ばびんの柩の部屋


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コォヒィやコゥチャでも飲みながら、ごゆっくりお読みになってください

クレヨン
赤。白。黄。緑。青。赤。白。黄。緑。青。あなたはどの色のクレヨンが一番好きですか。僕はみんな好きなんです。だって、赤は情熱的な色だし、白は純粋な色だし、黄色は可愛い色だし、緑は優しい色だし、青はクールな色だし、みんな良いところがあるんですよ。だから僕はどれか一つの色なんて選べないんです。本当にどれも素敵な色ですよね。でもね、実は一番かっこいいのは僕なんです。黒色。


突き刺す
俺は人を突き刺すのが大好きだ。いや、大好きなんてものじゃないな、むしろ生きがいだ。俺はそのために生きているといっても過言ではないだろう。たとえ人から社会の害虫とののしられようが、強大な力で踏みつぶされようが、俺は決してこの行為をやめるつもりはない。もし止めてしまえば、俺は自分が何のために生まれてきたのかも分からずに、きっと何も食べることもできなくなって、死んでしまうに違いない。だから俺は人にこの俺のお気に入りの鋭く尖った巨大な針を突き刺す。決して止めない。突き刺し続ける。何度も何度も。そして血が流れ出てきたら俺は歓喜と興奮に打ち震える。まさに生を感じる瞬間だ! そうだ! 俺様は蚊。


飛行機事故
私には妹がいました。とても可愛い妹でした。休日になると、二人で良く自宅近くのデパートで、一緒に服を選んだりしたものです。妹はスカートを好んで履きましたが、私はもっぱらジーンズでした。理由は分かりません。
私には父がいました。父親はとても厳格な人でしたけど、毎年夏になると行われる町内の祭りが大好きで、その日だけはとても優しくなるのです。普段厳格なだけに、私はそういう父がとても好きでした。
私には母がいました。私に私がとても気に入っているこの名前をつけてくれたのもこの母だと聞きました。母はとても恥ずかしがり屋で父とのなりそめを私が聞いたときも、頬を真っ赤にしていたものです。そして私のことを最も理解してくれていたのも母親でした。
でも、あの事故が起こってしまったのです。あの日私達は家族全員で、北海道に旅行に行く予定を立て、成田から飛行機に乗って、空の旅をめいっぱい楽しむつもりでした。しかし、激しい乱気流とエンジンのトラブルが、飛行機を空飛ぶ夢の機械から墜落する鉄の塊に変えてしまったのです。墜落していく機内で、皆が生き残れることを祈っていました。墜落と凄まじい衝撃。そして私達の家族では、私だけが死んでしまったのです。


だって
天使のように私の身体は浮いている。制服は白い色のタップダンスを踊り出すし、靴はバレーボールを始めるし、蝶々はお辞儀をして、カマキリがボクシングを習い出す。私はリンゴになって友達のイチゴとそれを交換しようかどうか考えている。水平線に沈み始めた夕日が自分のアイデンティティについて考え始めた。ピラミッドが笑う。古墳が泣く。コンポが叫ぶ。テレビが手をたたく。電話の向こうから神様が手招きしている。私は屋上にいる。だってだって、彼が私に告白してくれるなんて! だから私はこんなに有頂天なの!


酔った
こんなに酔ってしまうなんて、自分では予想しなかった。できなかった。まるで馬鹿みたいに周りからは見えるのだろう。視界も、呂律ももう危うい。自分自身がふわふわと宙に浮いているようだ。いや、そんな気持ちの良いものではないな。どちらかと言えば泥の中に沈んで行く感覚に近い。こんなときに、「あぁ酔った酔った」なんて言えるほど自分の感覚は鋭くなかったし、余力もなかった。友人が自分の顔を覗いているのが視界にかろうじて入る。大丈夫かと言っているのは分かったが自分には言葉を返す気力がない。ああ! くそ! 絶対これっきりにしてやる! 船旅なんて!


スローモーション
あたしは今、スローモーションというのを実際に体験しているのだと気付いた。人の視界に起こる本当に不思議な現象。一体どういう原理でそう見えるのか、全くあたしには分からないけど、この光景はとても不思議だ。例えば飛び降り自殺をするひと。例えば自転車で転ぶ瞬間。例えば好きな人に告白されたとき。例えば映画のクライマックス。スローモーションを体験する瞬間はいろいろあるけれど、これはそれらとは違う。ずっとスローなんだもの。歩いている人の足がスローに見える。突き飛ばされた人の体がスローに見える。足を滑らせた人の動きがスローに見える。この経験は得がたいものかもしれないなとあたしは思う。
ああ、いけない、合図だ。頭の上から合図がする。このスローモーションの空間から抜け出さなければならない。笛なんか吹かないでよ。分かったわよ。もうプールの時間は終わりなんでしょ!


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