陳述書
2000年5月8日 

1. 私は、専業主婦であり、住所は所沢の北部やや東寄りに位置し、北田商事の南約1kmの所で、毎日をそこで過ごしています。私の家の周囲約2〜4kmの範囲で数多くの焼却施設が集中しています。たくさんのゴミが大型トラックで運び込まれ、あちこちで山と積まれ、焼却され、煙突から立ち上る黒煙、白煙を目にするたび、健康に対する不安を感じています。これらのゴミの処理によって私たちの地域がどれほど脅かされているかを話したいと思います。

2.施設の集中と汚染状況
現在、私たちが県から情報公開などで得た資料によれば、これまで、所沢市周辺に、1時間当たりの処理能力が150kg/h以上の法及び県条例対象の廃棄物焼却炉が64炉立地していた。これらのうち60炉が、所沢北部の通称「くぬぎ山」周辺と、東部の所沢インター周辺の狭い地域に極端に集中している。現在、焼却をやめた業者も出始めてはいるが、今なお、40炉近くが操業を続けている。焼却炉の操業によっては、ダイオキシン類をはじめとして、重金属類、SPM(浮遊粒子状物質)、塩化水素、窒素酸化物、ばいじん、悪臭、粉塵などの様々な有害物質が発生することが知られている。住民は大気、土壌を通して、それらの有害物質に日夜さらされており、健康への不安を強く感じている。特に、子どもたちへの影響を心配している。
1995年及び1996年に摂南大学の宮田教授が行った所沢北部の焼却炉密集地通称「くぬぎ山」周辺の土壌のダイオキシン類による汚染実態の広域調査の結果が相次いで公表され、周辺南北約4kmの範囲で65から448pg/gという高濃度のダイオキシン類の広域汚染が明らかになった。私の家の近くの、子どもたちがよく遊ぶ児童公園からも、185pg/gという高濃度の汚染が検出され、ここで遊ぶ子供の土壌からのダイオキシン類摂取量は、TDI(耐用一日摂取量)4pg/kg/dayを超してしまう恐れがあることも指摘された。くぬぎ山林内に放置されていた灰からは、6100pg/gのダイオキシン類も検出され、住民を不安に陥れた。ここは、子供とよく遊びに行く林であったので、本当に驚いた。また、宮田教授による、松針葉中に含まれるダイオキシン類の全国各地の調査も実施され、所沢の汚染状況は全国的にみても特に高いレベルにあることも指摘された。
1997年には、公害防止条例に基づく、住民からの調査請求により、くぬぎ山周辺の一般環境調査が行われたが、これによっても、周辺大気が2.0pg/m3
のダイオキシン類による汚染を示すなど、所沢市北部の顕著な汚染が明らかになった。しかし、埼玉県は「住民の健康に影響を及ぼしている可能性は小さいと考えられる」とし、なんら、対策をとることはなかった。
これらのダイオキシン類による汚染は、周辺地域に密集した焼却炉の操業によって発生したと考えられる。また、ダイオキシン類だけではなく、洗濯物が粉塵で汚れ、風向きによっては、塩素臭がして、頭痛、目の痛みなどを感じることがある。また、ゴミを積んだ施設からのなんともいえない腐臭、悪臭、化学臭などが漂ってくることもあり、特に、施設近辺へ近づくと、周囲を歩くことさえ、耐えられないようなひどい臭いを発散させている。これは、様々なゴミが分別されることなく、ごちゃ混ぜに長期にわたり積まれることから、起こってくると考えられる。
また、焼却施設が増え始めた1990年頃から、所沢市内でSPM(浮遊粒子状物質)濃度や、光化学オキシダントの発生が、環境基準を超える状態が続いており、酸性雨の出現率も高い。降り始めの小雨などにあたると、頭痛が起こることがあり、樹木の葉は、縁が黄色くなっているものが多い。
 これらの焼却によって発生する様々な有害物質によって、住民は、将来にわたって、健康に被害を及ぼす恐れがあることを心配している。現に、所沢市内児童生徒の喘息・アトピーの発症率が高いこと、新生児死亡率の対県倍率が高まっていること、などが指摘され、住民は日々の暮らしの中での、悪臭、塩素臭、粉塵の被害とともに、こどもたちの健康に対する被害を心配している。
特に、所沢周辺では、春先、強い季節風が吹き、周辺の土壌を巻き上げ、「赤い風」と呼ばれるほど、土埃が周辺一帯を覆う時期がある。窓を閉め切っていても、土埃が家の中にまで入り、外を歩けば、目、口、鼻から土埃を吸い込む。これまで子どもたちには、外で土にまみれて遊ぶことをさせてきた。その土に、焼却炉からのダイオキシン類、重金属類などの汚染物が蓄積しているとすれば、その摂取を阻むすべはない。子どもたちに外に出るな、土をさわるな、ということはできない。

3.これまでの県の対応
この異常な焼却施設・ゴミ処理施設の集中状況を招いた一因は、埼玉県が、焼却施設の集中による環境への影響を全く検討することなく、垂れ流し的に廃棄物処理法上の許可を与えてきたことにある。また、野焼きしていた業者に、当時の法規制対象外の小型焼却炉をたてるよう、県自らが指導し、施設建設のための融資を斡旋していたことも明らかになっている。それなのに、施設が多数あるがために、各施設の維持管理状況の把握・指導が全く不十分となり、黒煙の発生、灰の野積みと飛散、800度以上の高温燃焼の維持不能、廃棄物保管状況の劣悪さ、など、各施設における様々な不適正処理の横行を招く事態に至っている。また、間欠運転をする炉の場合、立ち上げや立ち下げ、停止時における不完全燃焼を起こしやすく、そのような条件のときに、ダイオキシン類等の有害物質が多く出ることが知られている。そして、所沢周辺施設では、間欠運転をする炉が殆どである。
私たちは、これらの施設に行き、維持管理記録の閲覧・施設内の見学などをしてきたが、温度記録を見ても、立ち下げや停止時に、温度が下がりきらず、夜中中、ダイオキシン類が発生しやすい、200度から、600度の間の温度である例などが多々あった。また、施設内のゴミの保管状況や、焼却灰の野積みの状態は、目を覆うばかりで、それらから発生する悪臭、粉塵、灰の飛散等の状況を目のあたりにし、埼玉県に対し、なぜ、このような状況が放置されているのか尋ね、苦情を申し立て、指導をお願いし続けてきた。それらは、埼玉県が許可してきた業者であり、県はそれらの公害を防止する責務を持ち、産業廃棄物の処理を適正に行わせるための報告聴取と立入調査と指導の権限・そして違反をした業者に対する許可取り消しの権限・責務をもつと考えたからである。しかし、担当職員は、私たちが見た温度記録を見ていなかったり、保管状況、維持管理状況の劣悪さは認めても、「人手が足りない、指導はしている」などと答え、その後も、それらの状況が改善されることなく続いていたことを考えれば、住民の苦情の訴えに対し、誠実な対応をとることは無かったと言わざるを得ない。また、許可手続きについては、「申請書類が書類上整っていれば、許可せざるを得ない」などと答え、その操業によるこれまでの被害状況から、今後も周囲に汚染を及ぼす恐れが強い、との住民の訴えは退けられてきた。
このような、県の態度をみれば、これ以上、この地域に焼却炉の操業を認めれば、さらに、県の管理不能な状況を招く事は明らかである。各施設は、許可の条件である、「周辺地域の生活環境の保全について適正な配慮がなされたもの」であるとは言い難い状況である。そして、これまで、全く生活環境の保全についての配慮が為されなかった結果、このような焼却炉密集を許し、周辺住民の生命健康、安全に暮らす権利を侵害する事態を引き起こしてしまった。

特に、今回の許可処分対象施設である北田商事と(株)新明については、周辺住民は、継続的に、その施設操業状況の改善を訴え続けてきた。しかし、全く改善されることなく現在に至り、北田商事は何年も「保管積み替え」と称して、ゴミピットに大量のゴミを積んだまま悪臭を放ち続け、97年には基準を超える「硫化水素」を発生させたこともある。新明はスクラバーなどの有害物質除去装置も殆ど効果のない状態で操業を続け、煙突からは飛灰が飛び、ゴミの山からの粉塵、焼却灰の悪臭、飛散は長年の間続いてきた。
さらに、「書類上整っていれば許可せざるを得ない」と県が言った、その申請書類にさえ、疑問な点が多々ある。私たちの生活に大きく影響を及ぼす、焼却量・燃焼条件について、実態と違っているのではないか、という重要な点である。かなり大規模な施設であり、他の所で見た、20t規模の施設と同じくらいの大きさに見える。それなのに、なぜ、県がそのまま許可したのか、私たちは、どうしても理解できなかった。

私の家の周りは、すぐそばに美しい林と畑が広がり、子供を連れてよく遊びに行っていた。その林にゴミが捨てられ、大型のトラックが行き交うようになり、頭痛がするほどの、ツンとする臭い、悪臭が強くするようになり、とうとう、子供を連れていくことが出来なくなってしまった。
子供は、幼稚園のときにぜんそくと診断され、寝付くときに息が出来ないと泣き出すことがある。そんなとき、ここに暮らしていていいのか、と思うことがある。土にまみれて遊ぶときに、その土は安全なのか、と思う。雨に当たったとき、この雨に有害物質が含まれていたら・・と思う。空が晴れているのに、どんよりと下の方がくもっているのを見るとき、ここで子どもたちの健康を守ってやることが出来るのか、と思う。
ここで安心して、健康に暮らすことは私たちのかけがえのない権利であり、それを侵すようなことを決して許してはならないと思っている。