名手・川相、「木梨ガイド」に出演!

これは2003.1.24にフジテレビにて放映された「木梨ガイド」において、犠打通算世界記録を目前にしている
稀代の職人プレーヤー・名手・川相がゲスト出演した。不覚にも見逃した方々の為にも、ここでその内容をご紹介しよう!


果樹園で待ち構えている川相の元に木梨がやってくる所から、番組は始まる。
家族想いの川相は、ここで狩り取った大量のみかんを岡山の実家の両親に送るつもりだと言う。

読売ジャイアンツ・川相昌弘、38歳。
プロ野球選手として、現役21年目を迎え、その勝負強さと役割は常勝巨人軍にあって、チームの支えとなっている。
今回は世界記録への挑戦と現役へのこだわり。オフシーズンの過ごし方を通じて、バント職人としてのオフをガイドして戴きます。

なかなか、いいナレーションである。川相が「常勝巨人軍にあって、チームの支えとなっている」事は、殆どのファンが実感している事だろう。ただし、よりにもよって、一昨年まで巨人で長期政権を築いていた男だけが、その事を全く実感していなかった事こそ、川相にとっての大きな悲劇だったのだが…。その男の執拗な妨害工作により、遅くとも1999年には到達可能と思われた世界記録が未だに到達出来ないでいるばかりか、貴重な選手寿命も5年は縮んだと言われている。しかし、過去を嘆いた所でどうにもならない。果たして、川相は今後の野球生活に対して、いかなる決意を抱いているのか!?

 

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オフシーズンになると、よくここへみかん狩りをしに来ると言う川相は木梨の目の前で鮮やかにみかんを狩り取ってみせる。「ジャイアンツの方とは思えない。ここの(畑の)方かと…」と思わず木梨も口にするその手つきは正に職人。バントや守備だけでなく、何をやらせても、この男の職人ぶりには魅了される。「もしかすると、僕、ホント(野球選手より)こういう方が似合ってるかも分からないですね。好きですね、こういうの…」と川相は照れ笑いしながら、呟いた。

 

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原新監督率いる読売ジャイアンツは2年ぶりに日本一を奪回。
川相は入団以来、8度のリーグ優勝、4度の日本一を経験。チームリーダーとして、常勝巨人を引っ張ってきた。

木梨「強いですね、原さんね」
川相「そうですね」
木梨「(茂雄&ナベツネの暗黒コンビによる金満補強で培った)メンバーがいいだけですか?(笑)」
川相「メンバーがいいんだったら、やっぱり昨年よりも前もずっともっと前から勝ってた筈だと思うんだけど」

さりげなく…、いや、ストレートに金満補強を揶揄する木梨。ナイス!
それに対しての川相の発言は、一見、原政権を弁護している様にも聞こえるが、その真意は
あれだけの戦力を擁しながら、何度となくV逸に導び続けた茂雄ヘッポコ采配の批判である事は言うまでもないだろう。

川相「原さんは決断が早いですね」
木梨「長嶋さんなんか、面白くしよう、面白くしようみたいな…」
川相「ああ、それはあるかもしれませんね」

茂雄は、自分自身がそう思っているのか、はたまたファンがそう思っていると勘違いしているのか
面白い野球の象徴はホームランだと考えている。勿論、そんな野球を目指されては自分の出番が回ってこよう筈もない。
辛い思い出に川相は苦笑いするしかなかった。

木梨「コーチの役割も、なりますでしょ?」
川相「年齢的にはそうですね。同年代のコーチとかいっぱいいますから…」
木梨「斎藤(投手コーチ)君と同期くらい?」
川相「同期ですね」
木梨「自分達の仲間、同級生達が、同年代が引退とか…、悲しいですか、やっぱ?」
川相「寂しいですね…。寂しい…けど、その中で逆に言うと、自分がまだ現役のプレイヤーで出来てるって言うのは
   それはそれで嬉しい部分もありますよね」

若大将・原(現監督)やハマの大馬人・駒田を筆頭に、茂雄に疎まれ続けた藤田政権の主力メンバーは次々と嫌がらせ行為により、選手寿命を縮められ、引導を渡された。チュウ,槙原,そして斎藤雅も一昨年に引退を余儀なくされ、「造反五人衆」も残るは川相と桑田だけだ。茂雄は今もなお、終身名誉監督として圧力をかけ続けてはいるものの、現場監督としては最後まで川相を屈させる事は出来なかった。多くの選手が耐え切れなかった執拗な嫌がらせ攻勢を凌ぎきり、自分よりも先に茂雄を現場から退かせた事は、正に、川相の強靱な精神力の賜物だろう

 

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今年38歳を迎える川相は98年、犠打452と言う日本新記録を達成。
その役割への誇りが自身の野球人としてのこだわりとなっている。

木梨「(通算犠打は)どのくらいまでいく気なんですか?」
川相「(笑)。いえいえ、そんな全然…(考えていない)」
木梨「どこまでもいって欲しいんですが…」
川相「いきたいんですけど、なかなかチーム事情とかもあって、もしかしたら、いかせてくれない様な状況になるかも分からないし…」

茂雄さえいなければ、今頃は650前後まで伸びていたであろう犠打記録。記録優先の起用法は決して正しい事とは言えないが、茂雄は記録への配慮どころか、妨害工作をかます事ばかりにご執心だった。幾らでも数字を伸ばせるだけの能力と自信を持っているにも拘わらず、「いかせてくれない様な状況になるかも…」と言う危機感に苛まれる事に川相は憤りを感じているに違いない。しかし、それでも腐らずにプレーし続ける辺り、川相の野球選手として、また人間としての器の大きさを感じさせる

 

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川相「野球で言うとキャッチャーだったり、中継ぎだったり…、まぁ、2番バッターであったりするのって
   数字に出にくい部分ってあるじゃないですか。僕みたいなタイプの評価が上がれば
   それより上のクリーンアップって、もっと評価が上がる訳ですから…。
   ジャイアンツは僕なんかの、例えば、2番バッターとしての評価を上げてくれた事が
   今の中継ぎピッチャーとか、抑えとか、控え選手も含めて、給料アップに多少なりとも繋がったんじゃないかと思うんですけどね」

2番打者と言う脇役に徹してきた名手・川相。クリーンアップが光るのも、2番打者が自分を殺して後ろに繋ぐ仕事をきっちりこなす事により、絶好の場面を作り上げてくれるからに他ならない。目に見える部分、数字に表れる部分にしか気づけない男を指揮官に持ってしまった不運を呪いながらも、川相は黙々と仕事をこなし続けて、数字に出にくい役割を与えられたプレーヤー達の地位を向上させる事に尽力してきたのだ。

 

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川相「最後は自分の特徴をいかに持って出せるかが勝負だと思うんですね。
   レギュラーでは出なくなったけど、今度は例えば、守備固め行ったり、ピンチバント行ったり…」
木梨「先発から出てた場合と、代打でいく場合と、自分のコンディションの作り方も…」
川相「違いますねぇ。試合がだんだんと5回とか6回とかになってきて、色々な展開になるじゃないですか。
   それをこう試合の展開を読みながら、もしかして、こういう状況になったら自分の出る可能性あるなぁ
   と思い出すと、もう…、結構、殺気立ってきますね」

木梨「でも、原さんと川相さんの仲なら、途中から(身を乗り出して)
  『今日(出番)ある?』『結構、いっぱいいっぱいなんだけど、今日ある? ない? OK!』『やばいトコ(場面で)?』とか…」
川相「(木梨の一人芝居に爆笑しながら)大体やばいトコですから、僕…。いや、ホント、やばいトコ多いんですよ。
   大事な所のバントとか、1点リードしての9回の守りとか…。
   そういうやばい状況の時に監督が『おい、ジイちゃん、頼む!』とか言われるんですよ。
   『ヘイ、ジイちゃん、頼んだよ〜』、爽やかに言う訳ですよね。
   『頼んだよ』って言われても、こっちは結構、緊張してるのにねぇ(苦笑)」

最初から川相を出していれば、何も終盤で苦労する事はないと言うのに、茂雄の圧力により、徹底的にスタメン起用を阻止される事で無駄に苦戦を強いられるのが、恒例となっている巨人の試合展開。図らずも、終盤に川相が出てくる時には『やばいトコ』が待ち構えている。数々のプレッシャーに打ち勝ってきた百戦錬磨の川相でさえ緊張する場面でも、若大将・原監督が「頼んだよ〜」と気軽に言ってのけるのは、茂雄のソレとは比べものにならない川相への強い信頼感,安心感を抱いている証拠だろう

 

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川相「2回ぐらい上原の時に、1点差で勝ってる時に8,9と守りに行って、逆転されたんですよ」
木梨「川相さん、何かやっちゃったの?」
川相「1回やりました。アリアスとぶつかったんですよ(2002.9.15)。僕、サード守ってたんですよ。アリアスがサードの内野安打で
   ボテボテの…、(強い打球に備えて)一番後ろ守ってたんですよ…、ボテボテの内野安打で一塁に出て…。
   その後、レフト前ヒットでアリアスがホームに帰りそうだったんですよ。
   で、僕がサードのベースの所でチョロチョロっとして、走路を妨害しようと思ったんですよ。
   そしたら、ちょっと逃げ遅れて、ぶつかっちゃったの。バーンと…。そしたら、アリアスが走塁妨害だって言って
   星野監督が血相変えて出てきたんですよ。それで何十分も中断して、結局、その後、上原が赤星か何かに打たれてね」

木梨「でも、川相さんが(アリアスと)当たってないと、点入ってるでしょ?」
川相「いやぁ、多分、入ってなかったと思うんですよ(苦笑)」
木梨「すっごい余計な事したでしょ(笑)」

やはり、故意だった走路妨害。しかし、この手の狡猾なプレーは性根が真っ直ぐな川相向きではなかった様だ。下手に当たってしまった事で星野監督を呼び込んでしまったのが、川相の誤算だった。あの儘、中断さえしなければ、リズムが崩れる事はなく上原の完投勝利は濃厚だったろう。川相の判断自体は決して間違いではなかったのだ。「当たってなければ、点は入ってなかった」と、あえて言う辺り、清水の弱肩ぶりを露呈させる事なく煙に巻き、全て自分で責任を負おうとする川相の優しさが垣間見える

 

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川相「先発でずっと出てる時も当然、1球1球大事にしてましたけど
   途中から出ていって、大事な場面でいくと、やっぱり1球の重みって言うのがね、それは凄い感じるんで…」
木梨「自分でバッターボックス入ってて、ぶつけられるって、よく分かるって言うじゃないですか。
   その感じ味わって、向かってった事もあるんですか?」
川相「途中まで…(笑)。相手が星野さんなんですよ。相手のチームの監督が…。だからこう(マウンドへ)歩き始めたら
   ダ〜ッと来るのが分かったんですよ。だから、この辺で辞めとこうと…(笑)」

木梨「ガ〜ッと、こう団体が行く訳じゃないですか」
川相「甲子園だったかな。アリアスと(ヒゲ)入来が(乱闘を)やった時(2002.7.25)…
   あの時、気が付いたら、僕、アリアスに抱きついてたんですよ、後ろから…。
   数日間筋肉痛ですよ。凄い力だったですね」

一部では破戒僧・清原よりも強いと言う噂が流れている名手・川相。乱闘では度々得意のヒップアタックを炸裂させるなど、活躍が目立っている。たとえ星野監督が相手であろうとも真っ向受けて立つ覚悟はあるだろう。しかし、それ以上に、星野監督が絡むと無駄に抗議が長くなり、試合が中断して、球場に来てくれたファンにとっていい迷惑となってしまう。ファンを大切にする川相は不満があろうとも、いつまでもウダウダと引っ張らず、退くべき所は退く潔さを持っているのだ

 

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二人はバッティングドームへ移動。21年の野球人生を支え続けた職人芸を間近で見せて貰う事に…。

軟式ボールと言う事で、初球こそご愛敬で失敗してしまった川相だが、2球目からはすかさず修正し、堅実無比の芸術的バントが次々と炸裂。「なるほど〜、(打球を)殺してるよ! 流石だ!」と現役選手では文字通り世界トップに君臨する驚異のスーパーテクニックを目の当たりにし、木梨は興奮しきりだった。

 

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川相「ベンチの裏で、よく代打とか準備するじゃないですか。試合、途中から出ていく人って…。
   僕、こうですからね(と、バントの構えをする)。ベンチ裏で…(笑)」

木梨「自分の形を見る訳ですね」
川相「そうです、そうです。イメージをこう…。バントの構えで、よし、俺が出ていく状況はこうだと思ったら
   バントの構えをしながら、イメージを…。あと、打席に入る前にサイン、バントって分かってるのに
   絶対2回スイングするんですよ。あれ、何か寂しいですよね(笑)」

木梨「いやいや、そんな事ない。このまんま(バントの構えで)いたら、固まっちゃいますもん。
   (素振りで)体をちょっと動かして、この(バントの)位置へスッと入っていくんですね…」
 

木梨「ベンチからは送れと、バントだとサインが出た時に、『関係ねぇ、打っちゃえ』みたいな…
   若い時分は『嫌だ』みたいなのはあったんですか?」
川相「打った方が面白いなと思った事は何回かありますね。何回かと言うか、何回ももありますよ。
   ただそれを無視する訳にはどうしてもやっぱりいかないんで…。気持ちを切り換えて、一応、真面目に(バント)をやってましたけど…」

バントをやる前からバントの格好をして、作戦を敵にバラしてしまう様な粗忽者は世界広しと言えども、長嶋茂雄ただ一人だろう。一方、たとえ、フルスイングで素振りをしながら、打席に向かおうとも、バントの命を受けている事がバレてしまうのが名手・川相。しかし、いかにミエミエのバントで厳しいシフト,厳しい配球により、厳重に警戒されようとも、いともあっさりその包囲網をかいくぐって、決めてしまうのだから、敵にバレているかどうかなど、この男の前にはさしたる問題ではないのだ。くさい球をカットする技術,類稀なる選球眼,しぶとくおっつける職人技の右打ち…、その素晴らしい技術の数々であらゆる作戦に対応出来る川相だが、なまじ100%に限りなく近い成功率を誇るが為に、周囲は川相にバントを期待する。しかし、出来れば、思いっきり打ちたいと言うのが、川相の本音なのかもしれない。

 

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2002年の昨シーズンには自身の犠打記録を更に更新。世界記録まであと6に迫る。

木梨「どこまでも伸ばせる所まで伸ばしていって貰って…」
川相「そうですね。世界記録って言うのは、本当にそうそうやろうと思っても出来る事じゃないと思うし
   日本記録でも難しい…のに、世界記録となると、もっと難しい訳じゃないですか。長い事やらないといけないし…。
   それは是非ともやりたいなと思います。王さんの世界記録って言うのは、当然、ホームランで有名ですけど
   たとえ、バントであってもやってみたいなと…」
木梨「目の前で見ましたからね。(バントによる打球の)『殺し』を!」
川相「僕だって、一応、高校時代はね、5番打って、結構、ガンガン打ってたんですけど(笑)」

殆どのプロ野球選手が高校時代はクリーンアップを打っていた。しかし、プロに入ってクリーンアップを打てる人間は限られている。その他の選手達はそれまでとは違うタイプへと軌道修正を余儀なくされるのだ。高校時代はスラッガーだった名手・川相もその一人だったが、努力に努力を重ねて、堅実無比の守備力とバントテクニックを手に入れた。日本が世界に誇る王さんの不滅の金字塔・868本塁打。その域に名手・川相もまた到達しようとしている。ホームランとバント、正に対照的なプレーではあるが、その価値の大きさを比較する事にさしたる意味はない。修練を怠る事なく、長きに渡り、その自分の持ち味を生かす事に徹し続けてきた事は王さんも川相も相違ないのだ

 

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木梨「一番下(のお子さん)はおいくつですか?」
川相「10ヶ月ですね。2月に生まれたばっかりなんで…」
木梨「一番上は…」
川相「中2なんで14歳ですね」
木梨「野球やってるんですか?」
川相「野球やってます」
木梨「もう(将来は)野球選手ですか?」
川相「どうですかね。でも、本人凄い好きだし、一生懸命やって、中学でもレギュラーで出れる様になってきたんで…」

子煩悩で知られる川相。ヒーローインタビューで「勇太〜、拓也〜、成美〜、パパ、頑張ったよ〜!」と叫んだのは、あまりにも有名なエピソードだ。今や5人の子を抱える川相だが、この3人は日本球界でその名前をも知られているプロ野球選手の子供ではなかろうか? 中学でレギュラーを獲得した長男。次男も少年野球で頑張っていると言う。果たして、川相Jr達がプロを席巻する日が来るのか。一流選手の息子が一流たりえないのは、長嶋親子,野村親子で立証済だが、川相の背中を見て育った川相Jrの将来を期待せずにはいられない。長男のプロ入りは早くても4年後。父・昌弘にはそれまで現役で頑張って貰いたいものだ。

 

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木梨「川相さんのポジションをね、この年代になって、譲る譲らないじゃないけど
   今の横にいる選手の…、ジャイアンツの中にいるじゃないですか」

川相「そこが一番難しかったですね。特に、ここ3,4年、自分がレギュラーで出る機会が少なくなってきてからの
   調整とか気持ちの切り替えって言うのが、やっぱり凄く難しかったです。
   でも、しょうがないで諦めたんじゃ、多分、2,3年前に現役引退してたと思うし…。
   だから、そこを諦めずに辛抱強くやってたから、こうやって、20年も出来てると思いますけどね」

川相を殲滅する為に茂雄は毎年の様に刺客を送り続けた。助っ人,大物ルーキー,他球団からのトレード…、数多の刺客を蹴散らしてきた川相だったが、1998年のドラフト2位で入団してきたニックンにその座を奪われる。奪われたと言っても、競争に負けた訳ではない。入団前から競争すらさせずにニックンのレギュラー事を明言した茂雄の横暴なやり口により、有無を言わさず、レギュラーを剥奪されたのだ。パワーやスピードは確かに高いものを持っているニックン。しかし、その高い身体能力に頼りきっている彼のプレーは粗雑で、状況によって臨機応変に対応する野球頭脳も未熟と言えるだろう。全盛期と比べれば、流石に衰えの隠せない川相だが、まだまだニックンに優る部分は幾らでもある。パワーやスピード不足を補い尽くせるだけの多くのモノが備わっている事を川相は自負している事だろう。それでいながら、まっとうに競争すらさせて貰えない悪逆非道な扱い。これまで何度となく勝利に貢献してきた功労者である事も無視された。常人ならば、一気に気力が萎えて、現役を諦めていたかもしれない不遇な立場。しかし、たとえ、常時グラウンドに立てずとも、チームの精神的支柱として、自分に出来る事は残されていると認識した川相は決して現役生活を投げ出したりはしなかった

 

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川相「バリー・ボンズと僕、、年一緒なんですよ。比べたら、多分、彼、怒ると思いますけど…(笑)。
   彼なんて、今、38でホームラン記録作って…、凄い打ち出したの35くらいからなんですよ
   ホームラン50本越えたりしたのは、35越えてからですからね。
   日本って、30越えてくるともうベテランって言われるし、まして、35になってくると
   もうぼちぼち引退でしょ…って言う雰囲気なんですよ。周りもそうだし…」
木梨「分かります、サッカー選手もそうですもんね」
川相「でも、僕はとにかく周りのそういう事に流されて引退するのだけはしたくないと思ってるんですよね。
   そういう雰囲気に流されて、もう居場所もなくなってきて、追いやられて、何か辞めなきゃいけない様な雰囲気になって
   辞めてしまうって言うのは嫌なんで…。だから、もう思いっきり抵抗して…。
   僕なんか、ホントにこの程度の体格だし、これで20年も出来たって言ったら
   同じくらいの体格の子達も、体ちっちゃくてもね、プロに入っている子達にもいい励みにもなると思うし
   やれば出来るんだって事を証明したいなって言う気はありますね」

最近、川相は「40までプレーしたい」と言い続けている。70人枠と言う悪法の存在もあり、メジャーと比べ、若い年齢で切り捨てられがちな日本球界だが、川相はそんな悪しき傾向に真っ向から立ち向かうつもりだ。川相のバントテクニックは日本はおろか、世界トップに君臨する究極技。盗塁と違い、バントと言う作戦はその難しさとは裏腹に成功する事を前提としてとられる事が多い。しかし、実際の成功率は100%には遠く及ばず、特に、巨人においては目を覆うばかりだ。確率のスポーツと言われる野球において、100%近い数字を叩き出せると言う事が、どれ程、凄い武器であるか、もっと認識されて然るべきだろう。様々なプレーが魅力溢れる川相だけに、バントしか能がないと思われるのは不本意この上ないが、仮に、バント一筋に徹するならば、40歳どころか、45歳…、いや50歳までプレーする事とて、決して不可能ではないのではないだろうか。そんな川相の頑張りは小兵選手やベテラン選手に大いなる勇気を与える事だろう。

 

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そして、番組は川相の芸術的バントの映像をバックに、こんな言葉で締め括られた。

 

   FOR THE BEST OF BUNT CRAFTMAN IN THE WORLD…

(世界で最も優秀なバント職人

 

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20年間、一線で頑張ってきた誇りと自負が感じられる実にいい内容の番組だった。自分が完全に納得して現役引退出来る選手は殆どいない。巨人に限らないが、特に巨人においては顕著だ。ボロボロになるまで、続けたくとも、その前の段階で引退を勧告されるか、戦力外を通告されてしまうのだ。まして巨人においては、引退後の就職の心配も少ないせいか、移籍してまで現役にしがみつこうとせずに諦めてしまう選手が大半だ。あのド派手なセレモニーで現役に別れを告げた若大将・原辰徳とて、まだまだやれるのに…と言う気持ちがあった事だろうに、愚息・一茂を代打に出されるなど、茂雄の数々の嫌がらせによりベンチウォーマーを強いられ続けた事で、茂雄に屈する形でユニフォームを脱いだ…、いや、脱がされた訳で、決して納得して引退した訳ではない。2000年,2001年と茂雄の陰謀により、球団から打診されたコーチ兼任要請も一蹴して、現役一本にこだわり続ける川相だが、果たして、どういう形でユニフォームを脱ぐ事になるのか!? 万一、巨人からもう契約を結ぶつもりはないと言われようと、現役でやれる自信を失っていないのならば、パ・リーグや宿敵・阪神に移籍しようとも、現役にしがみ続けて欲しい。いつか終わりが来るものと分かっていても、いつまでもそのプレーを見続けたい。川相昌弘とは、そう思わずにはいられない魅力を誇る偉大なプレーヤーなのだ