ダイオキシンの基礎知識

1 ダイオキシンって?
 史上最強の毒物ダイオキシン(PCDD)、でも、意外なことに、炭素Cと水素Hと塩素Clと酸素Oだけからできたとても単純な構造をした物質です。そして、塩素のつく位置や、数によって75種類の異性体があります。

似た構造をして同じように毒性を示す物質として、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、コプラナーPCB(Co-PCB)があります。現在、日本の行政では、ダイオキシンとポリ塩化ジベンゾフランだけをダイオキシン類として、規制しています。ところが、1998年6月、WHOがコプラナーPCBもダイオキシン類に加えました。日本も検討会を設置して、検討を開始する予定でいるようですが、一刻も早く、コプラナーPCBをダイオキシン類に加えることが求められます。これはとても大きな意味を持ちます。というのは、日本近海ではコプラナーPCBが高濃度に存在し、近海魚中にもかなり高濃度に検出されており、食品からのダイオキシン摂取評価量がかなり増加してしまうことが見込まれるからです。

◆毒性等量(TEQ)、毒性等価係数(TEF)
 ダイオキシン類(PCDD,PCDF,Co-PCB)では、塩素のつく位置や数により毒性の強さが違ってきます。そのうち、最強の毒性を持つのは2,3,7,8-TCDD(悪名高いヴェトナムの枯葉剤に混入していたのはこれです)だとされています。環境中で検出されるダイオキシン類は、様々な異性体の混合物ですから、その毒性を表すために2,3,7,8-TCDDを1として、他の異性体の相対的な毒性を毒性等価係数(TEF)を掛けて2,3,7,8-TCDDの量に換算して表します。これを毒性等量(TEQ)といいます。ここで注意しなければならないのは、毒性がはっきりしているものはまだ限られている、ということです(PCDD7種、PCDF10種、Co-PCB13種)。ですから、今後、これまで計算に入れられていなかったものも、毒性が明らかになって加えられることがあり得るのです。(表1-1)

2 ダイオキシン類の物理的性質
 ダイオキシン類は常温で白色の個体です。水にとても溶けにくく、水から検出されるのは極微量です(水の中の浮遊物質中に含まれることが多い)。その代わり、脂肪にはよく溶けます。鯨やイルカの脂肪中や、脂肪を多く含む母乳中に高濃度に蓄積されてしまうのはこのためです。さらに悪いことに、とても分解されにくい物質でもあります。一度取り込まれてしまったダイオキシンは代謝、排出がされにくく、その半減期は長く、3〜10年近くにもなる、と報告されています。私達は食品などから毎日ダイオキシンを取り込んでしまいますから、蓄積量は年齢が高くなるほど、多くなっていきます(但し、お母さんは母乳を出すことによってかなりの量を排出することになります)。
 熱にも強く、800度以上にならないと、分解しません(焼却炉で800度以上の燃焼管理を求めているのはこのためです)。また、環境中では微生物などによって分解されることも余りないようです。主に紫外線によって分解されますが、その分解速度は遅いようです。ちなみに、土壌ではその水に溶けにくい性質から、土壌中に移行しにくく、土壌表層に蓄積されます。

3 ダイオキシン類の毒性
 ダイオキシンは極微量で作用し、様々な毒性を発揮します。これまで報告されているものでは、生殖毒性(催奇形性他)、発ガン性、免疫毒性、など、実に様々で、さらに、近年、更に微量で、環境ホルモン様作用があることが指摘されています。ヒトに対しての毒性では、これまで、ダイオキシンが環境中に放出された汚染事例を見ると、その恐ろしさが実感できます。

3ー1ダイオキシン汚染事例

ヒヨコ大量死事件(1957、アメリカ)
 アメリカ東、中西部で数百万羽のヒヨコが水腫を起こし、死亡。餌に含まれる油脂がダイオキシンに汚染されていたためと判明。この油脂の汚染は、2,4,5-T除草剤や、殺菌剤5塩化フェノールに含まれていた微量のダイオキシンによるものとされた。

ヴェトナム戦争枯葉剤(1962〜71)
 2,4,5-Tを枯葉剤として大量に散布。71年に催奇形性等が報告され、散布中止。10年間に撒かれた枯葉剤は6万7千Kl(2,3,7,8TCDD換算で166kg)に及ぶ。1983年にはフォン医師らが重度の先天奇形、死産、流産、胞状奇胎、新生児死亡などの生殖障害の増加を報告しています。また、米軍の帰還兵にガン、皮膚炎、神経症、その子どもの出生異常等が多発しているとの報告があります。また、近年、ベトナムにおいて胎児期、幼児期に暴露を受けた世代の出産異常の報告が相次いでいる。

カネミ油症(1968、日本)
 食用米ぬか油にポリ塩化ジベンゾフランとコプラナーPCBが混入。1800人以上に症状。クロルアクネ(皮膚の発疹)、色素沈着、目やに、手足のしびれ、食欲減退など様々な症状。被害者から生まれた13人のうち、2人が死産、10人は全身の皮膚に色素沈着が見られた。また、1990年に行われた追跡調査の結果、男性で肝臓ガン死亡率が有意に高いことが指摘された。

セベソ農薬工場爆発(1976、イタリア)
 2,4,5-TCPから、ヘキサクロロフェンを作り、防菌剤として石鹸、シャンプー、シッカロール等に添加していた工場で、プラントが暴走し、爆発、2,3,7,8TCDDが大量(250〜300gと推測される)にばらまかれる、という事故が発生。多くの子どもにクロロアクネが発症。高濃度汚染地域の住民退去。家畜の殺処分。最近では、汚染地帯で男子よりも女子の出生率が有為に高いことが報告されている。

台湾油症(1978、台湾)
 食用油にPCB製品が混入、約2000人に被害(カネミ油症と同様)。被害者の子供たちに免疫抑制、知能指数の低下、成長抑制などが見られた。知能指数の低下は、胎児期に母体の甲状腺ホルモン濃度が低下したことが影響したと考えられている。

タイムズ・ビーチ土壌汚染(1982、アメリカ)
 米国タイムズ・ビーチ土壌汚染 農薬工場の廃棄物が油に混ぜられ、埃止めとして道路に散布された。米政府は街全体を買い上げ、全町民避難 

 これらの汚染事例を見ると、実に様々な毒性があること、そして、農薬や、防菌剤として安易に身近に使われてきた、有機塩素化合物がその恐ろしい毒性を生み出してしまってきたことを知ることができる。私達は、これまで、本当に安易に化学物質を使ってきた様です。その毒性を知ろうともせずに。

 日本のダイオキシン類の大気中濃度は欧米に比べ、10倍程度高いのです(欧米は0.01〜0.08pg/G程度のオーダー、日本の大気環境濃度指針値は0.8p/G)。米軍調査と日本の調査機関の大気中ダイオキシン類濃度調査で10倍も値に差があったことを考えると、本当はもっと高いのかもしれません。それもこれも、焼却依存型のゴミ処理を続けてきたことが大きな要因となっています。また、被害が大きくならなければ、腰を上げない行政の体質にも原因があるように思います。環境汚染のみならず、資源枯渇や、地球温暖化の面からいっても、ゴミ焼却依存のくらしは、一刻も早くやめるべきです。ダイオキシンの被害が目に見えるようになってからでは手遅れかもしれないのです。