三富地域のダイオキシン類の環境調査結果について 調査主体:埼玉県

I 調査の目的
平成8年5月1日、所沢市下富に居住する渋木幸子氏から、県公害防止条例第9条第1項の規定に基づく「調査請求」が提出されたことにより、ダイオキシン類の濃度を測定した。

II 調査の内容
1 測定期間
平成8年11月26日(火)〜29日(金)の延べ4日間

2 測定対象試料
大気(同一場所で24時間x3検体採取)、土壌(地表面から深さ2cmまでの表土)

3 参考測定対象試料
井戸水、河川水(都市地下水路)、底泥(都市下水路調整池)、土壌(地表面) から深さ5cmまでの表土)

4 測定項目
2,3,7,8-TCDD等ダイオキシン類28物質

5 測定地点(別図参照)
大気 13地点
土壌 概ね大気と同一の13地点及び所沢航空公園1地点
井戸水 7地点
河川水(都市下水路) 1地点
底泥(都市下水路調整池)1地点

6 測定方法
国内における測定結果と比較する必要があることから、大気試料については、「環境大気中のダイオキシン類測定分析技術指針(環境庁大気規制課編)」に準拠し、土壌、水質、底泥試料については、「平成7年度非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査(環境庁 環境安全課)」と同一方 法、または準拠する方法とした。

III 測定結果

1 大気
大気中のダイオキシン類の濃度測定にあたって、一般的に、冬期の11月〜12月の時期は、逆転層が生じ易く、大気汚染物質が拡散しにくく高濃度になり易いため、こうした気象条件を考慮し、測定時期を選定した。 測定日の2日目に降雨(所沢測定局3mm/日・熊谷地方気象台月報)があり、この影響により3日目の測定値が、低下したと思われる。
  従って、測定期間3日間のうち、降雨による影響があったと思われる3日目を除く上位2日間平均のダイオキシン類の濃度は、当該地域の平均では、1.7 TEQ-pg/m3(最小1.5 TEQ-pg/m3、最大2.0 TEQ-pg/m3)であった。県庁、県公害センター、狭山常時監視測定局(以下 対照地点という)では、1.4 TEQ-pg/m3〜1.5 TEQ-pg/m3であり、バックグラウンドとして測定した東秩父常時監視測定局は、0.12 TEQ-pg/m3であった。 なお、測定期間3日間の平均濃度は、当該地域の平均で、1.2TEQ-pg/m3(最小1.0 TEQ-pg/m3、最大1.4 TEQ-pg/m3)であった。対照地点では、0.91 TEQ-pg/m3〜0.98 TEQ-pg/m3であり、東秩父常時監視測定局は、0.08TEQ-pg/m3であった。 (表−1)

表−1 大気中のダイオキシン類 (TEQ-pg/m3) 

当該地域

県庁

公害センター

狭山

東秩父

2日平均

1.7

1.4

1.4

1.5

0.12

3日平均

1.2

0.91

0.94

0.98

0.08

2 土壌

当該地域の地表面から2cmまでの土壌におけるダイオキシン類の濃度は、平均54TEQ-pg/g(最小13 TEQ-pg/g、最大130 TEQ-pg/g)であった。対照地点では、14 TEQ-pg/g〜42 TEQ-pg/gであり、バックグラウンドとして測定した東秩父常時監視測定局は、1.4 TEQ-pg/gであった。なお、地表面から5cmまでの濃度は、当該地域で平均42 TEQ-pg/g(最小11 TEQ-pg/g、最大100 TEQ-pg/g)であった。また、対照地域では、10 TEQ-pg/g〜21TEQ-pg/gであり、東秩父常時監視測定局は、3.8 TEQ-pg/gであった。(表−2)

表−2 土壌中のダイオキシン類 TEQ-pg/g

当該地域

航空公園

県庁

公害センター

狭山

東秩父

0〜2cm

54

14

42

33

39

1.4

0〜5cm

42

10

17

21

16

3.8

3 井戸水(2)

0.06〜0.22TEQ-pg/lで、平均0.09 TEQ-pg/lであった。

4 河川水(都市下水路)

1.6 TEQ-pg/lであった。

5 底泥(都市下水路調整池)

110 TEQ-pg/gであった。

(注 井戸水の用途は雑用水で、飲用されていない。)

IV 暴露評価

暴露評価を行うにあたって、安全側にたって、大気の2日間平均、土壌の地表から2cmまでのデータを用い、食物及び水については、環境庁の「ダイオキシンリスク評価検討会中間報告(平成8年12月19日・以下 中間報告)」のデータを用いて、中間報告と同様の方法で推定すると、表−3のとおりである。なお、大気について3日間平均を、土壌について地表面から5cmのデータを用いて推定した場合の暴露状況を、表−4に示した。

表−3 ダイオキシン類暴露状況 (TEQ-pg/kg/day)

当該地域

県庁

公害センター

狭山

東秩父

大気

0.51

0.42

0.42

0.45

0.04

土壌

0.23

0.18

0.14

0.16

0.01

*食物

0.26〜3.26

*水

0.001

1.0〜4.0

0.86〜3.86 0.82〜3.82 0.87〜3.87 0.31〜3.31

注:大気については、上位の2日間平均を、土壌については、地表面から2cmまでのデータを用いて推定。

*食物、水については、ダイオキシンリスク評価検討会中間報告の数値を使用

表−4 ダイオキシン類暴露状況 (TEQ-pg/kg/day)

当該地域

県庁

公害センター

狭山

東秩父

大気

0.36

0.27

0.28

0.29

0.02

土壌

0.18

0.07

0.09

0.07

0.02

*食物

0.26〜3.26

*水

0.001

0.80〜3.80

0.60〜3.6 0.63〜3.63 0.62〜3.62 0.30〜3.3

注:大気については、上位の3日間平均を、土壌については、地表面から5cmまでのデータを用いて推定。

*食物、水については、ダイオキシンリスク評価検討会中間報告の数値を使用

V 結果

1 大気について

当該地域の大気中のダイオキシン類の濃度は、対照地域と比較して、やや高い傾向が見られた(注1)。バックグラウンドとして測定した東秩父監視測定局との間には、差が認められた。

2 土壌について

当該地域の土壌中のダイオキシン類の濃度は、対照地点と比較して、同程度であったが(注2)、バックグラウンドとして測定した東秩父常時監視測定局との間には、差が認められた。

(注1・2 ウイルコクソンの順位和検定法によった。)

VI まとめ

1) 当該地域のダイオキシン類の濃度は、県庁など対照地域と比較して、大気については、やや高い傾向が見られ、土壌については、同程度であった。

2) 環境庁の「ダイオキシンリスク評価検討会中間報告」では、より積極的に維持されることが望ましい水準として、人の暴露量を評価するために用いる健康リスク評価指針を、5 TEQ-pg/kg/dayと報告しており、当該地域のダイオキシン類の推定暴露量は、この指針値をしたまわっている。

3) 暴露評価を安全側に見て、当該地域のすべての最大値を採用して推定した場合では、4.4 TEQ-pg/kg/dayであり、この場合でも、中間報告の指針値をしたまわっている。

4) 中間報告では、リスク評価にあたり「現時点で、人の健康に影響を及ぼしている可能性は小さいと考えられる」と報告していることから、当該地域においても同様に考えるのが妥当である。

(注 ウイルコクソンの順位和検定法によった。)

VII 今後の対策の方向

人の健康に与える大気からの寄与率は10%程度とはいえ、長期的に見れば、生物循環によって人を含む生態系に影響を及ぼす恐れがある。廃棄物焼却施設をはじめ、県内全域に発生源が存在することを考えると、長期的により高い安全性を確保する上では、これまで進めてきた諸施策をいっそう強化するほか、新たな施策の検討を進める必要がある。こうしたことから、当面、次のような対策を講じることとした。(詳細は別紙)

1) 県内のダイオキシン類濃度の調査

2) 「ごみ処理に係るダイオキシン類発生防止等ガイドライン」に基づく指導の徹底

3) 「産業廃棄物処理業等許可事務の諸問題に関する当面の取り扱い方針」による指導の徹底

4) 「産業廃棄物処理施設技術指針」策定

5) 「ダイオキシン類削減対策検討委員会」の設置

6) 「廃棄物焼却炉のばい煙排出抑制に関する指導指針」の策定・指導の徹底

7) 法制度の整備、排出量削減対策の国への要望

ダイオキシン濃度測定結果

大気(3日間)

A-1

A-2

A-3

A-4

A-5

A-6

A-7

A-8

PCDD-TEQ

0.16

0.15

0.13

0.01

0.11

0.15

0.08

0.11

PCDD-TEQ

1.18

1.17

0.96

1.0

0.97

1.21

1.28

1.14

TEQ合計

1.3

1.3

1.1

1.1

1.1

1.4

1.4

1.3

A-9

平均

県庁

公害

狭山

東秩父
PCDD-TEQ

0.11

0.12

0.08

0.09

0.08

0.01

PCDD-TEQ

0.93

1.09

0.83

0.86

0.9

0.07

TEQ合計

1.0

1.2

0.91

0.94

0.98

0.08

大気(2日間)

A-1

A-2

A-3

A-4

A-5

A-6

A-7

A-8

PCDD-TEQ

0.23

0.23

0.19

0.15

0.16

0.22

0.11

0.16

PCDD-TEQ

1.76

1.74

1.44

1.35

1.46

1.80

1.39

1.47

TEQ合計

2.0

2.0

1.6

1.5

1.6

2.0

1.5

1.6

A-9

平均

県庁

公害

狭山

東秩父
PCDD-TEQ

0.16

0.18

0.11

0.13

0.12

0.01

PCDD-TEQ

1.40

1.53

1.24

1.28

1.34

0.11

TEQ合計

1.6

1.7

1.4

1.4

1.5

0.12

土壌(0〜5cm)

S-1

S-2

S-3

S-4

S-5

S-6

S-7

S-8

PCDD-TEQ

3.44

5.52

11.3

12.1

13.4

9.72

28.4

17.2

PCDD-TEQ

7.15

11.1

18.6

15.2

27.5

25.4

47.3

24.8

TEQ合計

11

17

30

27

41

35

76

42

S-9

平均

航空公園 県庁 公害 狭山 東秩父
PCDD-TEQ

43.8

16.1

4.39

6.22

7.64

4.94

1.12

PCDD-TEQ

57.0

26.0

5.93

10.4

13.3

10.9

2.65

TEQ合計

101

42

10

17

21

16

3.77

土壌(0〜2cm)

S-1

S-2

S-3

S-4

S-5

S-6

S-7

S-8

PCDD-TEQ

11.53

3.92

12.0

22.8

12.27

11.28

45.3

17.62

PCDD-TEQ

22.60

8.92

21.85

29.04

26.12

28.41

82.11

34.02

TEQ合計

34

13

34

52

38

40

127

52

S-9

平均

航空公園 県庁 公害 狭山 東秩父
PCDD-TEQ

34.0

19.02

4.78

15.40

11.67

13.57

0.11

PCDD-TEQ

62.48

35.06

8.98

26.44

20.84

25.39

1.25

TEQ合計

97

54

14

42

33

39

1.36

水質

W-1

W-2

W-3

W-4

W-5

W-6

W-7

平均

PCDD-TEQ

0.00

0.00

0.00

0.00

0.00

0.00

0.00

0.00

PCDD-TEQ

0.06

0.07

0.06

0.22

0.07

0.07

0.07

0.09

TEQ合計

0.06

0.07

0.06

0.22

0.07

0.07

0.07

0.09

水質下水

PCDD-TEQ 0.10

PCDF-TEQ 1.47

TEQ合計 1.6

底質下水

PCDD-TEQ 40.8

PCDF-TEQ 71.2

TEQ合計 110

*平均:当該地域の平均 *公害:公害センター

*狭山:狭山常時測定局 *東秩:東秩父常時測定局

*公園:所沢航空公園 *下水:都市下水路(砂川堀)

*底泥:調節池底泥(砂川堀)

《参考》

ダイオキシン類について

1 ダイオキシン類とは

ダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)及びその類似物質であるポリ塩化ジベンゾプラン(PCDF)の総称である。塩素の付く位置、数により理論的には210種類の同族、異性体がある。

2 健康リスク評価指針値とは

「ダイオキシンに係る環境保全対策を講ずるに当たっての目安となる値として」、環境庁の「ダイオキシンリスク評価検討会中間報告(平成8年12月19日)」が示したもので、「人の健康を維持するための許容限度としてではなく、より積極的に維持されることが望ましい水準として、人の暴露量を評価するために用いる値」である。中間報告では、健康評価指針値として 5 pg/kg/day を設定している。

4 用語の解説

pg ピコグラムと呼び、1兆分の1グラムをいう。

TEQ 毒性等量といい、ダイオキシン類のそれぞれの異性体の毒性を2,3,7,8-テトラクロロジベンゾパラジオキシンに換算して表したもの。ダイオキシン類は毒性それぞれ異なるため、もっとも毒性が強い2,3,7,8-テトラクロロジベンゾパラジオキシンを基準にした係数をかけ、その合計濃度を求める。

逆転層 放射冷却により地表に接した空気が冷却されて、上空ほど気温が高くなることがあり、気温の逆転が起こっている層を逆転層という。逆転層が生じると大気の安定度が高まり、汚染物質の拡散も非常に弱くなる。

ウィルコクソンの検定法データが少なく、比較する2群のデータが正規分布でないときに用いられるもので、2群の差があるか否かを検定する方法である。


埼玉県報道発表資料より

 県では、同地域で、ダイオキシン以外の汚染物質調査も行っている。その結果、中富の砂川堀調整池の低質中、鉛740mg/kg乾、カドミウム1.4mg/kg乾、総水銀0.38mg/kg乾、砒素4.4mg/kg乾、セレン1.1mg/kg乾という、水質の環境基準を当てはめれば、驚異的に高い汚染を受けていることが判明した。その後、県はなんら原因調査をすることもなく、対策もないままである。周辺大気では、ベンゼンが3.3〜71.3マイクログラム/G、アスベストが0.42〜0.78本/lという結果だった。