公害調停をすすめる会では、所沢周辺の産業廃棄物焼却施設へ廃棄物を委託する排出者を把握し、情報公開していく方針です。排出者をこれまで開示してこなかった埼玉県が、今回、開示する方針を打ち出したことを歓迎しています。今回の開示のきっかけとなった、情報公開の公文書非開示決定取消請求の訴状です。

        訴 状

被告 埼玉県知事 土屋義彦
〒336ー8501 埼玉県浦和市高砂三ー一五ー一

公文書非開示決定取消請求事件

訴訟物の価額 九十五万円

貼用印紙額  八千二百円

請求の趣旨

一、被告が平成十年一月二八日付けで原告に対してなした公文書非開示決定処分(平成十年一月二八日付西環第三六五二号〜二六八四号)を取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

請求の原因

一、原告は平成九年十一月二十七日付けにて、被告に対し、埼玉県行政情報公開条例(昭和五七年一二月一八日埼玉県条例第六七号。以下「本条例」という)に基づき、平成七年度及び平成八年度分の(株)大空リサイクルセンター、(有)アーバンリサイクル、(株)石坂産業、(株)加藤商事、(株)木下フレンドに関わる産業廃棄物処理実績報告書及び特別管理産業廃棄物処理実績報告書(以下「本件文書」という)の開示を請求した。

二、これに対し、被告は平成十年一月二八日付けにて、本件文書を部分公開とし、「委託者」(排出事業者又は収集運搬業者)欄、「運搬先」欄及び「受託者」欄の許可番号、氏名又は名称、住所並びに処分場所業者名が非開示とする旨の決定(以下「本件部分公開決定」という)をなした。その理由は、左記の通り、本条例六条第一項第二号に該当するというものである。

三、これに対し、原告は平成十年三月二五日付けで、この処分を不服とする異議申し立てを行った。

四、これに対し、被告は、本条例第六条第一項第二号に該当するとの理由で、平成十年七月七日付けにて、原告の非開示決定処分に関する異議申し立を棄却する旨の決定をなした。

五、本件非開示決定が違法である理由

 1 被告は原告の開示請求に係わる文書のうち、「委託者」(排出事業者又は収集運搬業者)欄、「運搬先」欄及び「受託者」欄の許可番号、氏名又は名称、住所並びに処分場所業者名は、本件条例六条第一項第二号に該当するとして、非開示とする部分公開決定処分を行ったと主張している。しかしながら、本条例六条第一項第二号は、「情報の公開原則」の例外として厳格に解釈適用されなければならず、被告の平成十年一月二八日の部分公開決定処分、及び七月七日の異議申し立て棄却決定(以下「本件処分」という)は、本条例の解釈、適用を誤ったものであり、違法である。

 2 適用除外事項の限定と適用

  情報の「公開原則」の立場によれば、必要最小限の例外として適用除外事項を定める場合には行政に恣意的な判断を与える余地のあるものであってはならず、行政の裁量により、合理的な理由もなく非公開の範囲を拡張させることは、制度の使命を失わせることになる。適用除外事項は、行政庁にいかなる情報が非公開となるかについて、判断する根拠となるものであり、明確かつ限定的なものでなければならない。

 3 事業活動情報の適用除外事項(本条例六条第一項第二号)の解釈

 (一) 事業活動情報の適用除外事項(本条例六条第一項第二号)は法人その他の団体に関する情報について、開示の適用除外として、非開示とすることができる情報の範囲を定めつつ、但し書きで、開示しなければならない情報を規定したものであり、請求権者の知る権利と当該法人などの権利、利益との調整を図ったものである。本条項は、非開示とすることにより保護される権利、利益は何かを明確にした上で、「公開原則」の必要最小限の例外として厳格に解釈、適用されなければならない。

 (二) 本号は「公開することにより当該法人などに著しい不利益を与えることが明かであるもの」を開示しないことができると規定している。著しい不利益を与えることが明かであるものと規定される以上、少なくとも、当該情報を開示することによる不利益が具体的かつ明確であることが必要であると解釈される。さらに、本号においては但し書きとして「人の生命、身体又は財産の安全を守るため公開することが必要であると認められる情報を除く」とされており、本件非開示決定をなされた情報はこれに当たると主張する。

 (1)当該法人に対する著しい不利益の具体性について

   被告は情報公開条例第六条第一項第二号に該当し、公開することにより当該法人に著しい不利益を与えることが明らかであるとしているが、具体性を欠いており、何故著しい不利益を与えるのか明らかにされていない。下記で引用している東京都公文書開示審査会答申第七八号でも指摘されているように、排出事業者と処理業者との契約関係は業界内では周知の事実であり、他の処理業者が情報を入手したとしてもその営業活動にどの程度影響するのか疑わしい。現に、今回情報公開請求の対象とした石坂産業(株)が発行しているパンフレットには、契約先企業名が列記されている。

 (2) 他の都道府県の対応との不整合について

   東京都においては、平成六年に特別管理産業廃棄物である廃石綿の収集運搬業者の収集運搬実績報告書の情報公開請求があった際、都は廃石綿の委託者の住所氏名等を「法人等の事業運営を損なう」等の理由で非公開としたが、それに対する異議申し立てを審査した都公文書開示審査会答申(第七八号、平成八年八月)では、都の非開示決定の理由は妥当でないとして、「受委託者」の住所氏名等を公開すべきであると結論した。それ以降、東京都は産業廃棄物処理施設の実績報告書について公開請求があった場合は、契約先(受委託)企業名を含め、印影以外は開示の方針ということである。また、平成九年に「東京都廃棄物の処理及び再利用に関する条例」に基づいて産業廃棄物排出事業者が都に提出した「事業者処理計画」を公開請求された際にも、排出事業者が産業廃棄物の処理を委託している産業廃棄物処理業者名を明らかにした。さらに、平成十年五月には本件に関する廃棄物処理施設設置業者が東京都内で収集運搬をした実績報告書について公開請求された際にも、受委託者名を明かにしている。それらの公開により、当該法人に対し、著しい不利益が生じた例は特になかったと思われる。

   他都道府県、特に埼玉県に隣接する東京都で産業廃棄物処理業者の委託業者名が明らかにされ、埼玉県では法人に不利益を与えるとして明らかにされないのは、著しい不均衡である。法人に不利益を与えるか否かの判断が、隣接する地域で異なることは、法人にとっても住民にとっても不平等である。

 (3) 人の生命、身体又は財産の安全を守るため公開することが必要な情報である

   今回請求対象とした情報は、人の生命、身体の安全を守るため公開することが必要である情報に該当する。法人に与える不利益よりも、人の生命、身体の安全を守るために公開する必要性の方が大きいと主張したい。 三重県においても九七年六月の津地裁判決で、産業廃棄物処理業者に処理を委託する排出事業者名と取り扱い量等は、法人の利益を害する情報だが、その廃棄物の性状等を把握する情報として、人の生命、身体及び健康を保護するため、開示することが必要であると認められている。

   産業廃棄物処理業の運営状況は周辺住民等の健康その他の生活上の利益に直接影響を及ぼす危険性がある。現に今回情報公開請求を行った各業者の所在地はいずれも所沢市周辺であり、当地域については産業廃棄物処理業者が多数密集しているため、それらの業者の焼却によるダイオキシン汚染が心配されているところである。ダイオキシンについては国においてようやくその規制が始まったところではあるが、その毒性を心配する声は高く、発ガン性、免疫毒性、催奇形性、内分泌撹乱性など、様々な有害性が指摘されている。九八年には甲府地裁により、施設設置者が処理施設の安全性を証明することが必要である、との趣旨の判断もなされ、その危険性が指摘された。現に、当地域周辺土壌においては、廃棄物焼却由来と見られるダイオキシン類が本件請求に該当する業者の焼却施設を含む焼却炉密集地域周辺へ距離が近ずくにつれ高濃度に検出されている(摂南大学宮田教授九六、九八年調査六五〜四四八pg/gの土壌汚染)。百pg/g以上の汚染土壌で遊ぶ子供たちは土壌摂取により、環境庁の健康リスク評価指針値五pg/kg/dayを超える恐れがあると宮田教授は指摘している。また、例えば、原告の住む中新井地区の富士見公園からは一八五pg/gのダイオキシンが検出されているが、ここで遊ぶ児童の土壌摂取量に食品からの平均摂取量他を加味すると、現在国の示す耐用一日摂取量十pg/kg/dayを超えてしまう恐れがある。さらに、九八年六月にはWHOが、耐用一日摂取量を1〜4pg/kg/dayとしており、現在国においても耐用一日摂取量(TDI)の見直しがなされているところであることをみても、当地域のダイオキシンによる汚染状況が深刻なものであることは明かである。これら廃棄物焼却由来のダイオキシンを排出する事業の運営状況は周辺住民の健康その他生活上の利益を侵害する恐れのあるものであると考えられる。

   被告は異議申し立て却下決定理由として、「人の生命、身体又は財産の安全を守るため公開することが必要であると認められる情報とは、事業を営む者の事業活動などに起因して、現に発生しているか、将来発生するであろうことが確実である人の生命などに対する危険又は損害の排除、拡大防止又は未然防止のために公開することが必要と認められる情報であるとし、本件情報はこのような情報に該当することの因果関係が認められないため、本号但し書きには該当しないと判断し」ている。しかしながら、排ガスや、焼却灰、飛灰中に高濃度のダイオキシンが含まれる恐れがあることはこれまでの国の調査結果等から明かであり、その具体的な廃棄物の性状、処理方法、処分先、などを明らかにする委託者、受託者等の情報は、周辺住民の健康、生活上の利益を保護するため、または危険の未然防止のために必要な情報である。

 (4)委託者の責任について

   廃棄物及び清掃に関する法律第三条において「事業者は、その活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない」とされている。また、その処理を政令で定める基準に従い、委託することができるとされている。しかしながら、「第四次埼玉県廃棄物処理基本計画」中でも明らかにされているように、産業廃棄物処理業界においては、不適正処理の事例が後を絶たない(平成六年度で、野焼き、不法投棄など一,四五六件)。この事態は、処理業者側にのみ責任があるというよりも、その委託者が処理コストを低く押さえることに大きな原因があると指摘されている。委託者が処理業者の処理状況を確認することなく、安易にコストの安さのみでその委託先を決定する現状では、排出者の処理責任が全うされているとは言いがたい。このような状況を生んできた一因として、委託者名が明らかにされてこなかった実状があるといえる。委託者から処理業者への流れとその排出廃棄物種類と量が公に明らかにされることにより、委託者がその廃棄物処理によって環境に与える負荷を自覚し、社会的コストを負担することの重要性を認識する状況が生まれるといえる。委託者が明らかにされない現状は昨今の不適正処理の蔓延を招く大きな要因となっており、排出者としての責務を社会的に求めることを妨げるものである。

 (5) 「運搬先」及び「受託者」の許可番号、名称、住所 の非開示について

  今回の情報公開請求は焼却処理を行う処理業者についてのものであり、その受託先については焼却灰の運搬先が含まれる。焼却灰には高濃度のダイオキシンが含まれるものであり、焼却灰が適正に処理されなければ、ダイオキシンが拡散される恐れがある。県においてもダイオキシン削減検討委員会において焼却灰の有害性を重視し、一般廃棄物の焼却灰におけるダイオキシンの削減対策が主要な方針に掲げられている。産業廃棄物についても当然同様の措置が必要であることは明らかである。

  ところが、産業廃棄物処理業者における焼却灰の発生量、その処理、処分の実態は殆ど明らかにされていない。その事が周辺住民の不安の大きな要因となっている。また、業者の敷地内に焼却灰が野積みになっている状況が多々見られることも指摘されている。業者の焼却灰の処理、処分が適正になされているかどうかを確認するためには、処分委託先である受託者の許可番号、名称、住所の全面開示が不可欠である。

六、よって原告は本件非開示決定に関する異議申し立て棄却決定の取消を求め、本件非開示決定の取消を求める。

証拠方法

甲第一号証  埼玉県行政情報公開条例

甲第二号証  行政情報部分公開決定通知書

甲第三号証  本件部分公開決定に関する異議申立書

甲第四号証  異議申し立てに対する決定書

甲第五号証  東京都で公開された「収集運搬実績報告書」

甲第六号証  石坂産業(株)のパンフレット

甲第七号証  東京都公文書開示等に関する条例第一二条の規定に基づく諮問第九二号について(答申)

甲第八号証  摂南大学宮田秀明教授によるくぬぎ山周辺土壌中ダイオキシン類濃度調査結果

甲第九号証  第四次埼玉県廃棄物処理基本計画(平成八年三月)

            第二章第二節 処理・処分の状況〜第五節 監視指導の状況

            第五章第一節 排出事業者処理責任の徹底

添付書類

一、甲号証の写し               各一通

一九九八(平成一〇)年十月五日

浦和地方裁判所

 民事部御中