訴 状
平成16年4月27日
さいたま地方裁判所川越支部 御中
原告ら訴訟代理人弁護士 鍜 治 伸 明
同 弁護士 近 藤 宏 一
同 弁護士 小 林 哲 彦
同 弁護士 秋 山 努
同 弁護士 池 永 知 樹
同 弁護士 小 原 千 代
同 弁護士 釜 井 英 法
同 弁護士 佐 竹 俊 之
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
操業差止等請求事件
請 求 の 趣 旨
1 被告クリーンサービス株式会社は,埼玉県狭山市上赤坂字妻恋ヶ原587番1及び587番5において,廃棄物の収集運搬・保管積替及び破砕等の処分を行ってはならない
2 被告らは,原告に対し,連帯して,それぞれ訴状送達の日の翌日から上記1記載の業務の停止に至るまで,当該月末日限り1日金1万円及びこれらに対する当該月の翌月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え
3 被告らは,連帯して,原告に対しを支払え
4 訴訟費用は被告の負担とする
との判決並びに第2項ないし第4項について仮執行の宣言を求める。
請 求 の 原 因
第1 はじめに
本訴訟は,産業廃棄物処理施設に隣接して居住・営業している住民及び法人が,同施設から排出される継続的かつ過度の騒音・振動・粉塵等により,住民の健康及び平穏な生活並びに法人の正常な営業活動が奪われたことを理由に,同施設に対し操業の差止めを,同施設及びその代表者に対して損害の賠償を求める事案である。
周知のとおり,所沢市,狭山市,川越市及び三芳町にまたがって存在する「くぬぎ山」及びその周辺地域には,現在,産業廃棄物処理施設が過度に集中して存在するため,同施設から排出される騒音・振動・粉塵,ダイオキシン及び焼却灰等により「くぬぎ山」の周辺住民の生命・身体の安全は著しく脅かされるとともに,「くぬぎ山」の豊かな自然環境は悪化の一途を辿っている。
そのような中,被告クリーンサービス株式会社(以下「被告クリーンサービス」という。)は,「くぬぎ山」及びその周辺地域における大規模な収集運搬・保管積替業者であるにもかかわらず,その敷地内における大量の産業廃棄物の収集運搬・保管積替行為及び実質的な破砕行為という野放図な営業活動によって,継続的かつ過度の騒音・振動・粉塵等を排出し,原告らを長期間にわたり苦しめてきた。
原告らは,長年にわたる原被告間の交渉及び被告クリーンサービスに対する行政による指導等によっても被告クリーンサービスから排出される継続的かつ過度の騒音・振動・粉塵等による原告らの被害は一向に改善されないことから,これ以上被告クリーンサービスによる身勝手な違法行為を放置していたら自己の生命・身体・財産・営業活動が回復不可能な程度までに破壊されてしまうと考え,今回やむを得ず,その健康及び平穏な生活並びに正常な営業活動を回復するべく,被告クリーンサービスの操業の差止めを含む本訴訟を提起する次第である。
以下において,原告らは,原告の生活状況・営業状況,被告らの属性・営業状況,本訴訟に至る経緯,操業の差止め,不法行為の成立要件等につき順次詳論することにする。
第2 当事者
1 原 告
(1)原告らは、肩書き住所地にて,中学生の長女とともに3人で暮らしている。
(2)原告有限会社は,畜犬の訓練,飼育,繁殖及び売買等を業とする,原告が営む有限会社であり,主に原告の肩書き住所地にて業務を行っている。
原告会社は,社団法人警察犬協会,日本シェパード犬登録協会,ジャパンケネルクラブの公認訓練所に,またNPO法人犬の総合教育社会化推進機構の公認ドッグスクールに認定されている。
そして,代表取締役である原告は,警察犬協会の公認1等訓練士,日本シェパード犬登録協会の公認1級訓練士,ジャパンケネルクラブの公認訓練範士の資格を有し,NPO法人犬の総合教育社会化推進機構の理事及びNPO法人犬の総合教育社会化推進機構のマイスタードッグトレーナーを務めている。
(3)なお,原告の肩書き住所地と,狭山市上赤坂所在の被告クリーンサービスの支店である産業廃棄物処理施設(以下「被告産廃処理施設」という。)との間には,幅わずか約2.9メートルしかない林道が通っているだけであり,両者は実質的には隣地といえる程に異常に近接した位置に存在している。両者の位置関係は,原告の居住家屋の2階の窓から被告産廃処理施設全体が一望できる程に近接している(甲1)。
2 被 告
(1)被告クリーンサービスは,産業廃棄物の収集運搬(保管積替えを含む)業の許可を有し,産業廃棄物処理業を営む株式会社である。被告クリーンサービスは,埼玉県狭山市上赤坂字妻恋ヶ原587番1に支店を有しており,同所及び妻恋ヶ原587番5において産業廃棄物の収集運搬・保管積替等をしている。
(2)被告(以下「被告代表者」という。)は,被告クリーンサービスの代表取締役である。
第3 これまでの経緯
1 原告らが現住所地に来た経緯及び当初の生活状況・営業状況
原告は,原告会社の本店所在地である東京都練馬区にいたころから父の片腕として犬の繁殖や調教の仕事をしてきたが,1984年(昭和59年)12月に,豊かな自然に囲まれた良好な環境のもとで犬の繁殖や調教を行いたいと考え,現住所地を購入して家屋を建築して移り住み,原告会社を経営するようになった。また,原告は,1988年(平成元年)に原告と結婚し,現住所地に暮らすようになった。
原告及び原告は,転居してきた当初は,豊かな自然に囲まれた良好な環境を享受して日常生活を営んでいた。現住所地の周囲は木々に囲まれていたため空気は澄んでおり,夏は涼しく,毎日小鳥の声で目を覚まし,飲み水は井戸水を利用し,日当たりもとてもよく,布団を干せばふかふかになり,洗濯物もよく乾いた。このように,原告及び原告の現住所地には,自然を愛する者にとって理想的な環境が存在した。
また,原告の仕事の面においても,現住所地における犬の飼育環境は想像以上に良好であり,当初は原告会社で預かった犬が病気に罹ることは全くなかった。しかも,多数の一般の愛犬家も現住所地を訪れ,現住所地を評して「まるで軽井沢のようだ。」と言う人もいた。その結果,原告会社は,現住所地に移転した当初のころから,順調に売上を伸ばすことができた。
2 被告クリーンサービスが営業を開始した後の変化
被告クリーンサービスは,1993年(平成5年)9月28日に,埼玉県から収集運搬業・中間処分業の許可を受け,その後直ちに,被告産廃処理施設の所在地において操業を開始した。
その際,当時の被告代表者代表取締役(以下「前被告代表者」という。)は,原告らを訪れ,「重機は音の出ない静かなものを使うので騒音はないし,焼却炉も最新の炉を使って水の中を通すので灰は一切でないから安心してください。」等と説明していた。しかしながら,原告らは,前被告代表者の言辞が信じられなかったため,継続的かつ過度の騒音・振動・粉塵等被害を予測し,約100万円をかけて,洗濯物を干すために,自宅の2階ベランダを囲う形のサンルームを設置した。
実際に被告クリーンサービスの操業が始まってみると,案の定,前被告代表者の説明に反して,被告クリーンサービスは,重機により過度の騒音・振動を原告及び原告の居宅に侵入させるとともに,被告産廃処理施設から焼却灰や粉塵をも同居宅に侵入させた。そこで,原告らが,前被告代表者に問いただすと,前被告代表者は,「ここからの灰ではない。」とか,「施設を建設するのに,林道が間にあるためあなたの所は隣接地ではない。したがって,反対する権限はない。仮に隣接地であったとしても,1メートル程こちらの土地をセットバックして土地を分筆することで隣接地ではなくなる。」等と不誠実なかつ悪意すら感じさせる返答をしてきた。そのため,原告及び原告は,被告クリーンサービス及び前被告代表者の応対に対し憤りを感じた。
また,被告クリーンサービスから排出される焼却灰や粉塵は,風が吹いた際に原告らの自宅の中に侵入してきたため,原告及び原告は,常に自宅の窓を閉めた状態にしておかざるを得なかった。特に施設に近い3部屋は,被告クリーンサービスが操業を開始するまでは居間等として家族で団欒する部屋として主に利用していたが,上記焼却灰や粉塵の侵入に加え,継続的かつ過度の騒音の流入を防止するため,窓に加えて雨戸さえも閉め切ったままにすることを余儀なくされた。もっとも,その3部屋の窓や雨戸を閉め切っても激しい騒音が侵入し,被告クリーンサービスの操業中は室内での夫婦の日常会話も間々ならず,被告裕子においては,日中は「買物」を口実にして家を出ていることが多かった。
しかも,増築したサンルーム内には布団を干すスペースがなく,また外に干せば焼却灰や粉塵が付着するため,原告及び原告は,被告クリーンサービスが本格的に操業してからは布団を干すことができず,衛生的とはいえない状態が続いている。
そのような中で,原告らは,自らの被害を訴えるために,繰返し被告クリーンサービスや狭山市役所及び埼玉県に対して苦情を申し入れたが,被告クリーンサービスの操業状態は一向に改善されなかった。
3 第1回目の更新許可後の操業と原告らの被害
被告クリーンサービスは,1998年(平成10年)9月28日,埼玉県から収集運搬業・中間処分業の更新許可を受けた。その後も原告らは,被告クリーンサービスに対して,直接的にまたは狭山市や埼玉県を通じて間接的に苦情を申し立てたが,その野放図な操業は悪化の一途を辿り,そのため,原告らは耐え難い被害を受け続けた。この点に関する具体的な経緯は,以下のとおりである。
@ 1999年(平成11年)3月10日午前6時
被告クリーンサービスは,保管廃棄物から火災を発生させた。
A 1999年(平成11年)6月15日
原告らは,被告クリーンサービスの騒音・粉塵・日曜操業等につき,埼玉県に苦情を申し立てた。
これに対し,埼玉県は,被告クリーンサービスの現場責任者から事情聴取を行った。前被告代表者は,原告らから直接苦情を受けて,謝罪し,以後気をつけることを約した。
B 1999年(平成11年)6月頃
原告らは,被告クリーンサービスから,新規に計画中の破砕業務等の許可申請に対する同意を求められた。
しかし,原告らは,今まで被ってきた被害やそれに対する被告クリーンサービスの対応に鑑み,当然にこの申入れを拒否した。その結果,被告クリーンサービスは,破砕業務等の許可申請を断念せざるを得なかった。
C 1999年(平成11年)7月12日
原告らは,被告クリーンサービスの粉塵・煤煙につき,埼玉県に苦情を申し立てた。
これに対し,埼玉県は,被告クリーンサービスに対して電話で注意をした。
D 2000年(平成12年)7月8日
「くぬぎ山」周辺地域の住民は,被告クリーンサービスを含む47社の産業廃棄物処理業者を相手方として,公害調停を申請した(申請日1998年12月21日)。原告は,2000年(平成12年)7月8日,上記公害調停の場で,被告クリーンサービスからの騒音・振動・煤煙等に関する被害状況等を陳述した(「重機による振動も激しく,2ヶ月前に余りの酷さに耐え切れなくなり,直接苦情を訴えたが,相手にしてもらえなかった」等。)。
E 2000年(平成12年)7月13日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,焼却灰の飛散流出違反を明確に指摘し,法規を遵守するよう指摘した。
F 2000年(平成12年)7月30日
原告は,被告クリーンサービスの操業による被害に耐えかねて,地域住民に対し,「クリーンサービスの操業について考える会」の結成を呼びかけ,同会が結成された。
その後,原告らは,被告クリーンサービスに対し,操業に関する維持管理記録の閲覧と操業施設の見学を申し入れたところ,2000年(平成12年)9月9日にこれらが実現した。その際,原告らを含む地域住民は,被告クリーンサービスに対し,騒音・振動・粉塵等を継続的かつ過度に発生させ続ける野放図な操業状態につき苦情を訴えたが,被告クリーンサービスは,その後も,一向に操業状態を改善しようとはせず,逆にその酷さは増すばかりであった。
G 2000年(平成12年)9月1日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,焼却灰の飛散流出違反を明確に指摘し,後日法規を遵守するよう指摘した。
H 2000年(平成12年)9月19日
原告らは,埼玉県に対し,被告クリーンサービスの焼却停止を求める要望書を提出し,その中で騒音・振動に関する苦情を申し立てた。
これに対し,埼玉県は,2000年(平成12年)9月25日,被告クリーンサービスに対し,焼却につき改善勧告を出した。
その後,原告らは,2000年(平成12年)10月18日,埼玉県に対し,被告クリーンサービスに対する改善勧告後の状況説明を求めるとともに,騒音・振動等に関する苦情を改めて申し立てた。
これに対し,埼玉県は,騒音については狭山市の調査結果を待ってから検討する旨の回答をした。
I 2000年(平成12年)9月22日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,焼却灰の飛散流出違反を明確に指摘し,法規を遵守するよう指摘した。
J 2000年(平成12年)11月12日,同月18日及び翌年1月20日
原告らは,3回にわたって,被告クリーンサービスの操業に関する維持管理記録の閲覧と操業施設の見学を行った。
K 2000年(平成12年)11月21日
原告らは,狭山市長に対し,被告クリーンサービスの焼却・騒音・振動・粉塵等に関する苦情を申し立てた。
L 2000年(平成12年)11月22日
原告らは,埼玉県廃棄物指導課に対し,被告クリーンサービスの焼却停止を求める住民署名を提出し,その中で騒音・振動・粉塵等に関する苦情を申し立て,2001年(平成13年)1月29日には,同課に対し,被告クリーンサービスに関する苦情を再度申し立てた。
M 2000年(平成12年)11月29日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,廃棄物の保管について,許可内容,保管基準等を遵守するよう指摘した。
N 2000年(平成12年)12月29日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,黒煙に関する処理基準違反を明確に指摘し,法規を遵守するよう指摘した。
O 2001年(平成13年)1月19日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,保管基準違反を明確に指摘し,法規を遵守するよう指摘した。
P 2001年(平成13年)1月30日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,保管基準違反を明確に指摘し,法規を遵守するよう指摘した。
Q 2001年(平成13年)2月上旬
原告らは,東京農工大学の久野教授に対し,被告クリーンサービス周辺の降下粉塵調査を依頼した。
R 2001年(平成13年)2月5日
狭山市が,午前10時に原告ら宅直近の被告クリーンサービスの敷地境界にて被告クリーンサービスから排出される騒音を測定したところ,環境基準を超える58デシベルもの値が検出され,また,午前10時15分に被告クリーンサービス南側敷地境界にて被告クリーンサービスから排出される騒音を測定したところ,環境基準を大幅に超える65デシベルもの値が検出された。
S 2001年(平成13年)2月15日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,保管基準違反を明確に指摘し,法規を遵守するよう指摘した。
○21 2001年(平成13年)2月27日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,保管基準違反を明確に指摘し,法規を遵守するよう指摘した。
○22 2001年(平成13年)3月15日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,保管基準違反を明確に指摘し,法規を遵守するよう指摘した。
○23 2001年(平成13年)3月18日
原告らの求めに応じる形で,被告クリーンサービスの操業に関する業者説明会が開かれた。参加者は,被告クリーンサービスの社長,同工場長,埼玉県の担当者,狭山市の担当者であった。その中で,原告らは,参加者に対し,被告クリーンサービスが排出する騒音・振動・粉塵等の被害を強く訴えたが,これらを是正する効果的な対策は何ひとつとして提案されなかった。その後,埼玉県は,2001年(平成13年)4月3日及び19日,被告クリーンサービスに対して,廃プラスチックの保管量を適正な水準まで減らすように指摘するのみで,抜本的な対策は何ら示されなかった。
○24 2001年(平成13年)5月15日
原告らは,被告クリーンサービスの対応に業を煮やしたため,自宅近辺で騒音測定を行った。その結果,被告クリーンサービスからの騒音は,最大で70デシベルと環境基準値を大幅に上回るものであるという事実が判明した。
また,原告らの要望に応じて,狭山市が,同年6月7日午前10時5分に原告ら宅直近の被告クリーンサービスの敷地境界にて被告クリーンサービスから排出される騒音を測定したところ,環境基準を大幅に超える62デシベルもの値が検出された。
そのため,原告らは,2001年(平成13年)7月13日,さいたま地方裁判所川越支部に対し,被告クリーンサービスの焼却の停止を求める仮処分を申請した(債権者らは,申立書の中で,騒音・粉塵等による被害も訴えていた。)。なお,原告は,2001年(平成13年)8月に審尋のために裁判所に出頭している。
その後,被告クリーンサービスは,2001年(平成13年)8月31日,焼却炉を廃止して焼却を停止するとともに,産業廃棄物処分業の廃止届を提出した。その結果,被告クリーンサービスは,収集運搬・保管積替のみを業務として行うことになった。
なお,同仮処分については,焼却停止という目的が一応達成されたので,債権者らが取り下げた。
4 焼却の停止とその後の原告らの被害の継続
2001年(平成13年)8月31日,被告クリーンサービスが焼却を停止したため,原告及び原告は,これ以上騒音等による被害を受けないものと思い安心した。しかしながら,被告クリーンサービスは,収集運搬の操業開始とともに重機の数を増やしており,原告らの継続的かつ過度の騒音・振動・粉塵等による被害は,後に掲げるように,現在に至るまで,減少するどころか,逆に甚大になってきている。またその間,被告クリーンサービスは,法規を無視した操業を続けるなど悪質な操業を繰り返していた。
@ 2001年(平成13年)12月29日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,保管基準違反を明確に指摘し,法規を遵守するよう指摘した。
A 2001年(平成13年)12月30日
前日に保管基準違反を指摘された被告クリーンサービスの保管廃棄物から火災が発生してしまった。この火災は,20台余の消防自動車をもってしても,鎮火までに約5時間を要する大規模なものであり,かつ夜間に発生したものであったため,原告及び原告は,生命や財産の危険を感じる程であった。そして,原告,原告及び原告両名の長女は,現在でも火災のトラウマに悩ませられ続けており,この点でも平穏な生活が脅かされている。
B 2002年(平成14年)1月9日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,保管基準違反を明確に指摘し,「保管場所以外の場所に保管していた廃棄物が火災で燃え,しかも,現在も保管基準超過という状況では如何ともし難い。」と,法規を遵守するよう厳しく指摘した。
C 2002年(平成14年)1月30日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,保管基準違反を明確に指摘し,法規を遵守するよう指摘した。
D 2002年(平成14年)2月6日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,保管基準違反を明確に指摘し,法規を遵守するよう指摘した。
E 2002年(平成14年)2月13日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,保管基準違反を明確に指摘し,法規を遵守するよう指摘した。
F 2002年(平成14年)2月
原告らは,埼玉県に対し,被告クリーンサービスの火災や騒音等に関する苦情を申し立てた。ところが,被告クリーンサービスは,自らが行ってきた多くの違法行為を認識しながらも,これらにつき改善しようとする意思を全く示さず,原告らや埼玉県の要請を無視し続けた。
G 2002年(平成14年)2月26日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対し,事情聴取を行い,3月8日を目途に改善計画書を提出するように要請した。その際に,埼玉県から,被告代表者を含む出席者に対し,重機の騒音及び振動対策が示された。被告クリーンサービスは,昨年5月15日に原告らで,また同年6月7日には狭山市が騒音を測定したところ基準値を大幅に超えていたにもかかわらず,「従前から低騒音型の機種を導入してきている。」などと回答しており,被告クリーンサービスの環境保全に対する意識が如何に低いかが分かる。
ところが,被告クリーンサービスは,提出期限までに埼玉県に対して改善計画書を提出せず,かえって逆に埼玉県から,2002年(平成14年)4月5日及び同年4月25日の2回にわたって,保管基準違反を明確に指摘され,法規を遵守するよう指摘を受けた。
その後,被告クリーンサービスは,埼玉県に対し,2002年(平成14年)5月21日,遅ればせながら改善計画書を提出した。これを受けて,埼玉県は,原告らに対し,2002年(平成14年)6月5日,被告クリーンサービスが提出した改善計画書につき説明を行った。この改善計画案には,一応騒音・粉塵対策なるものが含まれてはいたが,その後も,被告クリーンサービスの操業状態は一向に改まらず,逆に継続的かつ従前以上に過度の騒音・振動・粉塵等を発生させるものであった。そのため,原告らは,引き続き自己の生命・身体・財産・営業活動に対する被害を蒙ることを余儀なくされた。
H 2003年(平成15年)1月22日
埼玉県は,被告クリーンサービスに対して,再度保管基準違反を明確に指摘し,法規を遵守するよう指摘した。原告らは,相変わらず被告クリーンサービスの遵法精神が欠如していることに憤慨しながらも,このまま手を拱いていたら取り返しのつかない被害を受けてしまうという危機感を持つようになった。
5 第2回目の更新許可後の操業と原告らの提訴の決意
(1)埼玉県は,被告クリーンサービスの操業状態が以上のようなものであり,その遵法意識の欠如についても十分了解していたにもかかわらず,2003年(平成15年)9月28日,被告クリーンサービスに対して,収集運搬業の更新を許可してしまった。
案の定,被告クリーンサービスの違法な操業実態は従前と全く変わるところがなかった。むしろ,原告及び原告は,被告クリーンサービスが発生させる騒音・振動・粉塵等による被害の程度につき,従前よりも深刻になったと感じていた。
(2)そのような中で,原告らは,2003年(平成15年)11月8日及び12日,被告クリーンサービス周辺の騒音を測定した。その結果,被告クリーンサービス周辺の騒音は環境基準を超えていることが判明した。また,狭山市も,原告らの要請に応える形で,2003年(平成15年)12月4日,被告クリーンサービス周辺の騒音を測定したところ,被告クリーンサービス周辺の騒音は環境基準を超えているという調査結果が得られた。ところが,被告クリーンサービスは,2003年(平成15年)12月19日,原告らからこれらの調査結果を示されても,全く対応を採ろうとはしなかった。
(3)以上のように,原告らは,何度となく被告クリーンサービスに対し,直接にまたは狭山市や埼玉県を通して苦情を申し立て,操業の改善を求めてきた。
しかしながら,原告らの被害がまったく改善されないどころか酷くなっており,原告らは,その実態,また被告クリーンサービスの規範意識の欠如及び周辺住民の生活や営業を思いやる気持ちの欠如等からすれば,これ以上被告クリーンサービスによる身勝手な違法行為を放置していたら,自己の生命・身体・財産・営業活動が回復不能な程度までに破壊されてしまうと考え,今回やむを得ず,健康及び平穏な生活並びに正常な営業活動を回復するべく,被告クリーンサービスの操業の差止めを含む本訴訟を提起する決意をしたのである。
第4 被告クリーンサービスの操業差止請求
1 総 論
原告及び原告は,被告クリーンサービスが排出する違法な騒音・振動・粉塵等により,後記のような甚大な損害を長年にわたり被っている。そして,これらの損害は,金銭賠償のみによって回復しうるものではなく,被告クリーンサービスによる違法な操業が差し止められることによってこそ回復されるものである。
そこで,原告及び原告は,被告クリーンサービスによる違法な操業の差止を求めるものである。
2 法的根拠(人格権)
(1)本件訴訟は,原告及び原告の身体権的人格権ないし平穏生活権的人格権を法的根拠として,被告クリーンサービスの操業差止めを求めるものである。
以下,これまでの裁判例をもとに,人格権の法的性格と上記差止請求権の根拠及び内容について述べる。
(2)人格権の内容と法的根拠
人格権とは,「各人の人格に本質的なものである」「個人の生命,身体,精神及び生活に関する利益の総体」を言い,「このような人格権は何人もみだりにこれを侵害することは許されず,その侵害に対してはこれを排除する権能が認められなければならない」(大阪国際空港事件控訴審判決)とされており,多くの裁判例で認められている。
その内容は,騒音・振動などの生活妨害の差止に関する人格権,「みだりに容貌等を撮影されない権利」としての人格権,名誉・プライバシー保護に関する人格権,生命身体の安全保護の根拠としての「身体権的人格権」など多様である。廃棄物最終処分場や廃棄物焼却施設の差止に関して人格権を根拠にこれを認める裁判は,後述のように近時多くの例がある。
人格権は,多数の判例により,現在ではこれを物権的権利として認めることにほとんど異論はない。
また,その実定法上の根拠としては,民法709条,710条,憲法13条,25条が挙げられる。
(3)身体的人格権と平穏生活権的人格権
身体権的人格権に関しては,これを根拠として身体の安全の保護のために,騒音・排ガス等の排出の差止を認め,あるいは,飲料水が汚染される危険からの回避及びその原因の除去(そのための廃棄物処理施設等の操業禁止)を認める多数の判例がある。
また,身体傷害にまでは至らない生活妨害に対応する平穏安全な生活を営む権利(平穏生活権)としての人格権(以下,「平穏生活権的人格権」という。)に基づく差止を認める裁判例もある。
以下,具体例を述べつつ,本件訴訟において主張する人格権について述べる。
@ 横田基地夜間飛行禁止等請求事件に関する判決(東京高判昭和62年7月15日・判例タイムス641号232ページ)
「民法709条はすべての権利は侵害から保護されるべきことを規定し,同法710条は右権利の中には財産権のみでなく,人の身体,自由及び名誉が含まれていることを規定している。右の規定によって人格権としての身体権,自由権及び名誉権が認められたものと解すべきであるが,これらは人格権の例示とみるべきである。なんとなれば,人格は人の生活のすべての面において法律上の保護を受けるべきものであるから,生活のそれぞれの局面においてそれに相応するそれぞれの権利が認められるべきであるからである。」
判旨は上記のように,人格権の幅広い内容とその法的根拠を述べ,さらに次のように「平穏生活権的人格権」についても述べている。
「人は,人格権の一種として,平穏安全な生活を営む権利(以下,仮に平穏生活権又は単に生活権と呼ぶ。)を有しているというべきであって,騒音,振動,排気ガスなどは右の生活権に対する民法709条所定の侵害であり,これによって生ずる生活妨害(この中には不快感等の精神的苦痛,睡眠妨害及びその他の生活妨害が含まれる。)は同条所定の妨害というべきである(右の生活権は,身体権ないし自由権を広義に解すれば,それらに含まれているともいえるが,それらとは区別して右に述べたような意味で使うこととする。これは被害の態様からみると身体傷害にまでは至らない程度の右のような被害に対応する権利である。)」
「平穏生活権」という概念によって,ただちには身体傷害に至らない程度の生活妨害をも含めて人格権の中に取り込むというのは,被害の未然予防の重要性を意識してのことと思われるが,先進的で優れた概念設定として評価できる。
A 安定型廃棄物最終処分場の操業禁止を認めた仙台地裁の決定(仙台丸森町事件,仙台地判平成4年2月28日・判例時報1429号109ページ)
「人は,生存していくのに飲用水の確保が不可欠であり,かつ,確保した水が健康を損なうようなものであれば,これも生命或いは身体の完全を害するから,人格権としての身体権の一環として,質量共に生存・健康を損なうことのない水を確保する権利があると解される。また,洗濯・風呂その他多くの場面で必要とされる生活用水に当てるべき適切な質量の水を確保できない場合や,客観的には飲用・生活用水に適した質である水を確保できたとしても,それが一般通常人の感覚に照らして飲用・生活用に供するのを適当としない場合には,不快感等の精神的苦痛を味わうだけではなく,平穏な生活をも営むことができなくなるというべきである。したがって,人格権の一種としての平穏生活権の一環として,適切な質量の生活用水・一般通常人の感覚に照らして飲用・生活用に供するのを適当とする水を確保する権利があると解される。そして,これらの権利が将来侵害されるべき事態におかれた者,すなわちそのような侵害が生ずる高度の蓋然性のある事態におかれた者は,侵害行為に及ぶ相手方に対して,将来生ずべき侵害行為を予防するため事前に侵害行為の差止めを請求する権利を有するものと解される。」
上記「平穏生活権的人格権」の概念を飲料水汚染の場合に応用して,廃棄物処分場の建設差止を認め,その内容を敷衍したものとして評価できる。
B 道路公害に関する尼崎訴訟の判決(神戸地判平成12年1月31日判例時報1726号20ページ)
「身体権は,自然人が生れながらにして有している最も基本的な権利であり,あらゆる他人に対してその不可侵を主張できるという意味で,物権と同様にいわゆる絶対権に属する権利であるから,物権侵害に対応して物権的請求権が発生するのと同様に,身体権を侵害する他人に対しては,(当該他人の故意や過失を問題にするまでもなく)侵害の排除を求める趣旨の人格的請求権が発生することになる。」
上記判示は,人格権に基づく物権的効力,すなわち,妨害排除請求権を認めたものである。したがって,侵害する他人の故意過失を問題にする必要はないわけである。
C 静岡地裁浜松支部決昭和62年10月9日判例時報1254号45ページ,大阪高判平成5年3月25日判例タイムス827号195ページ
上記はいずれも建物の暴力団事務所としての使用を近隣住民の人格権の侵害として,その使用の差止を認めたものである。
Bの判例が,侵害が現実化した後の「妨害排除」を認めたのに対してその「絶対権」としての物権的性格に着目するならば,その侵害が蓋然性の程度に止まる場合にあっても,当然その「妨害予防」が認められることになるし,また,侵害の現実化する前後を問わず,その侵害の予防又は妨害の排除のためにその「原因の除去の請求」が認められなければならないということになろう。
上記静岡地裁浜松支部の決定は,上記に関し次のように判示する。
「何人にも生命,身体,財産等を侵されることなく平穏な日常生活を営む自由ないし権利があり,この権利等は,人間の尊厳を守るための基本的,かつ,重要不可欠な保護法益であって,物権の場合と同様に排他性を有する固有の権利というべきであるから,(中略)人格権に基づいて,現に行なわれている侵害を排除し,又は将来の侵害を予防するため,その行為の差止,又はその原因の除去を請求することができる。」
ここでは,「侵害の予防」のための「差止請求権」及び「原因の除去を請求する権利」が認められていることに注目すべきである。
(4)なお,廃棄物処理施設の建設又は操業の差止を近隣住民の人格権に基づいて認めた判例は既に相当の数に達している。
例えば,大津地判昭和37年9月10日(下級民集13巻9号1812ページ),広島地判昭和46年5月20日(判例時報631号24ページ),広島高判昭和48年2月14日(判例時報693号27ページ),熊本地判昭和50年2月27日(判例時報772号22ページ),徳島地判昭和52年10月7日(判例時報864号38ページ),松山地裁宇和島支部判昭和54年3月22日(判例時報919号3ページ),名古屋地決昭和54年3月27日(判例時報943号80ページ),広島地判昭和57年3月31日(判例時報1040号26ページ),名古屋地判昭和59年4月6日(判例時報1115号27ページ),仙台地決平成4年2月28日(判例時報1429号109ページ),那覇地裁沖縄支部平成6年11月11日(判例集未登載),熊本地決平成7年10月31日(判例時報1569号101ページ),甲府地決平成10年2月25日(判例時報1637号94ページ),仙台地決平成10年7月24日(判例集未登載),津地裁上野支部決平成11年2月24日(判例時報1706号99ページ),水戸地決平成11年3月15日(判例時報1686号86ページ),長野地裁松本支部決平成12年1月26日(判例集未登載),鹿児島地決平成12年3月31日(判例集未登載),長野地裁伊那支部平成13年3月30日(判例集未登載)などがある。
(5)本訴訟では,上記の実定法及び蓄積された裁判例を根拠として,原告及び原告の身体的人格権ないし平穏生活権的人格権に基づき,被告クリーンサービスの操業差止を求めるものである。
3 原告及び原告の身体権的人格権ないし平穏生活権的人格権が,被告クリーンサービスの排出する騒音・振動・粉塵等により妨げられていること及びそのおそれのあること
原告らは,原告らの身体権的人格権ないし平穏生活権的人格権が侵害されている事実を示すため,以下の事項につき,順に詳述する。
(1)公法上の規制基準を大幅に超える騒音の排出
(2)騒音・振動・粉塵等の内容・程度
(3)騒音・振動・粉塵等の排出は,違法行為を原因としており,極めて悪質であること
(4)被告クリーンサービスの騒音等の排出行為には,害意が認められること
(5)原告らが差止めを必要としている深刻な被害
(6)被害防止のために加害者が努力した形跡がないこと
(7)被告クリーンサービスが,原告よりも9年も後から被告産廃処理施設を構えたこと(原告らの先住性)
(8)被害場所の地域性
(9)被告クリーンサービスの操業には公共性がないこと
(1)公法上の規制基準を大幅に超える騒音の排出
被告クリーンサービスが排出している騒音を原告らの居住地・営業地内において測定すると,埼玉県生活環境保全条例(平成13年埼玉県条例第57号)による規制基準を大幅に上回る数値が確認されている。
すなわち,埼玉県生活環境保全条例によれば,市街化調整区域である原告らの居住地における騒音の規制基準は以下のとおりである。
午前6時から午前8時まで 50デシベル
午前8時から午後7時まで 55デシベル
午後7時から午後10時まで 50デシベル
午後10時から午前6時まで 45デシベル
ところが,平成13年2月5日午前10時に,狭山市が,原告ら宅直近の被告クリーンサービスの敷地境界にて被告クリーンサービスから排出される騒音を測定したところ,環境基準を超える58デシベルもの値が検出され,また,午前10時15分に被告クリーンサービス南側敷地境界にて被告クリーンサービスから排出される騒音を測定したところ,環境基準を大幅に超える65デシベルもの値が検出された。
また,同年5月15日に,原告らを含む住民が,環境計量士立会いのもと,原告らの肩書き住所地において被告クリーンサービスから排出される騒音を測定したところ,環境基準値である55デシベルを大幅に超える57.9デシベルから70デシベルもの高い値が常に検出された。
また,同年6月7日午前10時5分に,狭山市が,原告ら宅直近の被告クリーンサービスの敷地境界にて被告クリーンサービスから排出される騒音を測定したところ,環境基準を大幅に超える62デシベルもの値が検出された。
また,同15年11月8日に,原告らを含む住民が同様の測定を行なった際にも,原告らの自宅1階においては57.1デシベルから60.2デシベル,自宅2階においては58デシベルから62.9デシベルという,環境基準値を大幅に超える高い値が常に検出された。
同様に,同月12日に,原告らを含む住民が同様の測定を行なった際にも,原告らの自宅1階においては57.4デシベルから60.3デシベル,自宅2階においては59.2デシベルから63.6デシベルという,環境基準を大幅に超える高い値が常に検出された。
さらに,同年12月4日に,狭山市が同様の調査を行った際にも,61デシベルから66デシベルという,常に環境基準値である55デシベルを大幅に超える高い値が検出された。
加えて,同16年4月10日に,原告らを含む住民が,環境計量士立会いのもと,原告らの自宅2階において被告クリーンサービスから排出される騒音を測定したところ,常に61デシベルから68デシベルという環境基準値を大幅に超える高い値が検出された。
なお,原告らは,これらの測定をした後には常に被告クリーンサービスに苦情を申し立てているが,状況はまったく変わっていないことは,上述したとおりである。
以上のとおり,被告クリーンサービスから排出される騒音は,公法上の規制基準を大幅に超えるものであり,直ちに被告クリーンサービスの操業の差止めが認められるべきである。
(2)騒音・振動・粉塵等の内容・程度
ア 騒音・振動・粉塵等
(ア)騒音の種類・性質
原告らに届く騒音は,被告クリーンサービスが,@ユンボやブルドーザーなどの計8台のエンジンから出る恒常的なブーという重低音,Aユンボなどの重機により廃棄物をつぶすときに出るガシャンガシャン・ドンドンというクラッシュ音,B重機により持ち上げたコンクリートの塊を地面に落としたときに出るドスンという音,C重機によりアルミの束を挟んだり,それをトラックに入れたりするときにでるガシャガシャという擦過音,Dダンプトラックの蓋が勢いよく閉まる時に出るバターンという音,Eトラックの荷台からコンテナが引きずりおろされるゴトーンという音,F重機が廃棄物を混ぜて寄せ返すゴゴゴゴゴーという音,Gトラックがバックするときに出るピーピーという音,Hトラックなどのクラクションのピッピッという音など,さまざまである。
これらの音は,エンジン音のように恒常的に発せられる音のほか,ダンプの蓋が閉まる音やクラッシュ音のように突然発せられる音もある。
(イ)振動の種類・性質
原告らに届く振動は,被告クリーンサービスが,@ユンボやブルドーザーなどの計8台の重機から出る恒常的な振動,Aユンボなどの重機により廃棄物をつぶすときに出る振動,B重機により持ち上げたコンクリートの塊を地面に落としたときに出る振動,C重機により廃棄物を持ち上げて左右に振ったときに出る振動,Dダンプトラックの蓋が勢いよく閉まるときに出る振動,Eトラックの荷台からコンテナが引きずりおろされるときに出る振動,F重機が廃棄物を混ぜて寄せ返すときに出る振動など,さまざまである。
これらの振動も,重機から出る恒常的な振動のほか,重機により廃棄物を持ち上げて左右に振ったときに出る突発的な振動もある。
(ウ)粉塵の種類・性質
原告らに届く粉塵は,被告クリーンサービスが搬入したがれき類,木くず,廃プラスチック,金属くず,建築廃材などのあらゆる種類の産業廃棄物を保管積替行為・実質的な破砕行為をする全工程において発生しているものである。
これらの粉塵は,操業時間中常に発生し,風に乗って原告らの居宅にまで降り注いでおり,特に南風(被告産廃処理施設から原告らの居宅に向かう風)の吹く夏場は,原告らが外に出ると短時間にもかかわらず服が白っぽくなってしまうほどである。
(エ)低周波音
原告らの居宅に届く低周波音は,重機のエンジンから排出されるもの等であり,この影響により,原告らの居宅の水槽の水面は,常に揺れている。
イ 被告クリーンサービスの操業時間帯
被告クリーンサービスの被告産廃施設での操業時間帯は,概ね午前7時ころに始まり,午後6時半から7時ころまでである。
特に,その中でも,午後4時半ころから操業終了時間までは,被告クリーンサービスの敷地内にある8台の重機(ユンボ5台,フォークリフト2台,ブルドーザー1台)のすべてを使って作業することから,一番騒音・振動・粉塵等の程度が激しくなる。
ウ 被告クリーンサービスの操業期間
この騒音は,少なくとも月曜日から土曜日まで週6日間も続いている。また,時には日曜日でさえも,被告クリーンサービスでは,ダンプにより廃棄物を搬入させたり,重機を稼動させたりしている。
(3)騒音・振動・粉塵等の排出は,違法行為を原因としており,極めて悪質であること
既に述べたとおり,被告クリーンサービスは,長期間にわたって継続的に過度の騒音・振動・粉塵等を排出している。しかも,被告クリーンサービスによる騒音等の排出行為は,継続的かつ恒常的な,保管基準違反の大量の産業廃棄物の保管積替行為及び違法な実質的破砕行為に起因するものである。すなわち,被告クリーンサービスは処分業の許可を得ていないにもかかわらず,保管積替場において破砕行為を行っており,この違法行為によって,さらに騒音・振動・粉塵等が発生し,原告らの被害を増大させているのである。
本来,廃棄物保管場の業務は,搬入された廃棄物を分別・一時保管し,分別した廃棄物毎に,その処理に適した中間処理施設もしくは最終処分施設へ搬出することである。
しかし,被告産廃処理施設内においては,運搬する時の嵩を減らすため,廃棄物を破砕し,容量を少なくする,という作業がメインに行なわれているのである。
具体的には,被告産廃処理施設内に搬入された廃棄物は,場内の受け入れスペースで荷下ろしされ,ユンボと人手により,粗分別を受け,木屑や金属屑等が数個のコンテナに分けられる。残された混合物は,ブルドーザーによってならされ,ゴミ山へ寄せられる。その後,被告クリーンサービスは,その混合物をユンボで掴んだり,叩いたり,コンテナへ入れる際に繰り返し押し付けたりすることにより,混合物に衝撃を与え,粗破砕する。さらに,積み上げられた廃棄物は,ユンボの重みで圧縮され,押しつぶされていく。
具体的には,以下の破砕行為が見られる。
・ユンボ破砕
・ユンボの掴みで廃棄物を掴み,破砕する行為
・ユンボで繰り返し叩き,衝撃を与え,破砕する行為
・ユンボで押しつぶすことによって,破砕する行為
・ブルドーザーによる破砕
・ブルドーザーでかき混ぜ,ならし,押しつぶし,破砕する行為
このように,継続的かつ過度の騒音・振動・粉塵等の排出行為は保管基準違反及び実質的な破砕行為という違法行為に起因しており,それにより原告らに甚大な被害をもたらしているのである。
(4)被告クリーンサービスの騒音等の排出行為には,害意が認められること
ア 騒音等による被害が起こることの認識が当初からあったこと
前述のように,原告らの肩書き住所地と,狭山市上赤坂所在の被告被告産廃処理施設との間には,幅わずか約2.9メートルしかない林道が通っているだけであり,両者は実質的には隣地といえる異常に近接した位置に存在している。そして,このことは,現地を訪れれば誰もが気づく異常な状況であるし,被告クリーンサービスも,操業を開始するにあたり原告らの自宅を訪れて操業開始の報告をしていることからも,操業開始前から,わずか2.9メートルしかない林道を挟んで原告らの住宅があることは十分に認識していた。
加えて,被告クリーンサービスは,騒音の出る重機等を使用する産業廃棄物処理業者であるのであるから,自らの操業により,実質的な隣地に騒音等により被害が及ぶことを当初から認識していた。
イ 苦情を何度となく申し入れてきたこと
原告らは,被告クリーンサービスが操業を始めた当初から,騒音・振動・粉塵等を始めとする被害に苦しんでおり,事実上現場責任者に対して口頭で,被告クリーンサービスの本店に電話で,何度となく苦情を申し入れてきている。
また,狭山市や埼玉県に対しても,これまでの経緯で明らかにしたとおり,被告クリーンサービスに対して苦情を申し立てたり違反行為につき通報したりしており,市や県からも被告クリーンサービスに対して注意などがなされている。特に,原告らで騒音を測定したり,狭山市で騒音を測定したりして,公法上の規制基準値以上の騒音が排出されていることが明らかになった2003年(平成15年)12月19日などは,狭山市がその書面をもっていき,被告クリーンサービスに直接口頭で注意などをしている。
にもかかわらず,被告クリーンサービスによる騒音・振動・粉塵等の排出行為は,収束に向かうどころか,逆に酷くなっているとさえ感じられる。このように,被告クリーンサービスは,環境対策についての低い認識のまま,他人の被害に思いを致すことなく,被害原因を究明することすらなかったことからすれば,被告クリーンサービスの違法な騒音排出行為は,確信犯的に行われていると評価でき,害意が認められる。
ウ 悪意に満ちた言辞
(ア)前述のように,被告クリーンサービスの操業当初に,原告らが苦情を申し立てた際,前被告代表者は,「ここからの灰ではない。」とか,「施設を建設するのに,1メートルの林道が間にあるため,あなたの所は隣接地ではないから反対する権限はない。仮に隣接地であったとしても,1メートル程こちらの土地をセットバックして土地を分筆することで隣接地ではなくなる。」等と不誠実なかつ悪意すら感じさせる返答してきた。
(イ)原告らは,1999年(平成11年)6月ころ,被告クリーンサービスに対し,騒音・粉塵が酷いので防音壁を高くして欲しいと申し出た。
それに対して,被告クリーンサービスは,自らが騒音・振動を排出していることを認識しながら,それを取引の材料として,「クリーンサービスが新規に計画している破砕の業の許可に同意すれば,防音壁を高くする。」などと,原告らに対して今までの被害考えれば到底受け入れることのできない不誠実な,嫌がらせとも受け取れる申し入れをしてきた。
原告らとしては,現在の被害を少しでも軽減するためには防音壁を高くしてもらいたいと考えていたが,原告らが今まで被ってきた損害や被告クリーンサービスの対応に鑑み,当然にこの申入れを拒否した。
原告らとしては,その後も,被告クリーンサービスに対し,原告らが破砕の許可に同意することと,現在の騒音等の被害を軽減するために防音壁を高くすることはまったく別のことであるから,対応をとってもらいたいと申し入れてきたが,現在に至るまで,防音壁は高くなっていない。
エ 遵法精神・規範意識の欠如
被告クリーンサービスは,上述のように,この3年半の間に,埼玉県から産業廃棄物処理法違反を指摘されたことが計18回もあり,産業廃棄物処理業者でありながら,同法を遵守する意識が欠如している。
また,狭山市が2001年(平成13年)2月5日に騒音を測定し,公法上の基準値を上回っていることが明らかになった後,2003年(平成15年)12月4日に狭山市が騒音を測定してもなお公法上の基準値を超えている状態であり,このことは規範意識が欠如していることの証左である。
さらに,被告クリーンサービスは,2002年(平成14年)5月21日,埼玉県に対し,騒音対策を含んだ改善命令計画書を提出しているにもかかわらず,同計画書に記載された騒音対策を全く実施していないのであり,同社の主観的態様は悪質極まりない。
このような遵法精神・規範意識の欠如からすれば,被告クリーンサービスの違法な騒音排出行為は,確信犯的に行われていると評価でき,害意が認められる。
(5)原告らが差止めを必要としている深刻な被害
ア 現時点における健康被害
(ア)騒音・振動
A 騒音環境が自律神経・内分泌系に及ぼす影響について,現代労働衛生ハンドブック(編集代表三浦豊彦。1988年12月1日(財)労働科学研究所出版部出版)に以下のような医学的報告がある。
「騒音レベルが50〜70dB以上になると,主として交感神経の緊張に由来すると考えられる抹消血管の収縮,瞳孔の散大,血圧の上昇,胃の収縮回数,収縮の強さの減少,皮膚の電気抵抗の減少,筋電位の上昇などが報告されてきた。・・・内分泌系への影響としては,副腎皮質刺激ホルモン(ATCH)の分泌とそれに起因する副腎皮質ホルモンの分泌の増加が,55dB程度からおこってくる。・・・ このような反応はストレス反応として一般に良く知られている。・・・EPA(アメリカ環境保護庁)は,騒音暴露による心臓・血管系の可能性のある障害として,模式図(騒音が自律神経系を刺激し,血圧の上昇,ストレス反応(アドレナリン等の上昇等)を導き,心臓の酸素要求量を増加させるとともに,血小板の粘着性の増加,動脈壁の損傷を起こさせる。その結果,冠状動脈を閉鎖させたりして心虚血の状態を招来させ,心筋梗塞ないし急性心疾患を発病させるという内容の模式図)を示している。」
また,振動に関しても,騒音と同様の健康被害が考えられる。
B 原告及び原告は,被告クリーンサービスの排出する騒音・振動により,自宅に居ると,しばしば頭が痛くなったり,重くなったりするという被害を受けている。
また,原告は,皮膚炎を起こしやすくなっているし,原告の鼻が常に赤いのは,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌とそれに起因する副腎皮質ホルモンの分泌のバランスが悪いためである。
(イ)粉 塵
A 廃棄物の破砕,選別,堆積保管に伴い,大量の廃棄物に起因する粉塵が発生し飛散する。粉塵は,目視で確認できるある程度粒子の大きい粉塵と,微細な粒度で,目視では確認できない微細な粉塵が発生する。後者は浮遊粒子状物質(SPM)とよばれ,大気中に浮遊し,肺の奥まで吸収され,塵肺,気管支炎,肺水腫,喘息など様々な疾患の原因となることが知られている。また,廃棄物から発生する粉塵には,廃棄物中に含まれる鉛,ヒ素,カドミウム,クロム等有害重金属類等様々な有害物質が含まれる可能性があり,それらによる健康被害も懸念される。
B 被告産廃処理施設からは,被告クリーンサービスが行なうユンボにより廃棄物をかき混ぜたり寄せたりする保管積替行為及び違法な破砕行為,堆積保管等すべての行為によって,大量の粉塵が発生し,その大量の粉塵は,原告らの居宅に侵入している。
そして,原告らは,この大量の粉塵により,息が苦しくなったり,咳き込んだりするなどの健康被害を受けている。
また,原告は,被告クリーンサービスの操業開始以来,気管支炎及び喘息に罹患し,病院に通い続けている。
(ウ)低周波音
A 低周波音の影響として,@生理的被害として頭痛,吐き気,めまい,耳鳴り等自律神経系や前庭系の失調が挙げられる(時田保夫「超低周波音の測定器,音響技術」1975年)。
B 原告らは,被告クリーンサービスの排出する低周波音の影響により,頭痛がするとの健康被害を受けている。
イ 将来の健康被害の蓋然性
(ア)騒音・振動
被告クリーンサービスの騒音レベルは,60デシベル以上であるから,原告及び原告は,現代労働衛生ハンドブックに示されるその他の自律神経・内分泌系の障害にも罹患する蓋然性がある。
(イ)粉 塵
前述のように,被告産廃処理施設からは,被告クリーンサービスが行なうユンボにより廃棄物をかき混ぜたり寄せたりする保管積替行為及び違法な破砕行為,堆積保管等すべての行為によって,大量の粉塵が発生し,その大量の粉塵は,原告らの居宅に侵入している。
それに対して,被告クリーンサービスは,粉塵の予防措置としてたまに手散水を行っているが,この予防措置は,屋外での大量の産業廃棄物の保管堆積及び廃棄物の破砕行為に照らせば,極めて不十分といわざるを得ず,特に,がれき類の破砕に伴う大量の粉塵の発生に対しては殆ど無力である。すなわち,紛じんの飛散を防止するためには,施設を密閉したり,大量の水で砕石などを充分に湿らせたりする必要があるのである。しかし,そのためには,大量の水を必要とし,さらに,汚泥などが発生するため,生産効率の低下をもたらし,汚泥処理などが必要となる。現在,被告クリーンサービスは,粉塵の飛散を防止しうるだけの大量の水散布は全く行われておらず,少量の水自体には飛散する粉塵を補足する効果は殆どないため,大量の粉塵が発生し,原告らの居宅に侵入し続けているのである。
そのため,被告産廃処理施設周辺では例外なく埃っぽい異様な臭気を感じるし,原告らの居住家屋の壁や窓ガラス等に粉塵が分厚く付着してしまうという環境の中で原告らは日常生活を営んでいる。
原告及び原告は,被告クリーンサービスの排出する粉塵がなくならなければ,今後,気管支炎及び喘息の悪化のみならず,じん肺やアレルギー疾患など様々な疾患に罹る蓋然性がある。
また,同様に,粉塵に含まれる鉛,ヒ素,カドミウム,クロム等有害重金属類等様々な有害物質による健康被害の蓋然性もある。
(ウ)アスベスト
被告クリーンサービスは,被告産廃処理施設内で,大量の建設廃材を保管積替・破砕処理している。そして,被告クリーンサービスが処理する産業廃棄物(特に,壁材・天井材等)には,アスベストが混入されている可能性が高く,被告クリーンサービスは,これらの産業廃棄物の保管積替・破砕処理を通じてアスベストを飛散させることにより,原告らの健康に重大な影響を与える蓋然性を惹起している。
アスベストが人体に及ぼす危険性は次のとおりである。
アスベストとは,石綿とも呼ばれる繊維状の天然鉱物の総称で,日本で主に使用されているものには,クリソタイル(白石綿),クロシドライト(青石綿),アモサイト(茶石綿)の3種類がある。アスベストは,耐火性・断熱性・防音性に優れ,建材として壁や天井やスレート屋根等の内外装に幅広く利用されてきた。
ところが,現在では,アスベストは,じん肺の一種である石綿肺の他,肺ガンや悪性中皮種(胸膜や腹膜等にできるガン)を引き起こす原因物質であるということが認識されている。特に,悪性中皮種は,殆どの場合,アスベストが原因であるといわれている。また,アスベストが惹起する肺ガンや悪性中皮種は,潜伏期間が数十年にわたるため,アスベストは静かな時限爆弾と呼ばれている。さらに,アスベストには「安全な濃度」という概念はなく,ごく少量のアスベスト繊維でも体内に入れば,ガンを引き起こす可能性があることが知られている。
アスベストは,日本国内では1960年以降,建材・建築材の吹き付け工事の際などに大量に使用されたが,既述のようなアスベストの発ガン性が明らかにされ,1975年には,壁の吹き付け工事にアスベストを使用することが禁じられた。ところが,欧米諸国ではアスベストを殆ど使用禁止としているのに対し,我国においては,今尚年間20万tものアスベストが輸入され,そのうち約8割が石綿セメント製品建材(いわゆるアスベスト含有建材)に使用されているというのが現実である。
また,今後廃棄されるアスベストの量は,1986年までに使用されたアスベスト量から推定すると,累計467万tにのぼり,このうち,吹き付けアスベストは約20万t,石綿スレートなどのアスベスト含有建材は約400万tに及ぶといわれている。吹き付けアスベスト等は,廃棄物処理法により,「飛散する恐れのあるもの」として特別管理産業廃棄物とされ厳重な管理を要求されているが,含有建材など,「飛散する」とはされないものは,規制対象から外れており,行政指導として,分別し,飛散等をしないような対策をとることが求められてはいるのみである。したがって,法規制ではなく,チェック体制も罰則等もないため,現状では通常の廃棄物として混入してくる恐れが十分にある。
以上のような状況から,建築廃材やがれき類などにアスベストが付着,もしくは含有している可能性は否定できず,これらを扱う際にアスベストが飛散する可能性は否定できない。そして,アスベストは大気中に放出されれば,殆ど分解変質することがないため,環境中への蓄積が懸念され,近隣住民の健康に影響が及ぶ蓋然性がある。
(エ)その他の化学物質
A 石膏ボードの処理に伴う有害物質の発生
被告クリーンサービスは,石膏ボードも搬入しており,被告クリーンサービスが石膏ボードを保管積替・破砕処分する際に砒素や重金属類などの有害物質が飛散する可能性がある。
B 廃棄物に残留・付着している可能性がある有害物質
被告クリーンサービスが搬入・処理する産業廃棄物の中には,家庭用殺虫剤や防かび剤などのスプレー缶,消毒剤,ペンキ,使い捨てライター,携帯用プロパンなどの人体に有害な化学物質を含むものが混じってくる可能性がある。そして,被告クリーンサービスは,これらの産業廃棄物を保管積替・破砕処分することにより,これらの容器に残っていた有害物質を外部に拡散させている。
C 廃プラスチックを圧縮・破砕することにより発生する有害物質
被告クリーンサービスが,廃プラスチックを圧縮・破砕したり熱を加えたりする際に発生する物質としては,スチレン,トルエン,CO,CO2,ベンゼン,ホルムアルデヒド,イソシアネート,HCN等,様々な化学物質がある。これらの中には環境ホルモンや,発ガン性物質として指摘される物質が数多い。
その結果,原告らは,そのような化学物質により健康を脅かされている。
ウ 生活被害
(ア)騒 音
A 騒音暴露による心理的な影響・障害について,前述の現代労働衛生ハンドブックには,不快感,睡眠への影響,作業能率に対する影響,聴取妨害に関する記載がある。
不快感は,屋外における騒音が45デシベル程度から騒音を高度に不快と感じる人が現れてくる。
作業能率については,「90dB以下であっても・・・間欠騒音及び予期していない騒音,あるいは,制御不能な騒音」の場合には,「極めて有害な影響を与えうる。」そして,「多くの一般の人々は,騒音レベルが90デシベルより相当低くても,集中力の深さ,事務能率,作業量などに悪い影響を与えると常識的に信じており・・・この一般常識は,重んじられなくてはなら」ず,90デシベルより相当低くても,作業能率に有害な影響を与えうる。
また,思考・読書については,62デシベルの時に,50パーセントの人が,わりあい頻繁に,もしくは頻繁に妨害されるとしている。
さらに,聴取妨害も,EPAにより,「屋内の騒音レベルで45デシベル」,屋外の騒音レベルで,「15dBの減音を仮定して,60dB」という値が示されている。
B 本件について
@ 不快感
原告及び原告は,被告クリーンサービスが排出する騒音,特にダンプトラックの蓋が勢いよく閉まる時に出るバターンという突発的な騒音備えて,常に無意識のうちに体に力を入れているため,非常に疲れを感じやすくなっている。そして,本来安息の場所であるべき自宅内よりも外出した際のほうが,かえって落ち着くため,しばしば外出先で眠気を催してしまう。
原告及び原告は,被告クリーンサービスが排出する騒音により,頭が痛くなったり,頭が重くなったりするなどの被害を受けていることから,本来安息の場所であるべき自宅から逃げるように,用もなく外出したり,買い物に行ったりしている。
もっとも,原告及び原告は,外出先でも重機のエンジン音を耳にすると,被告クリーンサービスの悪質な操業状態を思い出して,心臓がドキドキしてしまうこともあり,被告クリーンサービスの悪質な操業状態がトラウマになっている。
A 作業能率への悪影響
原告及び原告は,自宅に居ると集中力がなくなり,仕事の書類を整理することや読書をすることに困難をきたしている。すなわち,被告クリーンサービスが排出する騒音は,突発的な間欠騒音及び原告らにとって予期していない騒音,あるいは制御不能な騒音であることから,原告及び原告の作業能率に極めて有害な影響を及ぼしている。
B 聴取妨害
原告らの居宅においては,被告クリーンサービスの操業時間帯は,60デシベルを超える騒音の影響により,夫婦・親子の会話ができないほどである。
また,原告らが,被告クリーンサービスの操業時間帯にテレビを見る際,夜間であれば15〜16メモリのところ,22〜25メモリまで上げなければ,テレビの音は聞こえない。このことは,ラジオについても同様である。
(イ)振 動
A 原告及び裕子は,被告クリーンサービスの操業中,断続的に押し寄せてくる振動に脅かされながら日常生活を送っている。特に,重機により持ち上げられた廃棄物が地面に叩きつけられる際,トラックの荷台からコンテナが引きずり降ろされる際,ユンボが廃棄物を持ち上げて左右に振った際などには,原告らは,突発的な騒音とともに,鍋や蛍光灯の傘がカチャカチャいったり居住家屋がミシッといったりする等地震を思わせるような衝撃的な振動を感じている。そのため,原告らは,不快・不満を感じるとともに,現実に地震が来ても分からないのではないかと不安を感じる程である。
B また,原告及び原告は,上述のような突発的で衝撃的な振動により,自宅の風呂場のタイルにひびが入ってしまった。そのため,原告らは,このままタイルにしておいても再びひびが入るので,風呂場を改装してユニットバスにせざるを得なかった。
C さらに,原告及び原告の自宅の外壁には,上述のような突発的で衝撃的な振動によりひびが入り,一部はコンクリートが剥がれ落ちてしまっている。また,窓と窓枠との間に隙間ができたり,家屋内の引き戸が枠からずれてしまい引き戸が開かなくなったりしている。すなわち,原告宅では,日本間と洋間の間,リビングと台所の間,物干し台に通じる部屋の引き戸や寝室のドアまでもが開かなかったり,開けづらくなったりしてしまっている。また,玄関の鍵穴もずれてきており,鍵を閉めるのも容易ではなくなっている。
(ウ)粉 塵
A 原告らは,被告クリーンサービスから排出される粉塵により,屋外,特に被告産廃施設に近い側では,息が苦しくなったり,咳き込んだりするなど屋外に出て作業をすることに著しい苦痛を感じるため,同人らの行動範囲は極めて限られたものになっている。
B 原告らは,上述のように被告クリーンサービスから大量の粉塵が排出され原告宅に侵入してくることから,屋外に布団や洗濯物を干せば粉塵が付着してしまうため,被告クリーンサービスが本格的に操業してからは布団や洗濯物を干すことができず,衛生的とはいえない状態が続いている。
C 原告及び原告は,被告クリーンサービスが排出する粉塵による被害を防止すべく,100万円余りを支出して2階のベランダにサンルームを設置して洗濯物を干すスペースを確保したが,このサンルームについて,付け替える必要が出てきているが,その費用をどのように捻出するか頭を痛めている。
(エ)騒音・振動・粉塵等すべてに共通するもの
A 原告および原告は,被告クリーンサービスの排出する騒音・粉塵が自宅内に侵入してきて,互いの話が聞こえなかったり,粉塵により部屋の中が白くなってしまったりしたことから,別紙図面記載の斜線部分を,何年もの間窓のみならず雨戸をも締め切りにしている。すなわち,被告クリーンサービスが操業を始める前は,当初は居間である@の部屋を家族で団欒する部屋として主に使っていたものの,被告クリーンサービスが操業を始めてからは,少しでも遠くにいたい,空き部屋が防音機能を果たしてくれればなどという気持ちから,現在は当初は事務室であったCの部屋での生活を余儀なくされている。そのため,現在@ないしBの部屋は,物置と化してしまっている。
このように@ないしBの部屋は,換気すらできないため,壁にカビが生えたり,湿気により畳が膨張したりするなど衛生的であるとはいえない状態が続いており,原告及び原告は,日常生活上の大きな苦痛を感じることを余儀なくされている。
B 原告及び原告は,騒音により頭痛になったりお互いの話が聞こえないし,自宅が振動で揺れてミシッといったり,粉塵により咳き込んだり息苦しくなったりすることから,自分たちの家は生活するような環境ではないと思っている。そして,友人から「こんな所に住んでいるの?」と思われるのが恥ずかしくて何年も自宅に友人を呼べない状況が続いている。
C 原告及び原告は,病気の際に被告クリーンサービスの騒音・振動などにより寝られないため苦情を申し立てるなど,今までに何度となく被告クリーンサービスに対し,直接または狭山市や埼玉県を通して苦情を申し立ててきたにもかかわらず,いっこうに被害の状態が改善されないことから,疲弊しきってしまっている。
(オ)低周波音
A 低周波音の影響としては,@生理的被害のほかに,A心理的被害・・・いらいら,思考妨害等いわゆるAnnoyanceと睡眠妨害,B物的被害・・・窓ガラスのガタガタ音,瓦がずれる,壁が落ちる等の被害もある(時田保夫「超低周波音の測定器,音響技術」1975年)。
B A心理的被害に関し,91dB以下はvery annoying,85dB以下はannoying,79dB以下はintrusive,などと提案されているところ,環境測量士の立会いのもと原告らが行なった低周波音測定の結果によると80〜97dBであり,ほとんどがvery annoyingに属するものであった。そして,数値が示すとおり,原告らは,実際に,いらいらや思考妨害に陥ってしまうときもある。
B物的被害も,70dB以上からその可能性が認められており,原告らの居宅では,壁が一部はがれ落ちている被害,風呂場にひびが入る被害,引き戸が開かなくなるなどの被害を受けていることから,被告クリーンサービスの排出する低周波音による物的被害を受けている。
(カ)堆積廃棄物からの蓄熱火災の不安
被告産廃処理施設内には,うず高く廃棄物が堆積され,大きなゴミ山を形成している。この大きなゴミ山は,蓄熱火災を起こす可能性がある。
すなわち,蓄熱火災とは,ゴミ山を形成している有機物や金属片などが,発酵や金属(アルミや鉄など)と水との反応などで温度が徐々に上がり,その後有機物の酸化反応が進み,さらに温度が上がって(酸化反応の速度は温度10℃の上昇でほぼ2倍になるのが一般的である。)反応が加速し,発火に至るものをいう。最近では,RDF(ゴミ固形化燃料)の発火事故,堆積廃棄物の火災事例等が多く報告されている(例えば,三重ゴミ固形燃料発電所爆発事故 (平成15年8月14日),福岡県最終処分場における廃棄物火災事故 (平成13年5月18日),栃木県古タイヤ火災事故 (平成11年1月2日)など)。
したがって,原告らは,以前に2度も火災事故を起こしている被告産廃処理施設内にある堆積廃棄物から,再び蓄熱火災が起こるのではないかと不安な日々を過ごしている。
(6)被害防止のために加害者が努力した形跡がないこと
被告クリーンサービスは,操業開始以来原告らの騒音・振動・粉塵等などについての苦情を受け,2002年2月26日には,埼玉県から短期的及び中長期的な対策を立てるよう指示されているが,2001年(平成13年)5月15日の測定値と2003年(平成15年)12月4日の測定値に変化がないことからすれば,被告クリーンサービスがそれを実行したとはいえない。
また,前述のように,1999年(平成11年)6月ころ,原告らが防音壁を高くするように求めたのに対し,被告クリーンサービスは,自らが騒音・振動を排出していることを認識しながら,それを取引の材料として,「クリーンサービスが新規に計画している破砕の業の許可に同意すれば,防音壁を高くする。」などと言って,結局現在に至るまで防音壁を高くしていない。
その他,被告クリーンサービスが,原告らの被害を防止するために努力した形跡はまったくない。
(7)被告クリーンサービスが,原告よりも9年も後から被告産廃処理施設を構えたこと(原告らの先住性)
前述のように,原告は,1984年(昭和59年)12月に,豊かな自然に囲まれた良好な環境のもとで犬の繁殖や調教を行いたいと考え,現住所地を購入して建物を建築して移り住み,原告会社を経営するようになった。また,原告は,1988年(平成元年)に原告と結婚し,現住所地に暮らすようになった。
一方,被告クリーンサービスは,1993年(平成5年)9月28日に,埼玉県から収集運搬業・中間処分業の許可を受け,その後直ちに,被告産廃処理施設の所在地において操業を開始しており,これは,原告が現住所地に来たあと約9年後,原告が現住所地に来て約5年後のことであり,原告らとしては,到底被告クリーンサービスによる騒音・振動・粉塵等の被害を予測できるものではなかった。
(8)被害場所の地域性
原告らの住宅がある地域は,昭和45年8月25日に市街化調整区域指定されており,もともと一定の騒音が排出されることを予定している工業専用地域や商業地域ではない。
そして,原告らの居住地と被告産廃処理施設との間には,幅わずか約2.9メートルしかない林道が通っているだけであり,騒音・振動・粉塵等を必然的に発生させる産業廃棄物処理施設が,実質的には隣地といえる程に異常に近接した位置に存在している事実は,被告クリーンサービスに対する操業差止請求の可否を考慮する上で,特に重視されるべきである。
(9)被告クリーンサービスの操業には公共性がないこと
被告クリーンサービスは,株式会社として,自らの利益のために活動する中で,継続的かつ過度の騒音・振動・粉塵等を排出しているのであって,なんら公共性のあるものではない。
なお,付言すれば,原告会社は,警察犬・麻薬犬という公共性のある事業をしており,原告は,埼玉県警嘱託警察犬訓練士をしていたこともある。原告らが,既存宅地でないにもかかわらず市街化調整区域内に住宅を所有しているのは,原告会社の高度の公共性が認められて住宅の建築許可が下りたからである。
4 小 括
以上のように,原告及び原告は,被告クリーンサービスの違法な操業により,深刻な健康被害及び生活被害を受け,かつ将来的に更なる健康被害及び生活被害を受ける蓋然性が高い。そして,この違法な操業は,公法上の基準を超える騒音を出していることもさることながら,廃棄物処理法違反の実質的な破砕行為をも含む点で,極めて悪質である。また,今まで,原告らが何度となく被告クリーンサービスに対して直接または狭山市や埼玉県を通じて苦情を申し立ててきたのにもかかわらず,まったく事態が打開されなかったのは,被告クリーンサービスに周辺住民を思いやる気持ちや法規を遵守する気持ちが欠如していたからに他ならない。
このように,被告クリーンサービスが,原告及び原告の身体的人格権及び平穏生活権的人格権を侵害しているのは明らかである。
そして,原告らは,これ以上被告クリーンサービスによる身勝手な違法行為を放置していたら,自己の生命・身体・財産・営業が回復不能な程度までに破壊されてしまうのであり,したがって,原告らには,自己の生命・身体・財産・営業を守るためには,操業の差止めを求めるしか途はないのである。
そこで,原告らは,身体権的人格権及び平穏生活権的人格権による差止請求権に基づき,被告クリーンサービスは,埼玉県狭山市上赤坂字妻恋ヶ原587番1及び587番5において,収集運搬・保管積替及び破砕等の処分を行ってはならないとの判決を求める。
第5 被告らの不法行為責任
1 総 論
原告らは,被告クリーンサービスの操業開始以来,被告らの違法行為により深刻な被害を被ってきており,被告クリーンサービスの操業差止めとは別に,この被害は回復されなければならない。
2 違法行為
(1)被告クリーンサービスの違法行為
第4,3で明らかにしたとおり,被告クリーンサービスの騒音・振動・粉塵等の排出行為が,原告らの人格権を侵害する違法なものであることは明白である。
(2)被告代表者の違法行為
被告代表者は,小規模閉鎖会社である被告クリーンサービスの代表取締役であり,対内的には業務を執行し,対外的には会社を代表する立場にある。そして,被告代表者としては,被告クリーンサービスの操業実態を把握し,原告らに被害を及ぼす違法な操業をしないよう指導・監督する義務がある。
しかしながら,被告クリーンサービスは,今まで,原告から直接に,また狭山市や埼玉県を通じても苦情が申し立てられてきたのであるから,被告代表者としては,その操業実態を把握し,原告らに被害を及ぼす違法な操業をしないよう指導・監督する義務があった。特に,2002年(平成14年)2月26日には,被告代表者は,埼玉県との話し合いに出向き,その際に騒音対策等を要請されているのであるから,被告代表者としては,速やかに操業実態を把握し,原告らに被害を及ぼす違法な操業をしないよう指導・監督する義務があった
にもかかわらず,被告クリーンサービスが,実質的な破砕行為をすること及び違法なレベルの騒音を排出していることなどの違法な操業実態はまったく改善されていないのであるから,被告代表者が上述の義務を怠っていることは明らかであり,このような被告代表者の行為が原告らの人格権を侵害する違法なものであることは明白である。
3 故意
(1)被告クリーンサービスの故意(害意)
第4,3,(4)で明らかにしたとおり,被告クリーンサービスは,自己の操業により騒音が発せられることを認識していること,原告らが直接にまたは狭山市や埼玉県を通じて苦情を申し立てているのに,何らの被害回避の方策を採っていないこと及び産業廃棄物処理法違反を短期間に計18回も犯している規範意識の欠如などの事情からすれば,被告クリーンサービスには,故意のみならず,害意があったことは明白である。
(2)被告代表者の故意(害意)
ア 騒音等による被害が起こることの認識があること
前述のように,原告らの肩書き住所地と,狭山市上赤坂所在の被告被告産廃処理施設との間には,幅わずか約2.9メートルしかない林道が通っているだけであり,両者は実質的には隣地といえる異常に近接した位置に存在している。そして,このことは,現地を訪れれば誰もが気づく異常な状況であるし,原告らは何度となく実情を訴え苦情を申し立ててきたことから,被告代表者はわずか2.9メートルしかない林道を挟んで原告らの住宅があることは十分に認識していた。
加えて,被告クリーンサービスは,騒音の出る重機等を使用する産業廃棄物処理業者であるのであるから,自らの操業により,実質的な隣地に騒音等により被害が及ぶことを十分に認識していた。
イ 苦情を何度となく申し入れてきたこと
原告らは,被告クリーンサービスの排出する騒音・振動・粉塵等を始めとする被害に苦しんでおり,事実上現場責任者に対して口頭で,被告クリーンサービスの本店に電話で,何度となく苦情を申し入れてきており,被告代表者は被告クリーンサービスの違法な操業状態につき十分に認識していた。
また,狭山市や埼玉県に対しても,これまでの経緯で明らかにしたとおり,被告クリーンサービスに対して苦情を申し立てたり違反行為につき通報したりしており,市や県からも被告クリーンサービスに対して注意などがなされており,このことからも被告代表者は被告クリーンサービスの違法な操業状態につき十分に認識していた。
にもかかわらず,被告クリーンサービスによる騒音・振動・粉塵等の排出行為は,収束に向かうどころか,逆に酷くなっているとさえ感じられる。このように,被告代表者も,環境対策についての低い認識のまま,他人の被害に思いを致すことなく,被害原因を究明することはなかった。
ウ 遵法精神・規範意識の欠如
被告クリーンサービスは,上述のように,この3年半の間に,埼玉県から産業廃棄物処理法違反を指摘されたことが計18回もあり,そのほとんどは,被告代表者が被告クリーンサービスの代表取締役になったあとのものであることからすれば,被告代表者は産業廃棄物処理業者の許可を得ていながら,同法を遵守する意識が欠如している。
さらに,原告らが2001年(平成13年)5月15日に騒音を測定し,公法上の基準値を上回っていることが明らかになった後,2003年(平成15年)12月4日に狭山市が騒音を測定してもなお公法上の基準値を超えている状態であり,このことは規範意識が欠如していることの証左である。
エ 以上の事情からすれば,被告代表者にも,故意のみならず,害意もあったということができる。
5 小 括
以上のとおりであるから,被告クリーンサービス及び被告代表者に対し,不法行為に基づき,連帯して金2640万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払えとの判決を求める。
また,原告及び原告は,被告クリーンサービス及び被告代表者に対して,不法行為に基づき,連帯して,それぞれ訴状送達の日の翌日から上記の業務の停止に至るまで,当該月末日限り1日金1万円及びこれらに対する当該月の翌月1日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払えとの判決を求める。
第6 結 論
原告らは,以上のとおりの裁判を求める。