埼玉県知事

上田 清司 様

ごみ山問題に関する市民からの提言

 2005年4月14日            

埼玉西部・土と水と空気を守る会

はじめに:

私たちは、所沢市など埼玉県西部地域において主に産業廃棄物問題を中心に活動している環境団体です。不法投棄や環境基準違反により放置された廃棄物の山(いわゆる「ごみ山」)に関し、当団体では県指導課作成によるリストを参考にして、県全域の調査を行いました。調査結果に基づき、以下の提言を行います。大変困難な問題ですが、行政と市民が解決に向けて協力しなければならないと痛感しています。

提言の背景と調査の目的:

埼玉県西部地域に集中・乱立していた産廃焼却炉は、住民運動の盛り上がりによって激減しましたが、多くの不良業者が廃棄物を積み上げたまま放置しており、隠れた公害問題になっています。2002年4月には所沢市の産廃業者のごみ山が自然発火と見られる大火災を起こして隣接工場を全焼してしまい、ごみ山の抱える危険が顕在化しました。火災のほかにもごみ山による公害は、有害物質排出・崩落などの危険を孕んでいます。私たちは火災以前から、県に対して県内のごみ山調査と撤去を要求してきましたが、県は2001年に3000?以上のごみ山リストを作成しました。県の調査した範囲で作成時点で73ヶ所(2002年7月にごみ山緊急対策を発表した時点で69ヶ所)ありました。その後2004年4月時点で62ヵ所に減少したと報告されていますが、今回私たちが行った調査では80ヶ所と逆に増えており、さいたま市・川越市など県が権限を委譲した大型都市及び調査しきれなかった町村をを加えれば100ヶ所を超えると推測されます。

当会では、この隠れた公害問題に社会が関心を持つことが必要と考え、その前提としてまず「事実」をなるべく正確に把握することから始めました。もちろん、限られた時間と労力・費用での調査ですから、限界はありますが、多くの問題があることがはっきりと指摘できます。

以下は調査結果と危険性の評価をベースとした具体的な提言です。問題の一日でも早い解決に結びつく一助になれば幸甚です。

私たちの提言:

上記の調査及び評価をベースとして、私たちは以下の提言を行います。

1.現に公害が顕在化しているごみ山については、対策を即時実行すること。

(例)・三芳町:長島総業のごみ山(No.62):(No.は当会調査による通し番号)
  理由:致死濃度の硫化水素、環境基準を超える鉛、PCB、地下50cmでの蓄熱(69℃)

  ・熊谷市:吉建興業(No.40):
      理由:既に道路(県道)に一部が崩落し、交通を遮断している状態。

  ・行田市:北関東建設(No.34):
        理由:15m近い急勾配の山。廃プラ・金属・タイヤなど露出。崩れそう。
   ・東松山市:佐藤勝弘(No.16):
       理由:ごみ山に押されてフェンス・ブロックが傾き一部崩れ。民家近い。  ・所沢市:(株)常陸
     理由:小中学校の校庭の直前でごみの積み替え、悪臭、有毒物排出。

    ・これらは私たちの調査で特にひどいと感じたごみ山を例示したものですが、ほかにもこれらに近いごみ山が多数存在していることは添付資料の通りです。

2.実態調査を緊急に実施すること:県はこの2年間でごみ山が69から62へ減少したと説明していますが、県から政令市に移管されただけのものも「改善済み」として削除していたり、県が把握していないごみ山も多数存在し、実態は逆に増加している深刻な事実を直視すべきです。このように、行政のみによる調査では実態・全体を正確に把握することは困難だと思います。行政と周辺住民との協力が不可欠ではないでしょうか。

そこで、住民参加による調査委員会を設置して、実態調査の実施を提案します。構成員は住民・専門家・行政とし、住民主導の調査とするために行政スタッフは事務局として参加頂くことが重要と考えます。調査対象は当然県内全域です。ごみ組成の調査と危険性(対策の緊急性)の評価づけが不可欠だと考えます。廃棄物の種類と堆積の態様によっては、3000?未満でも蓄熱火災や有害物質排出の恐れもあるので、調査対象基準の見直しも必要です。

3.県の管理・指導体制の充実:
当会調査の結果、ごく一部のごみ山以外、ほとんど撤去が進んでいないことが分かりました。このことは、一度ごみ山ができ、業者が倒産・行方不明になってからでは、解決が非常に困難であることを示しています。廃棄物の放置が始まり次第対策を講ずることと、ごみ山の形成を未然に防止することの双方が必要・不可欠です。

わが国の廃棄物に関する法体系は近年相当整備され、特に廃掃法、土壌汚染対策法、水質汚濁防止法や関連政令等により、本調査対象のように事実上の違法状態にある悪質業者に対しては、措置命令、代執行、刑事告発など強制力を伴う強力な権限が県に付与されています。これらの権限を効果的に行使するには、担当者の高度な知識と経験が不可欠です。実効のある研修や市民団体との定期的な情報交換など、職員の指導力向上のための具体的施策を実行して頂くことを切望します。

4.埼玉県への域外ごみの流入規制:
 埼玉県に多数のごみ山が形成されてしまった原因の一つは、首都圏の産業廃棄物を大量に受け入れてきたことです。処理能力を超える量の廃棄物を受け入れた業者は、適法な処理ができず、結果的にごみ山が積み上がっているのです。埼玉県では事前協議制が数年前から施行されていますが、首都圏廃棄物の流入規制には全く効果があがっていません。産業廃棄物流入税を含めた、実効ある流入規制が不可欠です。

5.土地所有者及び廃棄物排出者への啓発:
 土壌が汚染されたことによる土地所有者の責任と負担が重いことはあまり知られていません。特に土壌汚染対策法によって土地所有者の責任が強化されましたが、多くの土地所有者はそのことに対する意識が希薄です。法律上の責任だけでなく、土地取引上も汚染土壌の評価は大幅に下落します。所沢市では、賃貸した土地が不法投棄によるごみ山になり、賃借人業者が逮捕されたため、土地所有者が5千万円も負担して撤去せざるを得なかった実例があります。負担能力がない多くの場合、ごみ山はそのまま放置されます。土地所有者に対して廃棄物受け入れに関する危険性と対策について、効果的な啓発が不可欠です。

また、産業廃棄物排出業者にはマニフェストによって適正処分が実行されたことの確認が義務づけられています。しかし、実態は規定通り行われていないケースが多く、青森・岩手県境の不法投棄や、埼玉県のごみ山でも排出業者が撤去を余儀なくされた例もあります。マニフェストを規定通り運用し、異常があった時点で早急に適切な措置を講ずるなど排出者に対する啓発も必要です。

6,ごみ山防止及び対策のための条例策定の提案

 以上の対策について、埼玉県ではこれまでも既存の法体系の中で対策を講じたと推測されますが、依然問題は山積しています。思い切った抜本的な改善策がをとっていくために、ごみ山防止及び対策のための条例を策定することを目的として、市民、専門家の参加したごみ山防止対策検討委員会を立ち上げることを提案します。

以上

添付資料:

「ごみ山調査の報告」
「第7回長嶋総業ごみ山調査ー結果と問題提起
(いずれも当会作成資料)

埼玉西部。土と水と空気をまもる会
ごみ山に関する情報をお持ちの方は ekitaura@tk.airnet.ne.jp までお寄せ下さい