ばびんの柩の部屋


「漆黒の海を往く」  第三回


登場人物  Curter  Tania  Elizabeth  Harry  Jeff  Megumi 


 オレンジジュースを飲み干すと、Megumiはしばらく空になったコップの底を見つめて、顔を上げる。

M「……そうね、スリープすることにするわ。結局のところ起きていてもいつかは寝なければならないものね。それに、わたしが寝なくても皆が寝てしまえば、わたしは一人で取り残されることになるわ。そんなの耐えられない」
J「それに、食料の問題もある。残った者が他の人の分の食料まで食べてしまう可能性は大いにあるだろう?」
H「はは、選択肢は実は二つじゃなくて、一つなんじゃねえか」
E「納得してもらわなければ、ならなかったのよ。ハリー」
H「納得だって? 納得なんてできるものか! 俺達は殺されるために、睡眠をとるようなものなんだぞ」
J「それでも……」
H「ああ、わかってるさ。スリープに入らざるを得ないんだろう? たった一人でも生き残るために。ふん、全く、ジェフ、おまえが犯人なんじゃないのか? そうやって俺達に無理やりにでも睡眠をとらせて…その隙に殺すつもりなんじゃないのか?」
J「互いに疑い合うのはやめようと言っただろう! それをやったら俺達は自滅するぞ」
M「……わ、私じゃないわ……」
E「メグミ……大丈夫よ、私達は殺されたりなんかしないわ。恨まれるようなことはしていないでしょう?」
M「そうだけど……」

恨み、が関係しているかどうかということは、この場合全く関係なかったが、その点について反論しようとする者はいない。どのような方法であれElizabethが疑心暗鬼に向かいはじめた二人を救おうとしていることは分かっていたからである。

J「少し、自由時間を作ろうか……。みんないろいろ考えたいことがあるだろう」
E「そうね、それが良いかもしれないわ。私達はちょっと疲れているのよ、色々ありすぎて」
H「俺は自分の部屋へ下がらせてもらうぜ。しのご考えても俺にはどうしようもない。だからスリープに一足先に入ることにする。……悪いけど、部屋にはカギを掛けさせてもらうからな」
M「わ、わたしは……わたしも、先にスリープに入るわ。ここでまた考えたら、決心が鈍ってしまいそうだもの」
J「そうか。わかった、メグミも部屋にカギを下ろしておくと良い。何事も用心するにこしたことはないからね」

Megumiは無言でうなずく。Harryは一端給湯室へ行くと、自分に分配されているビールを一本持って、じゃあな、と無愛想に挨拶すると、部屋へ引っ込む。Megumiも、おやすみなさい、と言って自分の部屋に入る。

E「おやすみなさい、また一年後に会いましょう」
J「……紅茶でもどうだい?」
E「あら、毒入りかしら? いえ、冗談よ。お願いするわ、あ、でも私に割り当てられていた紅茶はもうないんだわ」
J「いや、俺のをやるさ。おごりだ」
E「気前がいいのね、じゃあ、遠慮無くいただくわ」

Jeffは一端給湯室に行くと、お湯の入った二つのコップと、ティーパックと角砂糖を両手に戻ってくる。

E「あら、早いわね。……ありがとう」
J「砂糖は自分のおこのみで入れてくれ。俺は砂糖をいっぱい使うからね、昔の友人に、おまえに紅茶を入れさせると砂糖湯が出てくる、って皮肉られてから、そうすることにしているんだ」
E「ふふ、私は砂糖は入れないわ」
J「おっと、じゃあこいつは要らなかったね……ま、いいさ俺は使わせていただくよ」

Jeffは角砂糖を五つばかり紅茶に入れる。

E「あきれた……本当に砂糖湯だわそれじゃあ」
J「これが、美味しいんだけどねぇ」

二人ともくすりと笑って、紅茶に口をつける。

E「でも、わからないわ……ターニャはなぜ殺されたのかしら?」
J「それは、僕も引っかかっていたところだよ。それにあのタンク……なぜか閉じられていただろう? あれも疑問のうちの一つなんだ。……さすがに開けてまで調べる勇気はないけどさ」
E「ええ……それに調べても私達には何も分からないわよね。……彼女は誰かに恨まれていたのかしら」
J「今となっては推測するしかないけど……その推測ですらも、旅客機の事故で知り合ったときからの仲では、あてにならないね」
E「もしかして……カーターも実は事故なんかではなくて、その犯人に?」
J「まさか。それはうがち過ぎってものだ。あれは機械系統の事故だろう」
E「でも、確実ではないわ」
J「おいおい、エリザベス。君まで冷静さを失わないでくれよ。それにカーターの事故と今回の事件とは時間的に間が開きすぎている、そうだろう?」
E「ええ、そう、そうね……」
J「どうも君は彼のことになると、感情に翻弄されるね。まあ、仕方のないことなんだろうけど」
E「ごめんなさい……私もきっと疲れているんだわ。これを飲んだらスリープにはいりましょう」
J「そうだね」

紅茶をまた少し飲んで、二人はほぼ同時にため息をつく。

J「結局のところ、俺達に対抗策はないってことか……」
E「犯人に、もう他の人を殺す意志がないことを祈るしかないわね」
J「そういえば、ターニャはなにか病気を患っていたみたいだったけど…それは殺されたことに関係しているのかな?」
E「いえ、病気だから殺されるなんて、おかしいわ。それとも……彼女は病気で死んで、その後誰かにこなごなにされたのかしら……。いえ、だめね。そうすることに意味があるなんて思えないわ」
J「そうだね。やっぱり推測だけではどうしようもないのかな」
E「もうスリープに入りましょう。色々考えてもらちがあかないもの。……ふふ、まるでハリーみたいなことを言っているわね、私」
J「じゃあ、そのコップは俺がかたづけておくよ。扉にカギを掛けておいた方が良い」
E「ええ、ありがとう。……おやすみなさい。また、一年後にね」
J「一年後に」

Jeffが給湯室に行くのを見届けて、Elizabethは自分の部屋へ入る。

E「そうだわ。次起きる日にち一日早めておきましょう。何か……分かるかもしれないわ」

彼女はそう呟いて、タンクの横に付いている操作卓を少しいじると、洗面所に行き、化粧を落として、シャワーを浴びると、髪の毛をかわかしてから、タンクに横になった。

Elizabeth「おやすみなさい……」

タンクの蓋が閉じた。


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