● 2年目となる、本年度の公害調停の歩みを振り返ってみます。
本年度は、まず1月26日の3者協議会より始まりました。この期日には、調停への参加人数制限、場所、期日(平日か休日か)などの形式的事項や調停に応じていない業者の取り扱いなどについて、今後の進行に関する協議がなされました。 その後、順次、3月28日、5月27日、7月8日、9月8日、10月28日に調停期日が実施されました。
これら各期日において申請人側は、1)被申請人埼玉県の提出した調査結果資料の精度管理データの開示を申し入れ、2)被申請人業者らの違法な操業実態を指摘し、3)これらに対する被申請人埼玉県の監督の強化を申し入れ、4)とりわけ操業実態の酷い業者について、直近にお住いの申請人より具体的に陳述し、5)本件では本格的な調査が必要であり、その前提として著名な専門家を参考人として申請するなどの主張をしています。これらの主張は単発ではなく、繰り返し書面を提出して重畳的に行っています。
そして、もちろん10月28日の期日には、6)今回明らかとなった(株)クマクラ付近土壌の測定結果についても指摘しました。
これらに対する被申請人埼玉県の対応は余りにも消極的です。出席された申請人の方々は皆、憤りを感じています。ただ、だからと言って諦めてしまっては何も変わりません。弁護団及び事務局は、今後も要求すべき事項は繰り返し主張し続けます。
被申請人業者の対応は、47業者で一様ですが、概ね、1)全く調停に応じない(期日に出頭すらしない)者、2)焼却を既に停止しているので、もはや調停の対象外であると強調する者、3)今後も焼却を続ける意図が強く、焼却停止の主張に激しく抵抗する者とに分類できます。
調停委員会は、申請人側に対し「各業者らに対する申立の趣旨、主張等を個別化し整理するように」と指示してきました。
調停委員会が指摘する事情も一理ありますが、必要な調査がきちんとなされていない現状では、各業者個別の汚染に対する責任の有無・程度を具体的に判断し個別に譲歩することなど到底できません。仮に、将来的には各業者の責任に応じた振り分けをすることがあり得るとしても、それは(住民参加型で測定方法等についても信頼性のおけるという意味で)きちんとした調査がなされ、業者それぞれの汚染に対する寄与度が明確になることが大前提です。 このような申請人側の思いは、なかなか調停委員会には伝わらず、主張が空転した時期もありました。
そこで、10月28日の期日前に調停委員会に申し入れ、同日には、当事者双方からの事情聴取を実施させました。ここでは、申請人と被申請人が相対しない関係で、調停委員会との間である程度は本音を交えた話し合いができ、調停委員会との距離を埋めることができたと思います。 ただ、焼却を既に停止した業者については、それ自体は評価できるので、1)資料の全面開示、A調査への最大限の協力、2)汚染への責任が明らかとなった際には原状回復義務を負担する、との各条件が担保されるのであれば、申請人側としても調停成立させてもよいとの見解を示しました。
もちろん、これは焼却を停止した業者を無罪放免とする趣旨ではありません。業者に対し、焼却停止による調停成立への途を開き、少しでも全体の改善を図る趣旨です。まだ、これらの条件を受諾し調停が成立した業者はありませんが、今後、真剣に検討する業者も現れると思われます。 今後の方針は、とにかく「調査」の実施に向け全力を尽くすことです。それには、我々弁護団・事務局が上記のような多角的な主張を展開し続ける必要があります。
文章にすると難解な応酬に見えますが、結局は、所沢周辺の汚染をどのように改善するか、という現実的な話しです。そして、これら主張の裏付けには、所沢周辺に現に住まわれ、もしくは勤務されて汚染を肌で感じている方々の「声」が最も説得力があります。 皆さんもぜひ調停に出席されて、以上の主張を後押ししてくれることを希望します。
●第10回調停では青山貞一・環境総合研究所所長の意見陳述書を提出しました。内容的には、厚木の米軍住宅を産廃焼却の排ガスが直撃した問題に関して行われた日米共同のモニタリング調査(1999年7/7〜9/1)の結果をもとに、日本の現状のダイオキシン類分析の欠陥を明らかにするものでした。精度管理を厳密に行なった厚木の共同調査で、大気中ダイオキシン類濃度は平均でも8pg-TEC/m3(環境基準の13倍)という高い価が計測されました。
注目されるのは、連続測定分析の結果、濃度の最高値と最低値の比が、最も少ない地点で38倍、最も多い地点では580倍にものぼった点です。国や自治体が行っている大気中のダイオキシン類測定は、年間わずかに数日の測定で、年平均値としていますが、全く根拠を欠くものです。青山氏はまた、宮田秀明・摂南大学薬学部教授との連携のもとにクロマツの針葉を分析して大気中のダイオキシン類濃度を類推する研究を行い、その結果から所沢の産廃焼却施設周辺、特に風下地域ではきわめて高濃度の汚染が存在すると推定しています。宮田教授が「くぬぎ山地域」を対象に実施した土壌中のダイオキシン類測定分析結果の300〜450pg-TEQ/gが厚木調査の土壌測定値より高いこともそうした推定を裏付けます。青山氏は、第三者(機関)による住民参加のダイオキシン調査を実施し、結果をすべて公表すること、調査を数年間継続的に行うことを提言しています。
●第11回調停では、論点を整理するため、まず調停委員会による申請側および被申請人県それぞれの個別の意見聴取が行われました。
11回調停では青山氏に続いて宮田秀明・摂南大学薬学部教授が意見陳述書を提出しました。宮田氏の意見陳述書は、くぬぎ山周辺で自身が実施した2回の土壌のダイオキシン類汚染調査の結果や、1997年に埼玉県の30地点で行ったクロマツ針葉中のダイオキシン類濃度の調査結果を詳細に述べ、その結果に比べて、埼玉県がおこなった土壌や大気のダイオキシン濃度の調査は汚染の実態を反映していない(原因は資料採取範囲の違いにある)と調査の信頼性に疑問を呈しています。また廃棄物焼却に伴って発生する、有機・無機ガスや有害重金属の汚染も、ダイオキシン類に劣らず汚染評価に加えなければならないと指摘しています。
申請人側弁護士は、青山・宮田両氏の意見陳述をもとに、両氏の参考人としての調停での発言を申し入れるとともに、「すすめる会」が自主調査によって明らかにした、(株)クマクラ周辺の、環境基準を5倍も上回るダイオキシン汚染の問題を取り上げ、埼玉県が行っている広域的な一般環境調査では汚染の実態をとらえられないと指摘し、住民参加の第三者機関による土壌・大気汚染の再調査を強く申し入れました。
クマクラ周辺の土壌汚染問題を報じた読売新聞10月3日付記事
●かわらないくぬぎ山
調停を申し立ててからもうすぐ2年。調停期日も11回を数えようとしています。この間、調停対象の47業者 64炉の内、22炉が廃炉、6炉が休止、そして、年内にさらに4業者(大空リサイクル、木下フレンド、大進興業、佐久間工務店)6炉が廃炉とする意向を示しています。このように焼却炉の数自体が減ってきたことは、 4000人が焼却停止を求めた調停の大きな成果といえます。
しかし、残る29炉(うち工事中2炉、山一商事が旧2炉を廃し60t/日新設大型焼却炉建設)が操業を続けているのもまた事実です。そして、この地域にこれ程の数の焼却炉が操業(しかも、ひどい操業)をしていることは、やはり異常です。また、所沢市内の焼却炉が減ってきた(市内では5社6 炉)のに比べ、くぬぎ山地域の焼却炉が依然として減っていません。くぬぎ山周辺では、今なお、17炉が操業を続けています。これは、くぬぎ山が3市2町の市町境であり、狭山市(6炉)、三芳町(6炉)、川越市(4 炉)の対策が進んでいないことが一因となっています。くぬぎ山内を歩くと、大小の業者がひどい臭いの煙をあちこちで吐き続け、その姿を目にするたび、何も変わっていない、と溜息が出てしまうのです。
調停報告でもふれましたが、すすめる会の自主調査(日本品質保証機構に調査測定を依頼)でくぬぎ山の産業廃棄物焼却施設クマクラ(三芳町)の脇で環境基準の5倍を超える5100pg/gのダイオキシン類が検出されたことが明らかになりました。同地点で、東京農工大学久野研究室に重金属類調査を依頼した結果、高濃度の鉛2588ppm、カドミウム161ppm の土壌重金属汚染も明らかになりました。昨年冬、クマクラ脇から汚染物質と思われるものが流出し堆積しているのを発見し、継続観察していたところ、周辺は植物が生えず、異様な状況が続いたことから自主調査に踏み切りました。
施設の汚水をホースで垂れ流している状況も確認され、ずさんな施設の維持管理状況がこの汚染を招いたと考えられます。クマクラでは、排煙を水で洗い、煤じんを落とす仕組みのスクラバーという施設を使用しています。この洗煙水を循環使用するため、汚染物質が高濃度に濃縮された汚水と汚泥が発生します。これが、ずさんな管理などによって、周囲の環境に漏れたときに、極めて高濃度の環境汚染が発生した例が多々あります。能勢町の循環冷却水飛散による高濃度土壌汚染、藤沢市の荏原製作所による、河川水汚染などが明らかになっています。
周辺にあるクマクラ同様の施設では、ずさんな管理をしている状態を目にすることが度々です。焼却灰は野積みにされ、施設内の雨水は、全て垂れ流し……。これが、埼玉県が許可している施設の実態です。埼玉県では私たちの要請を受けて、現在、クマクラ施設内外の調査を実施中です。汚染との因果関係が未だ明らかではないとし、クマクラの操業を停止させることは現時点に於いては、法的に難しいとしています。今後、汚染を引き起こした原因を明らかにさせる調査と対応がきちんとなされるよう、注視していく必要があります。
行政の調査の抜け落ちたところ……
埼玉県では、99年度にクマクラ周辺を含むくぬぎ山周辺地域について、大気・土壌中ダイオキシン類調査を実施し、97年度に比べて汚染は70%軽減した、とする調査結果を今春発表しました。行政の調査は問題点を見過ごしにする調査となっていないか。クマクラの高濃度汚染の発覚は、行政の調査の抜け落ちた点を指摘するものとなりました。
宮田秀明摂南大学教授は、当地域の県の行った年1〜2回の大気中ダイオキシン類濃度の調査について、大気中濃度が経時的、経日的に大きく変動する(最大濃度/最小濃度比は38〜540倍)ことから、年間平均濃度とはいえず、当地域の汚染の指標となるとは言い難いと断じています。
さらに、廃棄物焼却によって、ダイオキシン類のみならず、発ガン物質である多核芳香族炭化水素類、環境ホルモンの一種であるフタル酸エステル、六価クロム、ヒ素、ニッケル、鉛、カドミウム等の有害重金属類、塩化水素、 SPM等様々な有害物質が放出されており、これらを加味した汚染影響を評価する必要があるとしています。これまでの調停期日の中で、繰り返し、被申請人企業らの操業実態のひどさを写真、記録などで明らかにしてきました。クマクラ周辺の土壌汚染結果は、その劣悪な維持管理の実態を数値として示したものです。そして、クマクラだけではないのです。早急に各産業廃棄物処理施設直近を含めた住民参加の調査を実施し、その結果に基づく対策をとる必要があります。
ごみの山は……
私たちの地域では、首都圏のごみを野放図に受け入れ続けてきた結果、焼却施設が集中立地してしまいました。そして、もう一つのやっかいものが、ごみの山です。あちこちで、異臭を放つごみの山が放置されている事態に陥っています。調停でも繰り返し、その危険性と違法性、ごみ山撤去の必要を訴えてきました。三芳町には、高さ20mの巨大なごみの山(長島総業)が放置されています。推定10万t弱。ここも県の許可を受けた業者です。
県は、積み上げられ、増え続けるごみの山を前にして、なんら、効力のある指導をせず、罰則も適用せず、違法な状態を許し、許可を取り消すことさえしませんでした。そして、業者はなんのお咎めもなく逃げ出し、ごみの山は置き去りにされました。 ごちゃ混ぜにされ、積み上げられたごみの山から、様々な化学物質が溶けだしていきます。それは、少しずつ、着実に、土を、地下水を汚染していくでしょう。崩壊の危険もあります。火事の危険。そして、異臭。
調停委員会もごみの山の撤去に積極的な姿勢を示しています。わたしたちは、埼玉県が代執行手続きをとるべきだと考えます。まず、ごみの山を片づけるよう、処理業者若しくは排出事業者に対し、措置命令を出します。処理業者や排出事業者が、片づける見込みがないときには、都道府県知事は自ら生活環境の保全上の支障除去等の措置を講じることができます。そして措置にかかった費用を業者や排出事業者に負担させ、徴収することができるとされています。 これは、1997年の廃棄物処理法改正で新たに入れられた規定で、簡易迅速な手続で生活環境保全上の支障の発生または拡大の防止をはかるための措置を講ずることを可能としたものです。 県が積極的にごみ山撤去と、業者及び排出事業者に対する責任追及に取り組むよう求めていきたいと考えています。
焼却を続ける業者に対して……
調停で焼却停止を求めていますが、どうしても焼却を続けたいという業者がいます。埼玉県は、それら業者が焼却を続けたいとした場合、そのまま焼却続行を認める姿勢を示しています。これらに対して焼却停止を求める場合、調停に加えて裁判などの法的手段を検討していく必要があります。昨年秋に焼却の許可を下ろされたくぬぎ山南の北田商事と、施設の変更許可を受け、今後も焼却を続けることとなった、インター近くの新明。埼玉県に対し、それぞれの許可処分の取り消しを求める行政訴訟を提起しています。
焼却の許可を野放図に下ろし、その結果として数多い施設の監視指導もままならない状態に陥り、汚染を招いてきた埼玉県の責任を問うものです。第5回公判は来年1 月15日午後3時より、浦和地裁にて行われます。裁判にかかる諸費用、調査費用などのカンパ、仮処分申立人・会員を募集中です。申請人の方々のご理解とご支援をお願いします。
●北田商事裁判をすすめる会
連絡先 042-943-7578(北浦)
カンパ振込先 郵便振替00580-8-61874
「北田商事裁判をすすめる会」宛て
●新明問題を考える会
連絡先 042-942-2106(吉野)
カンパ振込先 郵便振替00190-2-183281
「裁判を支える会」宛
1 調停維持賛助金について
今年度の賛助金についての会計は赤字決算となっています。予算はマイナスですが調停はまだ終わっていません。調停成立に向けて来年度も活動を続けていくために、申請人のみなさんの多数の維持賛助金がどうしても必要になっています。来年度も弁護士さんたちに安心して動いていただけるよう、引き続きご協力をお願いします。
●2001年度調停維持賛助金
一口 2000円
郵便振替00530-0-40224「公害調停をすすめる会」宛
2 一般カンパも受付けています
調査などのために一般カンパも受け付けています
同じ振り込み用紙でカンパを受け付けています。今回のクマクラのダイオキシン自主測定のように、住民が積極的にきちんとした調査をすることが、県や業者を動かす具体的な成果につながります。ただ、そのためには多額の費用がかかります。みなさんの一人一人の厚意が集まってこの調査を実施することができました。引き続き調査活動を続けるためにも、協力をよろしくお願いします。申請人以外の賛同してくださる方にも声をかけていただければ幸いです。
●一般カンパ 一口 1000円
(「一般カンパ」と明記の上、お振込ください)
3「公害調停をすすめる会」について
調停の中心的な推進力となる「公害調停をすすめる会」の会員を引き続き募集します。毎月1回の定例会を開いて調停の方向を決めていきます。入会ご希望の方は、同封の振り込み用紙に住所・氏名・連絡先と「すすめる会入会希望」と明記の上、年会費(3000円)を振り込んでください。登録会員は来年度の会費(3000円)をお振り込み下さるようお願いします。
事務局では広報誌配布をポストボックス及び手配りボランティアに頼っていますが、作業軽減のため、FAXやE-mailによる通信ネットを利用していきたいと考えています。
FAXやE-mailをお持ちの方は、住所、氏名、FAX番号を、以下宛FAXにてお知らせください(もしくは、振込の際に同封の振込用紙にご記入ください)。
◆ボランティア・スタッフ募集!
●事務局では、広報発送、配布、資料収集、印刷、施設見学、ホームページの管理、その他、様々な作業を行っています。
興味のある方、簡単なお手伝いなら……という方、ホームページのデータのチェックのできる方、自分の近所の焼却施設の見学がしてみたいという方、何でも結構です。ぜひ事務局までご一報ください。