2002年11月25日
さいたま地方裁判所 御中
原告ら訴訟代理人
弁護士 秋 山 務
弁護士 池 永 知 樹
弁護士 小 原 千 代
弁護士 釜 井 英 法
弁護士 川 崎 慎 一
弁護士 久保田 寿 栄
弁護士 小 林 哲 彦
弁護士 佐 竹 俊 之
弁護士 南 雲 芳 夫
弁護士 野 本 夏 生
弁護士 山 崎 徹
弁護士 鍜 治 伸 明
訴 状
ゴミ山火災損害賠償請求事件
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
訴訟物の価額 90,788,810円
貼用印紙額 380,600円
請 求 の 趣 旨
1 被告らは、各自連帯して、原告有限会社三王精密ネジ製作所に対し金61,916,100円、原告本間峰雄に対し金17,661,250円、原告本間しげ子に対し金5,711,460円、原告本間一孝に対し金5,500,000円及びこれらに対する平成14年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え
2 訴訟費用は被告らの負担とする
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
請 求 の 原 因
第1 当事者等
1 被告
(1)被告株式会社新明は、所沢市大字南永井字窪野487番2、487番5、487番7、487番8、487番11、487番12、487番13(以下「本件土地」ないし「本件敷地」ともいう)において、産業廃棄物中間処理施設その他保管施設を有し、業として、産業廃棄物の収集・運搬(保管・積替も含む)、焼却を行ってきた株式会社である。
被告新明は、後述する一連の杜撰な操業により、2001年(平成13年)5月8日、埼玉県に対し廃炉届出を行わざるを得なくなり、これにより、焼却業からは撤退をした。
しかし、許可を得ている収集・運搬に伴う「保管」と称し、産業廃棄物を運び込むのみで出すことのない状態を2年以上続け、本件敷地一杯(約3000u)に高さ10mを超す、プラスチック、マットレス、ビニール、スプレー缶等の可燃性の不法堆積物(これを「ゴミ山」と称されているので、以下「ゴミ山」ともいう)を築き上げ、外観上は最終処分場と化し、遂に、2002年(平成14年)4月3日、同ゴミ山の火災を引き起こすに至った (甲1:新明火災証拠写真集)。
なお、被告新明の保管基準は表1のとおりであり(甲2:産業廃棄物収集運搬業許可申請書、甲3:産業廃棄物収集運搬業許可証)、上記状態が保管面積や保管量、保管方法において、保管基準違反であることは明白であった。
表1
産業廃棄物の種類 保管面積 高さ等
木くず 108u 2.5m
木くず、紙くず、繊維くず 108u 2.5m
廃油 7.6u 200g(ドラム缶12本)
動植物性残さ 16u 83m(コンテナ4個)
廃ブラスチック類(自動車破砕物を除く)、ゴムくず 16u 3m(コンテナ4個)
金属くず(自動車破砕物を除く) 16u 3m(コンテナ4個)
ガラスくず及び陶磁器くず(自動車破砕物を除く) 16u 3m(コンテナ4個)
がれき類 16u 3m(コンテナ4個)
(2)被告新栄は、産業廃棄物の収集運搬等を業として行ってきた会社である。本店所在地、代表者、取締役、監査役などすべて被告新明と同じである。実質的には被告新明と同一会社である。
(3)被告金貞雄は、被告新明及び被告新栄の代表者である。
(4)被告埼玉県は、産業廃棄物処理業者に対して廃棄物処理法その他法令上、規制権限(監視、指導、命令等)を有するものである。
(5)被告日本通運株式会社、同株式会社ノバ・マネキン、同株式会社インテリアタマ、同五光産業株式会社、同和光堂株式会社、同株式会社オリンピックは、被告新明に対し、本件火災に至るまで廃棄物の処理を委託し続けていた排出事業者である。
2 原告
(1)原告有限会社三王精密ネジ製作所(以下「原告会社」ともいう)は、本件土地に隣接する土地(埼玉県所沢市南永井字窪野462番28)上の、原告会社代表取締役本間峯雄の妻本間しげ子名義の工場(187.86u)及び賃借物件である倉庫(64.8u)において、精密ネジ加工業を営んでいた有限会社である。
なお、上記ゴミ山の火災により、同工場及び同倉庫は全焼し、同工場内及び同倉庫内に設置されていた原告会社所有の各精密機器もまた焼損(全損)に至った。
(2)原告本間峯雄は、原告会社の代表取締役である。原告本間峯雄は、上記工場内及び同倉庫内にカメラ等の高価品を多数置いていたが、本件火災により焼損(全損)した。
(3)原告本間しげ子は、原告本間峯雄の妻である。原告本間しげ子は、上記(1)のとおり、その所有する工場を、本件火災により、全焼させられた。
(4)原告本間一孝は、原告本間峯雄と原告本間しげ子の間の子である。原告会社で稼働している。
第2 本損害賠償請求訴訟の概要
1 事件の概要
前記のとおり、被告新明は、許可を得ている収集・運搬に伴う「保管」と称し、産業廃棄物を運び込むのみで出すことのない状態を2年以上続け、保管基準に違反して、敷地(約3000u)一杯に高さ10mを超す、プラスチック、マットレス、ビニール、スプレー缶等の可燃性の不法堆積物その他有機物(ゴミ山)を築き上げ、外観上は最終処分場と化し、遂に、2002年(平成14年)4月3日、同ゴミ山の火災を引き起こすに至った(甲1)。
同ゴミ山は、約20日間にわたり燃え続け、隣接する原告会社事業所等に延焼した。
また、プラスチック、マットレス、ビニール、スプレー缶等を大量に含む同ゴミ山の長時間にわたる不完全燃焼(野焼き状態)、及び消火作業に伴う大量の水が周辺に流出したことにより、ダイオキシン類を含む大量の有害物質が、原告を含む周辺住民、周辺土地及び周辺家屋等に撒き散らされ、現に健康被害を訴える者も多数出るなど、生命、身体に対する危険を含む甚大なる被害をもたらした 。
2 本訴訟の目的
従来、産業廃棄物問題については、もっぱら、ダイオキシン類等の有害物質を発生させる「焼却」の問題として論じられてきた。しかし、適正な焼却炉を備えられず、焼却業から撤退ないし縮小した産業廃棄物処理業者は、営利追求先を収集・運搬業に求め、保管基準に違反する大量の産業廃棄物を施設内に野積み(ゴミ山)するようになり、あたかも最終処分場と化していった。それとともに、悪臭、飛散、汚水流出の被害が生じたことはもちろん、引火、火の不始末、自然発火(産廃に混ざったアルミニウムやマグネシウムの微粉末が水と反応して発熱したり、廃プラスチック類がレンズの役割をして太陽光を集めたり、廃プラスチック内部に熱がこもったりして火災を引き起こした)、火災発生時の杜撰な防災対策等により、大規模火災を発生させる例が増加していった。
既に、1996年(平成8年)の時点において、産業廃棄物関連施設の火災が全国で年間510件も発生していることが報告されており、平成10年2月5日、自治省消防庁は、産業廃棄物関連の火災の消防対策を講じるよう、全国の都道府県に通知している(甲4:産業廃棄物等に係る消防対策について)。
そして、産業廃棄物の最終処分場については、廃棄物処理法第15条第2項第8号は、事業者に対し「災害防止のための計画」を要求しており、同「災害防止のための計画に係る事項としては、同法施行規則第11条第4項第3号が「火災の発生の防止に関する事項」を掲げている。そして、同規定を受け、火災発生を防止するために、通知(甲5:一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令の運用に伴う留意事項について)において、「火災の発生を防止するために、必要に応じ可燃性の一般廃棄物(産業廃棄物にも準用)に対する覆土、可燃性の発生ガスの排除等の措置をとるとともに、火災発生時に対処しうる消化器、貯水槽散水器を設ける等の措置をとること」と定められている。
さらに、平成13年においては、埼玉県内の産業廃棄物関連施設に限っても、22施設から火災が発生している(甲6:平成13年度県内廃棄物関係火災一覧表)。
この点、一般常識からしても、大量の可燃性のゴミ山を築き上げ、あたかも最終処分場化してしまえば、火災発生の危険と一度火災が生じたときにもたらされる被害の甚大については、容易に想像できることである。
ところが、被告新明は、保管基準に違反して(被告新明の保管基準であるが、廃棄物の種類に応じて保管面積7.6u〜108u、高さ2.5m〜3mである)、産業廃棄物を運び込むのみで出すことのない状態を2年以上続け、敷地面積(約3000u)一杯に高さ10mを超す 、プラスチック、マットレス、ビニール、スプレー缶等の可燃性の不法堆積物(ゴミ山)を築き上げ、あたかも最終処分場と化し、しかも火災発生防止措置を何らとらず、火災発生時に対処しうる消化器、貯水槽散水器を設ける等の措置をとることもせず、甚大な被害をもたらした。
また、被告埼玉県は、度重なる住民の注意喚起及び公害調停申立事件(平成11年(調)第1号、2号)での求釈明等にも関わらず、明白な保管基準違反であるゴミ山に対して、効果のない「口頭指導」を繰り返してきたのみであり、既に口頭指導では効果を期待し得ないことが明らかであったにもかかわらず、必要な規制権限の行使(事業停止、許可取消、措置命令、代執行等)を怠ってきた。
さらに、被告日本通運ほか5社の排出事業者は、被告新明が保管基準に違反していることを知悉しており、廃棄物がゴミ山と化していることを知り、したがって発火すれば本件のような事態を引き起こすことを容易に予測しえたにもかかわらず、この間漫然と放置し、廃棄物の処理を委託し続けたため、本件火災を引き起こした。すなわち、廃棄物処理法によりマニフェストシステムが整備され(同法12条の3)、排出事業者の運搬処分状況の把握ならびに適切な措置を講ずべき義務が定められていたにもかかわらず(同条6項)、被告日本通運ほか5社の排出事業者は、いずれも同義務を遵守しなかったため、廃棄物のゴミ山をみすみす放置・増大してきた。
本件火災は、産廃業者と、産廃業者を監督すべき県と、産廃業者に廃棄物を委託する排出事業者の3者が、それぞれ自らに課されている義務を怠ったため、起きるべくして起きた人災と言わなければならない。これによって、原告らは、生計手段の大部分を失うという甚大な損害を被った。
そして、被告新明を含む、所沢市周辺の産業廃棄物関連施設の大規模なゴミ山は、判明しているだけで計6つに達するのであり、いつ本件火災と同様の事態になってもおかしくない状態にあるにもかかわらず、被告埼玉県は、必要な規制権限の行使を怠り、また被告日本通運ら排出事業者は、依然として杜撰な産廃業者に廃棄物を委託し続けている。被告らは、原告らの被害を救済しようとしないばかりか、自身らによって原告らに甚大な損害を与えたことについて全く反省するところがない。
かかる経緯を踏まえ、原告らは、新明、新栄、金貞雄に対してはもちろん、必要な規制権限の行使を怠った埼玉県と、杜撰な産廃業者に廃棄物を委託し続けてきた排出事業者らに対し、損害賠償を請求するものである。
第3 本件訴え提起に至る経緯
1 はじめに
以下のとおり、被告新明は、昭和61年ころの操業開始以降一貫して、順法精神の一欠片もない杜撰な操業を繰り返し、2001年(平成13年)5月ころからは、顕著な「ゴミ山」を作り上げていた。
そして、前記のとおり、既に同年月の時点までには、産業廃棄物関連施設の頻繁な火災が全国的に公知の事実となっており、また所沢市周辺住民も、公害調停での主張等を通じて重ねて被告埼玉県に対し規制権限の行使を求めてきたにもかかわらず、被告埼玉県は、効果のない口頭指導を繰り返すのみで、何ら必要な措置をとってこなかった。また、被告排出事業者らは、マニフェストシステムを遵守せず、ゴミ山をみすみす放置、増大してきた。
かくして、2002年(平成14年)4月3日、被告新明のゴミ山から火災が発生するに至った。
2 被告新明の操業開始後の経緯
1986年(昭和61年)ころ
被告新明が本件土地において操業を開始する。
以降、杜撰極まる操業が継続する。
1995年(平成7年)ころより
平成7年2月10日に所沢市が被告新明から収受したばい煙発生施設変更届出書によると、一時間あたりの排ガス量が1号炉で3,985N3m、2号炉で19,280N3mであったが、市が測定したところ、本件焼却炉の実測の排ガス量は各30,000N3mを超えており、市が被告新明に対し、届出書を書き直させた経緯があった。
1996年(平成8年)
消防庁によると、産業廃棄物処理施設関連の火災が全国で510件発生。
1996年(平成8年)ころより
所沢市が、被告新明の施設に対し、平成8年10月、立入検査を行ったところ、既にその年の10月を迎えていたにもかかわらず、未だに、「ばい煙測定については、今年はまだ行っていない」状態であり(平成8年10月11日付ばい煙発生施設立入検査結果表)、その後も「ばい煙測定は実施されておらず」、日誌も「保存が不良」の状態であった(平成9年3月17日付ばい煙発生施設立入検査結果表)。平成10年1月27日付ばい煙発生施設立入検査結果表によると、日誌に「焼却量が未記入」であったのみならず、検査当日の焼却について「いつもの状況と異なる様子」がみられ、ダイオキシン類測定時だけ炉の内部のダイオキシン類を除去している疑いが認められた(平成10年1月27日付ばい煙発生施設立入検査結果表)。被告が温度計設置後、運転日誌に温度記録を記載していない事実(平成10年2月16日付ばい煙発生施設立入検査結果表)もあわせ考慮すると、被告新明が適正な操業を行っていないことは明らかであった。
1997年(平成9年)ころより
この頃より、周辺住民の苦情が特に多く寄せられるようになる。
1997年(平成9年)2月4日
住民、埼玉県、所沢市及び三芳町が、被告新明と協議を行った。
この際、住民は被告に対し、「夜間(午後10時から翌午前6時ないし8時ころまで)、土、日曜日は燃やさない。廃プラスチックは焼却しない。」という内容の要望書を出した。しかし、平成10年8月18日付復命書等によれば、被告は廃プラスチック類を分別していないなど住民無視の態度を継続し、埼玉県西部環境管理事務所から、焼却施設で処理する廃棄物に混入している廃プラスチック類等の分別を徹底して行うこと等、計三項目の指導を受けている。
また、住民からの要望書を受け取った2年以上も後になる平成11年7月13日、同要望に対し、被告は、「廃プラスチックは選別して焼却しない。日曜の焼却はしない。」という内容の回答を行ったが、被告の回答は、僅かに一枚紙片のFAXによる三行半の回答書にすぎず、署名捺印もない代物であり、当然、具体的な改善方法にはまったく言及がなされていなかった。
そして、被告は、同回答以降も日曜日に焼却したり、プラスチックを分別せずに焼却するなど、住民との合意を遵守してこなかった。
1997年(平成9年)11月
岐阜県美濃市の産業廃棄物保管施設において、大量に集積保管されていた廃プラスチック、廃タイヤ類から火災が発生し、これを契機に消防庁が、産業廃棄物関連施設の消防対策問題に取り組むようになる。
1998年(平成10年)2月9日
上記岐阜県美濃市の産業廃棄物保管施設の火災を契機として、消防庁が、各都道府県に対して、通知を行う(平成10年2月5日 消防危第11号)。
同通知には、「火災予防のために特に必要があると思われるものについて、廃棄物担当部局等との連携を密にし、その所在、廃棄物の種類及び量、関係者の有無、管理方法、消防活動上の障害等の情報を入手する等により、その実態把握に努めること。
この場合において、消防法令の適用があるものについては、その旨を関係者に認識させ、これを遵守するよう指導するとともに、具体的かつ現実的な危険又は消防活動上支障があると認められる場合には、産業廃棄物等の除去等火災予防上必要な措置を講じるよう関係者を指導すること。
なお、上記指導にあたっては、必要に応じ廃棄物担当部局等の協力を得て実施すること。」等の記載がある。
1998年(平成10年)7月16日
産業廃棄物の最終処分場について、環境庁通知(平成10年7月16日環水企第301号・衛環第63号)が出される。
同通知には、「火災の発生を防止するために、必要に応じ可燃性の一般廃棄物(産業廃棄物にも準用)に対する覆土、可燃性の発生ガスの排除等の措置をとるとともに、火災発生時に対処しうる消化器、貯水槽散水器を設ける等の措置をとること」と定められる。
1998年(平成10年)8月3日
埼玉県が被告新明の施設の立入調査をした結果、被告新明施設の塀の高さを超えて燃え殻を保管していることが判明する(保管基準違反)。また、許可品目でない廃プラスチックの混入がみられたほか、燃焼室と蓋の隙間からは燃焼ガスが漏れていたことが判明した。
1998年(平成10年)8月27日
上記、燃え殻の適正保管、廃棄物の適正保管、廃プラスチックの分別の徹底について、被告が埼玉県より是正のための勧告を受ける(平成10年8月27日付勧告書、平成10年8月18日付復命書)。
1998年(平成10年)9月ころ
上記勧告にも関わらず、未だ燃え殻の高さが約5mある。
1998年(平成10年)9月ないし10月
平成10年9月14日、煙突から火の粉が出ているとの近隣の住民からの苦情により、埼玉県西部環境管理事務所が立入検査を行ったところ、2号炉の設備が故障しているにもかかわらず、修繕せずに焼却を継続していたことがわかり、指導を受けた(平成10年12月25日付復命書)。
なお、平成10年10月16日にも煙突から火の粉が舞う状態が周辺住民により確認されている。
1998年(平成10年)6月16日
被告が埼玉県に対し、本件焼却施設について、産業廃棄物処理施設「変更」許可申請を行う。
1998年(平成10年)12月ないし翌年2月ころ
ところが被告は、「変更」のレベルを超え、突如、焼却炉内部の壁面コンクリートを剥がし始め、炉体全体を完全に撤去するに至る。
すなわち、この時点で、もはや「変更」許可では足りず、新たな「設置」許可が必要となる。
しかし、上記経緯にも関わらず、埼玉県は、「変更」許可を認めたため、平成12年1月25日、原告らを含む周辺住民が、「変更」許可処分の取消を求める行政訴訟を浦和地方裁判所に提起する(浦和地方裁判所平成12年(行ウ)第3号)。
1999年(平成11年)2月
2号炉燃焼室と蓋の間から燃焼ガスが出ている状況、燃焼温度が800度以上を維持できていない事実、燃やし切り運転を行っていない事実(不完全燃焼)等が次々と発覚し、これにより埼玉県から指導を受ける(平成11年2月23日付復命書・甲7)。
また、温度管理についても、法律上義務づけられている温度記録紙に日付を記入しなかったり(平成11年2月23日付け復命書)、燃焼室出口の温度を正しく表示できない位置に熱電対を設置する(平成11年3月23日付復命書)など、杜撰な温度管理を行っていた。
1999年(平成11年)4月ないし2000年(平成12年)3月
燃え殻その他廃棄物の野積みが依然として多い状態にある(平成11年4月22日付け復命書、同年6月16日付け復命書、同月30日付け復命書、同年9月1日付け復命書、同年10月20日付け復命書、平成12年1月14日付け復命書、同年3月10日付け復命書)
1999年(平成11年)6月ころ
住民が被告新明に対し、平成11年に入り、廃棄物処理法15条の2の3、同8条の4の規定による施設の維持管理に関する記録の閲覧を求めた際、被告は閲覧を求めるなら前日までに通知するよう住民らに告げ、記録の閲覧を拒絶した。
その後、住民が被告新明に対し、平成11年6月12日、右記録の閲覧を前もって通知し閲覧に赴くと、焼却物の種類・量の記載はなく、搬入量及び搬入物の種類の記載しかない状態である上、その搬入物を見ると、稼動している二号炉の焼却許可品目は木くずのみであるにもかかわらず、それ以外の繊維くず、動植物残さ等の搬入が記載されていた(搬入量メモ)。
また、日誌には、ほとんど毎日同じ記載が殴り書きされており、住民の閲覧を知り慌てて記載した形跡が見られた。
1999年(平成11年)7月23日
2号焼却炉において、暴力団関係者の死体が燃やされていたことが明らかになる。
2000年(平成12年)1月27日
周辺住民が、被告を相手方として、証拠保全の申立を行う(浦和地方裁判所川越支部平成12年(モ)第107号)。
2000年(平成12年)3月13日
公害調停(平成11年(調)第1、2号)において、住民が、埼玉県に対し、ゴミ山の危険性を注意喚起するとともに必要な規制権限を行使するよう求める。
しかし、埼玉県は、何ら規制権限を行使せず。
2000年(平成12年)5月18日
公害調停(平成11年(調)第1、2号)において、住民が、埼玉県に対し、ゴミ山放置に関する求釈明を行う。
しかし、埼玉県は、具体的な回答を行わない。
2000年(平成12年)4月5日
本件焼却施設において、証拠保全が実施される。
被告が、法令上備え付けが義務づけられている「帳簿」をつけていなかったこと(廃棄物処理法第14条第11項、同法第7条第11項、同法第12条第6項、同法施行規則第8条の5)、被告の焼却施設が一部腐食して穴が開いていたこと、被告の管理する廃棄物に廃プラスチック類が混入している事実等々が発覚する。
2000年(平成12年)4月
上記証拠保全を実施してまもなく、被告新明は、本件火災を引き起こした「ゴミ山」を本件土地内に積み上げ始める。
2000年(平成12年)7月
被告が、上記「帳簿」をつけていなかったこと(廃棄物処理法第14条第11項、同法第7条第11項、同法第12条第6項、同法施行規則第8条の5)から、周辺住民が、同容疑で埼玉県警に告発を行う。
2000年(平成12年)11月
前記告発を受け、埼玉県警が、被告の書類送検を行う。
2000年(平成12年)9月8日
公害調停(平成11年(調)第1、2号)において、住民が、埼玉県に対し、あらためてゴミ山の危険性を注意喚起するとともに必要な規制権限を行使するよう求める。
しかし、埼玉県は、何ら規制権限を行使せず。
2000年(平成12年)11月29日
公害調停(平成11年(調)第1、2号)において、住民が、埼玉県に対し、重ねてゴミ山の危険性を注意喚起するとともに必要な規制権限を行使するよう求める。
しかし、依然として、埼玉県は規制権限を行使せず。
2001年(平成13年)2月3日
公害調停(平成11年(調)第1、2号)において、住民が、埼玉県に対し、再度重ねてゴミ山の危険性を注意喚起するとともに必要な規制権限を行使するよう求める。
しかし、同じく埼玉県は、規制権限を行使せず。
2001年(平成13年)5月ころ
被告新明の「ゴミ山」が顕著になる。
2002年(平成14年)4月3日の火災発生前には、10mを超す「ゴミ山」となる。
2001年(平成13年)5月2日
周辺住民が、浦和地方裁判所川越支部に対し、被告新明の焼却炉の建設、使用、操業差し止め請求訴訟を提起する。
2001年(平成13年)5月8日
被告新明が、廃炉届出をし、被告新明の焼却業は廃止となる。
他方、「ゴミ山」は、一層巨大化するが、埼玉県は、依然として効果のない口頭指導を行うのみ。
2002年(平成14年)4月3日
被告新明のゴミ山から火災発生。
約20日間にわたり燃焼する。
第4 被告新明のゴミ山からの出火
1 出火状況等
2002年(平成14年)4月3日午前11時55分ころ、出火した。
火災発生当時の天候は晴れ、風向南、風速1.6m/s、気温22.0℃、湿度39.2%、火災警報無しであり、一度火災となれば甚大な被害が生じておかしくない条件におかれていた。
出火場所は、ゴミ山の北側斜面中央付近と推定され、同付近には、主に廃プラスチックが置かれていた。
「火災は短時間のうちに爆発的に延焼拡大」「出火直後から爆発的な燃焼を続け」との火災調査報告書の記載のとおり、出火後、瞬く間に爆発的に燃焼拡大し、本件敷地面積一杯(約3000u)に積み上げられたゴミ山(約90003m)のうち、約9003mを焼失、重機二台を焼損し、さらに本件土地に隣接する原告会社の作業所・倉庫等2棟が全焼、1棟が部分焼、その他を焼損した。
原告会社への延焼状況であるが、被告新明は、本件火災前に、廃棄物であるマットレスを約10mの高さに積み上げ、同マットレスの先端は原告会社の作業所・倉庫にまさに接触している状況にあった 。そこで、火があたかも導火線を通じるかのようにマットレスを伝わり、原告会社の作業所・倉庫に燃え移った。
本件火災発生後、消防吏員979名、消防団員293名を含む計1353名が消火活動に当たったが、出火から火勢鎮圧まで約17時間、鎮火まで19日間を要する大火災となった。
(以上、甲7:火災調査報告書)
2 出火原因
出火原因の判定であるが、本件は、敷地面積一杯(約3000u)に高さ10mを超す(保管基準の3倍以上)、プラスチック、マットレス、ビニール、スプレー缶等の可燃性の不法堆積物(ゴミ山)を築き上げ、しかも火災発生防止措置を何らとらず、火災発生時に対処しうる消化器、貯水槽散水器を設ける等の措置をとることもしていない状況下で、前記のとおり、「出火直後から爆発的な燃焼を続け」るなどした事案であり、さらに消火活動の際には各種重機が現場に投入されたことから、当然、まったく原形を留めなかった。
したがって、所沢市消防本部は、出火原因を不明とせざるを得なかった 。
第5 被告らの責任
1 被告新明、被告金貞雄について
(1)ゴミ山を積み上げた過失(民法709条)
本件ゴミ山は、プラスチック、マットレス、ビニール、スプレー缶等の可燃性のゴミその他有機物が大量に積み上げられ、あたかも最終処分場化していたものであり、火災発生の危険と一度火災が生じたときの被害の甚大については明白であった。
既に述べたとおり、平成8年ころから、産業廃棄物関連施設における火災が全国的に知られるようになっており、平成10年2月9日厚生省衛生局通知(甲8:産業廃棄物等に係る消防対策について)によれば、「近年、産業廃棄物等に係る火災が、小規模なものを含め年間約500件以上発生しており、消火活動に困難を極め、鎮火までに相当な時間を要した事例もある。」「これら火災の中には、廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく処理基準等を遵守せず、適正な処理を行っていないことが原因の一つと見られるものもある。」とあり、施設において処理基準等が遵守されていないことが、大規模火災を惹起することの指摘が既になされていた。
したがって、被告新明も、保管基準等を遵守し、未然に火災を防止すべき義務があった。そして、保管義務を遵守している限り、通常火災が発生することはありえず、また仮に出火があったとしても極軽微な範囲の出火に留まり、容易に鎮火可能であって、延焼することなど有り得なかった。
ところが被告新明は、上記義務を怠り、巨大な可燃物のゴミ山を作出し、約20日間にわたる本件大規模火災を発生させた。
(2)火災の未然防止措置及び火災発生時に対処しうる防火措置をとっておかなかった違法(民法709条)
また、平成10年7月16日環境庁通知(甲5)においては、廃棄物処理法第15条第2項第8号、同法施行規則第11条第4項第3号を受け、産業廃棄物の最終処分場について、「火災の発生を防止するために、必要に応じ可燃性の一般廃棄物(産業廃棄物にも準用)に対する覆土、可燃性の発生ガスの排除等の措置をとるとともに、火災発生時に対処しうる消化器、貯水槽散水器を設ける等の措置をとること」とされていた。
この点、本件ゴミ山の実態は、まさに最終処分場と変わらないものであり、そうであれば、被告新明は、火災の未然防止措置及び火災発生時に対処しうる防火措置をとっておく義務があった。そして、同義務を遵守している限り、本件火災のような、「出火直後から爆発的な燃焼」「火災は短時間のうちに爆発的に延焼拡大」といった状況(甲7)、前述のとおり、約10mの高さに積み上げられたマットレスが、あたかも導火線の役割を果たし、燃焼したマットレスの火が原告会社の作業所・倉庫に燃え移るといった事態はいずれも防止することが可能であった。仮に出火したとしても本件のような約20日間にわたる火災と延焼発生は防止できた。
ところが、被告新明は、上記義務を全く怠り、その結果、原告らの被害を惹起、拡大した。
(3)民法709条と失火責任法の関係について
この点、失火責任法との関係で、被告に重過失まで認められるのかが問題となるが、立法理由の欠如ないし希薄化及び比較法の検討などから、失火責任法自体不合理との立場があるのはもちろん、今日では、少なくとも失火責任法を制限的に解釈しなければならないという見解が圧倒的である。
特に、軽過失ある業務者は、重過失ある市民と同じレベルのサンクションを受けるという刑事責任のポリシーは民事責任の判断にあたって尊重されるべきであり、原則的に、市民ならば軽過失と評価される不注意が、業務者においては重過失と評価されるべきとの見解が有力である(澤井裕「失火責任法の法理と判例」増補版 有斐閣53頁)。
なお、保管業者である(焼却業務を止めていた)被告新明について、業務性が肯定されるかも問題となるが、火ないし熱を直接取り扱う業務者である必要はなく、引火性の強いものを扱っていれば足りるというべきであり、被告新明が扱っていた産業廃棄物(廃油、廃プラスチック類、スプレー缶等)はもともと引火性の強いものであるから、被告新明について業務性を肯定することに何ら問題はないというべきである。この点については、自転車販売修理業者(引火性のある危険物を扱う)について重過失を肯定した裁判例(東京地判昭46.11.27判時661号63頁)、玩具業者(花火、セルロイド製品を扱う)について重過失を肯定した裁判例(名古屋高金沢支判昭31.10.26下民7巻10号3003頁)と同様である。
(4)民法717条(土地工作物責任)
(@)「土地の工作物」
土地の工作物とは、「土地に接着して人工的作為を加えることによって成立した物」をいう(大判昭3.6.7民集7巻443頁)。
この点、電柱・電線(最判昭37.11.8民集16巻11号2216頁)、屋内電気配線(東京地判平元.7.17判時1332号103頁)、プロパンガス設備(東京高判昭61.9.25判時1211号52頁)、炭坑坑内(福岡地判昭50.3.1判時774号28頁)、石垣(広島地判呉支部平10.2.19判タ987号217頁)等々、危険責任の原理から裁判例が広範に土地の工作物を認定していること、もともと産業廃棄物処理施設が、危険度の高い施設であることなどを考慮すれば、本件産業廃棄物処理施設は、「土地の工作物」にあたるというべきである。
(A)「設置又は保存の瑕疵」
「設置の瑕疵」とは、当初から瑕疵のあること、「保存の瑕疵」とは、工作物の維持管理中の瑕疵をいう。
この点、本件産業廃棄物処理施設は、高さ3mの鋼板で周囲を囲われているにすぎないのに対し、同鋼板を崩壊させてもおかしくないほどにプラスチック、マットレス、ビニール、スプレー缶等の可燃性のゴミが約10mの高さにおいて大量に積み上げられ、あたかも最終処分場化していたものであり(前述のとおり、マットレスの先端が原告会社の作業所・倉庫にまさに接触してもおかしくない状況にもあった)、しかも火災発生防止措置を何らとらず、火災発生時に対処しうる消化器、貯水槽散水器を設ける等の措置をとることもしていない状況にあった。これらの点については、具体的には、以下のような法令に違反すると考えられる。
・ 収集運搬のための施設を設置する場合には、生活環境の保全上支障を生ずるおそれのないように必要な措置を講ずること(令6条1項1号、令3条1号ロ)
・ 積替えは、周囲に囲いが設けられ***ている場所で行うこと(令6条1項1号イ、令3条1号ホ(1))
・ 産業廃棄物の保管は、産業廃棄物の積替えを行う場合を除き、行ってはならない(令6条1項1号ロ、令3条1号ヘ)
・ 周囲に囲い(保管する廃棄物の荷重が直接当該囲いにかかる構造である場合にあっては、当該荷重に対して構造耐力上安全であるものに限る)が設けられていること(令6条1項1号ロ、令3条1号ト)
・ 屋外において廃棄物を容器を用いずに保管する場合にあっては、積み上げられた廃棄物の高さが環境省令で定める高さを超えないようにすること(令6条1項1号ロ、令3条1号ト、規則1条の6)
・ 当該保管する廃棄物の数量が、環境省令で定める場合を除き、当該保管の場所における1日当たりの平均的な搬出量に7を乗じて得られる数量を超えないようにすること(令6条1項1号ロ)
したがって、本件産業廃棄物処理施設は、その「保存」につき瑕疵があったというべきである。
(5)民法717条と失火責任法の関係について
なお、民法717条と失火責任法の関係も問題となるが、工作物責任優先説が、最も多数採用されている裁判例であり、本件においても失火責任法の適用は排斥されるべきである。
(6)まとめ
原告らの後記損害は、被告新明の上記違法な行為によって発生したものである。したがって、被告新明は、上記のとおり民法709条、717条に基づく責任がある。被告新明の代表者である被告金も同様の責任がある。
2 被告新栄、被告金について
被告新栄は、被告新明の本件施設に産業廃棄物の山が積み上がること、あるいは、積み上がっていることを知りながら、本件施設に産業廃棄物を搬入し続けた。これによって、本件施設に産業廃棄物の山ができあがり、本件火災が発生し、原告らの本件被害が生じた。
また、被告新栄は、実質的には被告新明と全く同一の会社である。
被告新栄には、被告新明と同様民法709条、717条に基づく責任がある。被告新栄の代表者である被告金にも同様の責任がある。
3 被告埼玉県について
(1)本件火災事故の原因
所沢市消防本部の調査によると、出火自体の原因については、何者かが敷地内に侵入して放火した可能性、収れん現象の可能性などが考えられるが、特定はできないということである(甲7)。
しかし、本件火災事故の根本的な原因は、被告新明の本件敷地に廃棄物が違法に積み上げられていたことである(保管基準違反)。被告新明の産業廃棄物保管場所に廃棄物が違法に積み上げられるということがなければ、すなわち、埼玉県知事が許可した保管基準、あるいは、産業廃棄物の保管に関する法令が遵守されていれば、本件火災はなかったのである。仮に、火災が生じたとしても、原告本間しげ子所有の工場建物に延焼して、この工場が全焼する等の本件損害が発生することはなかったのである。
すでに述べたとおり、被告新明は、本件敷地(約3,000u)一杯に産業廃棄物の山を積み上げ、その高さは、10mを超えるものとなっており、明らかに、埼玉県知事が許可した保管基準に違反していた。
さらに、被告新明の産業廃棄物の保管状況に関する法令に違反については、すでに前記1(4)(A)で述べたとおりである。
前述のとおり、本件敷地に積み上げられた廃棄物の山は、埼玉県知事が被告新明に許可した保管基準に違反するし、法令にも違反するものである。つまり、そもそもからして、被告新明が積み上げた廃棄物の山は、そこに積み上げられることを予定されていたものではないのである。被告新明は、平成13年5月に産業廃棄物処分業の許可を返上して以降は、産業廃棄物産業廃棄物収集運搬業(積替え保管を含む)の許可を有しているのみである 。産業廃棄物の保管は、産業廃棄物の積替えを行う場合を除き、行ってはならないのであるが(令6条1項1号ロ、令3条1号ヘ)、被告新明はこれを無視して、本件敷地にただ積み上げる目的のみをもって、産業廃棄物の保管を続けた。しかも、その保管量は、許可された保管基準、あるいは、法令の規制をはるかに超えるものであった(令6条1項1号ロなど)。このように被告新明は、許可された保管基準、あるいは、法令の規制を無視して産業廃棄物の山を積み上げ、被告埼玉県も、被告新明のこれらの違反行為を知りながら、被告新明に対し、保管基準や法令の規制を守るよう強く求めることをしなかった。
以上のような状況のもとでできあがったのが、本件産業廃棄物の山=ゴミ山である。そこは、廃棄物処理法その他の法令の規制が全く及んでいない「無法地帯」である。そこには、プラスチック、マットレス、ビニール、スプレー缶、有機系の廃棄物などあらゆる種類の廃棄物が無制限に入り込んでいる。有機系の廃棄物が化学反応を起こし、自然発火する可能性も否定できない。また、プラスチック、マットレス、ビニール、スプレー缶など極めて燃えやすい廃棄物も大量に含まれている。ひとたび廃棄物の山に火がつけば、あっという間に燃え上がる危険性がある。しかも、被告新明が積み上げた廃棄物の山は、約9,0003mもの体積があり、ひとたび火災になれば、大規模な被害が発生する危険性がある。
このように、被告新明が積み上げた廃棄物の山の存在そのものが、火災事故発生の危険性を孕んでいたものなのである。したがって、本件火災事故の根本的な原因は、本件敷地に廃棄物の山を積み上げたこと、さらにその廃棄物の山を積み上げたまま放置したことにあるのである。
(2)被告埼玉県の責任
埼玉県知事は、廃棄物処理法14条に基づき、被告新明に産業廃棄物処理業の許可を与え、同法18条に基づき、被告新明から報告を徴収し、同法19条に基づき、立入検査をし、同法19条の5に基づき、措置命令を発する権限を有している。
本件は、埼玉県知事が上記権限を行使しなかったため、被告新明の本件敷地に産業廃棄物の山が積み上げられ、放置され、その結果、その産業廃棄物の山から出火し、延焼し、原告本間しげ子所有の工場建物等を焼毀したという事案である。埼玉県知事の不作為による損害賠償義務の発生の有無が問題になる。
確かに、知事において上記廃棄物処理法上の権限を行使するか否かは、原則としてその裁量に委ねられている。しかし、この裁量は、無限定のものではない。権限不行使が、権限行使を行政庁に委ねた法の趣旨、目的に照らして著しく合理性を欠く場合には、その権限不行使は、裁量権の濫用であり、違法となる。
そして、本件において知事の権限不行使が著しく合理性を欠き、裁量権の濫用として違法となる要件は、@損害という結果発生の危険があり、かつ、現実にその結果が発生したこと、A知事が結果発生の危険性を認識していたか、または、認識しうる状態にあったこと、B知事がその権限を行使することによって結果の発生を防止することができたこと、C具体的事情のもとで県知事が上記権限を行使することが可能であったこと、である 。
以下、各要件について検討する。
(@)要件@結果発生の危険
本件火災の出火元となった被告新明の本件敷地に積み上げられた廃棄物の山は、プラスチック、マットレス、ビニール、スプレー缶などの可燃性の廃棄物や有機系の廃棄物など種々雑多な廃棄物から構成されていた。このような廃棄物の山から火が出て、火災が発生することは、日常茶飯事であると言ってよい。
消防庁が把握するところによると、産業廃棄物等に係る火災は、小規模なものも含めると、年間500件前後発生している。平成9年11月にも、岐阜県で大量に集積、保管された廃タイヤ、廃プラスチック等の火災が発生しているのである(甲9:岐阜県美濃市産業廃棄物火災概要、甲10の1、2:新聞記事)。
このような大量に集積、保管された産業廃棄物に関する火災事故は、上記の岐阜県の事例だけでなく、その他にも全国で多数の事例が報告されている(甲11の1、2:出火から鎮火までに3時間以上要した廃棄物処理業火災平成7年、8年)。
埼玉県内でも、大量に集積、保管された産業廃棄物に関する火災事故の事例が多数報告されている(甲6、甲12:出動報告書(長島総業に関するもの)、甲13の1〜4:事故発生報告書等(大生商事に関するもの)、甲14:火災調査報告書一式(クリーンサービスに関するもの))。
また、「出火から鎮火までに3時間以上要した廃棄物処理業火災(平成7年及び8年)」(甲11の1、2)をみると、原因不明の火災が多い。つまり、大量に積み上げられた産業廃棄物の山は、わけも分らず火が出てしまう危険な存在だということが言える。
さらに、これは、最終処分場の場合であるが、都道府県知事から産業廃棄物処理施設の許可を受ける際には、火災を含む災害防止のための計画を記載した申請書を提出しなければならない(法15条2項8号、規則11条4項3号)。最終処分場は、そこに搬入される廃棄物の種類が特定されており、ある程度の管理もされているものである。廃棄物処理法は、このような最終処分場においてさえ、火災を含む災害防止のための計画が必要だということ、つまり、それだけ火災の危険があると考えているのである。したがって、雑多なゴミが混ざり、管理もされていない産業廃棄物の山のごときにおいては、最終処分場よりもさらに火災の危険が高いということは、当然である。
以上のように、産業廃棄物の山は、それ自体火災発生の危険を有しているものであるが、その上さらに、このような産業廃棄物の山に近接して建物等があれば、ひとたびその産業廃棄物の山から出火すると、周辺への延焼等大惨事になる可能性が高いのである。
すでに述べたとおり、本件敷地に積み上げられた廃棄物の山は、プラスチック、マットレス、ビニール、スプレー缶などの可燃性の廃棄物や有機系の廃棄物など種々雑多な廃棄物から構成されていた。このような、被告新明の産業廃棄物の山から出火する危険性は十分にあったと言える。
そして、本件敷地の産業廃棄物の山の体積は、約9,0003mという巨大なものであり、ひとたびそこから出火すれば、大規模な火災に発展する危険性があった。
また、産業廃棄物の山が積み上げられていた本件敷地の周囲には、原告本間しげ子所有の工場を初めとして、多数の建物が近接していた。本件敷地の産業廃棄物の山から出火し、火災になれば、周囲の建物に延焼する危険性があった。
被告新明の本件敷地には、平成12年11月ころから、保管基準に違反する状態で廃棄物の山を積み上げられていた。遅くとも、このころには、被告新明の廃棄物の山からの出火、周辺への延焼という危険が生じていたと言える。
(A)要件A結果発生の危険性の認識可能性
前項で述べたとおり、本件敷地に積み上げられていたような産業廃棄物の山は、そこから出火し、火災になることがありうるということは、もはや公知の事実である。全国各地でそのような火災が頻発しているし、そのことはマスコミで報道されている。埼玉県内でも同様の火災が頻発しており、被告埼玉県もそのことを把握している(甲11〜14)。
さらに、平成10年2月5日付けで、消防庁から各都道府県消防主管部長あてに通知がなされた(甲4)。そこでは、平成9年11月に岐阜県で発生した産業廃棄物火災を踏まえて、山積みになった産業廃棄物の火災の危険性を指摘し、廃棄物担当部局と連携してその対策にあたるよう要請している。そして、これを受けて、平成10年2月9日付けで、厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室長から、各都道府県の産業廃棄物主管部(局)長にあてて、「産業廃棄物等に係る消防対策について」という通知がなされている(甲8)。その内容は、産業廃棄物の火災については、廃棄物処理法に基づく処理基準を遵守せず、適正な処理を行っていないことが原因のひとつであると指摘し、産業廃棄物による生活環境の保全上支障が生じることのないよう、廃棄物処理法に基づく行政処分等を速やかに行うことを要請しているというものである。すなわち、遅くとも平成10年2月の時点で、被告埼玉県の消防を管轄する部署、及び、産業廃棄物を管轄する部署は、産業廃棄物の山が火災を起こしやすいものであることを認識していたことになる。仮に認識していなかったとしても、認識しえたはずであるとは言える。
以上の事実からすると、産業廃棄物の山は火災を起こしやすい危険なものであるということは、埼玉県知事も認識していたと言える。仮に、認識していなかったとしても、認識しえたはずである。
そして、被告埼玉県の廃棄物担当職員は、平成13年3月以降再三にわたり、被告新明の本件敷地に立入調査等を行い、本件敷地の廃棄物の山の状態をつぶさに観察し、その違法な状態を発見し、被告新明に対して口頭の指導などを繰り返していた(甲15復命書)。すなわち、廃棄物担当職員は、遅くとも平成13年3月ころまでには、被告新明の本件敷地における廃棄物の山の状態を客観的に認識していた。仮に、認識していなかったとしても、認識しえたはずである。したがって、埼玉県知事は、遅くとも平成13年3月ころまでには、被告新明の本件敷地内の廃棄物の山が大きく積み上がり、上記のような火災を起こしやすい危険な状態であることを認識していた、あるいは、認識しえたと言える。
また、前記のとおり、廃棄物担当職員は、頻繁に本件敷地に立入調査等を行っていたのであるから、被告新明の本件敷地に隣接して原告本間しげ子所有の工場等の建物があることは、当然のことながら認識していた。仮に、認識していなかったとしても、認識しえたはずである。したがって、埼玉県知事も、本件敷地に隣接して原告本間しげ子所有の工場等の建物があることを認識していた、あるいは、認識しえたと言える。
以上のとおり、埼玉県知事は、遅くとも平成10年2月までには、産業廃棄物の山というものは火災を起こしやすいことを認識していた。認識していなかったとしても、遅くともそのころまでには、認識しえた。
そして、遅くとも、平成13年3月ころまでには、被告新明の本件敷地に違法に産業廃棄物の山が積み上げられており、火災を起こしやすい危険な状態にあることを認識していた。認識していなかったとしても、遅くともそのころまでには、認識しえた。さらに、被告新明の本件敷地に原告本間しげ子所有の工場が隣接していることも認識していた。認識していなかったとしても、認識しえた。
したがって、埼玉県知事は、被告新明の産業廃棄物の山から出火して火災になる危険性があること、そこから延焼して、原告本間しげ子所有の工場等を焼毀する危険性があることを認識していたと言える。認識していなかったとしても認識しえたと言える。
(B)要件B結果発生回避の可能性
被告新明は、埼玉県知事の指導に一応は従っていた。仮に、指導に従っていなかったとしても、埼玉県知事が廃棄物の山を撤去させる措置命令を出せば、それには、従ったはずである。したがって、埼玉知事が廃棄物処理法18条、19条、19条の5所定の報告徴収、立入調査及び措置命令の各権限を行使すれば、本件敷地の産業廃棄物の山はなくなったはずである。現に、本件火災後になってから、埼玉県知事は、被告日本通運ら排出事業者に協力を求めるなど様々な措置を講じ、その結果、本件敷地内の廃棄物の山は完全に撤去されたのである。産業廃棄物の山がなくなっていれば(少なくとも、保管基準を守っていれば)、本件敷地で火災が発生することはなかったはずである。仮に、火災が発生したとしても、延焼して、原告本間しげ子の工場等の焼毀という結果の発生を回避できたことは明らかである。
(C)要件C権限行使の可能性
埼玉県知事が廃棄物処理法18条、19条、19条の5所定の報告徴収、立入調査及び措置命令の各権限を行使するにあたって、被告埼玉県の組織上の人員配置、予算上の問題などの障害は全くなかった。
(D)まとめ
被告埼玉県は、主位的に国家賠償法1条1項に基づく責任があり、予備的に廃棄物処理法18条、19条、19条の5所定の報告徴収、立入検査及び措置命令の各権限並びに同法14条1項の許可権限が、被告埼玉県の固有事務でなく、法定受託事務であり(地方自治法9条、10条)、被告埼玉県が国家賠償法1条1項に基づく責任を負うものでないとしても、被告埼玉県は埼玉県知事に対する俸給給与その他の費用を負担する者であるから、同法3条1項に基づく責任がある。
4 被告日本通運株式会社ら排出事業者について
(1)被告排出事業者らについて
(@)被告新明ほかに対し、廃棄物の収集・運搬を委託し、本件のゴミ山の原因を築いた排出事業者として、現在のところ、被告日本通運株式会社、被告株式会社ノバ・マネキン、被告株式会社インテリアタマ、被告五光産業株式会社、被告和光堂株式会社及び被告株式会社オリンピックの6社が特定されている(以下、上記各会社を併せて「被告排出事業者ら」という)。
(A)被告排出事業者らの委託状況について
被告排出事業者らが埼玉県に対し、廃棄物処理法18条1項に基づき提出した産業廃棄物処理委託状況等報告書(甲16〜21)によれば、被告排出事業者らは、それぞれ2000年(平成12年)4月から2002年1月かけて継続的に、6社で合計6014.353mもの量の廃棄物の収集・運搬を被告新栄に委託し、廃棄物はいずれも被告新明により積替保管された。
これを各社についてみると、以下の通りである。
@被告日本通運につき、 9593m
廃棄物の種類:家電、混合(廃プラスチック、紙クズ、段ボール)
A被告ノバ・マネキンにつき、 1023m
廃棄物の種類:廃プラスチック、木くず、紙くず
B被告インテリアタマにつき、 1297.53m
廃棄物の種類:混合(廃プラスチック類、金属くず、ガラス、陶磁器)、木くず、紙くず
C被告五光産業につき、 3953m
廃棄物の種類:混合(廃プラスチック類、金属くず、木くず)
D被告和光堂につき、 1624.43m
廃棄物の種類:廃ブラスチック、ビニール等、動植物性残さなど
E被告オリンピックにつき、 1636.453m
廃棄物の種類:廃プラスチック、紙くず、廃ビニール、発泡スチロールなど
(B)これら廃棄物は被告新栄、被告新明により、本件火災現場の産業廃棄物集積場に積み上げられ、本件火災の事故の原因となった。
(2)被告排出事業者らの廃棄物処理法違反
(@)被告排出事業者らは、被告新栄に収集・運搬を、被告新明に保管積替を委託するにあたり、重大な廃棄物処理法違反を犯している。
(A)排出事業者の自己処理の原則
環境基本法8条は、事業者に「事業活動に係る製品その他の物が廃棄物となった場合にその適正な処理が図られることとなるように必要な措置を講ずる責務」を課している。事業者はその産業廃棄物を自ら処理しなければならない(法3条1項、11条1項)。こうした事業者の「ゆりかごから墓場までの責任」、すなわち、「排出した廃棄物を最終処分まで自ら処理し、あるいは管理する責任」は世界的に承認される傾向にあり、上記各条項はこれらの責任を確認したものである(環境法第2版 有斐閣ブックス213頁)。
それ故、例外的に他人にその廃棄物の処理を委託することが認められる場合においても、委託者は、政令ないし環境省令で定められた詳細な基準(委託基準)に従わなくてはならない(法12条3項、4項)。そして、事業者はこの場合に、「当該産業廃棄物について発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の工程における処理が適正に行われるために必要な措置を講ずる」こととされている(法12条5項)。
(B)管理票(マニフェスト)制度について
これら排出事業者の責任を担保する手段の一つとして、産業廃棄物管理票(いわゆる「マニフェスト」。以下、単に「管理票」という。)の制度が採用されている。
同制度では、排出事業者が廃棄物を処理業者に引き渡す際には、環境省令で定める事項を記載した管理票の作成交付が義務付けられ(法12条の3第1項)、処理業者(運搬・中間処分・最終処分の工程全て)の受託者は、それぞれの処理を終了した際に、管理票にその旨(及び環境省令で定める事項)を記載して、当該処分委託者に写しを送付しなければならない(同第2、3項)。
実務上は、管理票には複写式の用紙が用いられ、その記載、写しの保存及び送付はきわめて簡便に行いうる仕組みとなっている。
なお従前、排出事業者は処理を直接に委託した相手方(収集・運搬、中間処分)より管理票写しの送付を受けるのみで、当該廃棄物が最終処分されたことを管理票上確認できないことが問題視され、平成12年改正法(平成13年4月1日施行)は、中間処分の受託者が最終処分が終了された旨が記載された管理票の写しの送付を受けたときは、さらにその写しを送付しなければならないこととして(同第4項)、排出事業者が最終処分の有無を確認できる制度に変更し、管理票制度は強化された。
(C)管理票の確認義務
法12条の3第7項は「管理表交付者は、環境省令で定める期間内(管理票交付の日より、運搬、中間処分については90日、最終処分については180日以内《施行規則8条の二十八》)に***管理票の写しの交付を受けないときは***速やかに当該委託に係る産業廃棄物の運搬又は処分の状況を把握するとともに、環境省令で定めるところにより、適切な措置を講じなくてはならない」と規定する。
ここで、「環境省令で定める***適切な措置」とは、同施行規則第8条の29により「生活環境の保全上の支障の除去又は発生の防止のために必要な措置を講ずるとともに、前条に規定する期間が経過した日から三十日以内に、様式第四号による報告書を都道府県知事に提出するものとする。」と規定されている。
以上をまとめると、法は、排出事業者に対し、管理票交付の日より90日以内に、運搬ないし中間処分業者より管理票写しの送付を受けないとき、また、最終処分に関しても、180日以内に管理票写しの送付を受けないときは、排出事業者に@「状況の把握」、A「適切な措置」という積極的な行為をすることを要求し、さらに、「適切な措置」の内容は、環境省令によって、A−1「生活環境の保全上の支障の除去」、A−2「発生の防止のために必要な措置」及びA−3「30日以内の報告書の提出」と具体化されている。
(D)被告排出事業者らの対応
被告排出出事業者らは、被告新栄に廃棄物の収集・運搬を委託するにあたり、当然、管理票を交付している筈である。ところが、被告新栄そして保管積替の委託を受けた被告新明が適正な処理をせず、廃棄物がそのままゴミ山に積み上げられれば、上記の期限内に管理票写しが返送されてこないことにより、これを覚知できることが制度上保障されている。
そして、その場合に被告排出事業者らは、そうした場合には、まず被告新栄、被告新明に問い合わせ、@「状況の把握」、A「適切な措置」を採らなければならない。
この@、Aの履行のためには、管理票写しの送付がないことを被告新栄、被告新明に問い合わせるのが第一歩である。東京都環境局の作成したパンフレット(甲22)5頁においても、マニフェストが戻ってこないときは、処理業者へ確認・指示・督促をして状況を把握し、例えば、処理業者との委託契約を解除するなどの措置を採るべきことがきわめて平易に解説されており、これらは排出事業者として「常識中の常識」である(甲23〜25:東京都発行のパンフレット)。
しかるに、被告排出事業者らが被告埼玉県に事情聴取された際の報告をみると、以下の通り、被告排出事業者らは、何らこのような行為を行っていない(甲26〜29:報告書、)。
@被告日本通運について
(廃棄物の積み替え保管場所等の確認について)
「火災後叶V明は見たが、中間処分場、最終処分場を見たことはない。」
(叶V明の焼却停止について)
「叶V明の焼却が平成12年3月末以降使われていないことは知らなかった。」
(マニフェストの確認)
「マニフェストについてはよく中身を確認していない。」
A被告ノバ・マネキンについて
(廃棄物の積み替え保管場所等の確認について)
「自己の廃棄物の積替え保管場所、中間処分場、最終処分場を見たことはない。」
(叶V明の焼却停止について)
「叶V明の焼却が平成12年3月末以降使われていないことは知らなかった。」
(マニフェストの確認)
「マニフェストについてはチェックをしている。」
しかし、被告埼玉県によれば、「***持参してもらったマニフェストを確認したところE票は見当たらず。」と記載されている。
B被告インテリアタマについて
(廃棄物の積み替え保管場所等の確認について)
「自己の廃棄物の積替え保管場所、中間処分場、最終処分場を見たことはない。」
(叶V明の焼却停止について)
「叶V明の焼却が平成12年3月末以降使われていないことは知らなかった。」
(マニフェストの確認)
「経理担当者に聞かないとよく分からないがマニフェストについては帰ってきている。」
しかし、被告埼玉県によれば「***手元にあるマニフェストが3枚とのことでありE票はない可能性がある。」と記載されている。
C被告五光産業について
(廃棄物の積み替え保管場所等の確認について)
「自己の廃棄物の積替え保管場所、中間処分場、最終処分場を見たことはない。」
(叶V明の焼却停止について)
「叶V明の焼却が平成12年3月末以降使われていないことは知らなかった。」
(マニフェストの確認)
「マニフェストについてはチェックをしている。
ただし、13年5月から帰ってこないものがある。」
D被告和光堂について
(廃棄物の積み替え保管場所等の確認について)
「積替え保管場所である叶V明については、当社から委託した廃プラスチック(動植物性残さの付着したレトルト容器)をカラスが拾い、叶V明となりの林に放置したため、地主から苦情が来て廃棄物を片づけたことがあるため現場に来たことがある(13年12月)。
中間処分場、最終処分場を見たことはない。」
(叶V明の焼却停止について)
「現地に行っているので、叶V明の焼却を行っていないことは知っていたが、平成12年3月末に焼却を終了したことは知らなかった。」
(マニフェストの確認)
「13年分については、動植物性残さについてはほぼ帰ってきているが廃プラスチックについては、帰ってきていない(約21t)。」
E被告オリンピックについて
(廃棄物の積み替え保管場所等の確認について)
「自己の廃棄物の積替え保管場所、中間処分場、最終処分場を見たことはない。
今日の帰りに現場を確認する。」
(叶V明の焼却停止について)
「叶V明の焼却が平成12年3月末以降使われていないことは知らなかった。」
(マニフェストの確認)
「マニフェストについては綴ってあるが中身を確認していない。」
以上の如き被告排出事業者らの回答からみるに、被告排出事業者らに管理票の確認義務違反があったことは明白である。すなわち、前記@「状況の把握」、A「適切な措置」(A−1「生活環境の保全上の支障の除去」、A−2「発生の防止のために必要な措置」及びA−3「30日以内の報告書の提出」)などの法令上の義務は、何ら履行されていない。
否、被告排出事業者らは、そうした義務が法定されていることを十分に認識、理解すらしていないことが窺われる。
(E)被告日本通運に対する広域指定許可取消について
なお、環境省は、平成14年10月18日、前項の事実に基づき、被告日本通運に対し、同社が法14条1項及び4項、規則9条9条3号にて得ていた広域再生利用指定を取消した(甲27:環境省ホームページ)。
(F)被告排出事業者らに対する本件ゴミ山撤去の指導
本件火災後、被告排出事業者らは、被告埼玉県より指導を受け、ゴミ山の撤去作業を行った。この撤去作業は、形式上、「自主」の体裁をとっているが、現実的な課程をみるとき、決して「自主」ではない。上記経緯からすれば、十分に法19条の6の措置命令の要件を備えているところ、被告埼玉県の強い指導の結果、被告排出事業者らが任意の撤去に応じたことから、措置命令が回避されたとみるのが実態に沿う。
(3)上記行為は周辺住民に対する関係で重大な注意義務違反を構成する
管理票制度により、被告新明がゴミ山を積み上げていることを把握することは容易であり、これを把握した場合には、法が積極的な行為をすることを要求している。そして、法及びこれに基づく環境省令は形式的な行政法規ではない。廃棄物処理法は、そもそも「生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ること」(第1条)を目的とする立法であり、同管理票制度も、周辺の生活環境を具体的に保全する目的で制定されたものである。
したがって、上記の各法令違反行為は、同時に、周辺住民の生命・身体・財産の安全を守るうえで重大な注意義務違反を構成するものである。
なお、被告排出事業者らは、その事業過程で当該廃棄物を排出した当事者であるから、廃棄物の内容、性質、出火の危険性等については熟知している。
また、従前より所沢市周辺においては産業廃棄物処理施設の異常な集中が大きく問題視され、1999年より公害紛争処理法に基づく公害調停が係属し、また、テレビ朝日による所沢ダイオキシン報道が農家らによって問題視され、名誉毀損による損害賠償等請求訴訟が提起されるなど、所沢の「ダイオキシン」「産業廃棄物処理施設」は大きな社会問題として公知のところとなっていた。
近年、廃棄物の処理は、事業者らにとっても大きな悩みの一つであり、所沢市内に事業所を持つ被告新明等に廃棄物を委託する以上、当然、被告排出事業者らもこれら事情を熟知していた筈である。
所沢産廃汚染問題の中でも、主要な問題点である「ゴミ山」につき、廃棄物を委託する被告排出事業者らが我関せずとして済むわけはない。
被告排出出事業者らは、危険な被告新明の「ゴミ山」を黙認していた、すなわち故意があったとみるのが真相であると思わる。あるいは限りなく疑わしい。
少なくとも、「管理票の写し送付の確認」というきわめて容易な作業を怠り、その結果として「ゴミ山」の把握及び必要な措置ができなかったものであるから、重大な過失があると言わざるを得ない。
(4)共同不法行為
被告新明の本件敷地のゴミ山は、被告排出事業者らが新明への廃棄物の委託を停止することによって、十分に阻止できたものである。ゴミ山は、漫然と被告排出事業者らが被告新栄、被告新明に廃棄物を委託し続けた結果として積み上げられ、その結果、本件火災事故が発生したものである。
仮に、被告排出事業者ら一社でも、前記法令上の義務を履行し、適切な措置を講じていれば、被告新明の火災は防げた可能性は高い。
従って、被告排出事業者らのこれら廃棄物委託行為については、それぞれ関連共同性が認められ、ゴミ山を築き上げた主犯である被告新明、被告新栄、これを漫然と放置した被告埼玉県及び被告日本通運ら排出事業者との間の行為につき、共同不法行為が成立する。
(5)結語
よって、被告排出事業者らは、被告新明、被告新栄、被告金貞雄、被告埼玉県と共に、共同不法行為に基づき原告の被った損害を連帯して賠償する責任がある。
第7 結論
本件火災は、被告新明の本件敷地内の産業廃棄物の山で発生した。その結果、原告らは、生計の手段を失った。
すでに述べたとおり、被告新明は、本件敷地内にこの産業廃棄物の山を積み上げた張本人である。被告新栄は、本件敷地にせっせと産業廃棄物を運び続けた。被告金は、この両者の代表者である。そして、本件敷地に積み上げられた産業廃棄物を発生させたのは、被告日本通運、同ノバ・マネキン、同インテリアタマ、同五光産業、同和光堂及び同オリンピックら排出事業者である。さらに、この産業廃棄物の山に対する監督権限を有している被告埼玉県(埼玉県知事)は、その責任、権限を完全に放棄してしまった。
原告らは、被告新明らに被害の救済を求めたが、被告新明や被告金は、自身らの責任を全く感じていないかのごとき対応に終始した。被告日本通運ら排出事業者も、自ら出した廃棄物がどう処理されているかについて全く関心を持っていない。
本件火災事件は、マスコミでも報道された。原告らや本件「ゴミ山」周辺の住民らが、被告埼玉県に抗議、要請もした。被告埼玉県は、あわてて埼玉県内の「ゴミ山」を調査し、「廃棄物の山対策について」などという緊急対策を発表した。さらに、本件火災後も燃え残った廃棄物については、排出事業者に協力を求め、あっという間に撤去してしまった。しかし、被告埼玉県は、すでに発生した原告らの被害に対して、何らの救済策も講じようとしない。原告らの被害救済の叫びに、全く耳を貸そうとしない。いかにもマスコミ受けしそうな緊急対策の発表などで、その場をしのごうとしている。被告新明らに撤去能力がなくても、排出事業者に撤去を求めれば、ゴミ山は撤去できるではないか。なぜ、今回の火災事故が生じる前にそれをやらなかったのか。埼玉県知事も議会答弁で、ゴミ山放置の責任を認めているが 、これは、単なる議会向けのスタンドプレーに過ぎないのか。
すでに訴状において詳細に述べたとおり、被告らの責任は明らかである。被告らにおいては、もう一度、産業廃棄物の処理に関する自らの責任を省みてもらいたい。
よって、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める次第である。