劇伴コラム ホワイトジャケット事件
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(前回の話は今回の話の枕でした。…え、そうだったのか!?)
1980年…。
「アニメージュ」7月号にキングレコード「無敵鋼人ダイターン3・オリジナル・サウンドトラック盤」の発売広告が掲載される。
が、広告を見た読者はちょっと面食らった。
広告にはジャケット写真も掲載されており、収録内容も紹介されているが、万丈のイラストの脇にギザギザのカコミがあり、本来なら、「初回版ポスタープレゼント」などのお知らせが入るはずのところが、「緊急のお詫び。事情により、発売を延期します」の無情な文字が…。
初掲載なのに発売延期の告知が入った異例の広告だったのである。
キングレコードはこれ以前に、自社でEPを発売した「無敵超人ザンボット3」「機動戦士ガンダム」のサウンド・トラックLPを発売し、マニアには好評をもって迎えられている。「ダイターン3」は、同じサンライズ=富野喜幸ロボットアニメ路線の第2作。好セールスを期待しての企画だったはずだ。
この「ザンボット」「ダイターン」「ガンダム」の3作品は富野ロボットアニメ初期3部作と呼ばれ、特に人気の高い作品である。この当時、ロボットものといえば、「コンバトラー」「ボルテス」の長浜忠夫作品か、富野作品かで、人気を2分していた。
レコード発売は、「ザンボット」「ガンダム」がキングレコード、「ダイターン」だけがコロムビアと、同一局、同一製作プロ作品なのにメーカーが統一されていない。
キングレコードは当初から主題歌のオリジナル収録はあきらめ、歌は堀光一路、ザ・ブレッスン・フォーで再録、これにオリジナルBGMとドラマ・サントラでレコードを構成していた。最終回ラストにかぶる主題歌も堀版に差し替えて再ミックスするなど、コロムビア音源を使わないよう細心の注意を払っている。
オリジナル劇伴の原盤製作にはコロムビアは関わっておらず、収録内容に問題はないはず。
では、何が問題だったのか。
問題は、「ダイターン3」のキャラクターを使用してのレコード発売にあった。
いわゆる、「版権上のトラブル」である。
(以下想像)
ジャケットや解説書に「ダイターン3」のキャラクターを使用しようとしたキングレコードに対し、コロムビアが、版権の独占契約を主張してストップをかけたのであろう。
問題が解決するまで、発売は延期にせざるをえない。
すでにマスター作成も終わり、ジャケットイラストも出来上がって宣伝を開始する矢先のことで、キングレコードは出鼻をくじかれた形になった。
(以上想像)
このときキングレコードがとった措置が、これまたキャラクター商品では前代未聞のものであった。
こうした場合、通常なら、問題が解決し、版権が取得できるまでレコード発売は見合わせるもので、多くの場合は、そのまま発売中止となることが多い。だが、キングレコードは、キャラクターの画像を一切使わずにレコードを発売してしまったのである。
およそ半年後に発売されたLPは、白地に「ダイターン」のロゴ(テレビで使用されたものではなく別にデザインした英字のロゴ)のみあしらったホワイトジャケット盤。
帯に正規盤ジャケットの引き換え券がついており、正規盤が発売されたときに、引き換え券を切り取って店頭に持っていけば、正規盤ジャケットとポスターがもらえるというしくみである(ホワイトジャケットと交換ではなく、手元にはホワイトジャケットと正規盤ジャケットの2つが残ることになる)。
これ以前に、「海のトリトン」の劇伴を作曲者・鈴木宏昌が自らのバンドで演奏し、自主制作盤としてホワイトジャケットで限定発売したことがあった。同じくキャラクターの画像が使用できないためのアイデアであろうが、それにヒントを得ての苦肉の策と思われる。
このレコードの制作にあたったのが、キングレコードの名物ディレクター(当時)で、のちにYOUMEXを設立する藤田順二氏。
「キャラクターを使わないテレビマンガのレコードが売れるのか」という不安をよそに、このホワイトジャケット版は好セールスを記録。「ファンが望んでいるのはキャラクターではなく音楽そのものだ」という自信をつけさせ、のちにスターチャイルド・レーベルを設立するきっかけのひとつになったのだから皮肉なことである。
スターチャイルド・レーベルの登場はこの翌年の'81年。第1弾は、すぎやまこういちの「交響詩イデオン」だった。
現在、ホワイトジャケット版の「ダイターン3」LPは、さほど珍しいものではなく、中古盤店ではほとんどプレミアもつかずに売られている。
ところでコロムビアの方は、キングの正規盤が出るまでの間に、ちゃっかり「テレビオリジナルBGMコレクション 無敵鋼人ダイターン3」を発売してました。
'98/4/13
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