誰が犯人なのか。

E「まさか、この船に私達の知らない第三者が?!」

彼女は冷静さを徐々に失いつつあった。次々と起こる事態が、彼女にそうさせざるをえなかった。

E「と、とりあえずジェフの部屋へ急ぎましょう」

Jeffの部屋の扉は壊されていなかった。扉は閉まっており、中から激しい物音などは聞こえてこない。

E「やっぱり……やっぱりジェフあなたなのね? そこにいるのでしょう? 出てきなさい! そして何故彼女達を殺す必要があったのか、はっきりと説明しなさい! あなたの行為は許されるものではないわ!」

部屋の中からの応答はない。Jeffは部屋の中にはいないのだろうか、と考えたとき、彼女は背後が非常に気になった。まさか……Jeffは……と、彼女は振り向く。

E「だ、誰もいないわ……。取り越し苦労……ね。神経が異常な緊張状態に置かれているんだわ……。気を取りなおして、ドアは……」

ElizabethはJeffの部屋のドアノブに手をやって左右にひねってみる。

E「? 開いている---------? ジェフ……中にいるの?」

Elizabethはドアをゆっくりと、慎重に開く。

E「ジェフ!!!! --------なんて、なんてことなのジェフ、ジェフまでが……」

彼女はもはや精神の均衡状態を揺さぶられている。「誰が?」という疑問が頭を回る。
Jeffは、タンクの中で死んでいるのではなかった。彼はシャワーを浴びていたか、あるいは浴びた直後だったらしく、髪の毛がぬれていて、バスローブを羽織って倒れている。凶器はElizabethには見当もつかなかったが、右わき腹から出血があり、ローブをグロテスクに染め上げているのがみてとれる。

E「ジェフ、生きていたら返事をして! 一体誰がこんな酷いことをしたの? ジェフ!」

反応がないことが死亡の証明となりそうだった。

E「あなたが、あなたがさっき叫んだのね? もっと早く来ていれば助けられたかもしれないのに……犯人はあなたでは、なかったのね。ごめんなさい……」

彼女は目を伏せる。

E「それでは、一体誰が? 本当にこの船に第三者がいるとでも言うの?」

Elizabethは少し考えた、そして一つの考えが浮かんだが、すぐさまそれを否定する。

E「まさか、そんなことはありえないわ……カーターが生きていて、しかもこんなことをするなんてことは、考えられない……でも、そうね、カーターの部屋を調べてみる必要はありそうだわ。キーは……私の部屋だわ。カーターが死んだときにジェフから預かったんだった。……一端、戻りましょう」

彼女は自分の部屋へと、戻る。帰り際に談話室と、給湯室を除いてみるが、誰もいない。
自分の部屋のドアを恐る恐る開ける。

E「誰も・……いないわね。キーは……あったわ。さあ、行きましょう」

Carterの部屋は彼女の部屋の近くである。すぐにそこに到着して、彼女はキーをドアにさしこむ。一回息を整えてから、キーを回す。音がしてドアが開く。彼女はゆっくりと、それを手前に引く。
Elizabethは部屋の中に入る。そして、Carterが永遠の眠りについているのを……

E「ない?! そんな、カーターの遺体が、ない?! なんで、どうしてないの? 彼は確かに死んでしまっていたはずだわ。一体、誰が………ま、まさか……」

Elizabethはまた背後に異様な気配を感じた。すぐさま振り向く。

「ああ、ああ、見つけてしまったのね、エリザベス」
Elizabeth「ターニャ!!!!」


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