最初に申しますが、今回は「負け」です。しかも劇的な場面は特にありません。ただ漫然と、この出来事を振り返ってみたいと思います。おまけに最後は怒ってますから、不快に思われるかも知れません。
とにかく、前作「ハイソな私」を読んだ人、過大な期待はしないように。
そうそう、皆さん、車は大切なパートナーです。大事にしましょうね。
気のせいだろうか? ガソリンが全然減らない。もう8月も終わりに近づいたのに、ギャラン君はまだ元気よく走っている。今月あたまに越後湯沢まで往復したのだよ。ハイオクガソリンってこんなに燃費がいいの?
6月に車検を終えたばかり、5月に靴も履き替えて、いつになく絶好調の彼は非常に頼もしく見えた。
もともとの彼のオーナーは私の兄である。車オタクの兄は最近まで車検を受けたことがなかった。だって車検が来る前に買い替えてしまうんだもの。兄は仕事でも車がらみだし、横から見た車の先頭部分5%で車種を言い当てると豪語している。兄の車に対する愛着も人一倍である。それはそれでよいのだが、今となっては私のもの−−ギャラン君−−に対しても愛情がありあまっている。
対照的に私は、「車はうごけばよい」と思っている。最初の頃はまめに洗車もしたが、ここんとこ3年くらいワックスかけてない。オイル交換も軽く1年忘れてしまう。実はタイヤ交換したのも、兄の厳しい指摘に基づく。
「おいおい、ケンゾー君、なんだよこれは。」
一家の法事にギャラン君が出動した。運転手は兄。走行中、兄は両手をハンドルから離してみせた。無人運転のごとく、ハンドルは右へ左へとブレる。なんだこりゃ?
「タイヤだよ、タイヤ。」
タイヤが磨り減った末期がこうなるらしい。
「まったく物持ちがいいよなぁ〜」
そんな皮肉で終わるかと思いきや、普段の手入れ加減をこっぴどく叱られる。
「ここまでヒドイと命にかかわるぞ。」
そんなー、最低限車検は通してるじゃんかー!
長いものには巻かれろといいまして、兄の言うがままタイヤを交換し、車検も兄のツテで信用できる筋にやってもらうことになった。車検に先立つ整備点検もかなり入念にやってもらう。まあ、コネにお任せしたおかげで格安料金ですんだ。ちょっと小言を言われた分を取り返すには十分のトクだった。ラッキー。
そして今、この走り。気まぐれで入れたハイオクが効いてるのかもしないが、とにかく絶好調!アクセル軽快!ギャラン君素敵っ!
改心しましたよ。今までの私が悪かった。。。うん、これからはちゃんと手入れします。
その日もバンド練習の帰りである。スタジオから杉本さんと二人で各々の駐車場所へと向かう。杉本さんの車に近づくと、ドアミラーのところに「オレンジ色のニクイ奴」がぶら下がっている。「ショックー!!」と嘆く彼女をなだめた後、自分自身も焦燥感に駆られた。ギャラン君もここからそうは遠くないところに停まっている。もはや、やられるならやられるで仕様がないのだが、なぜか小走りにギャラン君に向かう。路地の角から大通りに面して視界が開け、さて、いとしのギャラン君は無傷であった! ありがたい、命拾いをした。こうなると1万5千円儲けた気分である。
無事を確認した後で、愛情を深めるべく、給油を行なうこととした。さすがの燃費の良さもここへ来て限界が来たようだ。普段は地元のGSなのだが、ここから地元までたどり着けそうにない。そこで、通り道の三宿にある某ファミレス向かいのGSに立ち寄る。もちろんここのスタンドにとっては一元さんだ。
何気ないそぶりでハイオク満タンを頼む。よし、これからはハイオクがマイブームだ。さっき1万5千円儲けたもんね。給油が始まったころ自分はトイレを済ませ、自販機でジュースを買う。
ジュースを仕込んだ後車に戻ると、スタンドの兄ちゃんがボンネットを開けて中をチェックしている。内心おや? 頼んでもいないことを・・・とは思ったが、いやいや、ギャラン君のためにここは色々とチェックしてもらおうと考えた。ほどなくして兄ちゃんが、
「あのー、エンジンルームをチェックしたところですね、バッテリとかOKなんですが、エンジンオイルがですねぇ・・・」
そう言って彼はオイルの汚れをチェックする紙の小片を見せてくれた。中央に対象となる車のオイルを滴らしたスペースがあり、周りにオイルの消耗度を色で示す標本が並んでいる。確かに、それで見る限りギャラン君のオイルはかなりマズイ状態である。不思議だ。6月に整備した時にオイル交換してもらったような気がするのだが・・・してなかったかな?
「このままですと燃費にもよくないですし・・・10分位で終わりますから。」
まあとにかく、交換すべきであることは確かだ。この思い立った瞬間にやってしまわないと機会を逃してしまう。車は大切なパートナー、キチンと手入れしなければ。と、思ったが、しまった、現金の持ち合わせがない。その旨を伝えると、
「カード使えますよ」
そりゃそうだ。普段現金主義であるためかカードの存在をつい忘れてしまう。オイル交換をお願いして待合室で新聞を手に取る。
ハイソなつもりで日経なんぞを読んでみる。すると兄ちゃんが、
「あのー、オイルの方ですね、結構汚れが底の方まで溜まってるんですよ。で、このまま交換するよりもフラッシングした方がキレイになります。」
フラッシングとは? エンジンをフかしながらオイルを循環させつつ交換するらしい。「すすぎ」をしながら交換する感じである。当然オイルの消費量も多い。
「オイルを喰うんですが、後々の燃費を考えたらトクですよ。」
今の自分はこの言葉にヨワイ。あいわかった。そのように処理してくださいとお願いする。しばらくまた新聞を読んでいると、またまた兄ちゃんやってきて、
「あのー、今見たらですね。オートマオイルが相当汚いんですよ。最近交換されましたか?」
確かにオートマオイルは全く交換していないから汚いのは当然である。しかし、ここで、例の疑念がふつふつと湧いてきた。
交換の料金を聞き、その値段は今出せないということにして断る。もともとその料金は市価より高かった。
「オートマオイルって一番燃費に効くんですよ・・・」
もういい。とにかく断ることにする。しぶしぶ兄ちゃんは引き下がったが、1分も経たないうちに戻ってきた。
「あのー、今ですね、店長に聞いてみたら、エンジンオイルの交換するとオートマオイルの交換が値引きになるんですよ。」
値段を一応聞いてあげたが、たいした値引きじゃないのだこれが。この辺から態度を硬化させ、ひたすら断る。一応兄ちゃんも引き下がる。大丈夫か?
オイル交換。間に合うものなら取り下げたかったが、もはや後の祭り。恐れていたことだが、しばらくすると店長らしきおっさんがやってきた。
「車磨きましょうよ。」
は? 車のボディーが汚いことを指摘された。おっしゃるとおり洗車なんぞほとんどしませんわ。
「ポリッシュして特殊加工するとキレイになるよ〜」
そりゃそうでしょうが、店長が乗り出してきたところでもう完全にアウト。何を言っても聞かないぜ。あの車がもう10年選手である事、そのうち買い換えるつもり(ウソ)であること、費用対効果が割に合わない事を一つ一つかみ砕いて説明し、何が何でも断る。店長だけに少々てこずったが最後は引き下がってくれた。
それにしてもオイル交換が遅い。10分なんて大ウソツキだ。ほかの客が待合室に入ってきた。彼はBMWに乗ってやってきた、青年実業家風の黒いスーツの男である。店員の兄ちゃんとしばらくやり取りをしていたが、もれ聞こえたのは、
「・・・その方が燃費のためにも・・・」
ここまで来ると逆に微笑ましくなってきた。実業家は「あれー?そうですか」などといった後、結局「じゃあ、お願いします。」と折れていた。ご愁傷様です。
オイル交換が終わり、兄ちゃんがレジを打つ。サインをする前にも、その金額が何の対価であるのか事細かく聞いた。油断すると何があるかわからん。最後に兄ちゃんがさわやかな笑顔で、
「350円引いておきましたから。」
と言った。
そりゃどうも、とソツなく返事をして車に乗り込む。見ると室内のごみ箱が満タンのままである。あのなあ、エンジンを思いやる気持ちがあったら、ボディを思いやる気持ちがあったら、室内のゴミくらい捨てておけ!タコ!
というわけで今回は負け。しかし被害は最小限に食い止めたつもり。オイル交換+フラッシングで8,500円ナリ(高い!)。まあ、1万5千円トクしてるんだから、と言い聞かせた。今思うと最初に見せられたあのオイルチェックの紙、ホンモノなのだろうか?
帰りの高速、ギャラン君のアクセルは以前よりもクソ重かった。
車は大切なパートナー。愛情を持って大事にしましょうね、みなさん。
(C)1998 Kenzo Kasahara
ちなみに、この日の夜に某横浜ジャズフェスでものすごい事件があったそうで、私の中ではこの日はかなり最悪の記念日です。駐禁取られなかったのが唯一の救い。