訴       状

2001年(平成13年)6月8日

さいたま地方裁判所民事部 御中

原告ら訴訟代理人弁護士   釜 井   英 法

同     鍜治伸明

当事者・訴訟代理人の表示 別紙当事者目録・原告訴訟代理人目録記載のとおり

産業廃棄物処分業更新許可処分取消請求事件

訴訟物の価額  金95万円
貼用印紙額   8200円

請求の趣旨
1 被告が平成13年3月11日付でなした、石坂産業株式会社に対する産業廃棄物処分業の更新許可処分(許可番号 1120007368、指令番号 指令西環第7−316号)はこれを取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。

請求の原因
はじめに
くぬぎ山は、所沢市、狭山市、川越市、三芳町の3市1町にまたがる武蔵野の面影を残す雑木林であり、300年前に開拓された歴史的・文化的価値を有する「三富新田」に囲まれている。首都圏にあって、短冊状に美しく整然と並んだ広々とした畑が今尚残り、農業を営む家が多い。くぬぎ山の雑木林は、周辺の農家がその落ち葉を堆肥として利用するために守り育ててきた、豊かで美しい林である。ところが、平成2年頃から、その林の中で野焼きが横行し、また、焼却炉が無計画に集中して作られ、悪臭・粉じん・ばいじんが周辺に撒き散らされるようになった。その結果、この地域はダイオキシン類等によって深刻に汚染された。その報道が原因で所沢産野菜価格の暴落がおき、農家らによりテレビ朝日らに対して名誉毀損の裁判が起こされたが、先日、テレビ朝日の報道が真実であること(この地域のダイオキシン類等による汚染が真実であること)を認定した判決が下されたことは記憶に新しい。
本訴は、このくぬぎ山の中の産業廃棄物処理業者のなかでも最大手の訴外石坂産業に対してなされた産業廃棄物処分業の更新許可処分の取り消しを求めるものである。産業廃棄物処理業者らの監督権者である被告の杜撰な審査や監督権の不行使がこの地域への産業廃棄物処理施設の集中を招き、生活環境の汚染を引き起こしたのであるが、本件処分にもその被告の杜撰さが如実に現れている。その意味で、本訴は、訴外石坂産業だけの問題にとどまらない、本地域における被告のこれまでの許可・監督行政の怠慢さを問うという意味がある。
 当事者
 原告らは、訴外石坂産業株式会社(以下「訴外石坂産業」という。)が埼玉県入間郡三芳町大字上富字緑1589番1他に有する産業廃棄物処理施設の周辺に居住・勤務し、または周辺で農業に従事する者である。
被告は、埼玉県知事である。

 被告による訴外石坂産業に対する産業廃棄物処分業更新許可処分
被告は、平成13年3月11日、訴外石坂産業に対して、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)14条第4項により、産業廃棄物処分業(許可番号 1120007368、指令番号 指令西環第7−316号)の更新許可をした(以下、「本件許可処分」という。)。

本件許可処分等に係わる事業の範囲等
被告が、本件許可処分をした際に訴外石坂産業に対して交付した許可証(甲1)によれば、本件許可処分の内容は次のようになっている。
(1)事業の範囲
中間処分業
中和:廃酸、廃アルカリ 以上2種類
溶融:廃プラスチック類 以上1種類
破砕:木くず、廃プラスチック類、がれき類、金属くず、ガラスくず及び陶磁器くず 以上5種類
焼却:廃油、廃アルカリ、紙くず、木くず、繊維くず、動植物性残さ、ゴムくず、汚泥、廃プラスチック類 以上9種類
(2)事業の用に供する施設
@ 施設等の所在地
埼玉県入間郡三芳町大字上富字緑1589番1、1589番4、1589番5、1590番1、1590番3、1590番5、1590番7、1590番8、1590番9、1591番1、1591番2、1591番4、1591番12 以上14筆(面積8,660m2)
A 処理施設の種類及び能力等

施設の種類 処理能力 廃棄物の種類
中和施設 11.52m3/日 廃酸、廃アルカリ
溶融施設 12t/日 廃プラスチック類
破砕施設 112t/日 木くず
破砕施設 4.8t/日 廃プラスチック類
破砕施設 320t/日 がれき類
破砕施設 320t/日 金属くず、がれき類、ガラスくず及び陶磁器くず
バーナー焼却 1m3/日 廃油
焼却施設(A)15.4t/日 紙くず、木くず、繊維くず、
                 動植物性残さ、ゴムくず
焼却施設(C)31.2t/日 紙くず、木くず、繊維くず、
                 動植物性残さ
焼却施設(B)1.28t/日 汚泥、廃アルカリ、廃プ
       ラスチック類、ゴムくず

B 保管施設の種類及び能力等
省略(甲1参照)

(3)許可の条件
処分及び保管は、上記(2)A、Bに掲げる施設で行うこと

被告の本件許可処分等が違法であること
しかしながら、被告による本件許可処分は次の理由により違法である。
(1)本件許可処分で「事業の用に供する施設」とされている施設のうち焼却施設(A)と焼却施設(C)が無許可施設であることに基づく違法
〔1〕訴外石坂産業による平成9年の焼却施設(A)と焼却施設(C)の大規模な構造・規模の変更
訴外石坂産業は、平成9年4月頃、焼却施設(A)と焼却施設(C)について、従来のバッチ式焼却炉(燃焼室内の火床の上に搬入ごみを人力で直接投入し、燃焼後の焼却灰は、炉体の灰出し扉から手操作で排出するもので、全て人力による焼却炉)から準連続運転式の焼却炉へと大規模な構造・規模の変更工事をした。
主たる変更点は、訴外石坂産業が作成した「大気汚染防止法に基づくばい煙発生施設変更届出書」等によれば次のとおりである。また、別紙として焼却施設(A)、(C)の各焼却炉の断面図を末尾に添付するが、同断面図を見ると本件炉の構造が大幅に変更されたことが一見して明らかである。
a 焼却施設(A)(1号炉焼却炉、アサヒ式NK500型)について

    旧炉    新炉
焼却能力  2000kg/h 1400kg/h
一次燃焼室容積 43m3     90m3
火格子面積  15m2     10m2
操業時間  8時〜17時 8時〜20時
ばい煙処理設備 電気集塵機  バグフィルター+消石灰
その他           自動投入機・攪拌プ
           ッシャー追加

b 焼却施設(B)(2号炉焼却炉、アサヒ式NK1000型)について

    旧炉    新炉
焼却能力  4000kg/h 2600kg/h
一次燃焼室容積 100m3    130m3
火格子面積  17m2    14.4m2
操業時間  8時〜17時 8時〜20時
ばい煙処理設備 電気集塵機   電気集塵機+消石灰
その他          自動投入機・攪拌プ
          ッシャー追加

〔2〕産業廃棄物処理施設の構造・規模の変更には都道府県知事の許可が必要(平成9年改正前廃棄物処理法15条の2)
平成9年改正前の廃棄物処理法(以下、「旧法」という。)(注:平成9年改正法の施行日は平成9年12月17日)は、15条の2第1項本文において、「産業廃棄物処理施設の設置者は、当該産業廃棄物処理施設の構造又は規模の変更をしようとするときは、都道府県知事の許可を受けなければならない」と規定し、これに違反して、産業廃棄物処理施設の構造又は規模を変更した者は「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」こととする(旧法25条5号)。
産業廃棄物処理施設は、政令(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令、以下「施行令」という。)で定められており、本件焼却施設は、施行令(旧)7条13号の2「産業廃棄物の焼却施設であって、1日当たりの処理能力が5tを超えるもの」に該当する。
ところが、訴外石坂産業は、上述した本件焼却施設の大規模な構造・規模の変更工事について、被告に対して変更許可の申請をしておらず、被告の許可を得ていない。
したがって、本件焼却施設が、廃棄物処理法上、無許可の違法施設であることは明らかである。
〔3〕本件焼却施設の構造・規模の変更は「軽微な変更」か?
なお、被告は、「本件変更は『軽微な変更』だから、許可はいらないのだ」と主張するかも知れないので、予め反論しておく。
旧法15条の2第1項は、但し書きで「ただし、その変更が厚生省令で定める軽微な変更であるときはこの限りでない。」と定め、同法施行規則(旧)12条の8、5条の2は、「・・・厚生省令で定める軽微な変更は、主要な設備の変更を伴わず、かつ、処理能力の10パーセント以上の変更を伴わない変更とする。」旨定める。
ここにいう「主要な設備」とは何を意味するのかが問題となる。当該産業廃棄物処理施設ごとにその施設にとっての「主要」な設備は、変わってくるであろうが、焼却施設にとっては、ごみを焼却させる場所である「燃焼室」がなければ、焼却施設とは言えない。燃焼室がない「焼却施設」は、単なる野焼きの穴である。したがって、言葉の意味からしても、「燃焼室」の機能からしても、それが焼却施設にとって、「主要」な設備となることは、明らかである。また、実質的に考えても、廃棄物処理施設の構造・規模の変更について当該施設を新設する場合と同様の許可を要することとしたのは、廃棄物処理施設が周辺の生活環境に影響を及ぼすことを考慮してのことである。焼却室に変更を加えれば、ごみの燃え方が変わってくるし、焼却量も変わってくる。そうすると、周辺環境に排出される燃焼ガスに含まれる有害物質の質も量も変わってくるのであるから、法律の趣旨からして、再度、監督権限者である都道府県知事の審査を受けさせる必要があることは明らかである。
さらに、本件は、「処理能力の10パーセント以上の変更」の要件にも該当する。すなわち、(1)で述べたように、本件変更工事により、焼却能力が、焼却施設(A)では、2000kg/hから1400kg/hに30%減、焼却施設(B)では4000kg/hから2600kg/hに35%減、となっており、「処理能力の10パーセント以上の変更」に該当することは明らかである。なお、原告らは、この焼却能力の減少については、後述するように虚偽であると考えており、実際は、本件焼却施設の焼却能力は本件変更工事により、逆に増加したと考えている。
以上により、いずれにしても、本件変更が軽微な変更にあたらないことは明らかである。
〔4〕産業廃棄物処分業者の「事業の用に供する施設」が無許可の違法施設であるときに、産業廃棄物処分業許可が違法となること
 都道府県知事は、産業廃棄物処分業の許可の申請が、「その事業の用に供する施設・・・がその事業を的確に、かつ継続して行うに足りるものとして厚生省令で定める基準に適合するものであること」に適合していると認めるときでなければ処分業の許可をしてはならない(廃棄物処理法(旧)14条第6項1号)。
 そして、同号にいう「事業の用に供する施設」は、厚生省令で定める基準への適合が要求されているから、その上位規範である法律に適合していることは当然の前提である。
 また、実質的にも、処分業・処理業の営業許可の制度と施設設置の許可の制度は1991年(平成3年)改正後の廃棄物処理法のもとでは、周辺環境保全への具体的配慮という法目的を共有しており、きわめて密接な関連性がある。したがって、一方で違法とされるものを他方でその使用を認めるというのは制度の趣旨に反することになる。
 よって、処分業の許可申請において、「その事業の用に供する施設」が法律上変更許可を要する施設である場合には、その許可を得ていなければならないと解される。
 本件では、被告は、法律上変更許可を要する施設であるにもかかわらず、その許可を得ない施設を産業廃棄物処分業の「事業の用に供する施設」と認定したものである。そうすると、訴外石坂産業に対してされた本件許可処分は、適法な産廃処理施設を有しない者に対してなされたものであるから、産業廃棄物処分業の許可要件の重要部分に適合しておらず、取り消すべき違法がある(甲2判決参照)。
(2)本件許可申請中、「事業の用に供する施設の処理能力」に偽りがあるのに、これを看過して許可をなした違法
訴外石坂産業の本件許可申請中、無許可の違法施設である焼却施設(A)と焼却施設(B)の処理能力はそれぞれ、15.4t/日、31.2t/日とされているが、上記焼却施設の実際の処理能力は、申請した能力を超えている(詳細は準備書面にて明らかにする予定である)。
被告は、焼却施設については、許可申請者の申請した処理能力が正しいものであるかどうか審査し、誤りがないということであればその処理能力を基礎として許可の要件を具備しているか否かを検討していくのである。したがって、処理能力に偽りがあり、それを看過して許可処分をしたときには、その許可処分は、重要な前提事実について誤認があることになり、違法となる。
(3)訴外石坂産業が廃棄物処理法七条三項四号ホ「その業務に関し、不正または不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足る相当の理由がある者」に該当する違法
〔1〕その業務に関し、不正または不誠実な行為をするおそれ
廃棄物処理法14条第6項2号、7条第3項4号ホによれば、都道府県知事は、「その業務に関し、不正または不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足る相当の理由がある者」に対しては産業廃棄物処分業の許可をしてはならないところ、訴外石坂産業が、その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれは極めて強い。被告のなした本件許可処分等は、申請者の適格性を有しない者に対してなされたものであり、産業廃棄物処分業の許可要件の重要部分に適合していない違法がある。
 訴外石坂産業が「その業務に関し、不正または不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足る相当の理由」の存在を裏付ける主な事実は次のとおりである。
〔2〕廃棄物処理施設の無許可変更(旧法15条の2第1項違反)
上述のように、訴外石坂産業は、平成9年に、被告の許可を得ることなく、2つの焼却施設の大規模な構造・規模の変更を行い、その施設を現在も使用し続けている。これは、旧法25条5号に該当する犯罪行為でもある(3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。)。
〔3〕恒常的な産業廃棄物処理施設の維持管理基準違反
訴外石坂産業は、「施設への産業廃棄物の投入は当該施設の処理能力を超えないように行うこと」(規則12条の6第1項2号)を守らず、申請した処理能力以上の操業時間外の操業を続けている。
また、訴外石坂産業は、施設の操業により、長年にわたり、周辺に灰・ばいじんを飛散させてきた。現在でも、周囲に灰が降っており、施設周辺に居住する原告らの庭先においた車には毎日、灰や粉じんが積もるという状態が続いている。これは、規則12条の7第5項、同4条の5第1項2号ヨ「排ガスによる生活環境保全上の支障が生じないようにすること」に違反する行為である。
さらに、塩素臭、廃プラ臭など、排ガスの悪臭がひどい。周辺の住民が夜11時以降に帰宅するときにも、周囲に焼却臭・悪臭が漂っている(規則12条の6第5号違反)。
加えて、早朝から、夜遅く11時以降まで、重機、焼却炉、破砕機などから騒音・振動を発生させており、周囲の生活環境を損ねている(規則12条の6第1項7号違反)。
〔4〕無許可の廃プラスチックの焼却
 焼却施設(A)、(B)では、廃プラスチック類の燃焼は許可されていないが(3、(2)、A参照)、訴外石坂産業は、この二つの炉で、恒常的に許可品目外の廃プラスチックを混入させ、焼却している。住民が焼却物を見た範囲でも廃プラスチックがかなり混入しているのを確認しているし、埼玉県の立ち入り調査の記録でも(H12.6.5)「廃プラスチックが混入する要因はなにか」、H12.7.17「焼却物の分別はまだ不完全で、1,2号炉ともに廃プラスチックが入っていた」などと指摘されている。
〔5〕無許可埋立(不法投棄)への関与
訴外石坂産業は、平成9年6月に土木建築業者と暴力団組員らの無許可埋立処分に関わり(実行犯ではなく委託者のようであるが)、発覚後、埋め立てられた廃棄物の撤去を行った(ダンプ102台分)。そして、埼玉県より平成10年3月26日にこのような違反行為の再発防止と廃棄物の適正処理について勧告されている。

(4)本件許可処分が焼却炉密集による重大な環境汚染が判明しているくぬぎ山地域におけるさらなる環境汚染施設の営業を認める暴挙であることによる違法
〔1〕
本件処理施設は産業廃棄物焼却施設が密集する通称くぬぎ山の中心部に位置するが、くぬぎ山の半径3km以内には、数年前まで、1時間当たりの処理能力が150kg以上(廃プラスチック類の焼却炉の場合一時間当たりの処理能力が100Lを超えるもの)または火格子・火床面積が1.5F以上の焼却炉が約30炉も存在していた。現在は、自分たちの命と健康を守る住民の運動等によって14炉にまで減少したが、廃炉になった業者は比較的小規模な業者であり、訴外石坂産業のような規模の大きな焼却炉を持つ業者は、活発に操業を続けている。
 摂南大学宮田秀明教授は、平成7年(1995年)及び平成8年(1996年)の2度にわたって、くぬぎ山を中心にした半径6キロ以内の各地点でのダイオキシン類による土壌汚染の調査を行った。その結果、くぬぎ山を中心として周辺に高濃度のダイオキシンによる土壌汚染(65〜448pgTEQ/g)が広がっていることが判明した。
また、埼玉県や所沢市等の調査により、大気からも当時の大気環境指針値を上回るようなダイオキシンが測定されている。
その他、本件施設が存する所沢市では、浮遊粒子状物質(SPM)及び光化学オキシダント(Ox)について環境基準を超過した値が測定されており、酸性雨の出現率も異常に高いという状況があるが、これらの汚染にはいずれも密集した焼却施設からの排ガスが影響していると考えられる。
〔2〕 本件施設は、くぬぎ山の中に存する産業廃棄物処理施設の中で、処理量から見て最大級の施設である。焼却、破砕、溶融、中和施設であるが、様々な廃棄物の焼却に伴い、ダイオキシン、有害重金属類、窒素酸化物、硫黄酸化物、塩化水素等の有害物質が発生し、周辺に拡散する。また、破砕によっても有害重金属類等の有害物質を含んだ粉じんが発生し、周辺に飛散する。
訴外石坂産業は、これまでも、廃棄物の焼却・破砕等の処理により、周辺の生活環境を汚染してきたのであるが、本件許可によりさらに5年間、この汚染された地域において、環境を汚染する活動を行うことになる。通常の状態ですら、生活環境が汚染されている地域が、このような大規模な廃棄物処理施設の操業によって、さらに悪化することは火を見るより明らかである。
〔3〕廃棄物処理法は、都道府県知事は、産業廃棄物処分業を許可するに際し、また、産業廃棄物処理施設の設置者に対して設置の許可をするに際し、生活環境の保全上必要な条件を付することができるとされている(14条第7項、14条の4第7項等)。
この趣旨は、廃棄物処理施設周辺の生活環境を保全することにより、施設の付近住民が生命、健康を維持して安全に生活することができるようにすることにあると解される。
とすると、同規定は、当該施設周辺の生活環境を考えたときに、付近住民の生命、健康維持の見地から見て、生活環境の保全上、これ以上の施設の営業を許可することが不可能とされる場合も予想していると考えられる。つまり、このような場合には、どのような条件を付しても生活環境を保全することができないのであるから、そもそも産業廃棄物処分業等の許可をすることは許されない(廃棄物処理法14条第7項、14条の4第7項等の類推適用)。
〔4〕本件の場合は、まさにそのようなケースなのであり、被告は、本件施設の周辺環境の汚染状況に鑑みて、本件許可処分等をなすべきではなかった。この点につき、取り消すべき違法がある。
5 原告らが本件許可処分等の取消につき法律上の利益(行政事件訴訟法9条)を有すること
(1)本件許可処分等の根拠となっている廃棄物処理法14条6項の規定の趣旨は、前述のような改正の経過等に鑑みると、施設の周辺の生活環境の保全を図ることによって当該処理施設の周辺に居住し、右施設自体あるいは施設の事故がもたらす災害や悪影響により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される付近住民の生命身体の安全等を個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である(甲2判決同旨)。
(2)本件原告らは、本件施設から約2〜3km以内に居住・勤務し、または付近の畑において農作業に従事している者である。
原告らは、上述のように、訴外石坂産業による悪臭、騒音、ばいじんの降下等の被害に悩まされ、また、ダイオキシン等の有害物質を含んだガスの拡散を受け健康被害を被る蓋然性がある。
(3)したがって、原告らは、行政事件訴訟法九条にいう「当該処分の取消しを求める法律上の利益」を有する。

6 以上により、原告らは、行政事件訴訟法第2章の各規定に則り、廃棄物処理法に違反してなされた違法な本件許可処分等の取消を求めるため本訴を提起した次第である。

証拠方法
甲1 産業廃棄物処分業許可証 
 甲2 判決(横浜地方裁判所平成11年11月24日判決、事件番号同庁平成7年(行ウ)第8号)

付属書類
1 甲号証写し 2通
2 訴訟委任状 152通